スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第25話 晩餐会

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 落ち込んだ気分をなんとか切り替えて晩餐会が始まった。晩餐会さえ始まればもう先ほどまでの暗い空気は何処吹く風だ。食事はなんの問題もなく進み、ついにメイン料理の出番となった。

「では今宵のメインイベントを始めよう。これが私の釣り人生史上最大の魚だ!」

 ファルードン伯爵の合図の元、あの巨大魚が入ってくる。わざわざ広い部屋の片隅で食事をしていた甲斐がある。部屋に運び込まれてくることで、その大きさがさらに目立つ。いつまでたっても部屋の中に入りきらない。驚愕の声がいたるところから聞こえてくる。

「どうじゃ!これが我が人生史上最大の魚じゃ。」

「この大きさ…本当に魚か?」
「モンスターならばこの大きさも珍しくはない。しかしただの魚類がこの大きさになるとは…」
「見た目と魔力の質感からして…魚じゃな。」

 なんだか魚という部分を妙に強調しているように見える。モンスターと魚類だとそんなにも違うものなのだろうか?どうしても気になったのでこっそりとアンドリュー子爵に尋ねる。

「無知ですみません、モンスターだと何か問題があるのでしょうか?」

「そうですね。これは釣り好きならではなのですが、モンスターの場合釣り針にかかった瞬間、魔法などでこちらを攻撃してくるのです。そのため釣りというよりかは、ただの戦闘になり魔法などで倒したのちに釣竿を用いて回収することになるので、あまり釣りとは呼べないのですよ。魚でしたら釣り上げるまで駆け引きを楽しめます。」

 なるほど。つまりは獲物だけに観点をおけばモンスターでも十分だが、釣りという行為を楽しむためにはモンスターではダメということか。
 この辺りは人それぞれなのだろうけど、俺の場合はモンスターがかかった時点で死ぬ可能性が出てくるので釣りが楽しめなくなるな。

「ひ、引きはどうじゃった!」
「釣り上げる瞬間までの攻防を聞かせてくれ!」

「よかろう…こやつの引きはものすごいものでな。危うく湖の底まで引きずり込まれるところじゃった。むやみやたらに引いておると時折軽くなった瞬間に空ぶることもあってな。力強くそれでいて慎重に…」

 もう全員の関心はファルードン伯爵の話と巨大魚に釘付けだ。まるでおとぎ話の英雄譚を聞いている子供のようである。話を聞きながら一喜一憂しているその姿を見ているとなんだか面白い。

 運び込まれた巨大魚にさして外傷は見られないが、すでに内臓は取り除かれ一部の身はすでに調理されている。巨大魚のその見た目と釣り上げた話を堪能すると、調理された巨大魚の料理が運び込まれてきた。

 事前に巨大魚の味見ができなかったので、複数の料理法を考えていたのだが、今回はムニエルにしたようだ。運ばれてきた瞬間に香ばしく良い香りが部屋中を包み込む。見た感じから香草はあまり使われていないので、この巨大魚自身には臭みが少ないのだろう。まあこの巨大魚は今回の主役であるのだがそれだけではない。もう一つ影の主役がある。すでに料理を見た数人は気がついているようだ。

「この黒い粒…これはまさかコショウか?」
「これだけふんだんに使うとはよほど気合が入っておったのじゃな。」

「がははは!まあな!」

「コショウとは…私も久しぶりに見ましたよ。コショウの産地はこの国の遥か彼方。山脈を越えた先か海の向こうからでないと仕入れることができませんからね。これだけの歓待…ありがとうファルードン。」

 ルシュール辺境伯と他の貴族は感動している。中にはその目に涙を浮かべるものまでいる。そんなにすごいのかコショウって…。まあ話を聞く限り入手はほぼ不可能に近いみたいだけどな。下手に長旅になれば湿気によってダメになってしまう可能性も十分にあり得る。
 下手に輸送にコストを裂き過ぎれば販売価格はさらに跳ね上がり買い手がつかなくなる。それにこの国に至るまでに、十分な価格で買い取る人間も多くいるだろう。入手困難なわけもよくわかる。

 そんな料理に感動しながら舌鼓していると、次の料理が運び込まれる。彼らは老人とはいえ元々はこの国の兵士である。この程度の量では到底胃袋が満たされない。料理と酒が運び込まれ徐々に宴会ムードになってきているが、その中でルシュール辺境伯がある料理に気がついた。

「この料理…コショウのような香りと辛味がありますがコショウが見当たらない。それに今までのコショウとはどこか違うような…」

 その言葉に他の貴族達も気がつきその料理を食べる。そしてその異様さに驚いている。この晩餐会の主催者であるファルードン伯爵もどういうことかと驚いている。
 料理長を呼びたいだろうが、料理長は今もなお厨房でせわしなく料理を作り続けているだろう。しょうがないので俺が説明しておこう。

「その料理に使われているのは白胡椒でございます。完熟した実から果肉を削ぎ、乾燥させたものを粉状にしたものです。未成熟のものを収穫した黒胡椒とは違い、完熟したものなのでその香りと辛味はマイルドになっております。」

「何!?そうなのかファルードン!」

「い、いや…わしも知らん。そもそもそんなもの買った覚えはない。」

「ファルードン伯爵のおっしゃる通りです。しかしこの度皆様を歓待するためにコショウを用いたいというお話でしたので料理長と相談の上用立てました。」

 そう、俺はなんとか以前に料理長から預かったコショウを俺のスマホアプリ、ファームファクトリー内でなんとか育て上げたのだ。いくつかの問題点が起きて、間に合うか怪しかったがなんとかなった。
 白胡椒を作る際にはファルードンやアンドリュー子爵に気がつかれないようにメイド達の協力のもと、なんとか仕上げたのだ。

「用立てたじゃと?一体どうやって…」

「ファルードン伯爵の疑問もわかりますがこれは私だけの特別な販路ですのでお教えすることはできません。」

 このスマホの中で作っています、なんて言えるわけがない。しかも今なお作り続けているからいくらでもコショウにありつけるなんて大変な騒ぎになりそうだ。

「そうか…まあお主がそういうなら仕方あるまい。しかしこの国でコショウを用立てることのできる商人がシンドバル商会以外におるとはな…」

「なかなかに面白い者と知り合えましたねファルードン。ただの釣り好きかと思っていましたがそうでもないようです。改めて名乗りましょう。白幻の魔帝、ルシュール・アラドニクスです。今後ともよろしく。」

 ルシュール辺境伯が名乗った瞬間全員がざわついた。その声は驚きと感嘆の声が含まれている。そんな中アンドリュー子爵が拍手とともに立ち上がった。

「おめでとうございます先生!さすが先生は只者ではないと思っておりました!」

「え、えっと…どうも。な、何がどういうことなんですか?」

 何言ってんだこいつ、みたいな目で俺を見ないでくれ。全くどういうことか理解できていないんだから。そもそもこの世界の独自のルールなんて知るわけがない。

「せ、先生は一般常識に欠けるというか…ま、まあ一般国民なのでわからなくても仕方ないの…でしょうか?あまりここで説明するのも良くないのですが、そこまで厳粛な場ではないので良いでしょう。」

 全員呆れた声でアンドリュー子爵に説明を促す。名乗ったルシュール辺境伯に関しては苦笑いだ。どっかで一度この世界の常識を学んだ方がいいな。

「この世界の人々は強さによって称号が与えられます。それは国によるものではなくこの世界の神によってです。それは魔王、魔帝、魔神の3つからなります。魔神はこの世界に10人しかいない最強の称号です。ルシュール様はその次点に当たる魔帝の称号を授かっているのです。しかも魔帝の中でもその力はトップクラス。その力だけで国に対し大きな影響力を持っているのです。小国の王ならば逆にこうべを垂れるほどです。そんなルシュール様が自ら魔帝と名乗りあげるということは自らが認めた相手ということで他の者達に一歩牽制ができるわけです。」

「ははは…アンドリュー。説明ご苦労様。しかしそこまで説明されるとなんだか恥ずかしいね。」

「それほどの方とは露知らず申し訳ありません。私の無知をどうかお許しください。私も改めて紹介させていただきたいと思います。関谷道永です。つい最近やっとの思いで商人としてやっていけるようになった若輩者です。今後ともよろしくお願いします。」

「よろしくミチナガくん。今後何か困ったことがあったら頼るといい。私の友の友なのだ。遠慮はいらないよ。」

 これはなんとありがたい。この世界において俺は最弱と言えるほど弱い存在だ。金はなんとかなっても武力に関してはどうしようもなかったからな。こうして大きな後ろ盾を持てたというのはありがたい。

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