上 下
4 / 572

第4話 商業ギルド

しおりを挟む
 

   翌朝、いや朝ではなく昼だ。なんせ寝たのが朝なんだからな。
 そんなわけで翌昼に俺は目を覚ましスマホを開いた。
 そこには俺の努力の成果、収穫までこぎつけた作物があった。

 思えばここまで長かった。水やりに雑草抜き、害虫駆除によって苦しめられた俺の人差し指。
 もう俺の指はボロボロだ。先ほどから何もしていないのに人差し指がプルプルと震えていやがる。
 だが、ようやく俺の苦労が身を結んだんだ。

『収穫。作物を引っ張って収穫しよう!』

「まだやんのかぁぁ!」

 鬼のような表情で収穫すること15分、終わりかと思ったら野菜を洗おうという訳のわからない作業でまた15分。
 ようやく収穫を終えることができた。

『おめでとう!ラディールの収穫大成功!これまでの総タップ回数474821回。収穫できたラディール500本!パーフェクトボーナスも入るよ。レベルアップ!』

「え?レベルなんてあったの?初めて知ったわ。」

『おめでとう!レベル5になったよ。作業効率化。新しい農地が使えるようになったよ。』

 作業効率化はありがたい。
 これできっと少し楽になっただろ。
 けど今はそんなことより一つの可能性を信じたい。それは育てた作物の取り出しだ。
 今はアイテム欄に保管されているがこれを取り出すことができるのかという問題だ。
 これで俺の今後が変わってくる。

『アイテムの取り出す本数を選んでください。』

「き、来たぞ。これなら…」

 試しに1本を選び取り出してみる。
 すると俺の想像通り目の前に現れた。それは見た目完全に大根である。
 まあそんなことはどうでも良い。あとはこれが実際に売れるかどうかなのだ。
 しかしもう一つ問題がある。その問題はどうやって売るかだ。

 こんなものをいきなり目の前に出したら大騒ぎになること間違い無い。
 だとすると、どうにかする必要がある。するとその時、外から声が聞こえた。

 気になって窓の外をのぞいてみると、宿屋の女将が馬車から何かを運び出しているところだった。
 これはちょうどいい。俺は急いで部屋を出て下に降りる。

「おはようございます。よろしかったら手伝いましょうか?」

「いえ、これは私の仕事なのでお客さんに手伝ってもらうわけには…」

「いえいえ、お気になさらずに。実はちょっとお願いもあるんですよ。この荷物を全ておろし終えたら少しこの馬車をお借りしたいと思いまして。」

「馬車をですか?でも…」

「もちろんタダでは無いですよ。銀貨3枚でどうですか?」

 そういうことならと荷物を全ておろし終えた後に貸してくれることを約束してくれた。そうとなれば急いで荷下ろしを手伝う。
 正直、最近こんなに動いてなかったのでしんどい。
 俺はあっという間にへばったというのに女将は余裕そうにしている。
 日頃からの運動量の差がおおきく出たな。

 その後女将から馬車を借り、人目につかないようにラディールを乗せて出発しようとしたところで、あることに気がつく。俺馬車なんて操れない。
 それにまだちゃんと商業ギルドの場所知らない。
 なので女将に頼み馬車の操縦を頼んだ。どんどん金が減っていく。

 積み終えたラディールは直接日が当たらないように日よけを被せた。
 そのおかげで道中何を運んでいるのか、気がつかれることなく運ぶことができた。
 俺一人だったら迷っていたが、女将の案内もあって商業ギルドにはあっという間に到着することができた。

 女将には荷物の番を頼み俺一人で商業ギルド内へと入る。
 中は意外と賑わっておりあちらこちらで大量の商品の取引が行われている。
 築地に近い感じだろう。そんな中を移動し登録の受付カウンターへ向かう。

 カウンターには多くの人がいたが登録に関しては毎日多くの人が来るわけでは無いのかすぐに受け付けてもらうことができた。

「ようこそ商業ギルドへ。まずは登録用紙への記入と入会費として銀貨5枚をいただきます。」

「わかりました。それと今すぐに売りたい商品があるんですけどいいですか?」

「わかりました。ではこちらの用紙に品目と数を記入してください。」

 用紙を渡され記入をと言われたが、この国の文字を全く知らないので書けないと一瞬焦った。しかし、すぐにあることを思いついてスマホを取り出す。
 起動するのは翻訳アプリだ。
 これは持っているだけで会話には問題がなくなる。
 それからもう一つ。昨日、指休めに他のアプリを調べた時に知ったのだが、俺の打ち込んだ文字をこの国の文字に変換してくれる機能もあったのだ。

 翻訳アプリではよくある誤変換の可能性もあったが、それを確かめるすべはないのでそのまま記入する。
 ちなみに偽名も使わず名前はそのままだ。
 全てを記入し受け付けに持っていくと目を見開いて驚かれた。

「あなた…ラディールを持って来たの?しかも500本も…」

「ええ、今外で待たせているので早い所中に入れたいのですが。」

「わかったわ。案内して。」

 受付嬢は他にも人を集めて俺について来る。
 そんなに大事なのかと内心少しビクビクしているが、顔に出さないように案内をする。
 外に出ると女将さんが俺に気がついたが、その後ろに控える商業ギルドの面々に何かを思ったのか少し青ざめている。

「すみません女将さん。お待たせしてしまって。」

「だ、大丈夫よ。それより…この状況は一体……」

「すみませんが一旦奥の方へ移動をお願いします。」

 そのままギルド職員の言われるままに身を任せて移動していくと、裏手の倉庫にたどり着いた。
 そこで商品の検分をしたいとのことなので日よけを外す。
 すると見事なまでに真っ白なラディールは日の光を反射し輝いて見える。

「おお!」
「これは確かにラディールだ!」
「しかも品質も良いぞ!」

 予想以上の大騒ぎである。
 しかしこれだけ好評ということはなかなか良い値で売れそうだ。
 すぐに納品作業が始まり品質と数から値段の計算を始めている。

「とても良い品質ですね。記入された通り500本ちゃんとあります。値段の方は少し色をつけさせてもらって…金貨1枚と大銀貨2枚でどうでしょう?」

「ん~…もうちょっと上げることはできませんか?」

「すみません。これ以上あげてしまうとうちから買い取ってくれるお客がいなくなってしまうのでこれ以上は…」

 よくわからないが十分な金額だとは思う。
 まああげてくれるならあげてもらおうかくらいのつもりで言ったので、その値段で取引を終える。

 すると奥から小さな袋を持った男がやって来てその袋にラディールを詰め込み始める。
 しかしその光景は異様に見える。
 なんせラディールが2~3本しか入らないような袋に何本ものラディールを詰め込んでいるのだ。

「す、すみません…あの袋は一体…」

「おや、初めて見ましたか?収納袋ですよ。魔法の力で収納力を大幅に増やしているんです。まあ滅多に市場に出回らない品ですからね。あれ一つで金貨300枚は軽く超えますから。」

 そんなものがあるのか。
 十分気がついていたけど、そんな現実を受け止めたくなくて今まで考えないようにして来た。しかしどう考えてもここは地球のどこかではなく、地球じゃないどこか別の世界なのだろう。
 ゲームの世界とも考えたが味覚も嗅覚も全て存在している自体おかしい。

 考えたくもなかった。
 そんな現実を否定したかった。
 だってそんな現実を認めると言うことは、つまり俺のスマホの輝かしいデータは永遠に元に戻らないと言うことなのだ。
 俺の今までの時間と金、全てが無に喫したのだ。辛い。辛すぎる。

 納品を終え、代金を受け取った俺は女将さんが馬車を片付けておいてくれると言うことだったので、後を任せて街を探索することにした。
 どれもこれも物珍しいものばかりで興味をそそられるがため息ばかり出る。
 俺のスマホのデータはもう復活しないのだ。何度考えてもこの現実はキツイ。

 それから何度も気持ちを切り替えようとするが、なかなか気持ちを切り替えることができない。
 そんな心境のまましばらくすると、ある一つの店が目に入った。金物屋である。
 店の前には剣や盾など男心をくすぐられるものが数多くあるがその中に鎌や鍬といった農具があった。

 そういえばあのアプリで畑を耕すのにこう行った道具を使えばもっと楽になるんじゃないか?
 他のアプリと連動と言っていたし、収納アプリから連動すれば使えるようになる可能性もあるかもしれない。
 値段を見たが農民向けなのか他の商品よりも安い価格設定になっている。

 まあこれくらいなら試しに買って見ても良いだろう。
 売っているものの中から一番値段の手頃な鍬と鎌を買う。
 鎌買ったのは途中に出てくる雑草抜きゲームの際に使えるのではないかと思ったからだ。

 それがきっかけとなり、嫌なことを忘れようと色々なものを衝動買いする。
 荷物はその都度、路地に隠れた後に収納アプリ内にこっそりとしまっておいた。
 しかし衝動買いをしすぎて、気が付いた時には残金が金貨1枚だけしかない。
 これにはさすがに買いすぎたと反省した。しかしだいぶいい気晴らしになったので良いかとポジティブに考えられるまでにメンタルが回復した。

 その日の夜。またファームファクトリーで新しい畑でラディールを栽培していると一つのことを思い出した。
 それは女神ちゃんガチャのことだ。1日1回引けるのでアプリを起動しガチャを引く。

『おめでとう!素材アイテムの鉄ゲットだよ!』

「なんだそれ…他のアプリに使えるやつかな?」

 まさかのそういったすぐに使えないようなアイテムが出てくるとは思わなかった。
 収納アプリを開いて見ても鉄はどこにもないのでアプリ専用アイテムなのだろう。
 まあ文句を言っても仕方ない。そのうち役に立つ日が来るだろう。

 それとファームファクトリーで新事実が判明した。
 畑は一度使用すると2日間次の使用ができなくなるのだ。
 つまり畑を増やしてどんどん収入を上げると言うことはできず、どんなに頑張っても1日1つの畑からしか収穫できないのだ。

 それともう一つ。鍬や鎌はこのアプリ内で使用することができた。
 これはかなり影響が大きく通常のタップ回数が3分の1にまで減った。
 これなら指を酷使しすぎる心配はない。これならきっと、あの指がもげて飛んで行く悪夢を見ることもなくなるはずだ。

 しかしこの調子で頑張っていってレベルアップによって畑が増えいったとしても一日金貨1枚くらいしか稼げない。
 そんな調子では他のアプリを使用できるようになるのはまだまだ先の話のようだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...