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第4話 商業ギルド
しおりを挟む翌朝、いや朝ではなく昼だ。なんせ寝たのが朝なんだからな。
そんなわけで翌昼に俺は目を覚ましスマホを開いた。
そこには俺の努力の成果、収穫までこぎつけた作物があった。
思えばここまで長かった。水やりに雑草抜き、害虫駆除によって苦しめられた俺の人差し指。
もう俺の指はボロボロだ。先ほどから何もしていないのに人差し指がプルプルと震えていやがる。
だが、ようやく俺の苦労が身を結んだんだ。
『収穫。作物を引っ張って収穫しよう!』
「まだやんのかぁぁ!」
鬼のような表情で収穫すること15分、終わりかと思ったら野菜を洗おうという訳のわからない作業でまた15分。
ようやく収穫を終えることができた。
『おめでとう!ラディールの収穫大成功!これまでの総タップ回数474821回。収穫できたラディール500本!パーフェクトボーナスも入るよ。レベルアップ!』
「え?レベルなんてあったの?初めて知ったわ。」
『おめでとう!レベル5になったよ。作業効率化。新しい農地が使えるようになったよ。』
作業効率化はありがたい。
これできっと少し楽になっただろ。
けど今はそんなことより一つの可能性を信じたい。それは育てた作物の取り出しだ。
今はアイテム欄に保管されているがこれを取り出すことができるのかという問題だ。
これで俺の今後が変わってくる。
『アイテムの取り出す本数を選んでください。』
「き、来たぞ。これなら…」
試しに1本を選び取り出してみる。
すると俺の想像通り目の前に現れた。それは見た目完全に大根である。
まあそんなことはどうでも良い。あとはこれが実際に売れるかどうかなのだ。
しかしもう一つ問題がある。その問題はどうやって売るかだ。
こんなものをいきなり目の前に出したら大騒ぎになること間違い無い。
だとすると、どうにかする必要がある。するとその時、外から声が聞こえた。
気になって窓の外をのぞいてみると、宿屋の女将が馬車から何かを運び出しているところだった。
これはちょうどいい。俺は急いで部屋を出て下に降りる。
「おはようございます。よろしかったら手伝いましょうか?」
「いえ、これは私の仕事なのでお客さんに手伝ってもらうわけには…」
「いえいえ、お気になさらずに。実はちょっとお願いもあるんですよ。この荷物を全ておろし終えたら少しこの馬車をお借りしたいと思いまして。」
「馬車をですか?でも…」
「もちろんタダでは無いですよ。銀貨3枚でどうですか?」
そういうことならと荷物を全ておろし終えた後に貸してくれることを約束してくれた。そうとなれば急いで荷下ろしを手伝う。
正直、最近こんなに動いてなかったのでしんどい。
俺はあっという間にへばったというのに女将は余裕そうにしている。
日頃からの運動量の差がおおきく出たな。
その後女将から馬車を借り、人目につかないようにラディールを乗せて出発しようとしたところで、あることに気がつく。俺馬車なんて操れない。
それにまだちゃんと商業ギルドの場所知らない。
なので女将に頼み馬車の操縦を頼んだ。どんどん金が減っていく。
積み終えたラディールは直接日が当たらないように日よけを被せた。
そのおかげで道中何を運んでいるのか、気がつかれることなく運ぶことができた。
俺一人だったら迷っていたが、女将の案内もあって商業ギルドにはあっという間に到着することができた。
女将には荷物の番を頼み俺一人で商業ギルド内へと入る。
中は意外と賑わっておりあちらこちらで大量の商品の取引が行われている。
築地に近い感じだろう。そんな中を移動し登録の受付カウンターへ向かう。
カウンターには多くの人がいたが登録に関しては毎日多くの人が来るわけでは無いのかすぐに受け付けてもらうことができた。
「ようこそ商業ギルドへ。まずは登録用紙への記入と入会費として銀貨5枚をいただきます。」
「わかりました。それと今すぐに売りたい商品があるんですけどいいですか?」
「わかりました。ではこちらの用紙に品目と数を記入してください。」
用紙を渡され記入をと言われたが、この国の文字を全く知らないので書けないと一瞬焦った。しかし、すぐにあることを思いついてスマホを取り出す。
起動するのは翻訳アプリだ。
これは持っているだけで会話には問題がなくなる。
それからもう一つ。昨日、指休めに他のアプリを調べた時に知ったのだが、俺の打ち込んだ文字をこの国の文字に変換してくれる機能もあったのだ。
翻訳アプリではよくある誤変換の可能性もあったが、それを確かめるすべはないのでそのまま記入する。
ちなみに偽名も使わず名前はそのままだ。
全てを記入し受け付けに持っていくと目を見開いて驚かれた。
「あなた…ラディールを持って来たの?しかも500本も…」
「ええ、今外で待たせているので早い所中に入れたいのですが。」
「わかったわ。案内して。」
受付嬢は他にも人を集めて俺について来る。
そんなに大事なのかと内心少しビクビクしているが、顔に出さないように案内をする。
外に出ると女将さんが俺に気がついたが、その後ろに控える商業ギルドの面々に何かを思ったのか少し青ざめている。
「すみません女将さん。お待たせしてしまって。」
「だ、大丈夫よ。それより…この状況は一体……」
「すみませんが一旦奥の方へ移動をお願いします。」
そのままギルド職員の言われるままに身を任せて移動していくと、裏手の倉庫にたどり着いた。
そこで商品の検分をしたいとのことなので日よけを外す。
すると見事なまでに真っ白なラディールは日の光を反射し輝いて見える。
「おお!」
「これは確かにラディールだ!」
「しかも品質も良いぞ!」
予想以上の大騒ぎである。
しかしこれだけ好評ということはなかなか良い値で売れそうだ。
すぐに納品作業が始まり品質と数から値段の計算を始めている。
「とても良い品質ですね。記入された通り500本ちゃんとあります。値段の方は少し色をつけさせてもらって…金貨1枚と大銀貨2枚でどうでしょう?」
「ん~…もうちょっと上げることはできませんか?」
「すみません。これ以上あげてしまうとうちから買い取ってくれるお客がいなくなってしまうのでこれ以上は…」
よくわからないが十分な金額だとは思う。
まああげてくれるならあげてもらおうかくらいのつもりで言ったので、その値段で取引を終える。
すると奥から小さな袋を持った男がやって来てその袋にラディールを詰め込み始める。
しかしその光景は異様に見える。
なんせラディールが2~3本しか入らないような袋に何本ものラディールを詰め込んでいるのだ。
「す、すみません…あの袋は一体…」
「おや、初めて見ましたか?収納袋ですよ。魔法の力で収納力を大幅に増やしているんです。まあ滅多に市場に出回らない品ですからね。あれ一つで金貨300枚は軽く超えますから。」
そんなものがあるのか。
十分気がついていたけど、そんな現実を受け止めたくなくて今まで考えないようにして来た。しかしどう考えてもここは地球のどこかではなく、地球じゃないどこか別の世界なのだろう。
ゲームの世界とも考えたが味覚も嗅覚も全て存在している自体おかしい。
考えたくもなかった。
そんな現実を否定したかった。
だってそんな現実を認めると言うことは、つまり俺のスマホの輝かしいデータは永遠に元に戻らないと言うことなのだ。
俺の今までの時間と金、全てが無に喫したのだ。辛い。辛すぎる。
納品を終え、代金を受け取った俺は女将さんが馬車を片付けておいてくれると言うことだったので、後を任せて街を探索することにした。
どれもこれも物珍しいものばかりで興味をそそられるがため息ばかり出る。
俺のスマホのデータはもう復活しないのだ。何度考えてもこの現実はキツイ。
それから何度も気持ちを切り替えようとするが、なかなか気持ちを切り替えることができない。
そんな心境のまましばらくすると、ある一つの店が目に入った。金物屋である。
店の前には剣や盾など男心をくすぐられるものが数多くあるがその中に鎌や鍬といった農具があった。
そういえばあのアプリで畑を耕すのにこう行った道具を使えばもっと楽になるんじゃないか?
他のアプリと連動と言っていたし、収納アプリから連動すれば使えるようになる可能性もあるかもしれない。
値段を見たが農民向けなのか他の商品よりも安い価格設定になっている。
まあこれくらいなら試しに買って見ても良いだろう。
売っているものの中から一番値段の手頃な鍬と鎌を買う。
鎌買ったのは途中に出てくる雑草抜きゲームの際に使えるのではないかと思ったからだ。
それがきっかけとなり、嫌なことを忘れようと色々なものを衝動買いする。
荷物はその都度、路地に隠れた後に収納アプリ内にこっそりとしまっておいた。
しかし衝動買いをしすぎて、気が付いた時には残金が金貨1枚だけしかない。
これにはさすがに買いすぎたと反省した。しかしだいぶいい気晴らしになったので良いかとポジティブに考えられるまでにメンタルが回復した。
その日の夜。またファームファクトリーで新しい畑でラディールを栽培していると一つのことを思い出した。
それは女神ちゃんガチャのことだ。1日1回引けるのでアプリを起動しガチャを引く。
『おめでとう!素材アイテムの鉄ゲットだよ!』
「なんだそれ…他のアプリに使えるやつかな?」
まさかのそういったすぐに使えないようなアイテムが出てくるとは思わなかった。
収納アプリを開いて見ても鉄はどこにもないのでアプリ専用アイテムなのだろう。
まあ文句を言っても仕方ない。そのうち役に立つ日が来るだろう。
それとファームファクトリーで新事実が判明した。
畑は一度使用すると2日間次の使用ができなくなるのだ。
つまり畑を増やしてどんどん収入を上げると言うことはできず、どんなに頑張っても1日1つの畑からしか収穫できないのだ。
それともう一つ。鍬や鎌はこのアプリ内で使用することができた。
これはかなり影響が大きく通常のタップ回数が3分の1にまで減った。
これなら指を酷使しすぎる心配はない。これならきっと、あの指がもげて飛んで行く悪夢を見ることもなくなるはずだ。
しかしこの調子で頑張っていってレベルアップによって畑が増えいったとしても一日金貨1枚くらいしか稼げない。
そんな調子では他のアプリを使用できるようになるのはまだまだ先の話のようだ。
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