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学園生活

12 アフォガードの残り香

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食堂を出た後、ふらふらのアンジェ様をお部屋までお送りして、寮備え付けの談話室へ。

談話室の奥のドアには使用中のプレート。
ノックをして入る。

メイメシュリー、すまんな」
片手をあげて挨拶をしたのは伯父様理事長

「いいえ、かまいませんわ。あの子アンジェ様の事でしょう?」

「ずいぶんと買っているんだな。」
「ええ、お気に入りですの。」

にっこり笑って対面の席につく。
「まぁ、見せた方が早いだろ。」

伯父様は頭をかきながら、丸められた羊皮紙をこちらによこす。

文面を見て驚きましたわ。

「しかも、が立会人と来たもんだ。」

はぁ、とため息を付きながら短い前髪をいじっております。これは伯父様の癖。余程まいっておられますのね。

「私は常識を教えたらよろしいのかしら。」
目線だけ上げて尋ねる。

「察しが良すぎて助かるぜ。
兄貴の所へは既に連絡を入れているから、明日はギルドへ連れて行ってくれ。どうせその前にリックの所食堂へ行くんだろう?その時にレシピと宣伝方法についての申請用紙を受け取って行くと良い。」

「用意が良いこと…」
羊皮紙をくるくると丸めて返す。

「それにしても、良かったのか?
その…バカ婚約者のお気に入りに。」

私はびっくりして、伯父様を見上げる。
そして、ふぅ、と息をはいて肩をすくめる。

「元々、契約のお相手ですもの。そこに恋愛感情はありませんわ。お遊びに目くじらをたてても…ねぇ?」
にやぁ…と笑う。自分でもこの表情は無いと思う。

「お、おう。」
がたりと椅子をならす伯父様。まだまだですわね。

「それに、ここ暫く一緒におりまして、とても楽しい方だと気付きましたの。」
表情をもとに戻して、にっこり笑う。

「アフォガード、か?」

「ええ、他にも色々と。」
とん、とアンジェ様から頂いたピンクッションをテーブルに出す。

「なんだ?これ。人形のクッションか何かか?」

手にとって不思議そうに眺めている。

「これは、ピンクッションと言いまして、お裁縫の針を刺して置くものですが…」

「オマエがわざわざ持ってくるって事は何かあるんだろう?」

「これは、針を刺しておくと布滑りがよくなるだけでなく、錆の防止にもなるそうですわ。
布滑りだけなら私が体験済みですの。」

「へぇ?これを?」

「ええ、あの子アンジェ様が作りましたの。表の布地は廃棄予定のシーツの端を染めて作ったのだそうよ。」

「染めた?これを?」
不思議そうに眺めている。
それはそうでしょう。一見するとアンティークの布地に見えますもの。

「これ、染めるのはコーヒー。中身はコーヒーの出がらしで出来ているそうよ。」

「おいおいおい、どれも出回ってねぇじゃねえぇか。そいつも明日登録してこい。ったくとんでもねー嬢ちゃんだぜ」
頭を抱えてますわね…

「他にもありましてよ?」
「やれやれ、全部やってこい。費用はもってやる。全く何者だよあの嬢ちゃんは…」
あらあら、試すような眼差しを送れば、ギブアップで帰って来てしまいましたわ。

ふふ、と笑って本日初めて食べたアフォガードをうっとりと思い出す。冷たくて、温かくて、甘さと苦さと香ばしい香りが折り重なった新メニュー。名前の響きも上品で気に入りましたわ。
何よりも、自分で掛けて食べることの楽しさよ。アイスが溶けていく様がなんとも食欲をそそりますの。
一度でメニュー入りを決めてしまうのも納得ですわ。

他にも何かあるのではないかしら。

コーヒーなんて、と思っておりましたが…
殿方だけだなんて勿体無いですわ!
それに、こんな楽しい方を独り占めにはさせませんわ!
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