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第七話
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神和リトルで練習を始めて一ヶ月が過ぎた。
僕はメンバーのみんなと打ち解けることができていた。
あれからストレッチは欠かすことはなく、日課として続けていた。子供の姿というのは体が成長していない分、案外楽にこなせるものだ。これはとても有り難いことだった。
夏の甲子園で失敗した分、もう一度青春を謳歌してやる。僕はそう誓っていた。
毎日の様に野球ができることに僕は幸せを感じている。子供の姿なのが若干物足りなさを感じていたが、童心に帰るにはいいのかも知れない。
神和リトルでは練習試合が近づいていた。
僕は、初めての試合ということだったが、いきなりレギュラーを任せて貰った。これは異例とも言える待遇であったのだが、任せて貰ったからには全力を尽くすのみだ。
僕は神和リトルで試合ができることをとても楽しみにしていた。
名前をすぐに覚えられない僕であったが、岡田くんとバッテリーを組んだ次の日には、すぐに下の名前も教えて貰った。武くん。フルネームは岡田武という。野球バッグを見れば一目瞭然なのだが、僕は名前を覚える時には、直接相手から聞いて覚える様にしている。
あれからずっと野球ボールを投げ合う仲となった僕たちは、お互いの癖や特徴を覚えられる様になっていった。
「武くんは、よほど肩が強いんだね。しっかりトレーニングをしている証拠だ。こんな小学生、他に見たことないよ」
岡田武くんは、甲子園投手を兄に持つエリート小学生だ。日々兄とトレーニングをしていて、コツなどもたくさん教えて貰えているに違いない。僕には兄弟がいないから、その光景がちょっと羨ましいのである。まあ、僕には透ちゃんがいるし、実の兄弟以上の関係だからいいのだけれど……。
透ちゃんは、今も僕の練習をベンチで見守ってくれている。今の僕にとって、もう心の支えにまでなっているのだ。
そんな透ちゃんは、家がご近所さんということもあり、毎日の様に練習を見に来てくれていた。
転生前はずっと一人ぼっちだったこともあり、今の状況は前よりもずっと、よくなっているのかもしれない。
休憩を挟み練習を再開した神和リトルは、練習試合に向けて調整をしていた。
ひたすら、監督のノックを受けるチームメイト。フリーバッティングはチームの方針なのか、あまりさせて貰えていない様だった。
それどころか、監督は中学に上がったら、部活は陸上部に入りなさいと言っているほどだ。
走り込みと守備が基本なのは、野球の常識だが、ここまで徹底しているとは……このチームは、かなり勝ちにこだわっているらしい。
僕も中学生になって陸上部に入ったら、毎日の様にマラソンが始まる。
今から準備しておかないと……と思うのだった。
岡田くんは、僕が変化球を使わないとわかると、最初は意外な顔をしていたが、肩を大事にしている父親の方針だとわかると、すぐに納得してくれた。
「カーブや、スライダーなんかは確かに肩や肘に負担が掛かるからね。子供のうちは投げない方がいいというのは、秀一くんの父親が正しいね。ところでチェンジアップは投げれるのかい?」
「ああ、大丈夫。チェンジアップは今の僕の十八番だからね」
それを聞くと、岡田くんは嬉しそうにしていた。
「へえ、それは楽しみだ。試合でのお楽しみにしておくよ」
「ああ、楽しみにしておいてくれな」
ところで、神和リトルでは礼儀を大切にしていて、チームメイト同士でも挨拶や礼は欠かすことはない。これも監督の方針で、子供のうちに身につけておかないと、大人になって苦労するのだとか。
特に中学に上がった途端、急に練習に不真面目になったり、怠る様な選手が現れ出す。半端な力があるせいで、自分の力に過信し、有頂天になる選手が続出するのは仕方ないことかも知れないが、監督はそれを懸念されているのだろう。
仲間同士でも礼儀を大切にするのはいいことだと思う。チームワークが一番大事なスポーツなのだから、それはとてもわかる。子供のうちから絆を磨け! がこの神和リトルの信条なのだ。
練習のメニューにキャッチボールが多かったのはそのせいか……。と納得する。
しかし、中学の部活では陸上を選択しなければならないとは……どれだけこのリトルは選手を大切にしているのだろう。今の僕と利害が一致していて相性はとてもいいのかも知れないな。
そんな監督は、温厚だが怒ると怖そうな、中年男性だ。歳は五十くらいだろうか。結婚はしていて、転生前の僕の父とも歳が近い。今の父は、四十くらいの年齢だから、監督の方が年上な訳だ。
まるで神和リトル愛! のようなどこかで聞いたことのある精神を掲げた監督なのだ。これには僕も本気にならざるを得ないのであった。この監督を甲子園に連れて行きたかったが、そうもいかないのが残念だった。
僕は転生前では苦手だったバッティングも今回は鍛えようと思っていた。二刀流ほどとまでいかなくても、それなりのスラッガーになりたかった。僕は空いた時間で、素振りを基本の練習とし、毎日家の庭で行っていた。
今回の僕の目標は、甲子園で優勝することは当然、変わりはなかったが、プロに行きたいというのも夢の1つとなっていたのだ。
僕はメンバーのみんなと打ち解けることができていた。
あれからストレッチは欠かすことはなく、日課として続けていた。子供の姿というのは体が成長していない分、案外楽にこなせるものだ。これはとても有り難いことだった。
夏の甲子園で失敗した分、もう一度青春を謳歌してやる。僕はそう誓っていた。
毎日の様に野球ができることに僕は幸せを感じている。子供の姿なのが若干物足りなさを感じていたが、童心に帰るにはいいのかも知れない。
神和リトルでは練習試合が近づいていた。
僕は、初めての試合ということだったが、いきなりレギュラーを任せて貰った。これは異例とも言える待遇であったのだが、任せて貰ったからには全力を尽くすのみだ。
僕は神和リトルで試合ができることをとても楽しみにしていた。
名前をすぐに覚えられない僕であったが、岡田くんとバッテリーを組んだ次の日には、すぐに下の名前も教えて貰った。武くん。フルネームは岡田武という。野球バッグを見れば一目瞭然なのだが、僕は名前を覚える時には、直接相手から聞いて覚える様にしている。
あれからずっと野球ボールを投げ合う仲となった僕たちは、お互いの癖や特徴を覚えられる様になっていった。
「武くんは、よほど肩が強いんだね。しっかりトレーニングをしている証拠だ。こんな小学生、他に見たことないよ」
岡田武くんは、甲子園投手を兄に持つエリート小学生だ。日々兄とトレーニングをしていて、コツなどもたくさん教えて貰えているに違いない。僕には兄弟がいないから、その光景がちょっと羨ましいのである。まあ、僕には透ちゃんがいるし、実の兄弟以上の関係だからいいのだけれど……。
透ちゃんは、今も僕の練習をベンチで見守ってくれている。今の僕にとって、もう心の支えにまでなっているのだ。
そんな透ちゃんは、家がご近所さんということもあり、毎日の様に練習を見に来てくれていた。
転生前はずっと一人ぼっちだったこともあり、今の状況は前よりもずっと、よくなっているのかもしれない。
休憩を挟み練習を再開した神和リトルは、練習試合に向けて調整をしていた。
ひたすら、監督のノックを受けるチームメイト。フリーバッティングはチームの方針なのか、あまりさせて貰えていない様だった。
それどころか、監督は中学に上がったら、部活は陸上部に入りなさいと言っているほどだ。
走り込みと守備が基本なのは、野球の常識だが、ここまで徹底しているとは……このチームは、かなり勝ちにこだわっているらしい。
僕も中学生になって陸上部に入ったら、毎日の様にマラソンが始まる。
今から準備しておかないと……と思うのだった。
岡田くんは、僕が変化球を使わないとわかると、最初は意外な顔をしていたが、肩を大事にしている父親の方針だとわかると、すぐに納得してくれた。
「カーブや、スライダーなんかは確かに肩や肘に負担が掛かるからね。子供のうちは投げない方がいいというのは、秀一くんの父親が正しいね。ところでチェンジアップは投げれるのかい?」
「ああ、大丈夫。チェンジアップは今の僕の十八番だからね」
それを聞くと、岡田くんは嬉しそうにしていた。
「へえ、それは楽しみだ。試合でのお楽しみにしておくよ」
「ああ、楽しみにしておいてくれな」
ところで、神和リトルでは礼儀を大切にしていて、チームメイト同士でも挨拶や礼は欠かすことはない。これも監督の方針で、子供のうちに身につけておかないと、大人になって苦労するのだとか。
特に中学に上がった途端、急に練習に不真面目になったり、怠る様な選手が現れ出す。半端な力があるせいで、自分の力に過信し、有頂天になる選手が続出するのは仕方ないことかも知れないが、監督はそれを懸念されているのだろう。
仲間同士でも礼儀を大切にするのはいいことだと思う。チームワークが一番大事なスポーツなのだから、それはとてもわかる。子供のうちから絆を磨け! がこの神和リトルの信条なのだ。
練習のメニューにキャッチボールが多かったのはそのせいか……。と納得する。
しかし、中学の部活では陸上を選択しなければならないとは……どれだけこのリトルは選手を大切にしているのだろう。今の僕と利害が一致していて相性はとてもいいのかも知れないな。
そんな監督は、温厚だが怒ると怖そうな、中年男性だ。歳は五十くらいだろうか。結婚はしていて、転生前の僕の父とも歳が近い。今の父は、四十くらいの年齢だから、監督の方が年上な訳だ。
まるで神和リトル愛! のようなどこかで聞いたことのある精神を掲げた監督なのだ。これには僕も本気にならざるを得ないのであった。この監督を甲子園に連れて行きたかったが、そうもいかないのが残念だった。
僕は転生前では苦手だったバッティングも今回は鍛えようと思っていた。二刀流ほどとまでいかなくても、それなりのスラッガーになりたかった。僕は空いた時間で、素振りを基本の練習とし、毎日家の庭で行っていた。
今回の僕の目標は、甲子園で優勝することは当然、変わりはなかったが、プロに行きたいというのも夢の1つとなっていたのだ。
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