生まれ変わったら、いつの間にか甲子園に出場していた件

すふにん

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第三話

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   ……。

 この人は、今なんて言ったんだ?

 人生をやり直す? そんなことが可能なのか? じゃ、じゃあ僕のあのPCは無事、僕の元に戻ってくるのだろうか?

「じゃあ、判決は以上。何か不服があるなら、上訴する様に。……まあ、その様子だと、そんなことにはならないと思うがね」

 そうして、閻魔裁判は閉廷した。

 これは一体どうしたことだろう。僕はてっきり天国に行くものだと思っていた。それが、もう一度人生をやり直すことができるだなんて。

 じゃ、じゃあもう一度野球ができるのか? あの女の子たちと一緒に!?

「やったああああ」

 はるかちゃん、幸子さちこさん、美和みわちゃん。待っていてね。僕は直ぐに帰るからね。

『裁判、お疲れ様ですにゃ☆ ご主人様』

『うんうん、よい子で待っているんだよ。僕のハニーたち!』

『もちろんです♡』

 僕はデレデレ顔を周りに隠すこともせず、ただ謎のテレパシーをマイハニー軍団に送っていたのだった。

「あんなに喜んじゃって……よほど、野球を愛していたのね」

「ええ、よかったわね。おばさん、もう涙でそうよ……駄目ねえ、この歳になると、涙腺が弱くなっちゃって」

「短い間でしたが、ありがとうございました!」

 僕は裁判室を出て、地上へと帰る支度をする。

 なんでも、地上への帰国には謎の飛行機に乗るため、面倒くさい手続きがいるらしい。

 テレポーテーション施設で一瞬にして、飛行場に到着した僕は、空港の椅子で考えにふけっていた。

 今度、野球をやるときは、シンカーだけは使うまい……。これだけは自分へのタブーとして誓った。

 僕はシンカーを封印することに決めたのである。

 ――そして地上への帰国の日。

 今までお世話になった人々が、出迎えに来ていた。

 僕はその人たちにお別れを言い、その場をあとにした。

「あの看護師さん、綺麗だったな……。今度ゲームで登場してくれると嬉しいんだけどな」

 ブォォォォン。

 あの世は中々、面白いところだったな。今度、来る時は間違いなくマイPCを持って来ないといけないな……。

 そうして僕は生まれ変わった。

 ――。

「秀一、早く起きなさい……女の子が迎えに来ているわよ!」

「え!? とおるちゃんが!?」

 僕はバッと起き上がり、いつもの様に、野球の支度をした。ユニフォームが入ったバッグを確認する。

「これでOKだ」

 玄関を開けると、そこには透ちゃんが待っていた。

 ……?

「透ちゃん。随分、身長が縮んだんだね。まあ、その姿も僕の好みだけれど……」

「なーに言っているの? 秀一くん」

「いや、だからその姿もいいなって、思っただけだよ」

「秀一くんだってチビじゃない」

 ……。

 は?

 僕はダッシュで、洗面室の鏡で自分の顔を覗く。

 これは……。子供の姿だ。

『あー、秀一くん。非常に残念なことを言い忘れていたのだが……あの世で、ちょっと手違いが起こって、君が子供の姿になってしまうという事象が起こってしまった。お詫びに、君のゲームの中にしかいないはずの妄想の彼女たちをさせておいた。しっかりやれよ』

「はあ!?」

「何、叫んでいるの? 秀一くん……」

「き、君は透ちゃんで……あれ? よく見ると違う様な……」

「何言ってるの……私、透で合っているわよ。寝ぼけているの?」

 その透ちゃんは何が何だかわからずといった表情だった。

 あああああ。

 なんと、僕は小学生の頃の姿になってしまっていた。

「ばかにするなああ」

「秀一! いい加減にしなさい!」   

 僕は、渋々、野球……リトルリーグに行く準備をするのだった。

 グスングスン。

「秀一くん……なんで泣いているの? 野球が嫌いになったの?」

「透ちゃん……僕はね、幼女には興味がないんだよ。「ロリは正義」なんて言葉、間違っていると思うんだ。そんな言葉があるから、今の日本は色々とおかしいんだ。阿呆な年下好きな大人が増えていてだね……このことが、わかるかい?」

「ロリってなあに?」

「いや、なんでもないんだ。透ちゃん」

 僕の好きだった透ちゃんが、現実に登場してくれるのは有り難いよ? でもね、いくら僕だって限度ってものを知っている。とてもじゃないが、今の透ちゃんとはデートなんかできないのだ。

「透ちゃん……」

「頼むから早く大人になってね」

「?」

 透ちゃんは、不思議な表情でこちらを見つめてくるのであった。

 僕はリトルリーグのグラウンドに到着した。懐かしい子供の声が聞こえる。

 カキ―ーン。

「そっち行ったぞ! バックホーム!」

「キャッチャー構えて!」

 こんな子供の姿で一体何ができると言うのだろう。僕は渋々、監督の前に出るのであった。

「お、君が新しく入って来た、秀一くんだね? まあ初心者には厳しいところだが、気楽にやるといい。わからないところがあったらいつでも教えてあげるからね」

  ……。

「はい、了解です。監督」

「秀一くん、頑張って!」

「可愛い彼女も一緒だねえ。もう……上手くやっちゃって。先生は羨ましいよ」

「はあ……」

 この人もロリか……。僕は心の中で、新しい監督を蔑むのであった。

「じゃ、秀一くん。簡単に実力を見るよ。君はピッチャー志望だったね。好きな球を自由に投げてみなさい」

「はい、いいんですか? 監督」

「ん……? 良いに決まっているだろう。怖いのは、誰でも最初は一緒だ。遠慮することないんだよ?」

「じゃあ、行きます」

 僕は渾身のストレートを、監督のミットへと思いっきり投げた。

 ゴウウウウウ。

 バァァァァン!! ミットに快音が走る。まあ、小学生の姿なら、こんなものだろう。

 監督はミットを構えたポーズを解かずに、ただひたすら無言を貫いていた。
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