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第二話
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「嫌だああああ」
僕は、病室のベッドで絶叫していた。
何でこんなことに……。僕の愛していた向日葵ちゃん、理世ちゃん、早紀ちゃんは!? 地上にPCごと残して来てしまった。あの中にはたくさんの女の子が入ってたのに!
ここにはPCを持ってきていないじゃないか。
最大の過ちを犯してしまった。右肘が断裂したくらいで、何をふらふらしていたんだ。僕は! 僕のバカバカバカバカ。
もう、あの子たちとデートはできないのだろうか。
人生オワタ。
あ、もう終わっていたんだっけ。
「すいませーん、看護師さーん! ちょっと来て貰えませんか!」
僕はベッドの横にあるベルを鳴らした。
看護師さんは慌てて来てくれた。
「どうしたの!? 秀一くん」
「地上から……僕のパソコンを持ってきてくれませんか」
「はっ?」
「いや、だから、僕の命よりも大切な女の子たちを取ってきてくださいと言っているんですよ! これが分からないんですか!?」
「女の子?? ……何のことを言っているのか、私にはさっぱりだわ」
僕は一から丁寧に説明した。
――。
「なるほどね。するとつまり、パソコンの中に入っている、おそらくあなたの命よりも大切なギャルゲーを持って来いと……君はそう言っているのね?」
「そうですよ! 分からないんですか!? 野球一筋で生きて来た僕にとって、あれがどれだけ、野球人生の慰めになったか……看護師さんのあなたには想像が付かないでしょう!」
「……うん、残念だけど無理ね」
「オー・マイ・ゴッド!!」
「すいませーん、秀一くんが暴れています! 急いで来てくださーい」
この病院の担当らしき、院長? がヘルプに来て、僕は体を拘束された。
「ああああああ」
「彼は一体、どうしたと言うんだ? そんなに野球ができなくなったことがショックだと言うのか……甲子園のゲームというのがよほど、生きがいだったんだねえ……ううう」
「僕の気持ち、分かってくれますか! 院長もよほど数々のゲームを制覇して来たんですねえ」
この人も同志だと直感した僕らは意気投合し、慰め合った。
「ストライクゾーンに入った瞬間の気持ちって、院長にも分かりますか」
「分かるよお、稲妻が落ちる衝撃みたいなものでしょう? 流石、甲子園球児だ。よほど、速い球を投げていたんだねえ」
「ええ、それはもう得意ジャンルなので」
「……」
看護師のナースさんは諦めたのか、これからの説明を始める。
「ええと、繰り返しの説明になりますけれど、中陰を過ぎるまで49日間あります。それを過ぎたら、閻魔王の裁判に出席してください。くれぐれもあなたの好きなキャラクターなんかの為に逃亡しないように。いいですね?」
看護師さんが何やら話された様な気がしたが、僕の耳には届いていなかった。ああ、あの女の子たちとデートしたいなあ。
「はあ……まったく」
そして院長先生との話も終わり、病室の電気を強制的に消灯された。
……。
僕の人生はここで終わりを告げた。
――。
そして三途の川とやらにある病院で、中陰が過ぎ、49日目の朝がやってきた。
「看護師さん、お世話になりました。ああ、今までのことはどうか忘れてください。僕も女の子たちとは心の中で決着が付きましたので」
「そう、お別れは済んだのね」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、美人な看護師さん。あ、今度来るときはゲームの中に登場してくれると助かります。看護師さんも是非、攻略してみたいので」
「考えとくわ」
何やら船の様なものに乗船し、僕は冥界の国に行くらしい。一通り説明を受けた僕は、新たな第二の人生に希望を抱いていた。
天国には、ギャルゲーはあるのだろうか? 僕は一抹の不安を抱いて、船に乗船した。
それは快適な船旅とは決して言えなかった。そこにはたくさんの乗客が乗船していたが。中には「若いのに大変だねえ」やら、「天国でも野球を頑張るんだよ」なんて分かったような台詞を吐いてきやがる。こんなやつらに、誰も僕の気持ちなんてわかる訳がないんだ。
そして数時間ほど、謎の川を渡ったあと、黄泉の国へと辿り着いた。ここの裁判をクリアすれば、僕は彼岸へと辿り着けるのだろうか。
暴れない様に目かくしをされたあと、僕は謎の部屋へと通された。
「目隠しを取ってよいぞ」
「伊泉秀一くんだね? 君のことは聞いている。何でも命よりも大切なゲームのために、三途の川の病院では大暴れをしたのだとか。よくないよ? そういうのは」
「はあ、しかしですね、野球のためだけなんかに、命を捨ててしまった僕の気持ちなんて、閻魔様には分からないですよ。大体、僕の女の子たちは、これまで僕と一緒に大変な苦労をしてきたんです」
「それは、分かるけどね」
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も……妻として愛し、敬い、慈しんで来たんです」
「あー、誰か、秀一くんの口に布を巻いてくれ! もう聞きたくない」
「分かった! 本当は天国行きが決まっていたのだが、君には特別な判決を言い渡す」
「君はもう一度人生をやり直してみなさい」
僕は、病室のベッドで絶叫していた。
何でこんなことに……。僕の愛していた向日葵ちゃん、理世ちゃん、早紀ちゃんは!? 地上にPCごと残して来てしまった。あの中にはたくさんの女の子が入ってたのに!
ここにはPCを持ってきていないじゃないか。
最大の過ちを犯してしまった。右肘が断裂したくらいで、何をふらふらしていたんだ。僕は! 僕のバカバカバカバカ。
もう、あの子たちとデートはできないのだろうか。
人生オワタ。
あ、もう終わっていたんだっけ。
「すいませーん、看護師さーん! ちょっと来て貰えませんか!」
僕はベッドの横にあるベルを鳴らした。
看護師さんは慌てて来てくれた。
「どうしたの!? 秀一くん」
「地上から……僕のパソコンを持ってきてくれませんか」
「はっ?」
「いや、だから、僕の命よりも大切な女の子たちを取ってきてくださいと言っているんですよ! これが分からないんですか!?」
「女の子?? ……何のことを言っているのか、私にはさっぱりだわ」
僕は一から丁寧に説明した。
――。
「なるほどね。するとつまり、パソコンの中に入っている、おそらくあなたの命よりも大切なギャルゲーを持って来いと……君はそう言っているのね?」
「そうですよ! 分からないんですか!? 野球一筋で生きて来た僕にとって、あれがどれだけ、野球人生の慰めになったか……看護師さんのあなたには想像が付かないでしょう!」
「……うん、残念だけど無理ね」
「オー・マイ・ゴッド!!」
「すいませーん、秀一くんが暴れています! 急いで来てくださーい」
この病院の担当らしき、院長? がヘルプに来て、僕は体を拘束された。
「ああああああ」
「彼は一体、どうしたと言うんだ? そんなに野球ができなくなったことがショックだと言うのか……甲子園のゲームというのがよほど、生きがいだったんだねえ……ううう」
「僕の気持ち、分かってくれますか! 院長もよほど数々のゲームを制覇して来たんですねえ」
この人も同志だと直感した僕らは意気投合し、慰め合った。
「ストライクゾーンに入った瞬間の気持ちって、院長にも分かりますか」
「分かるよお、稲妻が落ちる衝撃みたいなものでしょう? 流石、甲子園球児だ。よほど、速い球を投げていたんだねえ」
「ええ、それはもう得意ジャンルなので」
「……」
看護師のナースさんは諦めたのか、これからの説明を始める。
「ええと、繰り返しの説明になりますけれど、中陰を過ぎるまで49日間あります。それを過ぎたら、閻魔王の裁判に出席してください。くれぐれもあなたの好きなキャラクターなんかの為に逃亡しないように。いいですね?」
看護師さんが何やら話された様な気がしたが、僕の耳には届いていなかった。ああ、あの女の子たちとデートしたいなあ。
「はあ……まったく」
そして院長先生との話も終わり、病室の電気を強制的に消灯された。
……。
僕の人生はここで終わりを告げた。
――。
そして三途の川とやらにある病院で、中陰が過ぎ、49日目の朝がやってきた。
「看護師さん、お世話になりました。ああ、今までのことはどうか忘れてください。僕も女の子たちとは心の中で決着が付きましたので」
「そう、お別れは済んだのね」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、美人な看護師さん。あ、今度来るときはゲームの中に登場してくれると助かります。看護師さんも是非、攻略してみたいので」
「考えとくわ」
何やら船の様なものに乗船し、僕は冥界の国に行くらしい。一通り説明を受けた僕は、新たな第二の人生に希望を抱いていた。
天国には、ギャルゲーはあるのだろうか? 僕は一抹の不安を抱いて、船に乗船した。
それは快適な船旅とは決して言えなかった。そこにはたくさんの乗客が乗船していたが。中には「若いのに大変だねえ」やら、「天国でも野球を頑張るんだよ」なんて分かったような台詞を吐いてきやがる。こんなやつらに、誰も僕の気持ちなんてわかる訳がないんだ。
そして数時間ほど、謎の川を渡ったあと、黄泉の国へと辿り着いた。ここの裁判をクリアすれば、僕は彼岸へと辿り着けるのだろうか。
暴れない様に目かくしをされたあと、僕は謎の部屋へと通された。
「目隠しを取ってよいぞ」
「伊泉秀一くんだね? 君のことは聞いている。何でも命よりも大切なゲームのために、三途の川の病院では大暴れをしたのだとか。よくないよ? そういうのは」
「はあ、しかしですね、野球のためだけなんかに、命を捨ててしまった僕の気持ちなんて、閻魔様には分からないですよ。大体、僕の女の子たちは、これまで僕と一緒に大変な苦労をしてきたんです」
「それは、分かるけどね」
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も……妻として愛し、敬い、慈しんで来たんです」
「あー、誰か、秀一くんの口に布を巻いてくれ! もう聞きたくない」
「分かった! 本当は天国行きが決まっていたのだが、君には特別な判決を言い渡す」
「君はもう一度人生をやり直してみなさい」
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