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 少し後ろへ重心が傾いたところを見計らい、趙武ちょうぶが体重をかけて抱きつき、士匄しかいの動きを封じた。そうして、口づけてくる。趙武の唇は桃のような柔らかさと瑞々しさがあり、美しい女のそれに似ていたが、士匄はきちんと雄のにおいを嗅ぎ取っており、うなじや腕に鳥肌を立てながら総毛だった。あれほど組み敷かれ快楽に酔いながら、素面の時は異性愛者を通り越してホモフォビアのような反応をする。極めて身勝手で驕慢と言わざるを得ない。士匄は逃れようと暴れた。趙武が許さず、口を噛むように貪ったまま、しがみつく。固く閉じられた士匄の歯を掻き分け、中に入ることできず、趙武の舌は歯列をなぞる程度で、あとは唇を静かに合わせているだけであった。ふ、と鼻からされる趙武の息が頬にあたり、士匄は今度こそと払いのけようとした。趙武が抵抗し暴れ、思いきり体重をかけられて床に打ち付けるように押し倒され、士匄はごいんと頭をしたたかに打った。その反動で、趙武の唇を噛み切る。

「……ち」

 趙武が舌打ちをした。滲んだ痛みに柳眉をしかめ、指で血を拭う。が、舌打ちしたいのは士匄のほうである。響くような痛みに呻きながら睨み付け、おまえ、と口を開く。

「さっきからなんだ、気持ち悪い! あと、いらんことをするな。むつむなら場を変えねばならん、言葉としぐさで雰囲気を作るは良いが、そういう、サービスはいらん。怖気がするだけだ」

 痛む頭を押さえながら、怒鳴りつけると、趙武がしらけた目で見下ろしてくる。その白く細い指が伸びてきたため、顔を背けたが、許されず押さえつけられ唇を指で撫でられた。

「サービス? ご奉仕とでもお思いで? 私がしたくてしたんです。あなたの言う心を通わせるごっこですか? 意味がわかりませんし、何が楽しいのかもわかりません。私は体を合わせるなら節度を持ちましょう、て話をしてたんです。前も言いましたけど、私は棒じゃあないんですよ。あなたのお体を満足させるための道具でも奴隷でもないんです。ねえ、范叔はんしゅく。我慢なされていたということは、ずっとしたかったんでしょう。今だって内が期待でふるえているのではないですか。口づけだってお嫌とは言わせません。最中だったらあんなに舌をからめて欲しがって涎を垂らして」

 ぽつぽつと暗い声を発しながら、趙武が士匄の唇を割って指を差し入れる。舌先をなぞり、口蓋をなぞって押してくる。士匄はやはり怖気がしたが、同時にじわりと欲が刺激され、あ、と思わず喘いだ。

 趙武が体を擦りつけるように覆い被さりながらもう片方の手を士匄の裾を割り入れ、腿を撫でてくる。お、と呻き声があがるが、その口の中は相変わらず指で弄られる。

 なんだ、これは。

 士匄は嫌悪もさながら困惑で眉をしかめた。口蓋をなぞられると、腰がしびれる心地であり、あ、あ、と声が何度も出る。涎があごをつたって落ちていく。股に入ってきた手は、少し熱を帯びた陰茎を触りだした。士匄は思わず逃げようと身を動かすが、趙武がしっかり押さえ乗ってきて、改めて床に縫い付ける。ようやく己の手が空いていると気づき、趙武の服を掴んで引き離そうとしたが、陰茎を思いきりつかまれた。

「お、」

 痛みで身をこわばらせたところを、趙武がさらに体重を乗せて、身をこすりあわせてくる。そうして、軽くこめかみに口づけしてきた。

「申し訳ございません、痛かったですね。別にここがいらないなんて、私は思ってないんです。范叔はとても男らしい先達です。ふふ、大きさも立派」

 口の中に指をもう一本入れ、笑いながら趙武が舌を挟んで擦ってきた。口の中と性器という、人体二つの急所を、細くてかよわげな後輩に握られ、士匄は先ほどと違う意味で恐怖を覚えた。なんだこれ、というのもある。鈍くさく告白ごっこをしてきたと思っていた男が、今は粘性の執着を以てねっとりと責めたててきている。趙武の指が士会の歯列をなぞり、口蓋を押し、舌をなぞって擦る。士匄は思わず軽くのけぞり、あ、お、あ、と喘いだ。やばいこれ気持ちいい。よもや己が口内を弄られて快感を覚えるなど、考えたこともなく、士匄は茫然と趙武の愛撫を受け入れる。

「范叔はお口が達者ですから、感じやすいのですね。陽物もすくすくとお育ちになってます、きもちよいのお好きですものね。私も范叔がきもちよくなられているのが大好きなんです。そう、そうなんです。私は恋遊びなんてどうでもいいんです、范叔のね、きもちいいってなってる顔が見たいだけなんです。私、范叔が前だけできもちよくなっているお顔を見たことがないんです。奥がご希望かと思うのですけれども、まずは前で達してください」

 趙武が熱っぽさと薄暗さが混ざった声で、口早に言う。士匄は嫌だと叫びたかったが、舌がつままれ、ぐ、という声しか出ない。男に触られて達したくない、というのはむろんある。前立腺を刺激されて精を垂れ流すことは喜んで受け入れるくせに、直接的な刺激になると、不快が先に立つ。それ以上に、ここは宮中であり、この場は職務の部屋である。士匄は傲岸不遜で傍若無人であるが、こういったルールに関しては厳しい。欲深で他人のものを己のものとすることに躊躇はないが、それまでの手順は合法を守ろうとする。ゆえに、禁忌という意味でも、この場で淫事などとんでもなかった。

 本来、趙武も同じ側のはずだった。それどころか、趙武こそが、節度を守れと言って拒絶する状況ではないか。そう、どこかで冷静に考えながらも、士匄は性器への愛撫に身をよじらせた。趙武がいつ声をかけてくるのかと待ち、ほとんど発散していなかったため、久しぶりの慰めに男の機能はたやすく反応する。しかも、口の中を執拗に嬲られる。脳に直接、疼きが響くようであった。

 完全に勃起した陰茎を趙武の手が擦り、てのひらが亀頭をしごくようになぞり、裏筋を指がこする。先端から濡れあふれた先走りの汁が趙武の手を汚し、それをさらに竿にすりつけ、なめらかにこすられ、怒張は反り返り亀頭は赤みで膨れあがっているようであった。びくびくと脈打つ血管も、ひくひくと蠢く尿道口も、放出の時を待って引き絞っているようにも見えた。

 お、あ、と呻きながら、士匄は思わず腰を浮かせ振った。発情した雄の動きそのものである。そうすると、趙武がてのひらで亀頭を上からなで回し続けはじめた。士匄はとうとう顔を引きつらせ、首を振ってむずがった。口の中の指が口蓋を強く撫でて押した後、ようやく出ていった。

「あ、」

「もしかして、精を放ちたいですか? 射精したいです?」

 士匄の声にかぶせて趙武が優しく問うてきた。士匄は必至に頷いた。もう、出したいで頭はいっぱいである。もう少しで出る、というところを亀頭をこすられつづけ、止められる。敏感すぎるそこは、同時に射精の寸止めである。士匄は欲に浮かされ媚びた顔をしながら、

「だ、だしたい、それ、だめ」

 となんとか言葉を絞り出す。

「きもちよくないですか? やめます?」

 わかって聞いている、というのは重々承知であったが、士匄は必至に首を振った。趙武のやめるか、はこの行為をやめるか、である。ここまで肉欲を引きずり出されて、放り出されてはたまったものではない。きもちいいが、これはもう、むり、きもちよすぎて、しかし、熱だけをためられ、むり。

「ゆ、ゆるして、いかせ。いきたい、ださせて、だしたい、たのむ」

 すがりつき、舌っ足らずの声で必至に乞うと、趙武が柔らかく微笑んで

「かわいい」

 と囁いたあと、竿を愛撫し、

「う、」

 と、士匄は呻きながら射精した。びゅるびゅると出る精液は、士匄の衣服や体はもちろん、趙武の体も汚した。趙武が絞り出すように、さらに陰茎をこするため、残り汁までびゅうびゅうと出ていった。
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