村石君の華やかな憂鬱 Remake

A.Y

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周遊編

第77話 来客者

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その日、柳沢の研究所は慌ただしい一日でもあった。連日研究所は鳴り止まない電話対応に追われていて…事務員から秘書まで駆り出されて急がされる日々を送っていた。研究所の所長でもある柳沢も、電話に呼び出されて通話相手と話し合いを繰り返し続けている。

研究所の小さな彼の机の上は書類の束が山積みになっていた。彼は通話相手の話で、送られて来た封筒を探して、それを見付けると「今度、こっちから送るよ!」と、言って通話を切る。しばらくして、別の相手から通話が入り、その相手との通話を行う。

「その件に関しては、後日発表するから、もう少し時間を頂きたい。え…彼が現在何処に居るか?知らないよこっちは…。何処かの国の衛星カメラでも使って探してくれ。こっちは、現在それどころじゃあ無いんだから!」

彼は、文句を言いながら、スマホの通話を切る。

「全く、何もかも電話すれば良いなんて思って通話されるのは困るんだよね…」

柳沢は愚痴を言いながらソファーに腰を降ろし、テーブルを挟んで向かい側に座る男性を見つめる。

「大変お見苦しい処を見せてしまって申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ、お忙しい中突然お邪魔してしまってすみません…」

向かい側に座る男性は60代半ばの、風格の良い男性で、少し白髪交じりの髪に、穏やかそうな雰囲気をただ寄せ、背広姿がとても良く似合う感じの男性だった。
彼の横には革製の鞄と上質なコートが畳んで置かれている。

「貴方がこちらにいらした理由は、やはり彼の事なのですね」
「はい、そうです。近日中に政府は特例措置を行い。彼の行為に関しての条例案を取ります。その上で彼に関しての情報資料の提供を必要最低限揃えたいのです。それと出来れば…一度私の方から直接彼と面会したいと思います。政府内でも彼を特別職公務員に任命させようとする動きもあります…。我々としては彼の能力が特定多数の人達が扱えれば、民間団体として利用出来ますが、現時点では彼のみとなると…、扱いも難しい故に彼を国が保護する側に着き、不特定の者をむやみに接近させない法案を決さなければ難しいかと考えますね」

「そうですな。他の者が安易に扱える様な能力では無いし、彼のみが扱う事しか出来ない固有の能力となると、特別な法が必要不可欠になりますね…何よりも今後、同じ能力の者があらわれるかどうかも不透明だと、私としては彼を国宝にでもすべきかとも思います」
「それを前提として見据えての法案です。まだ20代の若さだったら…色々と扱いも効きますが30半ばだと、少し目先の事も考えてしまいますね。何よりも彼はまだ独身であるから、少々我々としては、頭を悩ませる部分も見えて来ます」

その言葉に柳沢も少し躊躇いを見せる。

「異性を虜にしてしまう能力だと、安易に身を固めるのも難しいですね。既に彼が好きになってしまった女性達は他の男性には魅力を感じなくなっているそうです。それ以上に惚れさせてしまった後の、対応にさえ彼は頭を悩ませていますね。ある意味、彼を匿っていると噂されている人達の対応は正解かと思いますね」

「鮎川家の事ですね…」

「はっきりとは言えませんが…。まだ、あの屋敷に居るのかも不明な段階です。少し前に鬼頭家の娘さんが、私の処に連絡して来て、情報屋が捕まったとの連絡がありました。その後の動きは全て不明です。彼が現在何処で何をしているのか、我々はまだ情報を掴めて居ない状況です」

「その件に関しては、御心配無用です。私も彼に関して少しばかり興味がありましてね。あるルートから、定期的に情報を頂いておりました。そして最近入手した情報では近日中にでも鮎川家当主と鬼頭家の当主が、和解として会食を招きながら話し合いをするそうです。今後の彼の事を考えれば鮎川家の屋敷は少し狭すぎるでしょうから…」

「ほお…既に、その様な方向へ話が進んでおりましたか、流石は政府関係者は情報ルートが速いですねぇ」
「ええ…私は以前からこの二つの財閥の御曹司に関しては目を付けていたのです。彼等は決して赤の他人では無かったのです。これをご覧ください」

男性は鞄の中から鮎川茂と、鬼頭和義と書かれたプロフィールを柳沢に見せる。それを見た彼は意外な類似点を見付ける。

「これは…また、凄い発見ですな…」

「はい、年は鬼頭和義氏が1つ年上ですが…2人は高校と大学が同じで、同じスポーツもやっておりました。更に大学の後の就職先も同じです。長年先輩後輩と言う間柄だったのです。鮎川茂氏は、社会勉強として就職を行い、屋敷に戻る予定だったのでしたが…就職先でビジネスを学び、そこから経営学の知識を身に付けて、独自のビジネスを活かそうとして事業を始めたら、それがヒットして現在の大手企業に発展したのです。それも、たった数年で…。鬼頭和義氏は、就職した企業でトップになり、30代になる頃には先代から引き継がれている企業の社長となってます」

「どちらも良い出世街道を歩んでますな…」
「全くです。彼等と比べると…こちらは、本当に偶然…運が舞い降りただけの事ですね」

男性はもう一つの資料に目を通す。それは…少し前からテーブルに置かれていた資料で、そのプロフィールの名前の欄には村石竜也と書かれていた。

「その運だけの男に世間は今、注目を集めております。連日マスコミメディアも、彼の取材に着目しております。何よりも、世間にあまり姿を見せず。ネットの動画投稿やSNS等にも彼の情報が掴めず、彼は誰なのか…?と、噂さえ広がってますからね…。噂では自分こそ本物の村石竜也だ!何て言う輩まで出て来ているとか?」
「面白いではありませんか、情報社会に踊らされず。沈黙を保っていて滅多に姿を見せないのは結構な事だと思います。変に姿を晒して世間の注目を集めよう等とするよりは立派かと思いますね」

男性は、そう話していると、胸のポケットに入れて居たスマホがマナーモードで振動する。彼は着信相手を見るなり、軽く笑みを浮かべる。

「失礼、少し長居し過ぎました。自分はこの後、会議がありますので、これで退室させて貰います」
「いえいえ、こちらこそ色々と教えて頂き助かりました。後日、彼がこちらに来た際、助言出来る内容が揃えて嬉しい限りです」
「それ程でもありませんがね…お役に立てればと思った次第です」

男性は、一礼をしながら部屋を後にする。柳沢も彼を追う様な感じで部屋を出て、外へと向かう。男性が迎えの車に乗る時に柳沢は何気ない一言を発した。

「時に神谷(かみや)大臣殿…貴方は彼とは、何か関係とかありますか?」

その言葉に彼はピクッと一瞬僅かに表情を曇らせる。

「何か関係があるように思えますか?」
「いえ…そうではありませんが、彼の能力に関して随分と詳しい説明を教えてくださったので…。私にも若い時期に、一時的にそう言う能力が開花した時期があったので、ただ…多処方を示しただけの事でよ」
「そうでありましたか…」

神谷は微笑みながら答える。しかし…その表情には少し不快感を示す様な何かを柳沢は感じた。彼は車の窓から軽く頭を下げて、そのまま研究所を後にした。
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