村石君の華やかな憂鬱 Remake

A.Y

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鮎川家編

第56話 平穏な日常③

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~私立学園・・・

『私立外田学園』小中高一貫制の学園だった。開校以来、毎年の様に入学希望者が来ていて、入学受験も年々ハードルが高くなっていた。
各学年…クラスもA~Eとあり、上に行く程成績評価も高く、卒業後の就職先の待遇が良いとされていた。
その学園の初等部5年生で成績上位で、学年の筆頭とされているのが鮎川凛だった。
彼女は入学時には、既に上級生の勉強もこなせる程優秀だった。テストの平均得点も85点以上と高かった。
美人で、金持ちで、勉強も出来る…と三拍子が揃っていて、正に非の打ち所がなかった…。そんな彼女にも意外なライバルがいた。それは…同じ私立学園の中等部に居る鬼頭沙耶だった。

若干年の差はあるものの…、彼女もまた、凛に似ていて…美人で金持ち、勉強も出来ると言う。三拍子を揃えていた。そんな2人に対して…今、密かにライバル心が煮えたぎっていた。
それは…ある人物が、鮎川家に居るのでは…?と学園内で囁かれていた事に始まる。
噂になる原因は…本当に意外なキッカケで始まった。

数日前、凛の妹…舞があまり得意では無い家庭科の調理実習で、謝って包丁で手を切ってしまったのである。

傷は意外と大きく、手と腕に傷が出来て、保健の先生からも傷跡が残るかもしれない…と言われる程だった。

しかし…翌日、舞は怪我した筈の手には包帯もせず、傷口すら綺麗に治した状態で学校に来た。
同じクラスの生徒達は皆、目を丸くして驚いていた。
その事から、以前から噂されている『不治の病を治す人』が鮎川家に居るのでは?と…密かに囁かれ始めた。

ある日の事だった…最近凛とは距離を置いていた、同じクラスの宮本琴美が珍しく凛に話し掛けて来た。

「鮎川さん、ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「鮎川さんの家で定期的に行われる日本舞踊の稽古って、次は何時行われるのですか?」
「今度の日曜日に行われます」
「へえ…今度、友達を誘って行っても良いですか?」
「はい、どうぞ」

凛は笑顔で答える。しかし…凛は気付いていた。以前…鴉取が言ってた事、多分…近いうちに何か動きがある…と、注意していた。
周囲からも、鮎川姉妹は目を付けられていた。学園内では初等部と中等部は校舎が違う為、滅多に顔を合わす事の無い沙耶さえも下校時に凛や舞を見に来ていた。

「あら…こんにちは」

凛が沙耶に挨拶をすると、彼女は挨拶を交わさず。

「泥棒猫…」

と、一言呟いて立ち去る。

車で家に帰る中…舞は凛に不安そうに話し掛けて来た。

「ねえ…お姉様、鬼頭さんや宮本さんに、本当の事を話したらどうですか?」
「それって…竜也さんを、あの女達の処へと渡す事なの?」
「そうは言いませんが…ただ、ずっと隠すのは無理かと思います」
「彼は誰にも譲らないわ。近いうちにパパやママも帰って来るし、彼をあたし達のどちらかの許嫁にするのよ。そうすれば、彼を外出させても大丈夫になるわ。それまでは…彼にはしばらく辛抱させて貰うしか無いわね」
「宮本さん達には…どの様に言うの?」
「ほっとけば良いのよ、勝手にあたし達を悪者呼ばわりする連中だし、本当に彼に会いたいなら、素直に…そう言えば良いのよ」

それには舞も「ウンウン…」と、頷いた。

「まあ…今度の日曜日、琴美ちゃんが誰を連れて来るのか楽しみね…」
「日曜日…竜也さんは、どうするの?」
「その日は、彼には外出許可を与えるわ」
「大丈夫なの?」
「位置情報を搭載させたスマホを持たせて外出させるわ」
「なるほど…」

2人が話し合っているうちに、車は屋敷へと到着した。
帰宅直後、凛は竜也に今度の日曜日外出許可を与えた。

「やったー!」
竜也は大喜びした。

「ただし…門限は夕方5時、破ったら捜索願いを出すので気を付けてね、それと風俗の店は入らない、あと…有害図書は絶対に購入しない、それと他の女性に誘われても決して付いて行かない事。良いですね」

それには竜也が「え~…何で?」と、答えると凛の久々の平手打ち。

パシン!

厨房内で大きな音が響き、周囲の人が驚いた。

「言う事聞かないと、外出させませんよ!」
「はい、分かりました…」
「宜しい」

そう言って凛は厨房を出て行く。
今まで淑やかと思われていた凛の意外な一面を見た木谷が竜也の側へと来て…

「お嬢様って、あんな風に怒るんだ…」

少し驚きながら言う。

「え…知らなかったのですか?」

竜也が頬を撫でながら言う。

「ああ…初めて見たよ」
「僕の前では、何時もあんな感じですけどね…」

出会った頃から、凛は何かと強気な態度をして来る。

「ちなみに村石君としては、凛ちゃんと舞ちゃんの、どちらのお嬢様が好みなんだ?」

木谷の言葉に竜也は迷う事無く

「そりゃあ…もう決まってますよ、大人しくて優しい、ま…」

その時、ハッと厨房の外に居る凛がこっちを見ている事に気付き。

「り…凛ちゃんに、き…決まっているじゃないですか…ハハ」

と、愛想笑いしながら答える。凛は「良し!」と、頷きながら厨房を立ち去って行く。


~その日の晩・・・

竜也は夜景が眺めるベランダに立っていた。木製の木の柵で作られたベランダで、ゆっくり眺められる様に木のテーブルと椅子、そして屋根も取り付けられていた。
竜也が夜景を眺めていると凛が現れた。

「ここに居たのね…」
「うん…」

凛が木製の椅子に腰掛ける。

「ここから眺められる夜景が綺麗で、度々ここへ来ているんだよ」
「あたしも夜景を眺めに時々来るわ」

夜風が吹き、凛の髪が靡(なび)く。

「今だから言うけど…貴方は、あたしと同類の人よ」
「え…それって何?」
「あたしには…少し先を予見したり、人の心を読取る能力があるの…貴方が何も話さなくても分かってしまうのが、その能力なのよ」
「そうだったんだ。凄いね…」

「でも…あたし以上に凄いのが貴方よ」
「え…何で?」
「貴方は治癒と、人を惹きつける能力があるわ。少女を救った時に、その能力が開花したの。自分では奇跡的に助かったと思っているけど。貴方は車と接触した時点で既にその能力を目覚めさせていたと・・・思われるわ」
「そうだったんだ…」

竜也は考えてみれば・・・確かに、そうと思える節が幾つかあると考えられる。病院内での出来事を振り返れば、事実・・・意識を回復してから女性との交わりの連日の様な物ばかりだった。

「あたしの見立てでは、貴方はどんな奇跡も起こせると思うわ。多分…誰も成し遂げれない様な奇跡さえ貴方は行えると…あたしは感じるわ」
「あまり自信無いな…」

凛はクスッと笑う。

「でも…貴方が、その能力を持っているお陰で、世の中は救われているとも言えるのよ」
「何で…?」
「考えて見て…普通の人が、異性を虜にしてしまい、更に奇跡的な力で人を救う事が出来たとしたら…それを引き金に間違い無く巨大な新興宗教が出来上がってしまうわ。野心家だったら、その力を金儲けの為だけに利用してしまうでしょう…。でも貴方は、その様な行為に走らない…欲や野心が無い証明よ。それどころか一目惚れする相手から逃げている。普通の男性では考えられない行動をしているわ」
「ちょっと怖いんだよね…」
「それが1番の不思議よね…。もう少し自分に自信を持っても構わないと…あたしは思うけど…」

そう言って、凛は椅子から立ち上がり、部屋へと戻ろうと歩き出す。

「凛…」
「何…?」
「寝るんだね」
「え…ええ」
「おやすみ」
「ええ…おやすみ」

その言葉に凛はハッと気付き、急いで竜也の方まで戻って彼の腕を掴む。

「さて…おやすみ前の一仕事を始めましょうね」
「寝るのじゃ無かったの」
「何甘ったれた事言ってるの今夜は添い寝よ、朝起きたら…おはようの一仕事。
貴方とあたしは、常に密接した関係なのよ!」

凛は無理矢理竜也を引っ張って『風の間』へと連れて行くと、戸が閉まり鍵が掛けられた。
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