村石君の華やかな憂鬱 Remake

A.Y

文字の大きさ
上 下
31 / 84
帰宅編

第29話 鬼頭家邸①

しおりを挟む
 女子会の翌日、私は、直面した大きな問題をひとまず横に置いて、必死に働いていた。
 そう、それはそれは、必死に……。


「オリアナ様っ! こちらの書類をお願いします!」

「すみません、こちらの確認もっ」

「オリアナ様、財務部から問い合わせが……」

「あぁっ、クソ! これも全て、殿下のせむぐっ」

「あー、はいはい、不敬罪にされたくなければ、黙っていましょうねー」


 そんな周囲の声に包まれながら、私達は激務に見舞われていた。
 原因は、同僚の一人が叫びかけたもの。
 ヴァイラン魔国の王子の一人によって引き起こされた事件のせいだ。


「ふふふふ、大丈夫ですよ。殿下には、しっかりと、そのお立場を理解していただくので」


 そして、そんな激務の中、静かに、しかし、猛烈に怒りを顕にしているのが、宰相閣下本人だった。
 顔は笑顔なのに、目が全く笑っていない宰相閣下は、凄まじい速度で様々な書類を処理していく。

 昨夜、ヴァイラン魔国の王子であるリウスが、突如として失踪した。それも、大量の仕事を溜めた状態で、恐らくは計画的に。

 この国は、ジークフリート陛下とユウカ皇后陛下のお二方が統治しておられる。そして、そのお二方は仲睦まじく、三人のお子様がおられた。
 一人目は、第一王子のルーク様で、現在、二十七歳、二人目は、第二王子のリウス様、十七歳。そして、三人目は、第一王女のユリアナ様、五歳だ。
 今回問題となっているのは、第二王子のリウス様。陛下と皇后陛下は、もうすぐ行われる豊穣祭の準備を行っており、第一王子殿下、外交のために他国へ赴いているという状況下で、陛下方の準備を一緒に手伝っていたはずのリウス様の失踪だ。行き先は不明だが、目的だけははっきりしている。


 こんな時に、片翼だなんてっ!


 そう、リウス様は、片翼を見つけたので、口説きに行きます、という手紙だけを残して、どこかへ向かったのだ。
 もちろん、事件性も疑わなければならないので、騎士達は血眼になってリウス様を捜している。しかし、現状では、この忙しい最中に大量の仕事を意図的に残して、こちらを動けなくさせていることといい、手紙に他者の魔力が干渉した形跡も、別人が置き手紙を書いた形跡もないため、リウス様の暴走という線が強い。
 片翼に対する想いが強いのは、魔族であれば一定の理解は得られるだろう。しかし、この対応に対しては、さすがに全員が憤慨していた。
 とはいえ、魔族は基本的にお花畑思考だと考えていた私の認識は、あながち間違い、というわけでもなく……。


「殿下の片翼だなんて、一体どんな方なんでしょう」

「そりゃあ、うんと素敵な方に決まってるわっ」


 そんな侍女達の悪意なき言葉に、殺気立つ者が続出したのは、言うまでもない。

 結局、リウス様が見つかったのは、三日後であり、その隣には、筋骨隆々の……女性(?)が立っていたそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...