22 / 84
病院編
第20話 退院④
しおりを挟む「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる