失われた愛と偽りの婚約〜復讐の令嬢が選ぶのは冷酷な隣国王子か？

第18話裏切りと覚悟

リリーはゼロスとの会話から数日が経ち、彼の言葉が胸に深く残っていた。ゼロスの優しさに触れ、自分の力だけでは限界があることも分かっていたが、今はカイルの裏を暴くためにどうしても一人で動く必要があった。

城の中でのカイルの行動はますます怪しくなり、彼の周囲には常に密談が飛び交っているようだった。そして、リリーはその密談の一つに偶然出くわした。

「リリーにはまだ気づかれていないが、もう時間の問題だ。計画は予定通り進める。」

冷たく響くカイルの声が、隣の部屋から漏れてくる。リリーは陰に隠れ、息を潜めながら聞き耳を立てた。

「これがうまくいけば、リリーの持つ力もこちらのものになる。彼女は知らないが、彼女自身が鍵だ。」

「鍵…？」リリーは心の中で呟いた。「どういうこと？私が何かの鍵になる…？」

疑念と恐怖が胸をよぎるが、彼女はその場を動けずにいた。カイルの声がさらに低くなり、もう一人の男性と話し始めた。その声はどこか聞き覚えがあるものだったが、誰なのかまでは特定できない。

「リリーを…利用するなんて…。カイル、あなたはそんな人じゃないと信じてたのに…。」

リリーは背筋を伸ばし、覚悟を決めた。これ以上、カイルに騙されることはできない。そして、真実を知るために彼に直接対決する時が来たと感じた。


◆◆◇◇◆◆

翌朝、リリーはカイルを城の中庭に呼び出した。そこは二人が何度も語り合った思い出の場所だったが、今はその景色も色あせて見えた。

「リリー、どうしたんだい？」カイルは笑顔を見せて近づいてくるが、その瞳の奥には何か隠されているように感じた。

リリーは静かに彼を見つめ、冷静に口を開いた。「カイル、私はもう嘘をつかれるのは耐えられない。あなたが何をしているのか、全て知っているわ。」

カイルの顔が一瞬硬直する。しかしすぐに彼は笑顔を保ちながら、リリーの手を取った。「何を言っているんだい？リリー、僕は君のために動いているんだよ。君を守りたいからこそ、いろいろと裏で手を回しているだけなんだ。」

リリーは彼の手を振り払った。「そんな嘘にはもう騙されない！私は見たのよ、あなたが何者かと密談していたのを。私を利用するつもりなんでしょ？」

「利用だなんて…そんなことはないよ。リリー、君は僕にとって大切な存在だ。君がいなければ、僕は何もできないんだ。」

「じゃあ、なぜ私に隠れてそんなことをしているの？」リリーの声は震えながらも、強さを持っていた。「答えて、カイル！」

カイルはその問いに答えられず、沈黙が二人の間に流れた。リリーは彼の目をまっすぐに見つめ、もう一度問いかける。

「あなたは…私を守るために動いていると言っていたわ。でも、それが嘘だということは分かっている。カイル、正直に話して。あなたは私を利用して何をしようとしているの？」

カイルは息を呑み、視線をリリーから外した。「…君には理解できないことなんだ、リリー。僕は、ただ…。」

「理解できない？どうして？私はあなたを信じてきたのに…。それでも、あなたは私を裏切るの？」

リリーの心に浮かんだのは、これまで信じてきたカイルへの愛情が崩れ落ちる瞬間だった。彼を信じていた自分が愚かだったのか、今はもう分からなかった。

「リリー…僕は君を裏切っているわけじゃないんだ。ただ…必要なことをしているだけなんだ。君の力が、僕たちに必要なんだよ。」

「私の力…？」

「そうだ。君が持つ魔力は、僕たちにとって重要なんだ。君自身が気づいていないかもしれないが、君は特別な存在なんだ。君の力があれば、この国を…いや、この世界を変えることができる。」

「でも、それが私を利用する理由になるの？」

リリーは拳を握りしめ、カイルの言葉に怒りを覚えた。「私を道具のように扱うなんて…そんなこと、許されると思ってるの？」

カイルは苦悩の表情を浮かべながらも、リリーに近づいた。「リリー、君を愛しているんだ。君の力を使うことで、僕たちは一緒に新しい世界を作り出せるんだ。君が協力してくれれば、全てがうまくいくんだよ。」

「…協力？そんなこと、できるわけないじゃない！私はあなたに裏切られた。あなたの言葉は、もう信じられない！」

リリーの叫びが中庭に響き渡る。彼女の目からは涙がこぼれ、カイルへの信頼が完全に崩れ去った瞬間だった。

「カイル、あなたが何を企んでいるのか、もう私は止めるわ。あなたが私を利用しようとしているなら、私はそれを許さない。」

リリーは強い決意を胸に、カイルを見つめたまま背を向け、静かにその場を去っていった。カイルの声が彼女を呼び止めようとしたが、リリーはもう振り返らなかった。