失われた愛と偽りの婚約〜復讐の令嬢が選ぶのは冷酷な隣国王子か?

マミナ

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第13話駆け引きの夜

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リリーはカイルとの駆け引きを考えながら、また一晩眠れぬ夜を過ごしていた。ゼロスの優しさに包まれた瞬間があったにもかかわらず、カイルの言葉が彼女の頭から離れない。「自由」と「未来」というカイルの言葉には、どこか引き寄せられるものがあったのだ。

朝になり、リリーは再びカイルと対面することになった。彼の呼び出しはいつも突然だが、なぜか彼の言うことには従ってしまう。カイルの視線はいつもリリーの内面を見透かすかのようで、その魅力に抗うことができない自分がいることを、リリーは自覚していた。

指定された場所に向かうと、そこは広い庭園の中にある小さな離れ。月光が差し込むその場所は、夜の静けさに包まれていた。カイルは既に待っており、いつものようにリリーに向かって優雅な笑みを浮かべていた。

「来てくれたんだな、リリー。嬉しいよ。」カイルはリリーを迎え入れ、彼女の手を取りながら軽くキスをした。

リリーはその手をそっと振りほどき、少し距離を置いた。「何を企んでいるの、カイル?あなたの言う自由や未来って、具体的に何を意味しているのか、まだ分からないわ。」

カイルはリリーの問いに、少し微笑みながら応えた。「企んでいるだなんて、そんな大それたことじゃない。ただ、俺は君を解放したいんだよ。君は今、ゼロスの元で守られているけど……それは本当に君が望んでいることなのか?」

「それは……」リリーは言葉を詰まらせた。カイルの指摘は核心をついていた。ゼロスは確かに彼女を守ってくれるが、それがリリー自身の選択だったのかどうかは、今となっては分からない。ただ、自然とそうなってしまったのだ。

「君は自分の未来を、自分で選び取る権利がある。ゼロスに従う必要なんてない。俺はそのためにここにいるんだ、リリー。君が望めば、俺はいつだって君の側に立つ。」カイルはそう言いながら、再びリリーに近づいた。

「でも、ゼロスは……」リリーは迷いを抱えたまま、カイルの言葉に反論しようとした。しかし、その言葉は口に出す前に、カイルの指でそっと唇を押さえられた。

「ゼロスのことは分かっている。彼は君を大切に思っているし、君も彼に感謝しているだろう。でも、それと君自身の自由は別の話だ。リリー、君はもっと自由になっていいんだ。」

その言葉に、リリーは再び心が揺さぶられた。カイルの存在は彼女にとって危険でありながら、同時に魅力的だった。彼と共に新しい道を歩むことが、リリーにとってどんな未来をもたらすのか。ゼロスとは違う選択肢がそこに広がっている。

「私に何を求めているの?」リリーは思わず、カイルに問いかけた。

「君自身が望むものを手に入れるために、俺と手を組むことだよ。」カイルの声は優しく、それでいて力強い。彼の瞳はまるでリリーの心の奥底を見透かしているかのように感じられた。

その瞬間、リリーの心の中で何かがはじけた。カイルとゼロス、二人の間で揺れ動く心が、今や大きな決断を迫られている。だが、リリーにはまだその答えが出せない。

「カイル、私は……」リリーが何かを言いかけた瞬間、庭園の入り口から鋭い声が響いた。

「リリー、何をしているんだ?」その声は、ゼロスだった。彼は険しい表情でリリーとカイルを見つめていた。ゼロスがこんな風に感情を露わにすることは、今までなかった。それだけ、彼にとってこの状況は容認できないものだったのだろう。

「ゼロス……」リリーは驚いて彼を見つめた。

ゼロスはカイルに冷たい視線を送り、リリーの方に歩み寄った。「リリー、こいつの言うことに耳を貸すな。カイルはお前を利用しようとしているんだ。」

「利用だって?」カイルは冷笑を浮かべた。「ゼロス、お前は何も分かっていない。リリーにとっての本当の自由が何かを、考えたことがあるのか?」

「自由?それがお前の言う名目で、リリーを引きずり込もうとしているんだろう。」ゼロスはカイルを睨みつけた。

「やめて!」リリーは二人の間に立ち、手を広げた。「私にとって、どちらが正しいかなんて、今は分からない。でも、私は自分で選びたいの。」

その言葉に、ゼロスもカイルも沈黙した。リリーの決意が揺るぎないものであることを、二人とも理解したのだ。

「リリー……」ゼロスは悲しそうに呟いた。

「私は少し時間が必要よ。だから、今はこの場を離れてちょうだい。」リリーの言葉に、ゼロスは戸惑いを見せたが、やがてゆっくりと頷いた。

「分かった。お前の選択を信じる。」ゼロスはそう言い残し、リリーを見つめながら立ち去っていった。

カイルもまた、無言でその場を去った。彼の背中には、何か大きな計画が動いているような不穏さが漂っていた。

リリーは一人、月明かりに照らされる庭園に立ち尽くしていた。彼女の心は、今後の選択次第で全てが変わることを理解していた。

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