失われた愛と偽りの婚約〜復讐の令嬢が選ぶのは冷酷な隣国王子か？

第12話甘酸っぱい再会

カイルが去った夜、リリーは一人、バルコニーに佇みながら月を見上げていた。カイルの言葉がまだ頭の中で反響している。自由、自分の未来を切り拓く選択。だが、ゼロスの安定した愛もまた捨てがたい。どちらを選ぶべきか、彼女の心は混乱していた。

そんな時、背後から静かな足音が近づいてくる。リリーが振り返ると、そこにはゼロスが立っていた。

「リリー……こんな夜更けに、外にいるなんて珍しいな。」

ゼロスの柔らかい声が、リリーの心に安らぎを与えた。彼の存在はいつも彼女を守り、支えてきた。リリーは微笑んでゼロスを見上げた。

「少し、考え事をしていたの。何も心配することじゃないわ。」

ゼロスは優しくリリーの肩に手を置き、彼女をそっと自分の方に引き寄せた。「お前が何かを考えている時は、だいたい俺に言いたくないことがある時だ。無理に聞くつもりはないけど……話したくなったら、俺に言ってくれ。」

リリーはゼロスの胸に顔を埋めながら、彼の優しさに感謝した。彼はいつも彼女に押し付けず、ただそばにいてくれる。それが、リリーにとって何よりも安心できる場所だった。

「ゼロス……私はあなたを信じてる。あなたがずっと私を守ってくれたこと、感謝してるわ。」

「守ることなんて、当然のことだ。お前は俺にとって……大切な存在だからな。」ゼロスの声は静かで、力強い。彼の言葉にはいつも偽りがなく、真実が込められていた。

リリーはゼロスの腕の中でさらに強く抱きしめられ、その温もりに包まれた。彼の鼓動が耳元で心地よく響き、リリーの胸の中にあった不安や葛藤が一時的に消え去る。ゼロスは、確かに彼女を愛している。リリーもまた、彼を愛していた。しかし――。

「ゼロス、あなたは……私が他の道を選ぶ可能性があること、考えたことある？」リリーは突然、心の中にあった疑問を口にした。

ゼロスは一瞬だけ目を細め、リリーを見つめた。「お前が他の道を？ たとえば、どういうことだ？」

リリーは答えに窮し、一瞬視線を外した。カイルの提案が彼女の心に影を落としていたのだ。

「いや、ただの想像よ。もしも私が、違う選択をしたら……あなたはどうするのかなって、考えていただけ。」

ゼロスはその言葉を聞き、少し微笑んだ。「リリー、お前がどんな道を選んでも、俺はお前の側にいる。選択するのはお前の自由だ。でも、俺はお前を守り続ける。それが俺の役目だからな。」

その言葉に、リリーの心は再び揺れた。ゼロスは何も強制しない。彼の愛は無償で、ただ彼女の幸せを願っているだけだ。だが、その優しさが時には重く感じる瞬間もある。それはリリーが心の中で隠している、もう一つの感情が関係しているのかもしれない。

ゼロスがリリーの髪をそっと撫でながら、優しい声で囁いた。「リリー、お前はどうしてそんなに自分を追い詰めるんだ？ 無理しなくていい。俺の前では、素直でいろ。」

リリーはその言葉に涙ぐんだ。彼の言葉はいつも彼女の心の中にある硬い部分を溶かしていく。ゼロスは何も求めず、ただリリーの幸せだけを願っている。それが、彼の愛の形だった。

「ゼロス……ありがとう。本当に、ありがとう。」リリーは彼に抱きついたまま、そっと呟いた。

「お前が元気でいてくれれば、それが俺にとって一番の幸せだ。」ゼロスはリリーの頭を優しく撫で、彼女を抱きしめる力を少し強めた。

その瞬間、リリーはゼロスに対する愛と感謝の気持ちが溢れ出た。彼は確かに彼女を守ってくれているし、彼女もまたゼロスを愛している。だが、カイルの存在が彼女の心を揺るがしていることも、事実だった。

「ゼロス、私……あなたが好きよ。でも……」リリーは言葉を詰まらせた。

ゼロスはその言葉を聞きながらも、微笑んで答えた。「お前が何を考えていても、俺はお前の側にいる。それで十分だ。」

その夜、リリーはゼロスの腕の中で眠りについた。彼女の心はまだ揺れていたが、その瞬間だけは、ゼロスの温もりに包まれていた。カイルとの駆け引きが続く中で、彼女の選択がどのように未来を変えるのか、まだ誰にも分からなかった。