失われた愛と偽りの婚約〜復讐の令嬢が選ぶのは冷酷な隣国王子か?

マミナ

文字の大きさ
上 下
10 / 23

第10話ゼロスの忠誠と迫りくる危機

しおりを挟む
リリーはカイルとの密会を終え、部屋に戻ったが、気持ちが晴れなかった。カイルの甘い言葉は確かに魅力的だったが、心の中で彼を完全に信じることはできなかった。

「ゼロスは私を守ろうとしてくれている…そう信じていいのよね?」

リリーはつぶやきながら、ベッドに腰を下ろした。心の中にはカイルへの疑念と、ゼロスへの信頼が交錯していた。そのとき、窓の外から小石が当たる音が聞こえた。

「…ゼロス?」

彼女は立ち上がり、窓を開けると、予想通りそこにはゼロスが立っていた。夜の闇の中で、彼の銀髪が月明かりに照らされて美しく輝いている。

「リリー、話がある。今、少しだけ時間をくれないか?」

リリーは迷うことなくうなずき、彼を部屋に招き入れた。ゼロスはいつもの冷静な表情のまま、部屋の中に入ると、リリーの顔をじっと見つめた。

「何か、あったの?」

リリーが尋ねると、ゼロスは深いため息をつき、彼女の手をそっと握った。

「リリー、カイルと接触したのは分かっている。彼を信じてしまっているわけではないだろうが、注意してくれ。彼には何か隠していることがある。」

リリーはゼロスの言葉に驚きつつも、カイルの正体に対する不安を抱いていた自分の気持ちを思い返した。

「ゼロス、私も分かってる。でも今、カイルの助けを借りるしか方法がない。アランとミリアに対抗するには、私一人では…」

その瞬間、ゼロスの表情が少しだけ険しくなり、彼はリリーの手を強く握りしめた。

「リリー、君は一人じゃない。私が君を守ると誓ったんだ。カイルのような男に頼る必要はない。」

リリーはゼロスの強い言葉に驚き、彼の真剣な眼差しを見つめた。彼の手のぬくもりが伝わってくる。

「ゼロス…でも、あなた一人で戦うのは危険すぎる。アランは宮廷内での地位もあるし、ミリアと手を組んでいる。私たちだけでは…」

ゼロスはリリーの言葉を遮るように、さらに彼女の手を引き寄せた。

「リリー、聞いてくれ。君のことを守るためなら、私は何でもする。たとえ相手が王であろうと、敵がいかに強大であろうと、君を傷つけさせはしない。だから…」

ゼロスの声が一瞬途切れた。その沈黙の中で、彼の心の内にある葛藤が伝わってくるようだった。リリーは彼の真剣な思いを感じ、胸が熱くなった。

「…だから、君は私を信じてくれ。」

その一言に、リリーの心が揺れた。ゼロスの強い決意と、彼が自分を守ろうとしている真摯な姿勢が伝わってきた。

「ゼロス、ありがとう。あなたの気持ち、分かってる。でも、私はただ守られるだけの存在ではいられない。自分の力でこの状況を変えたいの。だから、あなたと一緒に戦いたいの。」

リリーの言葉に、ゼロスはしばし黙り込んだ後、ゆっくりと頷いた。

「…分かった。君がそう言うなら、私はそれを尊重する。だが、決して無理をするな。君が傷つくことは、私にとって何よりも辛いことだから。」

その言葉を聞いたリリーは、ゼロスの優しさに胸がいっぱいになり、彼に微笑みを返した。

「大丈夫。私はあなたと一緒に戦うことを選んだんだから。どんな困難が待ち受けていようと、乗り越えてみせるわ。」

その時、部屋の外から騒がしい足音が聞こえた。リリーとゼロスは互いに目を合わせ、すぐに警戒態勢に入った。

「何かが起きているみたいね…」

リリーは窓の外を見やり、暗闇に包まれた庭園の中で人影が動いているのを確認した。

「急ごう、リリー。何か不穏な動きがある。君をここに残すわけにはいかない。」

ゼロスは素早くリリーを引き寄せ、部屋の裏口へと向かった。彼の腕の中で、リリーは何か大きな変化が起きようとしていることを感じていた。


◆◆◇◇◆◆

夜の宮廷は、いつもとは異なる不気味な静寂に包まれていた。リリーとゼロスは庭園を抜け、裏手の小道を急ぎ足で進んでいた。

「誰かが私たちの動きを監視しているかもしれない…」

リリーは息を潜めながら周囲を見渡した。ゼロスは彼女をしっかりと守りながら進んでいたが、何か不穏な気配を感じ取っているようだった。

「リリー、気をつけて。アランが動き始めた可能性がある。あいつは、君が自分に対して何か仕掛けてくることを予感しているかもしれない。」

リリーはゼロスの言葉にうなずきながら、心の中で決意を新たにした。今こそ、アランとミリアに対抗するために、全力を尽くす時が来たのだ。

「私は絶対に負けない…ゼロス、あなたがいてくれるなら、何も怖くない。」

リリーはゼロスの肩越しに夜空を見上げた。彼の存在が、自分にとってどれほど大きな支えとなっているのかを、改めて感じた瞬間だった。


◆◆◇◇◆◆

リリーとゼロスは再び前を向き、これからの戦いに備えるため、さらなる決意を胸に進んでいった。この先に待ち受ける運命を知ることなく、ただ互いに信じ合い、支え合いながら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...