失われた愛と偽りの婚約〜復讐の令嬢が選ぶのは冷酷な隣国王子か？

第2話冷酷なる王子との出会い

リリーは、馬車の窓から見えるルイネス王国の壮大な城壁を見上げ、深く息を吐いた。ここが彼女の新たな舞台、そして復讐を果たすための地だ。しかし、彼女が今から会う相手は、冷酷で名高いルイネス王子ゼロス。その評判を耳にしていたリリーは、少しの緊張を感じつつも、決して引かないという決意を胸に抱いていた。

城の門が重々しく開かれ、リリーは護衛に導かれながら宮殿の奥へと進んだ。高い天井に響く靴音が、広大な空間に孤独感を与える。やがて扉の前で護衛が止まり、「こちらで王子がお待ちです」と冷ややかに告げた。

リリーは扉が開かれるのを待ち、堂々とした姿勢で部屋に入った。目の前に現れたのは、黒い衣装をまとったゼロス王子。彼は一見して冷淡で感情の読めない顔をしており、その瞳は鋭くリリーを見つめていた。王子の姿に、リリーは一瞬の圧力を感じたが、表情には出さず、静かにお辞儀をした。

「オードリー伯爵家のリリーと申します。お会いできて光栄です、王子ゼロス様。」
彼女の声は穏やかだが、心の中では自分を奮い立たせていた。目の前の相手は冷酷だと言われているが、彼の力を借りなければ、復讐は果たせない。

ゼロスは冷たいまなざしでリリーを見つめたまま、微動だにしない。しばらく沈黙が続き、リリーは内心で緊張を感じたが、それでも彼女は動じなかった。

「君が噂のリリー・オードリーか。」ゼロスはようやく口を開き、その声は冷ややかだった。「復讐を望む令嬢が、私に何を求める？」

その質問に、リリーは少しも動じることなく、真っ直ぐゼロスを見返した。彼の冷淡な態度に恐怖を感じることはあったが、今の彼女にとってそれは問題ではない。彼女には目的があった。

「私は、あなたと偽りの婚約を結びたいのです。そして、彼らを地獄に落とすために、あなたの力を借りたい。」

ゼロスの眉がわずかに動き、彼はリリーをじっと見つめた。「彼らとは、元婚約者とその女か。君は、そのために私を利用しようとしているのか？」

リリーは冷静に頷いた。「ええ、そうです。ですが、これはお互いに利益のある提案だと考えています。貴方は私の背後にあるオードリー家の力を得ることができる。私は復讐を、貴方は新たな同盟を。」

ゼロスは短く笑った。その笑い声には冷徹さが滲んでいた。「君はなかなか大胆な提案をするな、リリー・オードリー。だが、君の計画は甘い。復讐には計画と耐える力が必要だ。それに君が耐えられるかどうか、疑わしい。」

「私は何でも耐えます。貴方の助けがあれば、私はどんな困難にも立ち向かえる。」リリーは即座に答えた。その声には揺るぎない決意が込められていた。

ゼロスは一瞬、彼女を見つめて沈黙した後、やがて薄く微笑んだ。「面白い。君の提案、聞いてやろう。だが、私に借りを作ったことを忘れるな。」

「忘れません。借りは必ず返します。」リリーもまた笑顔で応じたが、その瞳には冷たい鋭さがあった。

「ならば、君に試練を与えるとしよう。まずは君の元婚約者に関する情報を集める。彼の弱点を見極めなければ、彼を地獄に落とす計画は成功しない。」ゼロスは冷静に言葉を続けた。

「私に任せてください。アラン・クロフォードの全てを暴き出します。」リリーは自信に満ちた声で答えた。

ゼロスは満足げに頷いた。「よし、では私の配下の者を君に付けよう。彼が君の動きを補佐する。だが覚えておけ、復讐は甘い誘惑だが、終わりはいつも苦い。君がそれに耐えられるならば、私は手を貸そう。」

リリーはゼロスの言葉を反芻しながら、決意を新たにした。これから待ち受ける困難は想像を超えるものかもしれない。しかし、彼女の心にあるのはただ一つ――アランとミリアに対する復讐。そしてそのためなら、どんな代償を払っても構わないと、彼女は強く信じていた。

「ありがとうございます、ゼロス様。貴方の期待に応えてみせます。」リリーは静かに一礼し、彼に背を向けてその部屋を出て行った。

扉が閉まる瞬間、ゼロスは小さく呟いた。「面白い女だ。さて、どこまでやれるか見ものだな。」