失われた愛と偽りの婚約〜復讐の令嬢が選ぶのは冷酷な隣国王子か?

マミナ

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第1話失われた愛と偽りの婚約

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私、リリー・オードリー伯爵令嬢は、人生で最も残酷な瞬間に直面していた。婚約者であるアラン・クロフォード公爵家の跡取り息子が、私に対して婚約破棄を告げたのだ。理由は……「平民出身の少女、ミリアとの真実の愛」。彼が言ったその言葉が、私の心を鋭い刃のように切り裂いた。

「リリー、すまない……ミリアと一緒になりたいんだ。彼女こそが、俺の運命の人なんだよ」

彼の声は、今まで私を愛してくれていた時のものとは違っていた。冷たく、無感情。まるで私の存在が、ただの障害物でしかないかのように。

「……アラン、本気で言っているの?」私は、かすれた声で問い返した。

「本気だよ、リリー。俺たちの婚約は、両家のために決められただけだろう?俺はミリアと幸せになりたい。君には悪いけど、もう二度と会うことはないと思う」

その瞬間、全てが崩れ去った。私が幼い頃から夢見ていた未来、彼との結婚、幸福な日々――それらが全て、目の前で音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。

「待って、そんな……私は、アランを愛しているのよ!どうして私じゃダメなの?どうして、そんな平民の女が……」

泣き崩れそうになる私に、アランは残酷な笑みを浮かべた。そして、無言で私を背にして去っていった。

部屋には、私一人だけが取り残された。しばらくの間、ただ呆然と立ち尽くしていたが、やがてその場に崩れ落ち、嗚咽がこぼれた。誰も私を救ってはくれない。裏切りに対する怒り、失恋に対する絶望、全てが一気に押し寄せてくる。

「……絶対に許さない。あの平民の女も、アランも。二人とも、私の目の前から消え去れ……!」

私は、その場で誓った。絶対にこの屈辱を晴らしてやる、と。私を裏切った彼らには、私がどれだけの苦しみを味わったか、身を持って知ってもらう必要がある。

翌朝、私は父に相談するために伯爵家の執務室を訪れた。だが、父の反応は私の予想とはまるで違っていた。

「リリー、アランとの婚約が破談になったことは残念だ。しかし、彼はもう戻ってこない。恨みを持つよりも、次の道を考えるべきだ」

「次の道って……父様、私は彼を愛していたのよ!それを簡単に諦めろと言うの?」

父はため息をつき、書類を手に取った。

「政治というものは、個人の感情だけで成り立つものではない。今、我々オードリー家は立場が弱い。アランとの縁が切れた今、新たな繋がりを築かなければならないのだ。もう一度、冷静になって考えるのだ。今は無駄な感情を捨てる時だ」

無駄な感情……私にとって、愛も復讐も、そんな簡単に捨てられるものではない。だが、父の言葉は痛いほど現実的だった。今の私に必要なのは感情ではなく、計画だった。

その夜、私は一人で考え込んだ。どうすればこの怒りと悔しさを晴らせるのか。そして、どうすれば彼らを地獄に突き落とせるのか。その時、私の頭に一つの名前が浮かんだ。

「……隣国の冷酷な王子、ゼロス・ルイネス」

彼の噂は、かねてより王都で広まっていた。冷徹で、恐ろしいほど計算高い男。彼の手を借りれば、私の復讐を果たすことができるかもしれない――そんな考えが、私の中で膨らんでいった。

ゼロスに接触するためには、まず何かしらの理由が必要だ。幸いなことに、父がオードリー家の立場を強化するために、新たな同盟を求めているということを知っていた。それを利用するのだ。

数日後、私は父にこう提案した。

「父様、隣国のルイネス王国との同盟を提案します。そのために、私はルイネス王国の王子、ゼロス殿下との婚約を進めるつもりです」

父は驚いた顔をしたが、すぐにその提案を受け入れた。彼もまた、ルイネスとの同盟を望んでいたのだ。そして、その婚約は私にとっても絶好の機会となる。

ゼロスは私にとって、単なる婚約者ではない。彼は、私の復讐を手助けしてくれる存在となるだろう。偽りの婚約を結び、アランとミリアを打ちのめすための最強の武器として。

「アラン、ミリア……楽しみにしていなさい。あなたたちの幸せなんて、すぐに終わらせてあげるわ」

私は、心の中で静かにほくそ笑んだ。復讐の始まりだ。

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