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見知らぬ影が歩く時間
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帰宅してカーテンを開けた瞬間に私は何故か知らないけど違和感を覚えてしまったの。
狭いアパートの6階から見下ろす路地裏――そこをゆったりと得たいのしれない何かがもぞもぞと動いている。
『何あれ?』
真っ黒な影。
人の形をしてるというのにどうにも様子が変だ。
まるで黒い霧が凝縮されたような、街灯にも照らされない異様な黒さ。
初めて見る異様に真っ黒な黒さを見た私には何とも言えない不気味な物体に見えてしまう。
『うわ…気味が悪い…』
「なんで影だけ…?」
不思議に思った私が呟いた途端にぴたりとその影が止まる。
『え?なに…?』
私の全身が凍りついて冷や汗が流れる。
影はゆっくりと頭を上げる。
いや、違う。顔なんてない。
真っ黒な塊が私のいる窓をじっと見ている。
ただまっすぐに私を見ているのだ。
「な、何…?」
目が逸らせない。視点のやり場がどうしても見つからなかったから、震える手で急いでカーテンを閉めた。
◆◇◆◇
その夜は眠れなかった。
眠れなのが何故か私には分かっている。
あの真っ黒な塊のせいだ。
気だるい気持ちで私は時計を見た。
時計の針は午前3時を指している。
漆黒の影が瞼の裏にこびりついて消えてくれない。
――コン、コン
窓を叩く音がする。
『こんな時間に何?え…まさか…』
私の頬に冷や汗が流れる。
「嘘でしょ……」
寝室の中で耳を塞ぐように布団をかぶせるが音は止まらない。
※※コン、コン、コン――※※と規則的に窓をゆっくりと叩き続ける。
「もういい加減にして…!」
私は堪らずカーテンを少しだけ開けた。
――そこに顔があった。
真っ黒で目も口も鼻もないのに顔だと直感させるものは何か。
私の窓にぴたりと張り付いている。
「きゃああ!」
驚いて悲鳴をあげる。
「いやいやいや!なにこれ!」
慌てて後ずさりする私を見透かしたかのように、その手が窓に伸びる。
ガラスを挟んだはずの指がゆっくりと部屋の中に入り込んでくる。
黒く、細長く、不気味な指が宙を這うように動いている。
ズズ……ズズズ…
「やめて!来ないで!」
私は玄関へ駆け出した。
裸足のままただ必死になってドアを開けた後、廊下を全力で駆け抜ける。
エレベーターに飛び乗りボタンを何度も押す。
「お願い、お願い早く!!」
ドアが閉まり、エレベーターが動き出したときに私は安心して息をつく。
「良かった…!これで……」
だが、鏡に写った私の後ろ――いや、私の頭上にそれがいた。
真っ黒な何かが天井に張り付き、私を見下ろしている。
顔のないはずの黒い塊から無数の口が開いた。
"捕まえた"
"もう逃げられないよ"
耳元に囁く響きに私は悲鳴をあげる。
――でももう手遅れ。
その声すら途中で途切れた。
※※※次に目を覚ましたときには私はもう"私"じゃなくて、暗闇の中で無数の"影"と一つになっていた。※※※
◆◇◆◇
狭いアパートの6階から見下ろす路地裏――そこをゆったりと得たいのしれない何かがもぞもぞと動いている。
『何あれ?』
真っ黒な影。
人の形をしてるというのにどうにも様子が変だ。
まるで黒い霧が凝縮されたような、街灯にも照らされない異様な黒さ。
初めて見る異様に真っ黒な黒さを見た私には何とも言えない不気味な物体に見えてしまう。
『うわ…気味が悪い…』
「なんで影だけ…?」
不思議に思った私が呟いた途端にぴたりとその影が止まる。
『え?なに…?』
私の全身が凍りついて冷や汗が流れる。
影はゆっくりと頭を上げる。
いや、違う。顔なんてない。
真っ黒な塊が私のいる窓をじっと見ている。
ただまっすぐに私を見ているのだ。
「な、何…?」
目が逸らせない。視点のやり場がどうしても見つからなかったから、震える手で急いでカーテンを閉めた。
◆◇◆◇
その夜は眠れなかった。
眠れなのが何故か私には分かっている。
あの真っ黒な塊のせいだ。
気だるい気持ちで私は時計を見た。
時計の針は午前3時を指している。
漆黒の影が瞼の裏にこびりついて消えてくれない。
――コン、コン
窓を叩く音がする。
『こんな時間に何?え…まさか…』
私の頬に冷や汗が流れる。
「嘘でしょ……」
寝室の中で耳を塞ぐように布団をかぶせるが音は止まらない。
※※コン、コン、コン――※※と規則的に窓をゆっくりと叩き続ける。
「もういい加減にして…!」
私は堪らずカーテンを少しだけ開けた。
――そこに顔があった。
真っ黒で目も口も鼻もないのに顔だと直感させるものは何か。
私の窓にぴたりと張り付いている。
「きゃああ!」
驚いて悲鳴をあげる。
「いやいやいや!なにこれ!」
慌てて後ずさりする私を見透かしたかのように、その手が窓に伸びる。
ガラスを挟んだはずの指がゆっくりと部屋の中に入り込んでくる。
黒く、細長く、不気味な指が宙を這うように動いている。
ズズ……ズズズ…
「やめて!来ないで!」
私は玄関へ駆け出した。
裸足のままただ必死になってドアを開けた後、廊下を全力で駆け抜ける。
エレベーターに飛び乗りボタンを何度も押す。
「お願い、お願い早く!!」
ドアが閉まり、エレベーターが動き出したときに私は安心して息をつく。
「良かった…!これで……」
だが、鏡に写った私の後ろ――いや、私の頭上にそれがいた。
真っ黒な何かが天井に張り付き、私を見下ろしている。
顔のないはずの黒い塊から無数の口が開いた。
"捕まえた"
"もう逃げられないよ"
耳元に囁く響きに私は悲鳴をあげる。
――でももう手遅れ。
その声すら途中で途切れた。
※※※次に目を覚ましたときには私はもう"私"じゃなくて、暗闇の中で無数の"影"と一つになっていた。※※※
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