婚約者を奪われたけど、イケメン騎士団長が私を選んでくれました

マミナ

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第3話レオンとリリアの偽りの勝利

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「アリスが去ったか…」

レオンは、アリスが去っていったドアをじっと見つめていた。表面上は冷静を装っていたが、内心は複雑だった。アリスの驚いた顔、絶望に満ちた瞳――その一瞬が頭に焼き付いている。確かに、彼はリリアとの関係を選んだ。だが、アリスの姿が頭から離れない。

「レオン様、大丈夫ですわ。あんな女、所詮は平凡な貴族の娘よ。私がいるじゃない」

リリアが甘い声で言いながら、レオンの腕にしなだれかかる。黄金色の巻き髪を揺らし、その顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。自分こそが正しい選択だと信じて疑わない、そういう女だ。

「…そうだな、リリア。君がいれば、何も問題はない」

レオンは自分に言い聞かせるように答える。だが、心の中では奇妙な違和感が広がっていた。確かにリリアは聖女だ。彼女と結婚すれば、王国中が自分たちを祝福し、未来は約束されたも同然だ。だが、アリスと過ごした日々は決して短くはない。その思い出が、リリアとの未来に比べて霞んでしまうものなのか――そんな疑問が頭をかすめる。

「ねぇ、レオン様?今日はお祝いしましょう。私たち、ついに邪魔者がいなくなったのよ!」

リリアの声がはずんでいる。彼女は完全に勝利したと信じている。レオンもそれを望んだはずだった。だが、今になって心に芽生えたのは、不安の種だった。

「邪魔者、か…。確かにそうかもしれない」

レオンは薄く笑い、リリアの髪に手をやる。だが、彼の手は少し震えていた。それに気づいたリリアが、怪訝そうに顔を上げる。

「レオン様?どうなさったの?何か心配事でも?」

「いや、別に…ただ、アリスがあんなにすぐ諦めるとは思わなかっただけだ」

「ふん、あの女に何ができるっていうの?自分の無力さを思い知って、逃げ出したんじゃない?それに比べて、私たちは選ばれた存在ですもの。誰にも負けることなんてないわ」

リリアは自信たっぷりにそう言い放つ。その傲慢な笑みに、レオンは少し眉をひそめたが、すぐにそれを隠すように微笑んだ。リリアが言うことも一理ある。自分たちは聖女とその婚約者として、王国の中心に立つ運命だ。アリスのような平凡な娘が、自分たちに勝てるはずがない。

だが――

「それでも…」

レオンは小さく呟いた。その声はリリアには届かなかったが、彼自身の胸の内で確かに響いていた。アリスはそんなに簡単に諦める女ではなかった。彼女の真っ直ぐな瞳、強い意志は知っているはずだ。だからこそ、不安が消えない。

「レオン様、これからは私たちが王国の頂点に立つのよ。あの女のことなんて、もう忘れましょう?」

リリアが満面の笑みで言う。その言葉にレオンは深く頷いたが、胸の奥の違和感はどうしても消えなかった。彼は、アリスがこのまま終わるとは思えなかったのだ。

「そうだな…忘れよう」

レオンは自分に言い聞かせるように、再びリリアに笑みを向ける。だが、その笑顔はどこかぎこちなかった。

一方、リリアは自分が完全に勝ったと思い込み、これからの輝かしい未来に思いを馳せていた。だが、二人はまだ知らない。アリスがこのまま引き下がるような女ではないことを。そして、彼女の復讐が静かに始まろうとしていることを…。
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