563 / 564
第562話 とある令嬢第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する
しおりを挟む
暦は九月となり、王都は秋を迎えていた。
王都メルト魔法学院では秋の名物イベントである学年対抗の大運動会が始まっていた。
「やっと見つけたぞ。何してるんだレイン」
黒髪で第一学年であるマークを胸に付けている男子がその声を聞き、動きを止め振り返る。
そして声を掛けて来た人物を見て、ぶっきらぼうな態度で答えた。
「何って見れば分かりませんか? 最後の調整ですよ、トウマ寮長」
「調整って、お前タツミ先生に次の競技まで安静にしてろって言われたろ」
トウマは室内訓練場の入口でため息をついていると、背後からもう一人現れる。
「やる気満々でいいじゃないか」
「っ! ルーク副寮長」
「ルークお前、何でレインの肩を持つんだよ」
するとレインはルークの方へと詰め寄った。
身長差があり、レインはルークを少し見上げる状態になる。
「ルーク副寮長、俺が今年の代表戦に出るの知ってますよね? 第一学年で初めて選ばれたんですよ」
「知ってるよ。でも、繰上りでだろ」
「うっ……そ、それでも代表です! 絶対に先輩方には負けません! 特にルーク副寮長には!」
そう告げるとレインは室内訓練場を出て行った。
「あ、おいレイン――はぁ~やっと落ち着いて来たと思ったが、何であいつはこうなんだ」
「あいつにも色々とあるんだろ」
トウマはチラッとルークへと視線を向ける。
「何か知ってるだろお前。レインのやつ第一期からだが、第二期に入ってからやけにお前に突っかかっているよな」
「そうか? あいつは第一学年の中で力があるし、それで自分が上級生にも勝ってちやほやされたいんじゃないか?」
「たしかレインの奴が第二学年に模擬戦で勝って生意気になってたところを、お前が伸びてた鼻を折ったって聞いたが」
「あ~ちょっと生意気過ぎたから相手してやったよ」
笑顔で答えるルークにトウマは軽く相手をしてやった感じではなく、立ち直れないくらいの力を見せてボコボコにしたんじゃないかと思うのだった。
その現場をトウマは見ておらず、第一学年と第二学年のいざこざをルークが止めたと聞いただけなのだ。
それ以降やんちゃであった第一学年もおとなしくなり、第二学年との仲もうまくなりだしていたがまだレインを筆頭に数名はやんちゃな者たちがいる状況であった。
悪さをする感じではなく、上級生に対し少し態度が悪かったりすぐに模擬戦を挑んだり、自分の力を証明させたい認めさせたいという感じであり特にそれをトウマたちの第三学年にしているのである。
競技場内の廊下を歩きながら悩みの種が消えないトウマはため息をつく。
「うちの寮ぐらいだろうな、こんなやんちゃな後輩がいるの。やっぱり俺の威厳が足りないからか?」
「他の寮と比べるなよ。うちはうちだろ」
「まあ、そうけどな」
するとルークはトウマの背中を強く叩く。
「イタッ! 何するんだよ急に」
「一人で悩むなんてお前らしくないぞ。忘れたか、周りにいる奴らを? 最近進路や今後のことで言いずらいのは分かるが、あいつらはお前の話を無視をするような奴らじゃないだろ。お前が一番分かっていると思うがな」
「……ああ、そうだな。なるべく迷惑かけないようにと思っていたが、そうしてみるかな」
「最初の頃ガツガツいってた頃を思い出して見ろ。あれに比べればましだろ」
「何だよ、お前らがいつでも頼れって言ってくれたんだろ。だから、頼っただよ」
「途中からほぼこっちに丸投げ状態だったろあれは」
「考えたぞ。考えてどうしていいか分からなくなって頼ったんだ。つうかあの頃はもうパンク寸前だったんだよ」
「今日も仲がいいわねお二人さん」
前からそう声を掛けられ二人は足を止めた。
二人の前に現れたのはジュリルであった。
「噂は聞いているわよ。大変そうね、後輩に関して」
「女子側はよく分からんが、そっちはどうなんだ?」
「こちらは問題はありませんわよ。でも、もうすぐ問題が出るかもしれませんわ」
その言葉にルークとトウマは首を傾げる。
「どういうことだ? 何かあるのか?」
「今年の大運動会の競技の特別試合ですわよ。忘れていますの? 第三学年の男女同士での代表戦」
ジュリルの言葉にトウマは「あ~」と思い出したかの様に声を出す。
今年は男女同士の特別試合が競技の終盤に決まっており、学院中はその対戦に注目をしていた。
この試合にはジュリルはもちろんルークも出場が決まっており、二人の試合が特に注目を浴びていた。
「たしか三戦だったよな。うちはルークにダンデ、レオンだったよな」
「いや、レオンは辞退して繰上りでスバンだ」
「辞退とかありなのか」
「まあ仮にも使える主がいる競技で、対戦になったら困るからだろう」
「当たる可能性はないとは思うが、少しでもその可能性があるからってやつか。レオンらしいといえばらしいか」
「私たちの出場者は先程確定して来たところですわ。では、試合楽しみにしてますわ」
そう告げジュリルはルークたちを通り越して立ち去って行った。
「なあルーク、今のジュリルとだとどっちが強いんだ?」
「さあな。だが強いのは明らかだろうな」
「おいおいいつものルークにしては弱気だな」
「弱気? 何言ってんだ、俺は負けないぞ誰が相手でもな」
そして大運動会の競技は進み、遂に注目競技である特別試合を迎えた。
『さぁ皆様お待たせしました! 第三学年の男女同士による特別試合です!』
とある生徒による実況に競技場は大きく盛り上がる。
『特別試合は男女ともに三名の代表者が選ばれ、一対一の対戦をするものです! 第三学年同士のガチンコバトル! こんな熱い展開に燃えない奴はいないだろう! それでは早速出場者に登場してもらおう!』
そして男子と女子側で別の入口から中央の舞台に向かい三名が姿を現す。
男子側はルーク、ダンデ、スバンの三名が出て来て競技場が盛り上がる。
一方で女子側はジュリル、ウィル、マートルそしてフードを被った人物が登場する。
謎の人物の登場に少しざわつく競技場だったが、ジュリルが間近で試合を見たいと言って来た生徒だと告げる。
誰だと言われるのが恥ずかしいから顔を隠しているのでフードを許して欲しいと口にする。
その言い分に皆が納得し、それなら自分も間近でジュリルたちの試合を見たかったと口にする女子学生がちらほらといるのだった。
そして試合が始まり、男女ともに全力を出し手に汗握る試合を行い競技場は大きく盛り上がり最終戦を迎える。
中央の舞台にルークが先に上がる。
『さあ最終戦だ。男子学年最強といわれるルークと女子学年最強といわれるジュリルの試合! これを見逃す訳にはいかないぞ!』
そう実況されるもジュリルは何故か中央舞台に上がらない。
するとジュリルは急に手を上げ、とある宣言をする。
「申し訳ないけれど、ここで出場メンバー変更をするわ」
思いもしない申し出にざわつく競技場。ルークたちも耳を疑う。
「私の代わりに、この子に出てもらうわ」
ジュリルがそう告げるとフードを被っていた人物が何のためらいもなく中央の舞台に登りルークと向き合う。
競技場からはブーイングが少し出る。当然である、ルークとジュリルの対戦を見れると思っていたおり、それがなくなったのだから。
「おいジュリル。お前以外に俺の対戦相手にぽっと出の奴を出すなんて何考えてるんだ?」
「あらあらルーク、その子にもう勝った気なの」
「勝つも何もお前以上に強い奴はいないだろ」
「それはどうかしらね」
何故か余裕な表情を見えるジュリルにルークは首を傾げる。
直後フードを被っていた人物がルークに声を掛ける。
「私が対戦相手じゃ不満なの、ルーク」
その言葉と共にフードをとり会場に素顔を見せた。
金髪のショートカット姿と美しい素顔に競技場の多くの生徒は目を奪われる。
一方でルークは対戦相手の素顔を見て目を疑い、観戦席にいたトウマを筆頭に第三学年の皆がその姿に驚愕する。
ルークの前に現れたのは女子学院服を着たアリスであった。
「ア、アリス、か?」
「そうよ。驚いた? 半年振りかな」
「何でお前、お前がここにいるんだよ?」
動揺するルークにジュリルが答えた。
「今日からうちへの転入生なのよ。今回はしっかりと正式な手順を踏んでの女子としの転入ですわよ」
「転入!? アリスが、うちに!?」
「おーいアリス! アリスだよな! おーい!」
そうトウマが観客席から大きな声を掛ける。
アリスはそれに対し軽く手を振る。
「簡単にいうと、あの後周れるだけ世界を周ったのよ。ちなみに一人じゃないよ。でもね、行く先で学院を卒業してない身で変に制限があったり確認が多かったりで大変だったの」
ルークは何とか状況を理解しようとアリスの話を聞き続ける。
退学後アリスの身分は、クレイス魔法学院第二学年を無事に進級した状態であった。
傍付メイドであるマイナがアリスの代わりに通っていたことでその身分となるも、一時休学し宣言通り世界を見る旅行に出た。
だが、休学の身が行く先々で足枷になりこのままではどこに行っても大変だと頭を悩ましてると、近くにあったバーグべル魔法学院の学院長と出会いスカウトを受けたのである。
ルークの対戦が見られておりその実力などを買われてのものだったが、アリスは断るとある話を聞く。
それは他学院からもアリスをスカウトしようと動いているという件であった。
「それからやっぱり卒業は大切だと思って、学院に復学して卒業するならどこがいいかを考えて転校したの」
「で、ここって訳か? だが、ここじゃ」
「そう色々とあったけれど、他校から色々とアリス宛てに推薦が来ているのを武器に手続きを進めたの。こんな優秀な生徒をわざわざ追い返す方が評判悪くなるし、取らない手はないって」
「(そりゃもうほぼ脅しじゃ)」
そう思いつつルークは口にせず、ジュリルの方をチラッと見る。
ジュリルはルークの視線に気付き優しく微笑む。
「(あの感じだと、ジュリルも加担してるな)」
そして大きく深呼吸した。
「まあとりあえず、細かい話は後でゆっくりと聞かせてもらうとして」
ルークは気合いを入れ直すと魔力の圧で周囲を圧倒させる。
「舞台に上がって来た以上、手は抜かないで本気で行くぞアリス」
皆が圧倒されるルークの圧の中、アリスは退くことも驚くこともなく立ち向かう姿勢を見せる。
「もちろんよ。また貴方を負かせてあげるわよ」
「すぐ調子がいいことを言う」
そして試合の鐘が鳴り響き、皆がルークとアリスの試合に徐々に熱中していくのであった。
王都メルト魔法学院――そこは男女ともに全寮制であり、共に学び競い合うことで成長をする場。
たとえ一国の王子であろうが、貴族令嬢であろうがこの学院に入学すれば皆同じ立場の者。
慣れない寮生生活で様々な体験を経て、己と向き合い考え行動し大きく成長していく。
長くも短い三年間という学院時代は、彼ら彼女らにとっては一生の出来事となり忘れられない日々となるであろう。
かけがえのない仲間と共に過ごすその時間は、何ものにも代え難い宝となって。
王都メルト魔法学院では秋の名物イベントである学年対抗の大運動会が始まっていた。
「やっと見つけたぞ。何してるんだレイン」
黒髪で第一学年であるマークを胸に付けている男子がその声を聞き、動きを止め振り返る。
そして声を掛けて来た人物を見て、ぶっきらぼうな態度で答えた。
「何って見れば分かりませんか? 最後の調整ですよ、トウマ寮長」
「調整って、お前タツミ先生に次の競技まで安静にしてろって言われたろ」
トウマは室内訓練場の入口でため息をついていると、背後からもう一人現れる。
「やる気満々でいいじゃないか」
「っ! ルーク副寮長」
「ルークお前、何でレインの肩を持つんだよ」
するとレインはルークの方へと詰め寄った。
身長差があり、レインはルークを少し見上げる状態になる。
「ルーク副寮長、俺が今年の代表戦に出るの知ってますよね? 第一学年で初めて選ばれたんですよ」
「知ってるよ。でも、繰上りでだろ」
「うっ……そ、それでも代表です! 絶対に先輩方には負けません! 特にルーク副寮長には!」
そう告げるとレインは室内訓練場を出て行った。
「あ、おいレイン――はぁ~やっと落ち着いて来たと思ったが、何であいつはこうなんだ」
「あいつにも色々とあるんだろ」
トウマはチラッとルークへと視線を向ける。
「何か知ってるだろお前。レインのやつ第一期からだが、第二期に入ってからやけにお前に突っかかっているよな」
「そうか? あいつは第一学年の中で力があるし、それで自分が上級生にも勝ってちやほやされたいんじゃないか?」
「たしかレインの奴が第二学年に模擬戦で勝って生意気になってたところを、お前が伸びてた鼻を折ったって聞いたが」
「あ~ちょっと生意気過ぎたから相手してやったよ」
笑顔で答えるルークにトウマは軽く相手をしてやった感じではなく、立ち直れないくらいの力を見せてボコボコにしたんじゃないかと思うのだった。
その現場をトウマは見ておらず、第一学年と第二学年のいざこざをルークが止めたと聞いただけなのだ。
それ以降やんちゃであった第一学年もおとなしくなり、第二学年との仲もうまくなりだしていたがまだレインを筆頭に数名はやんちゃな者たちがいる状況であった。
悪さをする感じではなく、上級生に対し少し態度が悪かったりすぐに模擬戦を挑んだり、自分の力を証明させたい認めさせたいという感じであり特にそれをトウマたちの第三学年にしているのである。
競技場内の廊下を歩きながら悩みの種が消えないトウマはため息をつく。
「うちの寮ぐらいだろうな、こんなやんちゃな後輩がいるの。やっぱり俺の威厳が足りないからか?」
「他の寮と比べるなよ。うちはうちだろ」
「まあ、そうけどな」
するとルークはトウマの背中を強く叩く。
「イタッ! 何するんだよ急に」
「一人で悩むなんてお前らしくないぞ。忘れたか、周りにいる奴らを? 最近進路や今後のことで言いずらいのは分かるが、あいつらはお前の話を無視をするような奴らじゃないだろ。お前が一番分かっていると思うがな」
「……ああ、そうだな。なるべく迷惑かけないようにと思っていたが、そうしてみるかな」
「最初の頃ガツガツいってた頃を思い出して見ろ。あれに比べればましだろ」
「何だよ、お前らがいつでも頼れって言ってくれたんだろ。だから、頼っただよ」
「途中からほぼこっちに丸投げ状態だったろあれは」
「考えたぞ。考えてどうしていいか分からなくなって頼ったんだ。つうかあの頃はもうパンク寸前だったんだよ」
「今日も仲がいいわねお二人さん」
前からそう声を掛けられ二人は足を止めた。
二人の前に現れたのはジュリルであった。
「噂は聞いているわよ。大変そうね、後輩に関して」
「女子側はよく分からんが、そっちはどうなんだ?」
「こちらは問題はありませんわよ。でも、もうすぐ問題が出るかもしれませんわ」
その言葉にルークとトウマは首を傾げる。
「どういうことだ? 何かあるのか?」
「今年の大運動会の競技の特別試合ですわよ。忘れていますの? 第三学年の男女同士での代表戦」
ジュリルの言葉にトウマは「あ~」と思い出したかの様に声を出す。
今年は男女同士の特別試合が競技の終盤に決まっており、学院中はその対戦に注目をしていた。
この試合にはジュリルはもちろんルークも出場が決まっており、二人の試合が特に注目を浴びていた。
「たしか三戦だったよな。うちはルークにダンデ、レオンだったよな」
「いや、レオンは辞退して繰上りでスバンだ」
「辞退とかありなのか」
「まあ仮にも使える主がいる競技で、対戦になったら困るからだろう」
「当たる可能性はないとは思うが、少しでもその可能性があるからってやつか。レオンらしいといえばらしいか」
「私たちの出場者は先程確定して来たところですわ。では、試合楽しみにしてますわ」
そう告げジュリルはルークたちを通り越して立ち去って行った。
「なあルーク、今のジュリルとだとどっちが強いんだ?」
「さあな。だが強いのは明らかだろうな」
「おいおいいつものルークにしては弱気だな」
「弱気? 何言ってんだ、俺は負けないぞ誰が相手でもな」
そして大運動会の競技は進み、遂に注目競技である特別試合を迎えた。
『さぁ皆様お待たせしました! 第三学年の男女同士による特別試合です!』
とある生徒による実況に競技場は大きく盛り上がる。
『特別試合は男女ともに三名の代表者が選ばれ、一対一の対戦をするものです! 第三学年同士のガチンコバトル! こんな熱い展開に燃えない奴はいないだろう! それでは早速出場者に登場してもらおう!』
そして男子と女子側で別の入口から中央の舞台に向かい三名が姿を現す。
男子側はルーク、ダンデ、スバンの三名が出て来て競技場が盛り上がる。
一方で女子側はジュリル、ウィル、マートルそしてフードを被った人物が登場する。
謎の人物の登場に少しざわつく競技場だったが、ジュリルが間近で試合を見たいと言って来た生徒だと告げる。
誰だと言われるのが恥ずかしいから顔を隠しているのでフードを許して欲しいと口にする。
その言い分に皆が納得し、それなら自分も間近でジュリルたちの試合を見たかったと口にする女子学生がちらほらといるのだった。
そして試合が始まり、男女ともに全力を出し手に汗握る試合を行い競技場は大きく盛り上がり最終戦を迎える。
中央の舞台にルークが先に上がる。
『さあ最終戦だ。男子学年最強といわれるルークと女子学年最強といわれるジュリルの試合! これを見逃す訳にはいかないぞ!』
そう実況されるもジュリルは何故か中央舞台に上がらない。
するとジュリルは急に手を上げ、とある宣言をする。
「申し訳ないけれど、ここで出場メンバー変更をするわ」
思いもしない申し出にざわつく競技場。ルークたちも耳を疑う。
「私の代わりに、この子に出てもらうわ」
ジュリルがそう告げるとフードを被っていた人物が何のためらいもなく中央の舞台に登りルークと向き合う。
競技場からはブーイングが少し出る。当然である、ルークとジュリルの対戦を見れると思っていたおり、それがなくなったのだから。
「おいジュリル。お前以外に俺の対戦相手にぽっと出の奴を出すなんて何考えてるんだ?」
「あらあらルーク、その子にもう勝った気なの」
「勝つも何もお前以上に強い奴はいないだろ」
「それはどうかしらね」
何故か余裕な表情を見えるジュリルにルークは首を傾げる。
直後フードを被っていた人物がルークに声を掛ける。
「私が対戦相手じゃ不満なの、ルーク」
その言葉と共にフードをとり会場に素顔を見せた。
金髪のショートカット姿と美しい素顔に競技場の多くの生徒は目を奪われる。
一方でルークは対戦相手の素顔を見て目を疑い、観戦席にいたトウマを筆頭に第三学年の皆がその姿に驚愕する。
ルークの前に現れたのは女子学院服を着たアリスであった。
「ア、アリス、か?」
「そうよ。驚いた? 半年振りかな」
「何でお前、お前がここにいるんだよ?」
動揺するルークにジュリルが答えた。
「今日からうちへの転入生なのよ。今回はしっかりと正式な手順を踏んでの女子としの転入ですわよ」
「転入!? アリスが、うちに!?」
「おーいアリス! アリスだよな! おーい!」
そうトウマが観客席から大きな声を掛ける。
アリスはそれに対し軽く手を振る。
「簡単にいうと、あの後周れるだけ世界を周ったのよ。ちなみに一人じゃないよ。でもね、行く先で学院を卒業してない身で変に制限があったり確認が多かったりで大変だったの」
ルークは何とか状況を理解しようとアリスの話を聞き続ける。
退学後アリスの身分は、クレイス魔法学院第二学年を無事に進級した状態であった。
傍付メイドであるマイナがアリスの代わりに通っていたことでその身分となるも、一時休学し宣言通り世界を見る旅行に出た。
だが、休学の身が行く先々で足枷になりこのままではどこに行っても大変だと頭を悩ましてると、近くにあったバーグべル魔法学院の学院長と出会いスカウトを受けたのである。
ルークの対戦が見られておりその実力などを買われてのものだったが、アリスは断るとある話を聞く。
それは他学院からもアリスをスカウトしようと動いているという件であった。
「それからやっぱり卒業は大切だと思って、学院に復学して卒業するならどこがいいかを考えて転校したの」
「で、ここって訳か? だが、ここじゃ」
「そう色々とあったけれど、他校から色々とアリス宛てに推薦が来ているのを武器に手続きを進めたの。こんな優秀な生徒をわざわざ追い返す方が評判悪くなるし、取らない手はないって」
「(そりゃもうほぼ脅しじゃ)」
そう思いつつルークは口にせず、ジュリルの方をチラッと見る。
ジュリルはルークの視線に気付き優しく微笑む。
「(あの感じだと、ジュリルも加担してるな)」
そして大きく深呼吸した。
「まあとりあえず、細かい話は後でゆっくりと聞かせてもらうとして」
ルークは気合いを入れ直すと魔力の圧で周囲を圧倒させる。
「舞台に上がって来た以上、手は抜かないで本気で行くぞアリス」
皆が圧倒されるルークの圧の中、アリスは退くことも驚くこともなく立ち向かう姿勢を見せる。
「もちろんよ。また貴方を負かせてあげるわよ」
「すぐ調子がいいことを言う」
そして試合の鐘が鳴り響き、皆がルークとアリスの試合に徐々に熱中していくのであった。
王都メルト魔法学院――そこは男女ともに全寮制であり、共に学び競い合うことで成長をする場。
たとえ一国の王子であろうが、貴族令嬢であろうがこの学院に入学すれば皆同じ立場の者。
慣れない寮生生活で様々な体験を経て、己と向き合い考え行動し大きく成長していく。
長くも短い三年間という学院時代は、彼ら彼女らにとっては一生の出来事となり忘れられない日々となるであろう。
かけがえのない仲間と共に過ごすその時間は、何ものにも代え難い宝となって。
1
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる