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第453話 実は・・・

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「これは確実にクリス、いや入れ替わったフェン先輩が持ち逃げしてると考えて間違いないだろ」
「何処に行ったんだよ、フェン先輩は」
「そもそも、何で逃げたんだよあの人」

 私たちはあの後直ぐに、逃げ出したと思われるクリスの姿をしたフェンを追いかけ始めた。
 まだ出て行ってからそれほど時間が経っていないので、そこまで遠くに行っていないと判断し三人で探し始めるが、クリスは見つからない。
 すると、すれ違う生徒たちがこちらを見てざわざわし始める。

「ねえあれ見て、どうしてあの先輩がルーク様と一緒にいるの?」
「白衣の悪魔には、関わらないのが一番だよ」

 そんな声を聞きつつも、足を止めずに私たちはその場から立ち去った。

「ダメだ。全然いねえな」
「何処に行ったんだあの人は」

 私たちは一度、人目がつく所から離れて校舎裏で身を隠しながら話し始める。
 あれから校舎内を探していたが、何処に行っても必ず小声で噂を話をされてしまうので、今の状態で変に目立つと面倒事になると思い一旦身を隠したのである。

「それにしても、フェン先輩があんな風に言われてるの初めて聞いたかも」
「あの人、昔は今回みたいに見境なく実験に巻き込んでて、色んな噂をされてるんだよ。良くない感じで」
「一度厳重注意を受けてからは、そういう事は減ったらしいが止めてはないらしいな。色々と発明品を創れるほどだし、研究内容見る限りは地頭はいいとは思うんだが、素行がって所だな」

 私はルークとトウマから改めてフェンについての皆の認識について教えてもらい理解した。
 そして改めて自分たちの状況を整理し、クリスことフェンが何処へいるのかを推理し始める。

「俺が思うに、人の身体と入れ替われて楽しくて普通に目的もなくフラフラとしているんじゃないかと思うんだが」
「確かに悪さをするってより、クリスの身体で動ける事を楽しんでいる気がするな」

 そこで二人は私の方を同時に見つめて来る。

「な、何だよ」
「クリス、今更だがフェン先輩にお前が男じゃないってバレてるのか?」

 ルークからの問いかけに私は学院祭の時に、すんなりと見破られている事を二人に明かした。
 フェンは私が男とかそうじゃないとかには興味がなくそれ以来特に言いふらす事もなく、それを使って脅して来た事も今までにないのである。
 彼女は自分が興味がある事にしか目向きをもしない性格なのではと、私は思っている。

「そうだったか。それを知っていたから、相性などを口にしていたのか」
「クリスは正体がバレているから、入れ替わりを断らずに受け入れたのか。すんなりと受け入れるから俺は驚いたんだからな」
「あ、そっか。普通にダメなことしてるじゃん俺」
「おい! そこ今気付くのかよ、クリス」

 私はトウマの発言でようやく物凄く自分の身を危険にさらしていたのだと理解した。
 それに関してはルークも驚き、呆れたため息をついていた。
 更には、危機感がなさ過ぎるとトウマに注意されてしまった。
 さすがに今回に関しては何も言い返せない程に、自分の考えが甘かったと反省した。

「まあ、とりあえず大きな被害はないと思うからそれはいいとして、フェン先輩だ」
「そ、そうだね。フェン先輩が俺の身体で変な事をしてなければ大丈夫だと思うけど」
「今の所何処かで変な騒ぎが起きている感じもなさそうだけど、こうなると逆に騒ぎになってた方が探しやすいね」
「変な事口にしないでくれよ、トウマ」

 トウマは「悪い」と私に謝ってくれた後、ルークがまだ探していない場所であたりをつけ始める。

「とりあえず、一緒に探すよりもバラバラで広範囲を探した方が早いはずだ。それに、俺とトウマに関しては寮の奴らや他の奴にもクリスの姿を見たかも聞けるし情報を集められる」
「そうか、クリスは学院内では意外と顔は知れ渡ってる方だし、見た奴もいるよな」
「え、俺ってそんな感じなの?」
「大運動会の代表戦にまで出てるんだから、そりゃそうだろ。それに試験も張り出されるし上位の奴は皆知ってるもんだ」

 私は自分が思っている以上に、皆に知られているのだと分かり急に恥ずかしくなり視線を少し落として頬をかいた。

「よし、それじゃ早速手分けして――」

 そうルークが切り出した時だった。
 頭上の方から私たちに対して声を掛けて来た者がいた。

「おーい。こっちこっち」

 その声に私たちはそちらを見え上げると、そこには校舎の三階の窓から身体を少し出して手を振って来ているクリスの姿があった。

「フェン先輩!」
「何でそんな所にいるですか? 探しましたよ?」
「それはこっちのセリフです! 勝手に人の身体のままいなくならないでくださいよ!」
「人と身体が入れ替わったのは初めてでついテンションが上がってしまいましてね。では、今そちらに行くのでお待ちを」

 クリスはそのまま校舎内に引っ込み、こちらに向かって来ているのだと思っていた次の瞬間、先程身体を少し出していた窓から急に飛び降りて来る。
 まさかの行動に私たちは目を疑ってしまう。
 直後クリスは魔法を発動し、落下のスピードを風の魔法で落としゆっくりと私たちの前へと舞い降りて来たのであった。

「なかなかいい魔力を持っているね、クリス・フォークロス。このまま貴方の身体で、色々と実験したいくらいだ」
「やめてください! というか、急に飛び降りてこないでくださいよ!」
「この方が早いと思ってね。それでどうだい、私の身体は?」
「どうと言われましても、姿が違うくらいしか感覚的には変わらないので何とも」
「私も似た感じだよ。自分の意識で他人になっている感覚さ。自分の姿でない事に違和感はあるが、自分では出来ない事や出来たりその逆があったりしてなかなか面白いね」

 私は私の姿で自分が言わなそうな事を楽しそうに語っている姿に、本当に目の前にいるのは自分なのだろうかと疑問を持ってしまう。
 するとトウマがそこで口を開く。

「とりあえず見つかったのは良かったですけど、もうデータとか取れたなら早く戻してくださいよ!」
「はぁ~君はせっかちだね。やりたくてもなかなか出来ない体験をしているというのに、もったいない」
「もう十分ですよ。俺の姿でトウマが話しているとか、何か違和感しかないですし、クリスの姿でフェン先輩とでこうして話しているのも変な気分なので」
「フェン先輩、逃げたりしないでくださいよ」
「ルーク・クリバンス君もか。まあ、貴重な体験も出来たし、データも取れたのでよしとしますか」

 するとクリスは何故か私に持ち出していた魔道具を持たせてきた。
 そして小さく何かを呟いた後、指を鳴らすと再び魔道具から光が放ち始め一瞬で周囲を包んだ。
 私が次に目を開けると、目の前には魔道具を持っているフェンの姿があった。

「うん、無事に元に戻れたようだね。貴方も振り返って、近くの窓で自分の姿を確認するといい」

 そう言われ私は近くの窓に映る自分の顔を見て、フェンではなく自分の身体に戻っている事を認識し、両手で自分の顔を触った。
 本当に元に戻ってる、さっきまでフェン先輩だったのに。
 でもこの方が何の違和感も感じないし、やはり自分の身体が一番だと改めて感じた。

「クリス・フォークロス、指にはめている指輪をこちらに」

 私はフェンに言われた通りに指輪を取り外して手渡す。
 フェンはそのままルークとトウマの方へと向かい、自分のしていた指輪と私が渡した指輪を二人に渡す。
 直後、フェンが魔道具を発動し再び周囲が光に包まれる。
 次に目を開けると、ルークとトウマが互いに元の意識に戻っている様子が確認出来、無事に二人も元に戻れたのだと私は安堵の息をついた。
 にしても、フェン先輩が創ったあの魔道具改めて思うと凄いというより、怖いわね。
 あんなに簡単にも人との意識を入れ替えられるなんて、何かに悪用されたりしないか心配になる。
 というか、フェン先輩はどうしてそんな物を創り出したんだ? いや創り出せたんだか。
 私はそんな事を思っていると、フェンは二人からも指輪を回収すると魔道具と共に白衣のポケットへとしまった。

「今日は色々と迷惑をかけて、本当に申し訳なかった。今後は欲望のままに実験に巻き込まない様にしますので」
「本当にぐったりですよ、フェン先輩。マジでこういうのもう止めてくださいよ」
「でも、面白い体験はできたのではトウマ・ユーリス」

 トウマは、もう勘弁してほしいという表情でため息をついた。
 するとそこで、学院の夕刻一時間前を知らせるチャイムが鳴り響く。
 それを聞き私はもうそんな時間なのかと思うと、フェンも同じ様に「もうそんな時間か」と呟く。

「と、いう訳で私は今回の実験内容をまとめなければいけないので、これで失礼するよ」

 そう告げて颯爽とフェンはその場から立ち去って行き、私たちはその場に残されたのだった。
 暫く、あ然とした様子で立ち尽くしていたがルークが疲れた表情で口を開く。

「……とりあえず、寮に戻るか」

 私とトウマはそれに対して同時に「賛成」と返事をし、少しばかり疲労感で怠さを感じながら寮へ私たちと戻り始めた。
 その一方でフェンはというと、急いで自身の実験室へと戻って来てニヤケが止まらない表情でポケットから魔道具と指輪を取り出し机に置く。

「ふふふ……上手く行った。これで三人分の魔力データも手に入りましたし、色々と使えますね。それに、この改良版の魔道具に関してもまだ改良はできそうですね。本当に入れ替わっていると思えているのはいいですが、もう少し相手の細かい部分まで魔力をコピーして纏わせた方が絶対にバレないですね」

 今回フェンが創り出した入れ替わり魔道具は、本当に入れ替わってはいなかったのだ。
 簡単にいえばそう思い込んでしまうような魔道具であった。
 内側の当人たちは、互いに纏う魔力のコピーが行われ知らぬうちに相手の魔力を見に纏い、目に対してあたかも相手になっていると思わせる魔法がかけられていたのだ。
 要は思い込みであり、そういう風にしか見えない事で脳がそう判断する様に仕向けていたのだ。
 また他の人に対してもその人物が纏う魔力から一時的にその人物に見えるように思い込ませていたのである。
 そこに関しては、今回改良で追加した指輪に身に付けた補助的な魔道具により実現化させていた。
 フェンは今回の実験結果を簡単にまとめた後、改良点などを洗い出し終えると一息つく。

「さてと、構想はつきませんし次はどういう魔道具を創って実験しますかね~ふふふ……」

 実験室にて白衣の悪魔は、不気味に笑うのであった。
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