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第419話 選択

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「一体どういう事だ! アナウンスが行えないとは!」
「も、申し訳ありません。ですが、突然街中の魔道具との連携が切れてしまい、原因不明なのです」
「これでは国王がお考えになった事が出来ないではないか!」

 するとハンスが口を開く。

「アナウンスがダメならば、別の手段で人々に伝えるしかない。城内の王国兵を総動員し、街中の人々に伝達させろ。無論、私も直接街に出る」
「こ、国王! それはなりません! もしも、貴方のみに何かあれば」
「ならば、何処でもいい街の何処かの映像を映し出す魔道具に直接私を映せ。兵と同時に私からも皆に伝える。アナウンスの原因調査は後回しに、映像を繋げる方に人員を回せ。波長の合う魔道具を片っ端から試せ」
「は、はい!」

 ハンスの指示に直ぐに部屋から数名の王国兵が飛び出て行く。
 そして部屋には王都の大臣といったお偉い役職を持つ人と護衛の者のみが残った。

「国王、そこまで焦らなくとも敵勢力到着までまだ四時間あるのです。アナウンスの時間がズレた所で」
「ズレた所で何だ? 言ってみろ」
「っ……も、申し訳ありません」

 ハンスの凄みのある発言に、反論した大臣は一歩後ずさるのだった。

「アナウンスの突然使用不可能状態。確かに偶然かもしれないが、そもそも連携が切れるというはあり得ない。王都内にある魔道具で発信し、受信側である街に置かれた魔道具が発信内容を受け取り、そのままその内容を流すのがアナウンスの仕組み。その連携が切れるというのは、内部から発信側の魔道具をどうにかしない限りあり得ないはずだ」
「確かに国王のおっしゃる通りですが、内部の発信側魔道具の調子が悪くなった事は数例あり、それが今回起こったとも考えられます」
「そうだな。そうかもしれない……だが、どうも嫌な感じがするんだ。もう既に、相手の掌の上で踊らされる様な……」

 その言葉に大臣たちがざわつき出した時だった、ふと窓の外にハンスが目を向けると、突如外の景色が紫色になった事に驚く。
 大臣たちも直ぐにその異変に気付き、窓に釘付けになり外を見つめる。

「何だ!?」
「どうなっているんだ!? 何が起きている!?」
「た、大変です!」

 そこへ兵士が勢いよく部屋に入って来て、報告をし始めた。

「お、王城が、謎の結界に囲われてしまい外に出る事が不可能になってしまいました!」
「何だと!?」
「分断されたという事か?」
「はい! 会話は出来るのですが、完全に王城から街へと行く事は不可能です。更に外部との魔道具を通した通信も出来ないとの事です!」

 ハンスは報告を聞くと直ぐに隊長たちに連絡をとるが、報告の通り全く相手側からの反応はなかった。
 大臣たちは慌てふためき、より詳しい状況を知ろうとやって来た兵士へと詰め寄り、質問攻めにするも兵士も分からない事だらけで、左右に顔を忙しく向ける。
 そんな中ハンスは再び窓の外を見つめた後、大臣たちを置き去りにして部屋を飛び出て行く。
 行先は王都をだいだい見渡せるテラスであった。
 そしてそこから王都を見た際に、ハンスは改めて状況を知り、遅れて息を切らす大臣や兵士たちもそこからの光景を見て目を疑う。
 その時に目にしたのは、王城だけでなく、王都自体が類似の結界に覆われている光景であった。
 グッと唇を噛みしめるハンスだったが、直ぐに大臣たちの方へと顔を向けた。

「王都内の各方面と即座に連絡をとれるか確認。それと並行し、結界の調査及び破壊を命じる。地下通路内の確認も行い、結界が地下まで影響しているかも確認。王城近くにいる兵士を集め、情報の共有を行え。声の意思疎通が出来るのだ、王城内の全周囲でだ。そしてその際に、結界の行き来が出来る物があるかの調査も行う様に。もし、武器や魔道具が渡せるのであれば、外の者に渡し街にいる他部隊の補給を行う様に」
「……っ! はっ! た、直ちに!」

 一人の兵士がそう答え足早にその場を立ち去ると、大臣たちもすぐさま行動を始める。
 その場から全員が立ち去り、ハンスだけになるとハンスは小さく呟く様に声を出す。

「アリエス、いるか?」
「はっ、ここに」

 ハンスの真後ろに何処からともなく突然と、黒い衣服を纏った者が現れる。
 その正体は、国王直属の暗部組織の一人であった。

「他の者たちはどうしている?」
「はい。半数の六名は王の指示通り、街の見張りと警備に当てており城内にはいません。残りの私を含め五名は、まだ城内に」
「そうか。では、お前たちも結界の調査と外に出る方法について探ってくれ」
「御意」

 直後、いつもならばそのまま立ち去るアリエスのはずが、今日は何故かまだ背後に居続けた。
 それに気付きハンスは背を向けたまま口を開く。

「? どうした、何かあるのか?」
「……はい」

 その言葉にハンスが振り向いた時だった、背後にいたアリエスが短刀を取り出し振り返って来たハンスの首元目掛け、短刀を振り抜く。
 しかしその短刀は、ハンスの首元の寸前で動きが止まる。

「っ!?」

 その理由は、アリエスの首から下が完全に凍らされてしまったからであった。

「ハンス、気を許し過ぎよ」
「っ……ティア。すまない」
「な、に」

 ティアはテラスへと出て来て、凍らせて身動きを封じたアリエスから目を離さずに真横を通り、ハンスの横に並ぶ。

「直属組織だか知らないけど、主を殺そうとするのはどういった考えなのかしら?」
「ぐっ……」

 アリエスはティアからの問いかけには答えず、何とか動き出そうともがくも、ピクリとも何も動かせない。

「無駄よ。抜け出す事なんて出来ないわ。さあ、観念して私の質問に答えなさい。どうしてハンスを殺そうとしたの?」

 ハンスは口出しせずにアリエスを見つめ続けていた。

「アリエス……」

 するとアリエスは軽く口を開き、観念して話し始めるのかと思われたが舌を出し、勢いよく噛み下ろした。
 しかし、ティアがそれも氷魔法で口元を凍らせる。

「ハンス、この人本気で死のうとしたわ。何をしても話す気はなさそうね。何も話さず、迷わず死を選ぶなんてね」
「国王直属組織っていうのは、秘密の存在でどんなことがあろうと口は割らない。そんな人間の集まりなんだよ」
「……そう。それで、そんな組織に殺されそうになった訳だけど、どうするのかしら?」

 ハンスはそこで目を閉じ、小さくため息をついた。

「ひとまずこのまま拘束し、牢へと入れる。その後の対処は今の事態が収束してから決める。今の最優先にすべき事は、俺の事ではなく王都の人々の事だ」
「分かったわ。そしたら兵を呼んで、この人を運ばせるわ。で、私が貴方の護衛として共に行動するわ」
「ああ、分かっ――ん!? いやいや、ティアは部屋で」
「何? 殺されそうになっておいて、誰が助けてあげたんだっけ? ハンス?」

 ティアは片手を腰に当てながら、ハンスに問い返すと何も言い返す事が出来ず、渋々「分かった」と答えるのだった。
 同意が得られた所でティアが兵士を呼びに一歩踏み出した、次の瞬間だった。
 身動きが取れなかったアリエスの全身が黒くなり始め、全身が黒くなると一瞬で泥へと還りアリエスを拘束していたティアの氷魔法の跡のみが残る。
 まさかの出来事にハンスとティアはその場で動きを止め目を疑う。

「いや~見事見事」

 その言葉と共に一人が拍手する音が、テラスへと出てこれる廊下の方から聞こえてくる。
 ハンスとティアは身構えて、廊下からテラスへと現れた人物へと視線を向ける。
 そして二人の前へと現れたのは、王国軍兵士の格好をした見ず知らずの兵士であった。

「君は……誰だ? 見た所、訓練兵の紋章を胸につけているようだが」
「訓練兵って雰囲気じゃないけどもね」
「あ~そっか。この姿じゃ分からないよね。でも今の俺はこの姿なんだよ、ハンス、ティア」

 馴れ馴れしく話し掛けて来る、見ず知らずの訓練兵に二人は驚くというより、警戒を強めた。

「あれ? まだ分からない? 俺だよ、バベッチ・ロウだよ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アバンは王都内を走り他の部隊を探していると、突然の事に動揺している人々に声を掛けられてしまい、足を止めざる負えなくなる。
 何が起きているのかと次々に問い詰められてしまうが、アバンは払いのけようとはせずに大きく手を叩き、皆の発言を一度止めさせた。

「皆さん。これは極秘で行わている緊急訓練です」
「訓、練?」
「はい。このように突然敵からの襲撃を受けた際を想定とした訓練を現時点で行っているのです。本来は事前にアナウンスが入る予定でしたが、何らかの故障でアナウンスが行われずに訓練が始まっていると考えられます。ですので、皆さん焦らないでください」

 アバンの言葉に駆け寄って来ていた人々は、安堵の息をつく。
 そして、人々は安心した表情でアバンから離れたので、アバンはひとまず外をあまり出歩かずに、家の中などに居るようにと付け加えた。

「ありがとう兄ちゃん。訓練だったか」
「そういう事だったのね。急に何が起きたのかと思ったわ」
「とりあえず訓練の邪魔にならない様に、終わるまではあんまり歩かない様にしとくか」

 この時アバンは、人々を落ち着かせる為に嘘を付いたが、ここで真実を告げていたらより混乱が広がり何らかの被害が出てしまうだろうと判断し嘘を付いたのだった。
 アバン自身も状況を理解出来ていない事から、ひとまずはあまり出歩かない様にしてもらうべきだとし、人々に釘を刺した。
 その後、再びアバンが走り出しその場を離れた直後だった。
 西の方面から大きな爆発音が響き渡って来てのだ。
 思わぬ事にアバンは足を止め、爆発音がした方へと視線を向けると、大きく煙が上がっていた。
 それを確認すると同時にアバンは、その爆音で再び先程の人たちが動揺し、自分の元へと駆け寄って来ているのではと思い振り返ったが、そこで目にしたのは人々がまるで魂が抜けたようにその場でだらっと腕を垂らして立ち尽くしていた姿だった。

「何だ……これは?」

 先程までの光景と全く違う景色に驚いていると、アバンにその理由や驚いている時間はないと言わんばかりに、二度目の爆発音が西の方から再び聞こえ黒煙が上がる。
 アバンはそれを見ると、奥歯を噛みつつ力強く手を握った後その場から爆発があった西へと向けて走り出したのだった。
 その時アバンは、目の前の状況解決よりも爆発した方で大きな被害が出ているかもしれないと苦渋の決断し、その場を離れ爆発音がした方へと走り出したのだ。

「(っ……何が……何が王都で起き始めているんだ……)」
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