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第413話 言えるのは辿って来た道だけの事

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 私はルークに連れられるまま、近くの広場までやって来た。
 広場の奥には庭園の様になっており、多くの人がその広場で座って話していたり、庭園を歩いて楽しんでいたりしていた。
 そしてルークはその広場の近くの壁際まで行くと足を止めて、私の手を離した。

「悪いな、強引に連れて来て」
「い、いや……まぁ、大事な話って言うし、その、俺も断らなかったから……」

 私が少しルークの背中から視線を逸らし答えると、ルークは振り返って来て私の方へと視線を向けた。
 そのまま黙ったまま私の方を見ていたが、私は視線だけは感じでいたがルークの方を見る事が出来ずにいた。
 うっ……何、どう言う状況? 何を言われるの? てか、大事な話って何!?
 私はグルグルと頭の中でそんな事を考え続けていると、ようやくルークが口を開く。

「クリス、単刀直入に言うが、お前記憶戻っているだろ?」
「っ!?」

 思いもしない言葉に、私はルークの方を見てしまう。

「な、何を急に言い出すかと思った――」
「確信って訳じゃないが、お前は7日目のモ・サロの観光の日からまた雰囲気が変わった。朝の皆への話しかけ方とかも、少しだがたどたどしさが消えていた」
「……」
「ただ、見て感じただけに過ぎないが、今のお前はどっちなんだ? まだ記憶を失ったままなのか、既に思い出しているお前なのか」
「……それは、ルークにとって関係がある事なの?」

 私はルークから視線を外し、少し俯きながら訊き返した。
 ルークはその問いかけに対して黙ってしまう。
 そう、今の私はルークの言う通り全ての記憶を思い出している状態だ。
 記憶喪失だった状態の記憶も持っている。
 ルークの言う通り、私が記憶を思い出したのは7日目の朝だ。
 たぶん、その前日に床に落ちて全身をぶつけた際に頭にも強い衝撃が走ったのがキッカケかもしれないと私は思っている。
 その後記憶が徐々に失っていた箇所にハマっていく様に修復され、私は私に戻ったのだ。
 記憶が戻ったらどうなるのかと考えていた頃の私の思いも知っているし、あの私が消えてしまった訳ではない。
 言い方は難しいが、別れていた線が一本に戻った感じだ。
 考え方としては、以前ガードルと話した際の一本の線に戻る話のイメージだ。
 消えはしないし、引き継ぐって訳でもない。
 ただ合わさっただけである。

 それじゃ、何故私があのまま記憶が戻った事を明かさずに、そのままでいたかというのは、まだ自分で自分の事が整理でききれていなかったからだ。
 状況を整理する為にノートにこれまでの事を書いたりし、自分なりに整理をしたり、タツミ先生にだけは状況を明かして相談にも乗ってもらった。
 ちなみにタツミ先生には無理言って、この事は隠してもらっている。
 ルークやトウマに知られたくなかった訳じゃないが、自分で状況を整理し落ち着いてから明かしたいと思ったのだ。
 だが、それ以外にレオンの件でトウマの話を思い出してしまい、この状況を使って改めて話を聞こうとしたら、予想外の展開で余計にどうしたらいいか分からなくなった。
 考えない、無視をすれば何も苦しむ事はない。
 だがそれだけはしてはいけないと私は思う。
 相手はいや彼らは本気で私に自分の思いを伝えて来ている。
 それを無視するや受けとめないというのは、相手に失礼だ。自分だけ辛い事嫌な事から逃げるなんて卑怯だ。
 誰しもがそうする訳じゃないし、そう強制されている訳でもないのは知っているが、私は人の気持ちを、自分に対しての強い気持ちを放り投げるのはいけない事だと思っているだ。
 人によっては、変な考え方かもしれない、もっと気楽に考えればいい事かもしれない。
 が、私にはこんな風に考える事しか出来ないし、むやみに誰かに明かして相談に乗ってもらえる内容ではないから、こうして頭を悩ましてしまっている。
 幸いなのか、皆私にすぐに答えを求めて来てはいなが、いつかは必ず答えをしなければいけない。
 ルークの件と同様に。
 ……だって私は、今年の三月には学院を去ると決めているのだから。
 するとそこで、ルークが私の問いかけに答え始めた。

「関係ある事だ。同じクラス、班としての仲間だからだ。仲間を心配するのは当然だろ? しかも、記憶喪失となれば心配しない方がおかしい」
「……そっか」
「と、言うのは建前だ。本音を言えば、そんな関係あるかどうかなんかどうでもいい。俺は今のお前の状態が知りたいだけなんだ」
「えっ」
「……好きな相手の心配をするのは、ダメなのか?」

 ルークは目を逸らしながら、少し恥ずかしそうにそう口にしてきて、私は少し耳が熱くなる。
 あーもう、本当にどうしてこんな事になるのかな? どんな顔をすればいいの? どんな言葉を返せばいいの? どうする事が正解なの?
 私は自分自身に問いかけながら、ゆっくりとルークの方へと視線を向けた。
 ルークは未だに視線を外していた。
 その姿を見て私は、無意識に口を開いた。

「どうして、私のなの?」

 その言葉を聞きルークは視線を戻して来た。
 私は自分で相手に嫌な事を無意識で聞いてしまったと思い、片手で口を隠し言い訳をしようとしたが、その前にルークが答え始めたのだ。

「お前と出会って、俺は変われたからだ。そして覚えてないかもしれないが、俺は……昔からお前に魅かれていた」
「昔?」
「幼い時に遊んでいるんだよ、俺たち。俺も直ぐにお前があの時の子とは分からなかったけどな。まぁ、それだけって訳で好きって訳じゃない。これまでの学院生活でお前と競えて高め合う事や日常生活を過ごすにつれて、気持ちが徐々に変わったんだ」
「……」
「変わるキッカケをくれたのがクリス、いやアリスお前だからこそ、俺は好きになったんだ」
「そんなの、私以外の人だったらその人の事が好きになってたかもしれないって事でしょ?」
「それは分からない」
「分からないって」
「分かる訳ないだろ。今の俺はお前がキッカケをくれたんだ、お前と出会ってなければ今の俺じゃないんだからな。俺が今言えるのは、俺が辿って来た道だけの事だ。例えばとか、もしあの時の話をされても、その時の答えは今の俺には分からないんだよ」
「何だよ、それ……」
「どう言われても構わない。ただ、俺の気持ちは変わらない。……俺は、アリスお前の事が好きだ」
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