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第366話 うっかりで気持ちがバレる

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「エルー」
「どこ行ったんだ、エル!」

 私とルークは大声でエルの名を叫ぶが、返事はなかった。
 何故こんな事をしているかと言うと、大道芸を見ていたはずのエルが少し目を離した隙に居なくなってしまったのだ。

「居たか? クリス?」

 そのルークの問いかけに私は首を横に振った。

「そうか……たっく、どこ行ったんだよ」
「とりあえず手分けして探すか?」
「そうだな。まだそんなに遠くには行ってないだろうしな。そしたらこれ持って行け」

 そう言ってルークは私に通信用魔道具を渡して来た。

「見つけたら、それで連絡してくれ。念の為フェルトにも渡してあるから、俺からあいつ等にも伝えておく」
「分かった」

 私はそこでルークと別れてエルを探し始めた。
 エルが先程まで夢中になっていた大道芸が少し離れた所でも何人か行っていたので、その周囲で名前を呼んだが反応はなく姿もなかった。
 そのまま名前を呼びながらエルの姿を探したが、さすがに10歳の少女を休日の人だかりの中から見つけ出すのは難しく、完全に手詰まり状態であった。
 だが、諦める事はせずに私は探し続けた。
 もしかしたら、何らかの事件にでも巻き込まれたのではと頭をよぎってもいたからだ。
 どうして急に居なくなったの? まさか本当に何かの事件に巻き込まれたとかじゃないよね? 何が別の物に興味が移ったから移動したとかだよね?
 そう徐々に不安が募りつつ、エルを探していると人とぶつかってしまう。

「あ、ごめんなさい」
「いやいや、こっちこそ……って、クリス?」
「え? あ、トウマ!?」

 私が偶然ぶつかった人物はトウマであった。
 そのままトウマからあれから学院を無事に出れて、ガードルと合流した事を聞く。

「それじゃ、学院から出る時にレオンがついて来たって事?」
「ああ。でも、ガードルと何とか適当に理由を話したら納得して帰って行ったよ」
「ちなみになんて話したの?」
「え~と……食べ歩きと学院祭の時にコスプレ衣装を借りた店でコスプレして楽しむって答えた。で、ガードルとレオンがもしかしたらついて来てるかもって事で一度離れて合流しようとしたら、はぐれた」
「……」
「そ、そんなジト目で俺を見るなよ! 仕方ないだろ、咄嗟に思い付いた言い訳なんだし。レオンに付けられてないんだし、いいだろ?」

 それでレオンが納得して帰ったって方が、ちょっと驚きなんですけど。
 でも、変に後を付けられる事はなかったから、結果的にはオッケーなのか。
 私がそう考えている間もトウマは何かを口にしていたが、私はレオンの行動を考えていて聞こえていなかった。

「おーいクリス。聞いてるか?」
「あ、ごめん。何?」
「まぁ、俺の話はもういいんだが、ガードルから聞いたがクリスはルークと一緒にエルと居ると聞いたが、どうしてクリスは一人なんだよ?」
「あ……それが」

 私はトウマにこれまでの経緯を伝え、突然消えたエルを別れて探している事を明かした。

「マジか。で、見つからずに困ってると」

 トウマからの問いかけに私は頷いて返す。

「それじゃ、探さないといけないね」
「そうだよな。何処か心当たりはあるのか?」
「もうこの辺で居そうな場所は探してみただけ」
「そうだったの?」
「今日のこの人だかりじゃ、見つけるのも難しいな。どこ行ったんだよ、エル」
「ここにいるよ、トウマ」
「本当に何処に……ん?」
「え?」
「やっと気付いた」

 私とトウマはそこでようやくエルの存在に気付く。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「心配したんだぞ、エル」
「ごめんクリス。ちょっとトイレに行きたくなって、近くのお店屋さんで借りてたの」

 無事で良かった~。
 私は安堵の息をつき、直ぐにルークに渡された通信用魔道具で連絡を取るが、ルークは気付かないのか応答がなかった。
 出ない……離れ過ぎたか? それともエルを探していて、気付かないだけ? どっちにしろどうにかルークとも合流しないとな。

「トウマ、とりあえずルークと合流する為に来た道戻ってもいいか?」
「それは構わないぞ。俺もはぐれた身だし」
「ねぇねぇトウマ。トウマはルークの好きな人知ってる?」
「え!? きゅきゅ、急に何を言い出すんだよ、エル」

 突然の問いかけにトウマは動揺し、私も耳を疑った。

「えっとね、ルークの好きな人はね、アリスって言う人なんだよ。ルークね、その人の話をする時は優しい顔をするの」
「へ、へぇ~そうなんだ」

 トウマは少し引きつった顔でエルの話を聞き続けていると、エルからの突然のパスが飛んで来る。

「それでトウマは、好きな人いる? もしかしてトウマも、アリスが好き?」
「なっ!? ななななな、何でそれ――っ!」

 咄嗟にトウマは自分で口を塞ぎ、私の方に視線を向けて来た。
 何でそこで私を見るのさ! 見るな! 止めろ!
 私はトウマを軽く睨み返すと、トウマは直ぐに私から視線を逸らしエルに向けた。

「え! え! ええ! トウマもルークと同じ人が好きなの! わぁーそうなの!」
「うっ……」

 はしゃぐエルにトウマはどうしていいか分からず、再び私の方を向いて来るが私は助け舟など出さずに睨み返した。

「(くぅっ……何でこんな形でバレるかな~最悪なんだけど。とりあえず、適当に答えて……いや、いいのか? これはある意味好意がある事を伝えるチャンスなのでは? 告白じゃないけど、何となく空気を伝える的な)」

 トウマはそう言う風に考えると、一度小さく深呼吸した後エルに対して答え始めた。

「こ、ここだけの話だぞ。絶対に誰にも言っちゃダメだからな。俺が好意を持っている相手の事」
「うん! 言わないよ私」
「本当かな? まぁでも、今更ながらこれってほぼ告白みたいなもんじゃねぇ?」

 ここに来てトウマは自分が口にした事を後悔し始めた。
 トウマはその場で両手で顔を覆い、少し悶えているとエルが私の方へとやって来た。

「聞いてたクリス?」
「え、何を?」
「トウマの好きな人の話」
「あー……ごめん、考え事してて聞いてなかったかな」
「えー何してるのさ」

 何故か怒るエルに私は謝った。
 いや、バッチリ聞こえてたよ。でも、聞いてたよって言える訳ないじゃん。私に好意があるって初めてトウマの口から聞いて、こっちも動揺しているんだから。
 私はトウマが悶えている姿を横目に、自分も動揺している顔を見られたくなかったので軽く背を向けていた。

「ん? 何でクリスが恥ずかしがってるの?」
「別に恥ずかしがってないよ。ちょっと暑いだけ」
「あっ! お姉ちゃん!」
「「!?」」

 私とトウマはそのエルの言葉を聞き、同時にエルの方へと視線を向けるとエルが指さした先にいたのは、ショートカットの女性が立っていた。

「やっと見つけた……エル」
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