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第355話 初めての形

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 私が少し落ち込んだ表情をしていた所に現れたのは、エメル寮長であった。

「よぉ、クリス。こんな所で会うとはね」
「あ、あけましておめでとうございます。エメル寮長」
「おう、あけましておめでとう。で、どんな不満を持っていたんだ?」

 そう言ってエメルは、私の前に座ると料理の空き皿が多い事に気付く。

「あ~大丈夫だ。お前が大食いだったという事は誰にも言わないから安心しろ」
「違いますよ! 俺が食べたんじゃなくて、他の人の分です! 今席を外しているだけです!」
「そうか。勘違いして悪かった。じゃ、そいつらが帰って来るまで不満を聞こうじゃないか」
「いや、不満なんてないですよ。それも勘違いです」

 私は真実を伝えると、エメルは小さく肩を落とす。
 何故そこで残念そうな雰囲気を出すんですか、エメル寮長。

「何か面白そうな話でも聞けると思ったのに残念だ。大抵、次期寮長とかが決まると不満とか言いたい放題いう奴が必ずいるだろうか、ネタに話でも聞ければと思っていたんだが当てが外れたな」
「何でそんな事してるんですか」
「え? それはだな、去年俺が次期寮長に決まった途端に物凄く影口を叩かれていたから、聞いたら公にしてやろうと思ってな」

 うわぁ……こわ。
 エメルは不気味に笑いながらそう話して来たので、私は直感でその話を広げるのは危ないと思い、少し引き気味に黙り続けた。

「と言うのは、ちょっとした冗談で」

 え、全然冗談の雰囲気じゃなかったですけど?

「何か考え事でもしてたのか、クリス?」
「っ……ま、まぁ少し……」
「そりゃそうか。大抵最高学年に近付くこの時期は毎年、将来どうしたいとか、どうするんだとか、聞かれたり決めたりしないといけない時期だもんな」
「エメル寮長も、悩んだりしたんですか?」
「いや。僕は魔法など魔力など調べているのが好きでね、この先は研究職員にでもなろうとすぐに決まったよ。と言うより、入学して調べたりするのに夢中でそういう仕事がしたいとその頃から考えていた珍しい人なだけ」
「そうなんですか。やっぱり、皆どうしたいか薄々決まるもんなんですね」
「別に他の奴がどうだろうと関係ないだろ。自分の事なんだし、他の奴を気にする暇があるならやりたい事でも調べたらいいだろ」
「で、でもそうは言いましても、焦りますよ普通。この時期で皆の様に決まった目標とか進むべき道を決めてないと……」
「この時期はやりたい事を固めたりと周囲から聞かれる機会が多いし、その言い分も分からなくないが、何にも考えてないわけじゃないだろ? これが自分の行動原理とか、やって行きたい事とか、前のめりになれる事とかよ」

 そう言われて、確かに何にもないわけじゃないなと改めて実感する。
 エメル寮長の様に研究も嫌いではないし、新しい事を知るのは楽しい。
 今のゴーレム武装の様な改良とかもやっていて、新しい組み合わせと考えるのも悪くはない。
 でも、ずっと閉じ籠もって研究していたい訳ではないんだよね。
 頻繁じゃなくてもいいから、外に出て実際に自分の目で見て知識を得たり、話を聞いたり出来てかつ、研究や調査的な事が出来たら面白いだろうなと思う。
 私はふとエメルの話を聞いて、そんな考えが浮かんでいた。

「何か思い浮かんだって表情だな」
「え……あ、すいません。何でかふと思い浮かんだって言いますか、こうモヤモヤしていたのが初めて形になった様な感じがして」
「その感覚は分からないが、いい方向に進めたんじゃないのか? まぁ、そしたからそこからより明確にして行けるように情報を集めたりするといいらしいぞ。僕を寮長に指名した前寮長から言葉だ」
「はい。ありがとうございます、エメル寮長。あーこれ聞くのもあれですけど、何でそこまでしてくれたんですか? 別の寮生なのに」
「話の流れでだよ。別に深い意味はない」
「そうですか。わざわざ、すいません」

 そう私が改めてお礼を口にして軽く頭を下げると、そこへ突然スニークが現れた。

「寮長! こんな所に居たんですね。探しましたよ」
「はぁーどうしたんだ、スニーク?」

 エメルは面倒な表情をしつつ、スニークの方を向く。

「聞いて下さいよ、またスバンの奴が――」
「スニーク先輩、またエメル寮長に告げ口ですか? 見苦しいですよ?」

 そこへ遅れてやって来て口を挟んで来たのは、スバンであった。
 スニークの次にスバンの登場で、エメルは大きなため息をついた。

「またお前らのそう言う話かよ。いい加減、お前らだけでやってくれ。僕を巻き込むな」
「すいませんエメル寮長。スニーク先輩がどうしてもと言って」
「貴様、何を言ってるんだ! 貴様が寮長の判断がどうとか先に言い出したんだろうが!」

 と、そこでスニークとスバンの口喧嘩が始まってしまう。
 それを見てエメルがすぐに二人の脛を少し強く蹴り、口喧嘩を止めた。

「こんな所でいつもの事をするな。はぁ~話は寮で聞くから、そこまで黙ってついて来い。もし途中でまた喧嘩でもしたら、もう話は聞かないからな。いいな?」

 スバンの少し威圧的な発言に二人は黙ったまま頷き、蹴られた脛を軽くさするのだった。

「それじゃ、少しの間だったが時間をとらせた。じゃな、クリス」

 そう言ってエメルはその場から立ち去って行き、その後を二人が付いて行く。
 その際にスバンは軽く手を上げて来たので、私も挨拶的な感じで手を上げ返した。
 スニークに関しては、一切興味など持たずに私の方など一度も見ずに立ち去って行った。
 私はその後ろ姿を見送るとそれと入れ替わる様に、ジュリルやモランが帰って来たのだった。

「あれ? 誰かと話してたりしてなかった?」
「あ~うん。ちょっとエメル寮長とね」
「クリス、貴方意外と他の寮長の方と話していません? そんな人なかなかいませんのよ? しかも物怖じせずに話すなんて」
「え、そうなのか? でも、偶然会うだけでちょっと流れで話すだけなんだが」
「もしかしてクリスって……いや、やっぱり何でもない。忘れて」
「モラン何だよ。何で途中で止めるんだ? 気になるだろ?」
「いや本当に気にしないで。何でもないから」
「えー何を言おうとしたんだよ、モラン」

 その後私は、モランとジュリルとたわいもない話をし続け、途中でフェルトやウィルとマートルも合流して来たりと、終始賑やかにその時間を過ごすのだった。
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