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第254話 小さな食い違い

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「モラン、居る?」

 そう言ってシルマは、自室へと戻って来た。
 自室では机に向かって勉強しているモランの姿があった。

「居るけど、どうしたのシルマ?」
「あ~何つうか、今いいか?」
「別にいいけど」

 モランはシルマにそう答えると、手を止めてシルマの方を向いた。

「(あれ~何か直面すると思ったより緊張するな……って、あたいから言い出した事なんだから、そんな弱気でどうするんだ!)」

 シルマは自分に活を入れて、一度小さく息を吸ってから口を開けた。

「サッキナクリス二ヨビトメラレテナ」
「もう一回いい? よく聞き取れなくて。後シルマ、どうして片言なの?」
「ソンナコトネェヨ」
「?」

 シルマはゆっくりとモランから視線を外した。

「(やべー! 上手く口が回らない! しっかりしろあたい!)」

 シルマは再び自分に活を入れて、両手で軽く頬を叩いてモランの方を向いた。

「モラン、今日図書館行った帰りにクリスに会ったんだ」
「っ! クリス……」

 モランはクリスと訊いて、あからさまに動揺した表情を見せた。

「それでクリスから一言だけ伝言を頼まれてね。聞くかい?」
「……シルマは、クリスからそれを聞いて私とクリスに何があったとか聞いた?」
「いや。別に何も聞いてないぞ」
「そう……」
「それでモラン、伝言は聞く?」

 するとシルマはゆっくりと大きく深呼吸した後、頷いて返事をするのだった。
 それを見てシルマはモランにクリスからの伝言を伝えた。
 モランは伝言を聞いて暫く黙った後「うん。分かったってクリスに伝えて」と答えに対して、シルマは無意識に「分かった」と返事をしてしまうのだった。

「……あっ。いや、今のは違うぞ。モランが考えている様な事は、全くないからな! 何にもないぞ! うん」
「ぷっ……あははは。シルマ、もうそれはあるって言っている様なものだよ」
「っ……はぁ~、あ~! 何やってんだあたいは! 話を伝えて気が抜けた」
「やっぱりクリスから何か訊いたんだね、シルマ」
「気付いてたの?」

 モランは頷いて返事をして理由を伝えた。

「だって、やたらと伝言を聞くのかって言うし、何も知らないのならそのまま言うでしょ、シルマなら。だから、何か訊いて私の事を心配してくれたのかなって」
「なるほどね。ごめん、嘘言って」
「うんん、私こそシルマに心配かけてごめん。クリスから何があったかは訊いたんだよね?」
「あぁ、一応な。でも、モランあんたの口からも聞いて起きたい。本当にクリスが言っている事が合っているか確認する為に」
「うん。分かったよ」

 それからモランは、昨日の出来事やどうしてそんな事をしたのかの経緯までをシルマに話すのだった。

「クリスが言っていた事と間違いはないね」
「あ~何かシルマに話したらちょっとスッキリしたかも」
「そう言えば、クリスもあんたの事を心配してたよ。だからとりあえず、今は試験に集中しな。嫌われた訳でもないし、あいつも色々と思う所があるみたいだし。考えるなら試験後にしな」
「うん、そうするよ。本当にありがとう、シルマ」
「今度何か奢ってよね」

 シルマはそう言って、何かを思い出し部屋から出て行こうとする。
 それを見てモランが理由を訊ねると「大図書館に忘れ物したから取りに行く」と答えて部屋を後にした。
 その後シルマは、大図書館には行かずにジュリルの部屋の前に来ていた。
 そして「よし」と呟き部屋の扉をノックしようとした時、背後から声を掛けられてビクッとなり振り返る。

「ジュ、ジュリル様……」
「何か私の部屋に用? シルマ?」
「あたいの名前知っているんですね」
「えぇ、モランと同室なのでしょ。知っているわ。それで、何の用かしら?」

 するとそこで部屋の扉が開き、ジュリルのルームメイトであるミュルテが現れる。

「あれ? シルマちゃん? ジュリルちゃんと部屋の前で何してるの?」
「ジュ、ジュリルちゃん!?」

 ミュルテの予想外の呼び名にシルマは驚いてしまうと、ミュルテは「そう言えばシルマちゃんの前では初めてか」と呟く。

「そう言えばミュルテとも知り合いだったわね」
「え~ととりあえず、あたいが用があるのはミュルテなんで、ちょっといいかミュルテ」
「いいけど。どうしたの急に?」
「いいからちょっと」

 そう言ってミュルテを呼び出したシルマは、ジュリルに軽く一礼してからその場を立ち去った。

「それじゃ、ちょっと行って来るねジュリルちゃん」
「えぇ」

 ジュリルはそのままミュルテを見送って入れ替わる様に部屋に入った。
 そしてミュルテを呼び出したシルマは、廊下の隅の方で足を止めてミュルテの方を向いた。

「で、急に呼び出して何の用なのシルマちゃん?」
「ミュルテ、昨日あんたモランに何か言ったか?」
「え、昨日? う~んモランちゃんとは少し話した程度だけど。それがどうしたの?」
「その時モランを急かす様な事とか話したか?」
「? 何だか分からないけど、そんな話はしてないよ。普通の雑談だと思うけど」
「……そうだよな。あんたがそんな事言うわけないよね」

 シルマはミュルテの返事を聞くと、片手で口を覆ってぼそぼそとそんな事を呟いていた。
 ミュルテは何の事だか分からず、ただただ頭にハテナマークが浮かぶだけであった。

「うん。分かった、ありがとう」
「え、終わり? それだけ?」
「あぁ、それだけ。悪かったな急に呼び出して。それじゃ、また明日」

 シルマはそれだけ言うと、先にミュルテを置いて帰るのだった。

「えー……何だったの? 何も私には教えてくれないの?」

 ミュルテはただ呆然とその場に立ち尽くすのだった。
 一方でシルマは、モランから聞いた話を思い出していた。

「(やっぱり変だな。モランが言うには、昨日ミュルテにクリスとの関係を急かされる様な事を言われて行動に出たって言ってたけど、当のミュルテはそんな事言ってないってどう言うことだ?)」

 シルマは歩きながら難しい顔をしていた。

「(どっちかが嘘を言ってる? いや、そもそもミュルテはちょっと毒舌気味だが、モランにそんな事を言う奴じゃないはず。それにあの感じから、嘘を言っている様にも思えない……どうなってるんだ?)」

 そして次の日、シルマはクリスと待ち合わせの場所で無事にモランへの伝言と、モランからの返事も伝えるのだった。
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