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第188話 魔力治癒

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 マーガレット・バレルは、クレイス魔法学院内ではトップとして君臨している最高学年生徒である。
 そんな彼女は、魔法では茨や棘と言った独自の魔法を使うが魔法全般的に苦手分野はない。
 また魔力分類についても平均的に高い状態であるが、その中でも群を抜いて飛び出ているのが魔力治癒の力である。

 彼女は幼い頃から魔力治癒に高い適性があり、その長所を長い年月を掛け伸ばし続けてきた結果、極め更には超人の域に達していた。
 魔力治癒は基本的には、魔力によって傷の手当てや、物の一部修復と言った力であるが彼女の魔力治癒に関してはそれ以外に、対象物の復元を行う事が出来るのである。
 この力に関してはマーガレット自身もあまり使う事がない。
 その理由は、超人の域に達した力を何の代償もなく使える訳がない為であり、その力を使った際の代償が急激な体調不良である。
 頭痛・めまい・腹痛・吐き気などと決まったものではなく、複数のものが組み合わさったものが襲ってくるのである。

「(うぅっ……使用後に直ぐ代償が襲ってくる事はないけど、長くは持ちませんわ。このまま一気に形勢逆転へ持ち込ませてもらいますわ!)」

 復元された茨は、次々へとエリスへと向かって来ていたが、風の魔人によって全て弾き飛ばしていた。

「(どうして急にエリスの魔法が蘇る? 魔法を使った動作はなかったはず……)」

 エリスはマーガレットが何をしたのか、理解出来ずにいたが攻撃されている事には変わりはなかった為自分へと襲い掛かって来るものを風で片っ端から弾き飛ばした。
 すると、遠くからマーガレットが突撃して来たのが視界に入る。

「(動けている。やっぱり、『空停』を突破しているのか。ならこれだ!)」

 エリスは向かって来るマーガレットに向け、両手を振り下ろす。
 しかし、マーガレットの動きは止まることなくエリスに向け『ブリザード』の魔法を放って来た。

「『空絶』で止まらない!? っ!」

 想定外の事に驚くエリスであったが、マーガレットが放った魔法に対し真下からの突風で上空へと向きへと変えて防ぐ。
 そして視界が元に戻るが、エリスの先に先程までいたマーガレットの姿はなかった。

「(いない!)」

 直後、頭上の斜め上から何かが近づいて来るのを察知し顔を向けると、そこにはマーガレットが宙からエリスに向けて茨の槍を投げつけて来ていた。
 茨の槍は一直線にエリスに向けて投げられたかと思われたが、マーガレットは風の魔人に向けて投げていた。
 すぐさまエリスは、周囲の茨を一気に弾き飛ばし近づいて来る茨の槍に意識を向ける。
 そのまま茨の槍に向けて、風の魔人を通して風の弾丸を撃ち放つ。
 風の弾丸は、目にも止まらぬ速さで茨の槍を貫き破壊し、そのまま直線上にいたマーガレットへと向かって行く。
 マーガレットは宙で少しだけ体をずらし、胸に向かって来たものを左肩で受ける。

「っ! いっつ……ここでもう一度、魔力治癒を使う」

 宙から落下する中、マーガレットはエリスに向けて右腕を伸ばし魔力治癒を発動すると、先程破壊された茨の槍が風の弾丸に撃ち抜かれた場所で復元し、先程の勢いのまま風の魔人へと放たれた。
 そして茨の槍は、エリスの背後にいた風の魔人を勢いよく貫いたのと同時に茨が風の魔人の内部から突き出て、風の魔人が内部から弾け消えた。
 エリスはその場で振り返る事無く、風の魔人を消された事に驚きの表情をしていた。

 一方マーガレットは、宙から落下して来たが地面の寸前で魔法で落下速度を軽減し受け身をとる。
 直後、激しい頭痛と吐き気に襲われる。
 が、しかしマーガレットはその場で止まることなく、呆然と立ち尽くしているエリスに向かってすぐさま立ち上がり走り出す。
 マーガレットの表情は頭痛と吐き気に耐えながらの為、物凄く苦しそうな表情をしていたがエリスに勝つと言う一心で苦しくても前へと走り出していた。
 走りながらマーガレットは魔力創造で槍を創り出し、声を上げながらエリスに向けて槍を突き出した。
 その槍は棒立ちのエリスへと届き、そのままエリスを貫いた。

「っ!?」

 だが、その時マーガレットはある違和感を感じていた。
 それはエリスを貫いた時の感覚が、雲を突き刺した様に何の手応えもなかったのだ。
 直後、貫いたエリスは案の定雲の様にゆらゆらを消えていなくなってしまう。

「(本体じゃなかった? いつから? ……いえ、それよりも本当のエリスはどこへ?)」

 マーガレットが槍を突き出した状態でそんな事を考えていると、背後に三体の風の魔人よりも一回り小さいものたちが現れる。
 三体はそれぞれ全身は風の魔人と同じ様に風であるが、中心部と顔がそれぞれ異なり、炎・氷・雷がそれぞれ中心部として魔法の塊の様にあり、顔もそれを現した様な顔つきになっていた。
 そしてその後方にはエリスが立ってマーガレットの方を見つめていた。

「これで勝負ありよ、マーガレット」
「……いつの間にそんな所に?」
「言ったでしょ、私と貴方の相性は最悪だと。だからこそ、分身を作り保険を掛けただけよ。貴方の復元の力には驚いたけどね」
「そう……貴方は最初から私を侮ってはいませんでしたのね」
「当然よ。この場にいる者を侮る者が、学院の代表者などになるはずないでしょ。マーガレット、貴方は強く私との相性も良く私の知らない物凄い力を持っている。だけども、今回は私の勝ちよ」
「……はぁ~。なんて無様なのかしら」

 マーガレットはそう言って、握っていた槍を離した。
 そしてそのまま降伏を行い、試合終了の合図が鳴った。
 あの状況からマーガレットが仮反撃を仕掛けたとしても、背後の魔人たちに勝てずに敗北するだろうとマーガレットは分かっており、更には今の自分の状態からそんな事が出来る気力が残っていない為、降伏と言う選択をしたのだった。
 その決断に会場からはブーイングが来ることはなく、いい試合であった事などの声援や拍手が2名に送られていた。
 その後2人はそれぞれ入場して来た方へと歩き始めるが、マーガレットは魔力治癒の代償で今まで耐えていた頭痛や吐き気が激しくなって来て立っているのがやっとの状態になり、途中で足が止まりその場で膝を付きそうになる。
 しかし、そこへ小さな風の魔人が数体観客たちも見えない様に、マーガレットの所に現れると体を支えてもらい、そのまま無様な姿を見せる事無く入場して来た方へと歩いて行くのだった。
 そしてそのまま会場の通路を歩いていると、反対方向からエリスが現れる。

「エリス……貴方ね、これを私の方へと向けたのは」
「えぇ。貴方が試合中から体調が優れないのは見て分かっていた。もし、あのまま会場で倒れていたら少なからず同情の思いが生まれるでしょうね。でも、貴方はそんな風に思われたくないでしょう? 最後まで私と全力を尽くして戦い、その結果負けを認めた。と良く思われた方がましでしょ?」
「その言い方、凄く鼻につきますが。まぁ、そうですわね。体が弱かったのかと同情されるよりも、全力で戦い負けたと思われた方がいいですわ」
「それじゃ、これは貸しってことで。後、勝負も私の勝ちだから約束は守ってね」
「今それをいいます? 貴方嫌な女ですわね。そんな女はミカロスさんに相応しくないので、早く別れてくださいませんかね?」
「嫌よ。だって私、元々いい子ちゃんじゃないし、好きな人をわざわざ手放す訳ないでしょ」

 そのまま2人はちょっとした言い合いをしながら、医務室へと向かって行った。
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