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第115話 追跡

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「……お前らか」

 ルークたちの近くにいるタツミ先生がそう呟くと、トウマがどう言う状況か説明を求めた。
 タツミ先生は今までの事情を簡単に説明し、目の前にいるもう1人の自分は犯罪者が化けていると答えた。
 黒いローブを来た奴は、その場から動かずに状況をただ見ているだけであった。

「(あの黒い奴らが逃げない?)」

 ルークはこの状況で動かない黒いローブを来た奴らを異様に思っていた。
 すると後から現れたタツミ先生が、首に片手を置きながら話し掛けて来た。

「さっきの威勢はどうした? 早くかかって来い」

 そのタツミ先生は、黒いローブを来た奴の背後から挑発するような言葉を投げかける。

「っ……」
「タツミ先生、俺が今から助けを呼んでくるんで待っててください! ルークと何とか持ちこたえて下さい!」

 トウマはそう言うと、背を向けて校舎へと走り出す。

「あぁ、ここは任せろ」

 タツミ先生がそう告げると、ルークがタツミ先生の手首を掴み上げトウマを呼び止める。
 それを見ていたもう1人のタツミ先生が小さく笑う。

「っ! な、何すんだルーク!」
「タツミはそんな面倒な事はしない」
「!?」

 そこへ黒いローブを来た奴の背後に居たタツミ先生が、一気に距離を詰めて来て勢いを乗せた拳を顔面へと叩き込んだ。
 同時にルークが掴んでいた手首を離し、殴られたタツミ先生は吹き飛び、トウマの足元で仰向けに倒れる。

「さっきのは勘でやったのか? それとも、分かっての行動か?」
「ほぼ勘」

 ルークの答えに、タツミ先生は苦笑いするとすぐさま殴り飛ばした自分の元へと近付く。
 そしてしゃがんで胸ぐらを掴み、話を聞こうとした瞬間だった。
 瓜二つの自分が泥の様に溶けて行く。

「っ! ルーク!」
「分かってる!」

 直後、黒いローブを来た奴らから目を離さなかったルークが魔法で周辺を取り囲もうとした。
 しかし、黒いローブを来た奴は瞬時にその範囲から離脱し、2つのグループに分かれて逃走し始めた。

「(甘かった、統率者がやられれば少しは動揺すると思っていたが、そんな集団じゃないのか!)」

 タツミ先生は自分の考えが甘かった事を悔やんだ。
 ルークは2つのグループに分かれた際に、オービンとクリスを抱えている奴らも別れた為、どちらを負うべきか一瞬迷ったが、体が動いた方はクリスの方であった。

「トウマ! クリスの方を追うぞ!」
「えっ、お、おいルーク!」
「待てお前ら!」

 タツミ先生の言葉を無視してそのままルークとトウマは、クリスを抱えて逃げる黒いローブを来た奴らを追って行ってしまう。
 その姿を見て、小さく舌打ちした後タツミ先生はオービンを抱えて逃げた黒いローブを来た奴らを追い始める。
 そして同時に、耳に付ける小型通信用の魔道具を取り出す。

「こちらタツミ。緊急事態発生、至急学院長にお繋ぎ下さい。大至急です!」

 するとルークとトウマが追いかけている黒いローブを来た奴が、学院の塀を軽々と飛び越えて収穫祭が行われている街へと逃げ出す。
 一方で、タツミ先生が追いかけている黒いローブを来た奴らは、学院の校舎を軽々と飛びながら登り反対側へと逃げてしまう。

「ちっ! 何て身体能力なんだ」

 タツミ先生は、黒いローブを来た奴らの様には出来ないので校舎の外側を走り、回り込む様に追う。
 そこに耳に装着した、小型通信用の魔道具から学院長であるマイナから返答が帰って来た。

「タツミ先生、私です。何があったのですか?」
「申し訳ありません。オービン及び、生徒1名が何者かに攫われました。現在、ルークが生徒の方を追い、私がオービンを連れ去った者を追っています。ですが、相手は校舎を軽々と乗り越える程身体能力が高く、このまま見失う可能性が高いです」
「っ! 分かりました。こちらもすぐに対応を開始します。タツミ先生はそのまま追跡を、また特徴などをこのまま伝えて下さい」
「了解しました」

 タツミ先生は、何とか黒いローブを来た奴を視界に捉えながら、学院長へと情報を伝えた。
 その後一度通信は切れ、黒いローブを来た奴らを追うも奴らは学院を出て、街を屋根伝いで逃走し始める。
 だがタツミ先生は、正門前で追跡の足が止まってしまう。

「くそ、奴ら計画的に今日を狙ったな……」

 タツミ先生の目の前には、走り抜けられない程の人混みであふれていたが、このまま諦める訳には行かない為、人と人の間を何とか抜けて行き追跡を再開した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「確かこっちの方に来たはず……」
「居たか、トウマ?」

 ルークたちは、黒いローブを来た奴らが学院の塀を越え逃げた後を、同じ様に魔力創造で地面を盛り上げて塀を越え、追っていた。
 だが、途中で屋根の上を移動し始め、見上げつつ追跡していたが途中で見失っていた。

「いや。てか、何でクリスが攫われてるんだよ。もー意味が分かんねぇ。それにオービン先輩の方はどうなんだ」
「人攫いの目的は、大抵売買だがわざわざ兄貴を攫う意味はなんだ? と言うか、奴らは兄貴が弱ってた事を知ってて来てたのか?」
「そもそもだ。何であんな奴らが学院に居たんだよ」
「それは俺にも分からない……」

 2人は人混みを分けながら、屋根の方を見上げながら歩き続けた。

「よりによって収穫祭の日に来るなんて、最悪だろ!」
「それが狙いだったんだろ。ターゲットの場所と逃走ルートの確保、当日の状況を完全に把握した上での実行だろう。まぁ、タツミや俺たちに妨害されたのは想定外だろうが……」
「勢いで出て来たが、何か誰かと通信出来る物持ってるのか?」
「あるわけないだろ」

 トウマは「ですよね」と言う顔をした。

「(にしても、何故あいつらはクリスも攫う? ターゲットがクリスで、たまたまその場に遭遇した兄貴はついでか? ……いや、それこそあり得ない。ターゲットは兄貴なのは間違いないし、兄貴が弱っている事も知った上での犯行だろう。想定外の人物だとしても、攫う必要はなく気絶でも倒せばいいはずだ。そこをわざわざ攫う意味は何だ……)」

 ルークはトウマと黒いローブを来た奴らを探しつつ、クリスが攫われた意味を考えていた。
 するとそこでトウマが声を上げる。

「居たぞ! あそこの奥の屋根だ」

 トウマの後をルークも追って行くと、街中の広場の方へ逃げて行く姿を視界に捉える。
 そのまま2人は、何とか人をかき分けながら街中の広場へと続く道を進んで行く。

「確かこの先の広場は、屋根の間隔も広くそう飛び越えられるもんじゃないはず!」

 その言葉を聞いたルークは「急ぐぞ」とだけ呟き、広場へと出る。
 広場に出た2人は上を見上げ、黒いローブを来た奴らを探すもちょうど日の位置の関係で逆光となり、探しずらい状況となっていた。
 とそこで、トウマが頭上で複数の人影が広場を越える様に飛んで行く影を目の当たりにする。

「ルーク、後ろだ!」

 ルークは咄嗟にトウマの言葉に反応し、その場で振り返り追おうとすると、タイミング悪く2組の男女にぶつかってしまう。
 ぶつかった事で体勢を崩し、ルークはその場で尻もちをついてしまう。

「おい、急に何だ!? いきなりぶつかってきやがって」
「すいません、急いでたもので……」

 そうルークがぶつかった相手に言うと、トウマも駆けつけて来た。
 幸いぶつかった相手は、怪我もなく男が女を庇う様な体勢をしていた。
 ルークが相手の顔を見上げると、同時にトウマもぶつかった相手を見て驚いた。

「……えっ」
「ヒビキ先輩っ……」
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