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第108話 積極的に攻める際は計画的に

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「で、ジュリル」
「はい、何ですかルーク様?」
「いや、その何だ。何で俺の隣に座ってるんだ?」
「ダメだったでしょうか?」

 ジュリルに少し申し訳なさそうに見られたルークは、どう対応していいか分からずにいた。

「ダメと言う訳じゃないが、お前も誰かと待ち合わせしてたんじゃないのか?」

 ルークの問いかけに、ジュリルは「はい」と答えるが隣から動く気配はなかった。

「待ち合わせ場所はここなのか?」
「いいえ、ここではありませんがルーク様がいらしたので、ここは積極的に行こうかと……」
「すまんジュリル。最後の方は何て言ったんだ?」
「い、いえ。大した事ではありませんわ」
「そうか」

 そして2人は沈黙してしまい、互いに少し気まずい雰囲気になっていた。

「(何か今日のジュリルは変だぞ? こんな感じだったか?)」
「(ど、どどど、どうしましょう!? 勢いで隣に座りましたが、緊張し過ぎて何を話していいか分かりませんわ! エリス先輩に言われたあの言葉を実践してみましたが、完全に詰まりましたわ。誰でもいいので、助け舟を下さいですわ!)」

 沈黙の時間が続いていると、ルークが突然ジュリルの方を向き手を伸ばす。

「(え、ええ、ええええ!? な、何をするのですかルーク様!?)」

 ジュリルは突然伸ばされてルークの手に驚き、途中で目をギュッとつむる。
 そしてルークが伸ばした手は、ジュリルの額へと当てられた。

「へぇ?」
「……熱はないか。少し顔が赤いから、熱でもあるのかと思ったがそうではないか」

 そう言ってルークはジュリルの額に当てた手を離そうとした時だった。
 近くで飲み物を落とす音が聞こえ、咄嗟にその方を向くと2人組の女子の内1人がジュリルの方を見て、動揺していた。
 足元には、手から落としたのか飲み物がこぼれていた。

「ジュ、ジュリル……な、な、何て大胆な事を……」
「いや~これはまさかの展開だね。ジュリルを探していたら、まさか逢引の現場に遭遇しちゃうとは」
「逢引? 誰が誰と?」

 ルークは首を傾げていると、ジュリルは少し震えながらいきなり立ち上がった。

「ち、違うわよ。ウィル、マートル、わ、わわ、私の話を聞いて。こ、これはその……」

 ジュリルは完全にテンパっており、顔も少し先程よりも赤くなっていた。
 するとマートルは完全に固まっているウィルの首根っこを持ち、この場から立ち去ろうとするとジュリルがすぐさま近寄って行き、それを抱きついて止めた。
 異様な光景にルークは戸惑っていた。

「(な、何が起こってるんだ?)」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「確か貴方は、え~と……ごめん、名前が分からないや。本当にごめんね」

 エリスは両手の人差し指をこめかみにつけ、グルグルと回しながらモランの名前を思い出そうとしていたが、素直に分からなかったので謝って名前を聞いた。

「あ、いや、謝らないで下さい。私が一方的にエリス先輩の名前を知っているだけですので。私は第2学年で、クラスはコランダムです。名前は、モラン・ウィンエルと言います」

 モランは名乗った後に、軽く一礼した。

「モランね、覚えたよ。一応私も名乗っとくね。私の名前は、エリス・クリセント。第3学年でクラスはコランダム。皆から女帝とか名前を付けられて呼ばれたりするけど、あんまり私は好きじゃないから、エリスって呼んでくれるといいな」

 エリスの特徴でもある、エメラルドグリーンのショートカットヘアーが風に吹かれてなびく髪に私は目を奪われていた。
 同時に私は、エリスの雰囲気が少しジュリルに似ているなと感じていた。
 その理由は分からず、直感的なものであった。

「ひとまずここで立ち止まるのも邪魔だし、少し端にずれようか」

 エリスは私たちにそう言うと、先に端へと歩き出してしまう。
 私たちは一度顔を見合わせエリスの言う事も一理あると言う事で、渋々エリスの後を付いて行った。
 確かエリス先輩って、ルークと一緒にいたんじゃないの? 周囲にはいなさそうだけど、どう言う事? それに、ここでトウマたちとすれ違うのも面倒だな……とりあえずエリス先輩とは最低限の会話して早く切り上げ、トウマたちと合流する事を優先しよう。
 私はそう考えならが、エリスの方へと近付いて行った。
 だがこの時、私たちがエリスの方へと歩いて行った時にタイミング悪く、トウマたちが通りかかっていたのだった。

「本当にどこまで行ったんだ、あの2人は? にしても、さっき出店で買ったこれ旨いな」
「それはあたいも同感」
「ちょっと、2人共少しは真面目に探してよ」

 トウマとシルマは、手に出店で買った食べ物を持ち食べ歩きをしながら歩いていた。
 ミュルテも買っていたが、紙袋に入れた状態でまだ食べてはいなかった。

「もしかしたら、どっかであの2人も気付いて切り返して戻ったてことはないか?」
「それはどうかな~」
「何だよ、その言い方はよ」
「べ~つに」

 シルマはそう答えると、トウマから顔を背ける様にしてわざとらしく口笛を吹いた。
 変な態度をとるシルマにトウマは違和感を覚え、ジト目で見つめる

「シルマちゃんの意見は置いといて、もしトウマの言う通りなら私たちとすれ違っているはず。でも、そうではないのだからまだ気づいていないと言う事も考えられるよね」
「ま、まぁ確かにそうだな……じゃ、もう少し探すか。だが、先まで行って見つからなかったら一度戻るでいいな」
「見つからなかった時は、トウマの言う通りにするよ」
「(モラン、私のお陰か失態か分からないけど、偶然2人きりになれたんだから頑張んなさいよ! チャンスはそうそう巡って来ないだからね!)」

 そしてトウマたちは、私たちとすれ違う様に奥へと進んで行った。

「すいませんエリス先輩。単刀直入に訊きますけど、ルークと一緒にいたんじゃないんですか?」

 するとエリスは少し驚いた表情をしたが、直ぐに表情は戻る。
 そのまま近くの丸テーブル席の椅子に腰をかけた。

「座ったらどうだい?」
「いえ、少し急いでいるので大丈夫です。それより、質問した事について教えてください」

 私は少し急かす感じもう一度聞くが、エリスはすぐに答えず机に置いてあったメニュー表を見ると私たちの方に向けて来た。

「何か飲んだりするかい? 一応ここ店のテラス席らしいから、飲むなら一緒に頼むけど」
「エリス先輩、俺は真面目に聞いているんです」

 軽く机を叩いて私が問い詰めると、エリスは私に少し落ち着く様にとジェスチャーをする。
 私もそれで少し失礼な事をしたと思い、一歩下がり謝罪した。

「何でそこまで熱くなっているかは置いといて、ルークの事だね。確かに少し前までは一緒にいたけど、もう彼はいないよ」
「ど、どう言う事ですかエリス先輩? 私、すれ違いですけどルーク様と一緒に歩いている所を見たのですけど?」

 モランの問いかけに、「あ~あれを見たの?」と言い返し全て説明してくれた。

「じゃ、ルークに聞きたい事があったらか呼び止めて、端へと移動してる所をモランが見ただけってことですか?」
「まぁ簡単に言うとそうだね。なるほど、彼は君たちと待ち合わせをしていたから急いでいたのか。悪い事したな」
「それじゃルーク様は、エリス先輩と別れた後クリスとの待ち合わせ場所へと向かったという事ですか?」
「たぶんそうじゃないかな? 私には分からないけどね」

 エリスはそう答えると、近くにいた店員に飲み物を頼んだ。

「どうするのクリス? 行き違いだよ。それに、今じゃシルマたちともはぐれてるし」
「ちなみにエリス先輩、ルークと別れたのはどれくらい前ですか?」
「正確じゃないけど、10分位前かな」

 10分前……それじゃ、ちょうど私たちが待ち合わせ場所から動き出した頃だ。
 あー! 何なのそれ! ほんの少しのすれ違いとか、そんなのあるの!? はぁ~でも、探しに行こうと言ったのは私だし、自業自得か……って、何で私が悪いみたい思ってるんだ。
 元はと言えば、ルークが遅刻してこなければこんな事になってなかったんじゃん!
 私は少しむくれ顔をしながら、そんな事を考えていた。

「そう言えば、どうしてエリス先輩はクリスに声を掛けたんですか?」
「ん? それはちょっとした興味本位さ。転入して来て早々に第2学年内で上位の成績を取った人がいるって聞いて、気になっていたんだ。少し話してみたいなって」
「そうだったんですね」
「でも、タイミングが悪かった時みたいだね。また私のせいで、迷惑をかけた感じになって申し訳ない」
「い、いや。エリス先輩が悪いんじゃなくてですね、ルークが悪いんで。それで、申し訳ないんですが俺たちは友達とも今はぐれているので、これで失礼させていただきます」
「うん。大丈夫だよ、そんなに気にしなくて。こっちも急に声を掛けて悪かったね」

 私たちは軽くエリスに一礼してから、その場から離れ来た道を戻り始めた。
 そしてエリスの元には、注文した飲み物が運ばれてきた。
 ティーカップに入った飲み物をエリスは軽く一口飲んだ。

「お~これが前日祭限定ティーか。意外と美味しいね」

 そのまま飲み物を片手に、目の前を通る人の流れを見ていた。

「(さすがに彼女がいては、聞きたい事も聞けないな。さて、どうするかな……それにしても、さっきの表情はどう言う意味だったんだろうな)」

 エリスは内ポケットから2枚の厚紙を取りだした。
 それぞれに名前が書かれており、そこにはクリスとトウマの名前が書かれており、それ以外には解読できない様な文字が書かれていたのだった。
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