上 下
50 / 564

第50話 後を追うだけの作戦

しおりを挟む
 そして合同合宿6日目、遂に私も体調が回復したのでカリキュラムに参加していた。
 6日目になると、基礎訓練と魔力分類の苦手分野特訓も行われており、各チームごとに独自のメニューで進めていた。
 また、合同合宿も半分が過ぎた事から、混在チームも新たに振り分けられていた。
 チームメンバー数は変わらずに、新しく振り分けれたチームではルークとトウマと運よく同じチームになれ、また新しいクレイス魔法学院の生徒と同じチームになった。
 そして、シンはニックとフェルトと同じチームで、初日のベンとマイクとも違う生徒がチームにいた。

「よし、運よく同じチームになれたな。それじゃ、早速作戦開始だ」

 小声で呟くルークに、私とトウマは小さく頷いて答えた。
 そして、交代しつつシンの動向を観察し続けた。
 私たちがあれから考えた作戦は、至ってシンプルなものだ。
 ここ最近シンは、どこかで犯人にいじめられているので、ずっと観察し続け姿を消した時に追いかけて、現場を抑えるという、とてつもなくシンプルな作戦だ。
 そしてその場で何をするかと言えば、お説教だ。

 そんな事をしても何の解決にはならないのは、分かっているが、まずは思い知らせてやらなければいけないと意見が一致していた。
 だが、それで終わりではなく、そこからはシンにかかっていると言える作戦なのだ。
 私たちは、カリキュラムをこなしつつ、シンを観察し続けていた。
 一番私がシンの事を観察する事が出来たのだが、その訳は、まだ回復して初日という事もあり、軽めのメニューにしてもらっていたためだ。
 そして時間も過ぎ、お昼時になった。

「はぁ…はぁ…意外と、体が鈍ってるな……息が上がるのが早い……」

 私は、他の皆より軽いメニューであるが、意外とこれが体にきており既に疲れ始めていた。
 少しふらつきながら、早くメニューを終わらしてシンの事を観察している、ルークとトウマの元に歩いて行った。

「それであれから、どう?」
「あぁ、まだ動きは特にないな」
「そう」

 トウマも、変わった事は特に無かったと首を横に振った。
 そのまま午後のカリキュラムも始まるが、そこでも全くシンに変わった事はなく、今日は何もないのかと思っていると、カリキュラム終了後にどこかへと歩き出したのだ。
 それを見逃さなった私は、直ぐにルークとトウマに声を掛けて、後を追った。
 そして、シンが辿り着いた所は、人目がない森の中であった。
 シンが森の中を歩いて行くと、少し開けた場所にクレイス魔法学院の男子生徒が5名程いた。

「ようシン。今日も素直に来てくれたんだな」
「今日は紙をこっそりと忍ばしておいたが、気付いてくれて良かったよ」

 シンは男子たちが笑いながら言う言葉に、震えながら頷いていた。

「それじゃ、今日はそこの木の所に立って的当ての練習をさせてくれよ。あっ、狙いはお前じゃなくてその後ろの木だから、安心しろよ」

 1人の男子生徒がそう言うが、シンは震えたまま動かずにいると、もう1人の男子生徒近付いて来て、後ろから強く押し出して歩く様に強く言い放つ。
 シンは、言われたまま歩き出すが、途中で止まり後ろを振り返ろうとすると、1人の男子生徒が魔法を放ち、シンの顔の真横を通過する。
 その魔法は木に命中し、放った男子生徒は冷たく、早く行けって言ってんだろとシンを脅す様に言い、シンはそのまま指示された場所に立ってしまう。

 直後、男子生徒たちは一斉にシンに向けて魔法を放ちだす。
 その魔法は、ギリギリシンに当たらない所目掛けて放っていたが、わざとらしく手が滑ったとか言いながら、シンへ当てている生徒もいたのだった。
 またとある生徒は、少し笑いながらそれを行ったり、ストレス発散するように行う生徒もいた。

「これは、これは、またおかしな現場に出くわしたもんだ」

 その声が周囲に響き渡り、クレイス魔法学院の男子生徒たちは手を止めた。

「誰だ?」
「少し考えれば分かる事だろうが。全く、実際に現場を見ると、お前らむごい事してるんだな」
「っ!?」

 ルークの言葉の直後、私たちがシンのいじめの現場を確認したので、そこへ歩いて出て行った。
 クレイス魔法学院の男子生徒たちは、私たちがここに居る事に驚いており、言葉も出なかった。

「それじゃ、まずは説明してもらおうか、ベン。そして、マイク」
「っ! ク、クリス……どうして、ここに」

 そう、シンをいじめていた奴らに、ベンとマイクもいたのだった。
 ひとまず話を聞くために、ルークがトウマを呼び寄せた。

「もういいぞ、シン。魔法を解いてやれ、トウマが辛そうだ」

 そう言うと、今までシンであった人物の姿がトウマになり、トウマであった人物がシンへとなったのだった。
 その事に、クレイス魔法学院の男子生徒たちは、訳が分からず混乱していた。

「全く、シンを演じるのも意外と大変だし。それよりお前ら、色々としてくたな」

 今までシンだったトウマが、ベンやマイクたちに詰め寄ろうとする所を私が止めた。
 そう、まず今から行うのは事情の確認と説教なのだから、勝手に手を出されては困るので、トウマを呼び寄せた。
 そしてルークが入れ替わる様に、近付き少し脅すように、ベンに全て話してくれるようなと訊ねると、ベンは少し震えながら頷くのだった。
 そこからは、その場にいた全員がシンをいじめていた事を認め、シンにも事実かを確認した。

「そ、それで、これから俺たちは教員に突き出されるのか?」

 恐る恐る聞くベンに、ルークが答えた。

「いいや、軽く説教もしたし、反省してるならいい」
「おい、そんな簡単に許すのかよ!」

 その言葉に、ベンたちは小さく安堵の息をついていた。

「俺たちの目的は果たした。後は、シンの問題だ」

 そう言って、ルークはシンの方を見て入れ替わった。
 シンは、ベンたちの前に立つが握り締めた手は震えており、ただ立ち尽くしている状態になっていた。
 それを見たベンたちは、何故か小さく鼻で笑っており、トウマが全然反省してないぞと小声でルークに言うが、黙ってろと返していた。
 そう、ここからが、本当の作戦なのだ。
 そして、シンは覚悟を決めたのか、大きく深呼吸しベンの目を見つめて、初めて口を開いた。

「ぼ、僕と決闘しろ!」
「っ!?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...