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2章 バイト先で偶然出逢わない

2章04 Private EYE on a thousand ②

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 事件当時、現場に弥堂が居た――


 望莱のその言葉で希咲にも緊張が走る。


「せんぱいが現場に居た。では、なんでそれで彼に近づいちゃいけないことになるのか――」

「――危険だから……ってこと? あいつがその時現場で何をしていたのか。それがわからないから……」

「そうです。その『何をしていたか』、によって彼はやはり敵になるかもしれません」

「そっか。そういうことだったのね……」


 何故彼に会いに行くことを強く止められたのか。

 ようやくその理由に納得がいく。

 そして――


「――これじゃ結局……」
「はい。数日前に、こっちの島で『てゆーかマジぶっちゃけさ、弥堂くんってなんなん?』って話していた時に逆戻りですね」

「そんなゆるくなかったでしょ」
「えー?」

「でも……。それでもさ。もう危険だからとかって言ってらんないし。それに危険だってことを予めわかってれば――」
「――いいえ。ダメです」


 希咲がその瞳にある種の覚悟のようなものを灯すと、間髪入れずに望莱が釘を刺してきた。

 希咲はそのことにどこか違和感を覚える。


「……ねぇ、みらい」
「なんでしょう」

「あんたちょっとヘン。なんか隠してない?」
「そんな……、心外です。忠実なる信者であり健気な妹分でもあるこのみらいちゃんが、七海ちゃんに隠し事だなんて……、あんまりしません」

「してんじゃねーか」


 思わずジト目になると、望莱は表情を緩めた。

 希咲は慣れたものと軽く嘆息して、疑問を口に出していく。


「普段そこまで心配しなくない?」
「そんなことないです。わたしは一日800時間は七海ちゃんのことを心配してます。七海ちゃん杞憂民です」

「そーゆーのいらない。だってさ? 相手が危険人物だったとしてもさ。そんじょそこらのヤツに、あたしが負けないって知ってんじゃん」
「まぁ、そうですね。なにせ天使もぶっ飛ばしちゃいましたしね」

「ベツにさ。『ナメんなよ』とかって、プライドに障ったとかじゃないの。あたしベツにケンカ自慢じゃないし。だからそうじゃなくって、あんたはあいつのことを――」
「――はい。“そんじょそこら”程度じゃないと考えています」

「……それはなんで?」


 希咲の探るような目に、望莱は考えるような素振りを見せた。

 だが、答えることはもう決めている。


 望莱の脳裏に過るのは例の“怪文書メール”。

 約一年前から続く未来を示唆するような内容のタレコミ。


 今回の旅行中に届いたものの中にあった、もしかしたらありえたかもしれない一つの未来の可能性――


――――――


4月24日までに美景に帰ると人が死ぬ。


a) 希咲七海一人で帰った場合、彼女は死ぬ


b) 希咲七海と紅月聖人の二人で帰った場合、紅月聖人以外が死ぬ


c) b)の二人と紅月望莱で帰った場合、紅月聖人以外が死ぬ


d) 全員で帰った場合、弥堂優輝に皆殺しにされる


――――――


(せんぱいに、わたしたちが、皆殺しにされる……)


 現在もこれを100%真に受けているわけではない。

 だが、その可能性があることはもう無視は出来ない。


 試しにわざと失敗フラグを踏んでみようにも、今回はそれで失うものが何よりも大きい。

 ならば、慎重に対応するべきだと望莱は考えていた。


 この“怪文書”のことはまだ希咲にも教えていない。

 まだ言えない。言える段階にない。

 だから言わずに彼女を説得する必要があった。


「――わからないからです」
「わからない?」

「敵かどうかわからない。どのくらい強いかわからない。それに今回はいつもとは違って、魔王だの天使だのと激ヤバなモノまでが出てきている案件です。慎重に事に当たるべきだと思います」
「それは、正論だと思うけど……、でも、あんたらしくないわね」

「……ちょっと、嫌な予感がしてるんです。だから念のためって対応をとらせて欲しいです。なにも、ずっと彼に近づくなと言っているわけではないですし、水無瀬先輩の捜索から手を引けとも言っていません。ですが、わたしたちと合流するまでは、せんぱいとの接触は少し待ってください」
「……そんなに警戒してるの?」


 希咲は少し驚く。

 自分が愛苗に対して“そう”であるように、望莱は自分に対してちょっと過保護だ。

 だけど、いつも適当な言動ですぐにふざける彼女が、ここまでの様子を見せるのは本当に珍しかった。


「……最低でもわたし――いえ、兄さんを連れて行かないと、せんぱいとの対面には賛成できません」

聖人まさとをって……、そこまでなの……?」

「そこまでかもしれない。その可能性があります」

「なんだかハッキリしないわね。もしかして、あれからあいつのチカラのこととか、そういうの何かわかったわけ?」

「いいえ。特に何も。例えば魔力――彼に脅威となる程のそれを感じたことはありません。それを隠しているとも思えない。これは蛮くんも同意見です。まぁ、これに関しては七海ちゃんの方が詳しいですよね?」

「そうね。何かトクベツな技能とか、そういうのも無いと思う。でもさ、それなら何でそこまであいつを警戒すんの? や、わかるけど。あたしの中でもあいつってば、不審者部門とクズ部門と変態部門の“オブザイヤー”をこの4月の時点でもう三冠しちゃってるけど! それでも――」

「――そうですね……」


 望莱は一つ間を置いて考える。

 それからまた口を開いた。


「……これは前回、こっちで弥堂せんぱいについて話し合った時のことですけど……。あの時に敢えて言わなかったことがあります」
「ん? それっていつ?」

「せんぱいの能力について。七海ちゃんが彼と戦った時のことを聞かせてもらった話です」
「あぁ、うん。なにか思いついたの?」

「いいえ。あれから時間が経って思いついたのではなく、実はその話を聞いてすぐに気付いたことなんです」
「うん。なに?」

「七海ちゃん……。七海ちゃんは、こう言いましたね? 『緊急回避』を使わされた――と」
「え? うん……、言ったけど……」


 希咲にはピンとくるものがない。

 目線を上げて、そんなに大層な内容があっただろうかと思い出してみる。


 望莱は希咲のその顔を見ながら真剣な表情で切り出した。


「七海ちゃんの『緊急回避』、使えばどんな攻撃も問答無用に回避したことになる。選ばれたギャルのみに許されたスペシャルスキル――そうですね?」
「あんた真顔でなに言ってんの? でも、まぁ、そーね。ギャル以外は合ってる」

「そしてこの『緊急回避』には二種類の使用方法があります。まず一つは、七海ちゃん自身が『よぉーっし。ちょっとハズいけどぉ、思い切って緊急回避しちゃおっかな!』って、使うことを決めて自分で実行した時に発動するもの。そうですよね?」
「そうだけど……、ねぇ? もうちょっとどうにかなんないの? それじゃなんか、あたしがバカっぽいじゃんか」

「そしてもう一つ――」
「きけよ」


 自分を咎めてくるジト目に気付かないフリをしながら望莱は先を続ける。


「今言ったのは、謂わば“アクティブスキル”。そしてもう一つは“パッシブ”での起動。一回使ったらクールタイムが発生するとはいえ、アクティブでもパッシブでも無敵回避が出来るとか完全にぶっ壊れスキルです。さすななチートかわいい」

「はいはい。んで?」

「はい。パッシブの方は、七海ちゃん自身でスキルを起動することが間に合わなかった時に、限られた条件下ではありますが、自動で発動するもの。そして弥堂せんぱいとの対決の時に発動したのはこちらのパッシブの方ですね?」

「うん。そうだけどさ……、対決ってちょっとバカっぽいからやめて」


 望莱は一旦言葉を止めて、呆れた様子の希咲の顏をジッと見る。

 それがあまりに真剣な目だったので、思わず希咲の方が落ち着かない気持ちになった。


「え? なになに? すっごい見てくるし。続きは?」
「……どうやら本当に気が付いてないようですね」

「え?」
「まったく、七海ちゃんともあろうギャルが。自分のことになるとニブニブになるとか助かります。あざとカワイイです」

「は? なんなの? マジでわかんないんだけど……」
「いいですか? 七海ちゃん。件の『緊急回避』、どうして発動したんですか?」

「どうしてって……、だから、ビックリしちゃってたのもあって、あたしが自分で避けらんなかったからだってば」
「……七海ちゃん。『緊急回避』のパッシブ起動。その限定条件とは?」


 慎重に確認をしてくる望莱の様子に希咲は眉を顰める。


「条件って、あんた知ってんじゃん」
「いいから」

「なによもぉ……、えっと、だから。“それ”をくらったら致命傷になると……き……、って……、えっ……?」
「そうです。ようやくわかってくれましたね」


 言いながら何かに気付き、希咲の言葉尻が消えていった。

 目を見開いて固まる希咲に、望莱は重く伝える。


「えっ……、これって、まさか……」

「そうです。七海ちゃんは既に一度、彼に殺されかけているんですよ」

「――っ⁉」


 望莱が指摘したその事実に希咲は言葉を失った。


「もう一度当時の状況を整理します。あの時のケンカって、最終的にはどっちも“普通”を逸脱してしまいましたけど、元々はただの普通のケンカというか、揉め事だったんですよね?」

「……うん」

「この際、どっちが先に“普通”を踏み越えたのかは置いておきます。学園の中で、学生同士の揉め事の中で、そんな日常の中で――彼は人を死に追い遣るような攻撃を放ってきたんです」

「そんな……」

「百歩譲って。彼が最初から七海ちゃんを殺害する目的や意思を持っていて、それで仕掛けてきたのならまだいいです。ですが、そうじゃない――」

「…………」

「――そうじゃなかったのに。日常の中に居たのに。彼は容易くそこから足を踏み越えてきた」


 何故、弥堂 優輝が危険なのか。

 望莱が考えていたことが希咲にもわかってくる。

 それは自身の身に実際に降りかかっていたことだった。


「このことから、わたしが彼を危険視する理由を3つ挙げます」


 希咲の瞳に映るその理解の色を見ながら、望莱は指を三本立ててカメラに映してみせた。


「その一、七海ちゃんを相手に、一撃で致命傷判定を出せる攻撃手段を持っていること――」

「その二、それを日常の中で使ってきた――」

「その三、“それ”を実行するまでの速さ」


 矢継ぎ早に望莱は三点を挙げる。

 希咲は相槌を挟むことも出来ない。


「スイッチを切り替えているのか、アクセルを踏み込んだのかはわかりません。ですが、彼は『踏み越える』ことに躊躇いが無さすぎます。もしかしたら『踏み越えている』という認識すら、彼には無いのかもしれません」

「……認識がないって?」

「だってですよ? もしも七海ちゃんが回避出来なくって死んじゃったらどうするんです? 目撃者だっていましたよね? それも皆殺しにするんですか? 学園の中ですよ? それから先の人生どうするんです? 彼に御影と何か関係があるのなら、ある程度彼女らがどういう存在かも知っているはずですよね? なのに、それすらも関係ない? 警察も、法も――彼には、何も、関係ない。彼は、あまりに人死と身近過ぎます」

「死が、身近……」

「死や殺しが彼に身近なのか、それとも彼が死や殺しに身近なのか。いずれにせよ、それは彼の棲んでいる日常が異なっているからではないかと考えました。普通の人とも、わたしたちとも、異なっているんです。このことを特に怖ろしいと、わたしは思います」

「……仲間とかクラスメイト感覚で近付いたら、いきなり殺しにくるかもってこと……?」

「そうです」


 希咲は動揺する。

 こんなにも意味のわからない、しかも危険な事態になっていても、自分はまだどこか同じ学校の生徒同士、クラスメイト同士の話だと――

――そういう感覚がかなり残っていたことに気が付かされた。


 人間同士で、殺すだとか殺されるだとか――

 それでもまだ、自分がそんな状況にいることに実感が追いつかない。


「前にも少し言ったかもしれませんが、これは日本で普通に生まれ育った人の感性じゃありませんよ。わたしたちのような特殊な育ちをしたとしても、それでもそこまでのメンタルやマインドにはなりません。強力な洗脳を受けた狂信者か、スラムに浸かり切った犯罪者でもないと、中々こうはなりません」

「…………」


 確かに同じようなことを望莱から一度聞かされた。

 その時に思い出したことがまた頭に浮かぶ。


『――俺は切り替えが遅い。だからなるべくそれをしなくて済むように、一貫することと徹底することを心掛けている』

『――周囲がどう変わっても全て無視してしまえば、自分は変わらずに、変えずに済む』

『――他人とのコミュニケーションのコツは、要はいかに相手を無視して自分の都合を押し付けられるか、だと考えている』


 以前に聞いた彼の言葉を思い出す。


 4月16日の放課後。

 学園から外に出るために正門までの桜並木道を一緒に歩いた時の会話。


 学園からの下校。

 そんな当たり前の日常の中で聞いた弥堂の言葉だ。


 踏み越えるという認識が無い。

 躊躇いが無さすぎる。

 死や殺しがあまりに身近。


 それをこれらの望莱の言葉と照らし合わせるのならば、彼はずっと“そう”なのだ。

 切り替えてなどいない。ずっと“其処”に居る。

 身近すぎて他人と殺し合うことは彼にとっては何でもないコミュニケーションの一つなのだ。


 ゾッとする。


 希咲にとって弥堂と桜の下を歩いたあの時間は、認めたくはないが彼と少しだけ距離が縮まった――語弊はあるが仲良くなれたと、そう思ったエピソードだった。

 だが、あの何気ない日常会話をしていたほんの少し前、彼は自分のことを殺そうとしていたのだ。

 その上でその後に自分とこんな普通の会話を普通の顔でしていた。

 それを知ってしまうと怖気が奔った。


 10日以上も前の出来事に、今更になって恐怖と気味の悪さを感じる。


「……これがあいつに近づくなって理由?」
「そうです。厳密にはあともう一個ありますが、メインはこれですね」

「……どうしてすぐに言わなかったの?」
「んー……、まず確信が無かったというのと、あの時は他にも複雑なことが多くてそれ以上の混乱は避けたかったってところですか。あと、これが一番大きな理由ですが、兄さんを刺激する情報を増やしたくなかったんです。七海ちゃんが殺されかけたなんてあの馬鹿兄が知ったら……」

「あぁ、うん。それは確かにそうね……」


 ただでさえ美景へ帰ろうとする聖人を止められるか不安だったので、それは仕方ないと納得した。


 少しの間、重い空気が圧し掛かる。


 無言の時間が続いてしまったので、それを切り替えようと希咲はわかりやすくジト目を造った。


「てかさ――」
「はい?」


 それを受けて望莱もわかりやすくキョトンとした顔を造る。


「あたしに隠し事しないって言ったのに」

「んま、七海ちゃんったらなんたるメンヘラ仕草」
「うっさい。メンヘラじゃないし」

「今言ったので隠し事はなくなりました」
「うそつき。ゼッタイあんた他にもいっぱいあるでしょ」

「うふふ……」


 殊更に清楚に微笑む望莱に疑惑の目を向けた。

 それを咎めてもよかったのだが、希咲は他に一つ気付いたことがあったのでそっちを聞くことにする。


「あ、そうだ。隠し事といえばさ――」
「はい?」

「話戻しちゃってゴメンなんだけど、さっき警察にここまでは教えたけどそっから先は隠したって言ったじゃん?」
「ですです。言いました」

「それって、弥堂の映像を隠したってこと?」
「いいえ」


 希咲が思ったことを聞いてみると、望莱はキッパリと否定した。


「まぁ、映像のチェックをしたのがわたしが一番最初だったら、もしかしたら保留ってことにして弥堂せんぱいのことを一旦隠したかもしれませんが……」
「あ、そっか。警察の方が先にチェックしてたんだっけ」

「はい。その上で後からわたしがこれを隠蔽したりしたら、わたしまで関与を疑われてしまいます」
「それもそうよね……、って、うん? 『わたしまで』?」

「はい」


 頷いてすぐに違和感を覚えると、今度は即座にそれを肯定される。


「港の監視カメラに映った弥堂せんぱいの姿。当然警察も見ています」

「……ってことは」

「そうです。そして、これがせんぱいに近づいちゃいけないもう一つの理由――」


 スマホの画面内の望莱の目がまた真剣なものになる。


「――弥堂せんぱいは既に公安にマークされています」


 希咲はそれにまた動揺しそうになり、しかしすぐに冷静になる。

 それは考えてみれば当たり前のことで、当然そうなることだからだ。


「……あいつ、犯人だと思われてる?」
「いいえ。まだそこまでは。ですが重要参考人にはなっています」

「……そっか。そんなヤツにコソコソと会いに行ったりしたら」
「そうです。七海ちゃんまで疑われます」


 少し考えこむような希咲を見ながら、望莱は説明をする。


「疑われたらそれで問答無用で逮捕――とはなりません。ですが、事情聴取くらいはされます」

「まぁ、そうよね……」

「とはいえ、それくらいで別に逮捕まではされないでしょう。ぶっちゃけ捕まるようなことを七海ちゃんはしてませんしね。紅月で口を利くことも出来ますので、不当に拘束されるようなこともないでしょう。ですが――」


 望莱の視線と言葉の重みが増したことを希咲は感じた。


「――ですが、聴取を受ければ記録に残ります。警察のデータベース上に、七海ちゃんは“こっち側”の人間だと、ハッキリそう記されます。今後の七海ちゃんの人生の為に、わたしはこれを許容出来ません」

「そっか……」

「ですから。せんぱいに話を聞きに行くには多大なリスクを負う。その覚悟が必要になります。そして、現状はまだそこまでを賭ける程のフェーズではない。わたしはそう考えています」

「…………」


 黙り込んだ希咲を諭すように望莱は言葉を重ねる。


「いいですか? 七海ちゃん。弥堂せんぱいが犯人かどうか。彼が敵かどうか。これはもうわたしたちが判断することではなくなってしまったかもしれません。それを判断するのは――」

「――警察、ってことよね……?」

「はい。実際の事実がどうであれ、もしも警察が彼を敵だと認定したら。その時はわたしたちも彼と敵対しなければならない。それはわかりますよね? これはウチの会社が警察とズブズブだからという理由ではありません」

「……もしもあいつを庇ったり、加担したりしたらあたしたちも――」

「そう。警察に敵と認定されます。弥堂 優輝。場合によっては彼は――」


 望莱の目がスッと細まる。


「――彼は最悪、パブリックエネミーとして処理される可能性があります。それも表沙汰に出来ない種類の」

「……っ」


 希咲は歯噛みする。

 複雑な事態を切り抜けてあとは親友を見つけ出すだけだと思っていたのに。

 しかし事態はより複雑なことになってしまった。


 旅行の滞在先に居た時と同じ――


 不自由さに雁字搦めにされる感覚が蘇った。
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