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1章 魔法少女とは出逢わない

1章78 弥堂 優輝 ⑳

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 暴力沙汰で身を立てるのは楽だし性にあっていた。

 少なくとも、今から中学三年生をやらされるよりは遥かに。



 暴力団に混ざって生活する過程で俺は皐月組の跡取り息子である惣十郎と関りを持ち、彼がケツ持ちをしているキャバクラで用心棒の真似事をすることになる。


 当時、『Voidヴォイド Pleasureプレジャー』は今の北口のテナントを追われ南口で臨時店舗を借りて営業をしていた。ナワバリをとられたのだそうだ。

 そしてその南口にまで北の外人街の連中が手を伸ばしてきていた。


 俺はその抗争で少しやり過ぎてしまう。

 南口の裏路地に侵食してきた連中を殺して、その首を持って北口の奪われたナワバリに乗り込んだ。

 そして外人街の息のかかった店を一軒一軒回って、それなりの人数をぶっ殺してしまった。


 殺し自体は別に大したことではなかったのだが、恩義に感じた皐月組が身代わりを出してきて、ついでに以前に殺した記者の分まで罪を被ってもらった。

 うっかりヤクザに借りを作ってしまったのだ。


 それから北口の元の『Voidヴォイド Pleasureプレジャー』を取り戻し、俺は華蓮さんの家に転がり込んで生活することになる。

 彼女は失踪した弟の件で外人街をバックにする半グレたちと因縁があるらしく、そいつらと戦うのに俺が使えると思ったようだ。


 生活の面倒を見てもらいながら華蓮さんからこの街のことを教わりつつ、一般常識を矯正される。

 たまに彼女の弟の“代わり”をさせられるのが面倒だったが、彼女から与えられる金や生活に比べれば安いものだった。


 しばらくはキャバクラで働きながら用心棒をする。

 俺がしていたのは裏方仕事ばかりで、大体は決められた作業のようなものだった。

 俺はそれを特に面白いとは思わなかったが、特に嫌いでもなかった。

 機械のように何も考えずに決まった行動をするのはとても楽だ。


 黙々と働く俺を黒瀬マネージャーは気に入ってくれたようで、世の中のことや金のことについて色々と教えてくれた。


 そうした生活の中で外人街との揉め事が起こる。

 皐月組と、とある企業との取引の記録を盗まれ、それを質に強請ユスられたのだ。


 その企業とは美景台学園だった。

 美景台学園を経営する郭宮家はここいらの名士であり、これが流出すると結構な大事になるそうだ。

 その問題の解決を皐月組経由で俺は依頼された。


 相手の要求はシンプルで、限られた人数で外人街まで金を持ってこいというものだった。

 払ったところでどうせ次は複製データで“おかわり”を要求されるのは目に見えている。

 そこで美景台学園の理事長と俺の二人で金を持っていき、理事長が交渉をしている間に俺がそのデータを盗み出すという仕事になった。


 結論から言えばこれが成功し、俺は御影理事長や郭宮生徒会長と縁を持つこととなった。

 ただ、この時のやり方がよほど気に喰わなかったようで、任務が終わった後に理事長から説教をされた。

 俺としてはデータを探すのが面倒だし、そもそも探し方がよくわからなかったので辺り一帯に火を放って、犯人も依頼者もデータも全てこの世から消し去ってしまおうとしたのだが、それがいけなかったようだ。


 異世界の建築物とは違って簡単には建物が燃えないだろうと俺は想定した。

 なので、その辺に停まっている車を建物にぶつけて着火し、その辺の建物から持って来たガスっぽい物を投げ入れて次々に爆破をした。

 ビルの中から逃げ出してきたヤツを殺して燃え盛る建物内へ投げ込んで始末する。

 こっちの世界で火を放つことをしたのは初めてだったが、思っていたより上手くいったというか、思ったより派手なことになってしまい少し引いた。


 そうしているとビルから理事長が出てくる。

 火に追われながら中に居た敵を皆殺しにしてきたようだ。


 彼女はすごい剣幕で抗議をしてくる。

 俺が依頼をされたのは犯人にデータを渡さないことで、あんたやデータの無事は頼まれていないと答えると理事長は絶句してしまった。


 このことのせいで最初の内はかなり警戒をされてしまったが、度々御影から頼まれるやばい仕事を熟していく内に、今ではそれなりに信用されるようになった。

 だが一方で、俺の方は逆に彼女らに疑いを持つようになった。


 彼女らにはこの世界には無いと思っていた魔術的な魔力の流れが視えたからだ。

 異世界に攫われる前は当然俺も一般人だったので、こちらの世界には魔力だの魔術だのといった幻想や超常の類のモノは一切無いと思っていた。

 しかし、どうもそれは思い込みだったようで、一般人には知り得ない裏の社会ではそういった超常が綿々と受け継がれてきたようだった。


 俺は彼女らとの付き合いはそこそこにして様子を見ることにした。

 この時点で俺にもその類の力があることを悟られても得がないし、彼女らのような存在にどこまでのことが出来るのかを知る必要がある。

 そしてその世界がどういった構造になっているのかを探りながら、超常とは適度な距離を保った。


 ヤクザなどの裏の社会と、魔術などの裏の世界に関わりながら生活をして、それに慣れて落ち着いてきた頃、俺は一つ考える。


 ロクでもない環境ではあるが、どうにか生活していける目途はついた。

 だが、何のためにそうするのだと。


 生きて、それでどうする?

 何の意味があるのだ。


 そんな疑問に囚われるようになった。


 俺には目的がない。

 この世界――少なくともこの国には戦争がない。

 何をすればいいのかがわからない。

 何の為にこの生命を消費すればいいのかが思いつかなかった。


 世話になっている華蓮さんのために使えばいいのだろうか。

 彼女は外人街と戦争をしているようなものだ。

 彼女が俺を弟の代替品としているように、俺も彼女をセラスフィリアの代替品にすればいいのだろうか。


 それとも戦争をしている外国に行くか。

 戦争を終わらせる為に戦争をしている場所を探す――それは何か違うような気がした。


 では自殺をするか。

 それは赦されない気がした。

 俺を生かす為にルビアもエルフィも酷い死に方をした。

 俺自身も、少なくとも同等の酷い死に様を晒すべきだ。


 だけど、俺には敵がいない。

 セラスフィリアがいないから、誰も俺に目的を与えてはくれない。


 華蓮さんは――彼女は少しセラスフィリアに似ている気がした。

 彼女はきっと俺を抗争に利用するために拾ったのだと思う。

 だけど彼女はイカレ女ほど冷酷な人ではないから、共に日々を過ごす内に徐々に俺に情を抱いて、消耗品として使うことが出来なくなっているように見えた。


 だから、そろそろ彼女のところに居るのは潮時かと考えるようになった頃――



――俺は駅前のとある路地裏で一人の人物と出逢う。


 その人物は南口のギャングたちにカツアゲをされているようだった。


 見かけたついでに全員殴って全員から金を巻き上げていくことを決める。


 財布を差し出したギャング気取りどもが逃げ出していく。

 それを金を数えながら視界の端に入れつつ、さて次は憐れな被害者から謝礼を貰うかと身体を向けた。

 非道なことと思われるかもしれないが、彼はもう既に被害に遭っているので一回も二回も変わらない。それは俺がどんな対応をしたところで、彼が被害者である事実は変えられないということだ。

 つまり彼がどんな目に遭ったとしても、それは最初に彼を被害者にした者のせいになるので、俺は悪くないということになる。

 そんな風に、極めて論理的な陳述を脳内に浮かべ、これなら法的に問題がないと俺は理論武装をした。


 それから脅迫を開始しようとしたが、その前に助けた彼が口を開いた。

 そして喋り始めた。俺が止める隙もないほど凄い勢いで。


 そこは路地裏ではあるが、表通りからも見える浅い場所だったので、彼の大きな声が人々の注目を集める。

 俺は小さく舌を打った。これではもうカツアゲは無理だ。


 用済みになったので適当に話を切り上げようとした瞬間、彼の話の中に耳につく単語が出てきて、俺はつい応答をしてしまう。

 そしてそれを受けて彼の口上がさらに回転を上げる。


 仕方なく適当に聞き流してやり過ごすことにした。

 俺は見聞きした情報を全て正確に記憶することが出来る。

 聞いているその時には意識していなかったとしても“魂の設計図アニマグラム”に勝手に記憶として蓄積され、それをいつでも記録として取り出して、まるで閲覧をするように完璧に物事を思い出すことが出来る。

 だから他人の話など真面目に聞く必要がない。


 なのに――


 彼の話の中には所々気を引かれる単語が出てきて、完全に聞き流すことが出来ない。それは俺が疑いを持つものだったり、どういうことだと不思議に思うことだったり、確かにそれはそうだと納得や共感をするものだったりなど、様々だ。

 俺が反応をすると彼はその部分についてたまに掘り下げてくる。

 そして気が付いたら俺は自分の話をさせられていた。


 話した内容は、先程挙げた『無意味さ』や『自分とは何なのか』といったものだ。


 俺はこんなことを他人に話すような人間ではない。ましてや初対面の相手になど。

 だが、何故か彼の言葉は無視出来ない。


 彼は俺の話を聞いてまた長々と話しだした。

 それを詳細に一字一句違わずにここで思い出してもいいのだが、それは本当に、本当に非常に長いので割愛する。


 彼が言ったことを要約すると、『中二病』だという話だ。

 中二と言えど、それは中学二年生を終えても続くもので、下手をしたらあと十年は治らない可能性もあるとのことだった。

 そして、それは特に何もおかしなことではないと、彼は語った。


 自分が何者であるかなど自分たちくらいの年齢ではわからなくて当然だし、これから社会に出てそれから決まるもので、そしてそれをどう自認するかもまだまだ先のことだと。

 自分の意味なんてものは死ぬときにでも考えればいいと。

 彼はそう俺に言って聞かせた。

 俺は何度も死んでいるのに一向に何もわからなかったが、勢いよく喋る彼の口上に口を挟むことは出来なかった。


 さらに、その社会に出るまでは同じ年齢の者たちと一緒に学校に押し込められて、他の者たちと自分との違いを知る必要があると彼は言った。

 俺くらいの年齢ならば高校に行くべきで、そしてそれが普通の日本人として普通のことだと。

 そして普通の高校生というものになって、それから自分の普通でない部分を重要視するのか、それともそれを普通の枠の中に押し込めて無理矢理普通の人間になるのかを決めるべきだと教えを受けた。


 この時は彼の言葉の印象が強く、間抜けにも俺は気が付いていなかったが――


 俺は確かに戸籍上は高校入学前の年齢だったが、実際には20年以上生きている。見た目もそれ相応なものだった。

 なのに彼は俺が中学三年生だという認識で喋っていた。俺は自分の年齢について何も言っていないのに。どう見てもそうは見えないはずなのに。


 もしもこの時に俺がその違和感に気付いていたら、その場で彼を殺しにかかっていただろう。

 だが今となっては、彼が俺のことを看破していたことに何も疑問はない。

 全能ではないかもしれないが全知ではある彼ならば、その程度のことは造作もないことだからだ。


 そう――


 この時に俺が出逢った人物こそは、廻夜 朝次めぐりや あさつぐ部長だ。

 この時は部がないので部長ではないが。


 そして彼は言った。

 もしも今、なにも目的が見いだせないのなら僕のところに来るといいと。

 そして自分で目的を見つけられるまでの仮の目的を与えてあげると。


 そう言い残して彼は去って行った。


 彼の姿が見えなくなってから、俺は彼がどこの学校に所属しているのかも聞いていないことに気が付いた。


 俺は彼に言われたことを考えながら華蓮さんの家に帰った。


 それからしばらくの間、この時のことが頭から離れなかった。

 何日か考え、俺は皐月組に頼んで身分を偽造し中学卒業の経歴を偽造し、御影理事長の伝手を使って美景台学園へ入学した。


 入学して少しして理事長から探偵事務所のバイトを紹介してもらい、一応在学中は足を洗おうと黒瀬さんと惣十郎に断りを入れて、それから華蓮さんの家を出た。

 とはいえ、住まいは皐月組に用意してもらったものだし、たまに惣十郎からの仕事を受けてもいたので完全にカタギだとは言い難いが。


 そうして高校生活が少し落ち着いてきた頃、廻夜部長が再び俺の前に姿を現した。


 彼は俺のことを覚えていないように振舞った。

 そして俺を部活に勧誘してきた。

 普段の俺ならばこんな都合のいい展開は絶対に怪しむのだが、彼の言葉を聞くうちに何故かそうするべきだと考え、俺はサバイバル部に入部をした。


 彼ほどの男が俺のことを覚えていないはずがない。そうでないのならピンポイントで見ず知らずの下級生である俺だけを勧誘しに来るはずがない。

 だが、彼には何か考えがあるのだろうと、俺も街でのことはなかったことにして合わせた。



 それからは普通に高校生活を過ごすことになる。


 周囲を観察して普通の高校生というものがどういうものかを知り、それに溶け込むことを努力してみた。それは概ね上手くいっていると自己評価していた。


 しかし、そんな安寧な――わかりやすく言えば退屈な日々を過ごしていると、また無意味なことを考え出す。


 考えるというか、思い出した。


 自分とは一体なんなのか――


 周囲の高校生たちとは何もかもが違う、この弥堂 優輝という異物について振り返って考えてみた。



 この日本で何不自由なく生まれ育ち過不足なく生かされていたのに、不必要な欲望が叶わぬことに不満を覚え、愛する両親や妹を不義理にも裏切って道を踏み外した。


 転げ落ちた先は異世界。

 剣と魔法で戦争をする全く異なった世界。

 それまでの価値観や常識が全く通用しない世界で、思い描いていたような幻想はこの身には宿らず理想を表現することは叶わず。

 それでも死にたくないから、流されるままに他人に刃物を突き立てた。


 だけど、ずっと強くはなれなくて、弱いせいで、大切となった人たちはみんな死んだ。

 死なせてしまった。


 異世界と戦争に適応していく中で、元の俺の人間性は削ぎ落とされ研磨されていった。


 残ったのは『戦争を終わらせる』という目的。

 それはセラスフィリアに与えられた役目であり、俺のせいで死んだ人たちの願いでもあった。

 自分のルーツが繋がらない、何の関係もない世界で、俺には他に何もすることがなかったから、それを続けることに縋った。


 自分よりも格上で数も多い、そんな敵に勝つために、俺に出来ることは多く無かった。


 諦めること。

 徹底すること。

 そして手段を選ばないこと。


 他人の生命どころか自分が生き残ることすら諦める。そうすれば何も恐れるものはない。

 誰も彼もを疑い一つの妥協もなく必ず殺す。何度殺されても殺しきる。

 そんなことするわけがない、そこまではやるはずがない。そんな常識や価値観による思い込みから生まれる隙をついて、法や教義にすら縛られない自由をアドバンテージとして得る。


 俺はほとんどの戦士よりも弱い。

 だが、そうすることで俺はあの世界の誰よりも戦争に適合した。


 必ず目的を達する。

 戦争を終わらせる。


 俺は本気でそれをするつもりだった。

 だけど、本気でそれが出来るつもりではなかった。


 どうせその途中で、俺も他の人たちのように死んでいくのだろうと思っていた。

 そうなるべきだと思っていた。

 それまで、全力でやりきろうと思っていた。


 だが――


 運悪く、俺は魔王の前まで辿り着いてしまって。

 運悪く、俺と戦うつもりが魔王の方には無くて。

 運悪く、俺は大殊勲を挙げさせられてしまった。


 俺は目的を達してしまった。


 しかしそれも束の間、次の戦争が始まる。


 戦争を終わらせる為にと俺を攫っておいて、散々使い倒した挙句、人々にはそもそも戦争をやめる気がなかったのだ。


 なんだったのだろうと空虚な思いを抱いた。


 俺という存在の無意味さは言わずもがな。


 そんな俺を生かす為に死んだ人たちの存在も、その生命の価値や意味は、一体なんだったのだろう。


 魔王を斃す為に多くの犠牲を払い、俺自身も何もかもを失って。

 しかしようやく辿り着いた先にいた悪の権化は戦いもせずに自ら首を差し出してきた。それまでの戦いの意味を俺は見失ってしまった。

 それを呑みこんでも人間たちはまた戦争を続ける。

 彼女たちは一体何のために――


 それでも、この意味のわからなさを問おうと、せめて最期まで戦い、それから死のうと。

 俺は元凶に向かい合った。


 だが、戦うことも出来ず、死ぬことも出来ず、目的すらも途中で奪われて、俺は元の世界へ還されてしまった。


 そうして戻った故郷は俺にとってはもう異国だった。


 俺はこの世界では異物だ。


 戦争に適合する為に完成させた俺の人格は、こっちの世界の社会にはもう適合出来なかった。


 戦争をすること以外に使えない俺という存在はこの世界では役立たずだ。


 平穏な安寧が魂を蝕んでいく。


 苦しみがないことが心苦しい。


 決して戦いが好きなわけではない。


 俺自身にはこの身の裡から湧き上がる欲望も何も無い。


 何も欲しく無い。

 何にも為りたく無い。

 何をしていいかわから無い。


 敵さえいれば――それと戦うことに生命を消費出来るのに。

 だけど、やはり目的がないから、誰とも敵対することが出来ない。


 やはり必ず敵がいるヤクザにでも為ればよかったのではないか。

 だが、裏社会の抗争は少し生温く感じた。

 あまり派手な殺し合いが出来ない社会の中では、戦死することは難しく、その前に逮捕されるのが関の山だ。


 それに、敵対し続けることで利益を上げ存続できるのが反社組織というものだ。

 それはあっちの世界の国家たちと何も変わらない。

 戦争を終わらせることが目的にならないし、そもそも終わらせるための戦争がない。


 だから、国家を相手に暴れ続けることにも意味がない。

 やはりどこかの紛争に参加するしかないのか。


 そんな考えを募らせながら、毎日毎日薄暗い部屋の天井に過去を映し続けた。


 そうして一年が過ぎようとした頃、ある日路地裏で、魔法少女と出逢った。


 水無瀬 愛苗。


 彼女とは一年も前から出遭ってはいた。

 初めて視た時に、一目でそれとわかるほどの化け物。

 あっちの異世界でもあまり視たことがないレベルの存在の強度。


 こっちの世界では、魔力は一般には無いものとされる。

 だからこういう天然モノの怪物が生まれても、本人も周りも気づかずに一般人として生きているのかと不気味に思っていた。


 しかしそんなわけはなく、彼女は魔法少女として、一般には認知されていない魔物と戦っていた。


 俺は一応サバイバル部の構成員として生きている。

 高校在学中の間は部の意向が俺の目的と為っていた。


 だから彼女の、魔法少女の存在は俺にとっては邪魔なものだった。

 それに俺の力というか経歴を誰にも知らせるつもりもなかったので、彼女と関わるわけにはいかないと考えた。


 しかし、それとは裏腹にこの一週間ほど――


 行く先々で彼女の戦いに巻き込まれ、俺は酷く迷惑をしていた。


 だが、それは建前だ。


 俺はきっと無意識に求めていたのだ。


 より危険で、より死亡率の高い戦場を。


 魔法少女と出逢う前も、日常の中に散見されるいずれ魔物が生まれそうな魂の残滓のこびりついた場所へ、素知らぬ顔で近づいたりしていた。


 俺はずっと自分を終わらせることの出来る戦場を探していたのだ。


 そして今日、この戦場へ辿り着いた。


 形の上では俺は水無瀬を助けに来た恰好だ。


 だがそんなつもりはもともとさらさらなく、ただの死に場所をつくるための口実に過ぎない。


 そのはずだった。


 なのに、今――







「――オマエは一体ナニモノだ……ッ⁉」



 記録の再生を切る。


 右手で握った聖剣の蒼銀の刃。


 今まではナイフほどの長さしか創れなかったはずなのに、今は長剣ほどになった剣身。

 それから眼を離して、驚愕に満ちたアスの顔を【根源を覗く魔眼ルートヴィジョン】に映す。



 本当にこんなはずではなかった。


 それなのに、ここでようやく、俺はそう為った。


 また『どうしてこうなった』とでも言えばいいのだろうか。


 本当は7年も前に、あの異世界に落とされた時に“そう”だったはずなのに、ずっと“そう”は為れなかったのに、なのにいまさらこんな場所で――



 あの時のセラスフィリアの声を記憶が再生する。


『ようこそ、✕✕さま』



 うるせえ死ね。


 あいつに言われると意地でも“それ”を否定したくなる。


 だが、ここでは俺は“そう”と名乗らなければならない。


 “そう”名乗ることで物語を始めなければならないのだ。


 セラスフィリアではなく廻夜 朝次がそう言ったからだ。


 だから――



「俺は――勇者だ」



 水無瀬 愛苗よりも――

 かつて出会った魔王よりも――


 誰もを凌駕するほどの魔力がこの身から溢れ出た。


 胸に刻まれた聖痕――『勇気の証明デモブレイブ』が熱く強く輝く。


 この力の根拠は――


 向けられる目的は――


 奮うことの意味は――


――水無瀬 愛苗を守ること。

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