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1章 魔法少女とは出逢わない

1章73 水の無い世界に愛の花を ①

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 その人間が何者であるか――


 それは如何様にして決められるのか――



 人は外に出て、他人に出会う。

 他人という比較対象を目にして、自分が何が優れているのか、何が劣っているのかを知る。


 その優劣についてどう感じるか。

 感じてそのことをどう思うのか。

 思ってどう考えるか。

 考えて何を決めるか。

 決めてどう表現するか。

 表現したモノに他人がどう反応するか。

 その結果をどう受け止め何を感じるか。

 感じて、そしてそこからまたどうするか。


 その繰り返しによって己という人間は作られる。


 また、自分だけでなく、人間という存在の上限も他人から知ることになる。


 最も優れた他人から人間の限界を知って。

 自分より優れた者から自分の限界を知る。


 人間というモノに何が出来て、何が出来ないのか。

 自分というモノに何が出来て、何が出来ないのか。


 この願いは叶うのか、叶わないのか。

 叶わないモノは願っても無駄だから。

 願いにも想像にも限界が出来上がる。


 その限界こそが己という牢獄の狭さだ。





『――一体彼女は何者なんですか……⁉』


 興奮したアスの口から出たその疑問に対する答えを俺は持っていなかった。


 だから空で戦う彼女の――水無瀬 愛苗みなせ まなの姿を視る。


 俺のこの眼は【根源を覗く魔眼ルートヴィジョン】という魔眼であり、普通は見ることの出来ないその存在の根幹となる魂――その“魂の設計図アニマグラム”を視ることが出来る。


 だが、それはただ魂そのもののカタチが視えているだけに過ぎず、その設計図に書き込まれている内容を読み解けるわけではない。

 だから結局こうして視ていても彼女が何者かなど理解することは出来ず、ただ彼女の魂の輝きに眼を眩ませながら、その強大な存在の威容を見上げることしか出来ない。


 そこから知れることは、己という存在の矮小さだけだ。



 水無瀬は真正面から正々堂々と大悪魔であるクルードとぶつかり合っている。

 身体の周囲に四つの盾を展開し、それでクルードの打撃を受け流したり、時には別に創り出した大きな盾と合わせて受け止めることもあれば、緩衝材のようにして自分から後ろに飛んで距離を取ったりもしている。

 そして攻撃も同様に複数展開した魔法球を使って細かくダメージを与えながら、相手が体勢を崩せば大技バスターを放つ。


 考えて工夫しながら戦っている。

 だが、それ以上に純粋な力でクルードに匹敵しようとしていた。


 さっきまでは同様の戦い方をしてもクルードに触れられれば攻撃も防御もあっさりと砕かれていた。今は違う。

 彼女の攻撃は当たればクルードにダメージを与え、防御も砕かれることなく機能している。


 ヒトの身で、彼女は大悪魔に並び、そして上回ろうとしていた。


 その光景を視た俺の胸には、単純な驚嘆と、そしてどこか『認めたくない』という気持ちがあった。



 本来、クルードのような大悪魔という存在は人間の勝てるような相手ではない。

 人間がどうこうするようなモノではなく、どころか戦いにすら成らず、単独で撃破し勝利するなど以ての外だ。


 俺の知る強い人間というと、真っ先に浮かぶのはかつての保護者であったルビア=レッドルーツと、かつての師であったエルフィーネだ。

 彼女たちは人間の中でも超越した部類に入る強さを誇っていた。

 だが、その彼女らでも真正面から大悪魔を殺せるかと言われると非常に難しいし、実際不可能であろう。

 彼女ら二人がかりでも無理だと思える。


 それを水無瀬は今やろうとしている。

 実現しようと必死に戦っている。


 俺はクルードよりも強大な存在を視たことがあるし、そいつをうっかり殺したこともあるが、それは相手に戦う気がなかったからであり、とても勝ったなどと謂えるものではない。

 そしてその殺しの実績を以てしても、とても勝てるとは思えないし、勝とうなどと発想することも出来ない。


 それは人間には不可能なことであり、俺という存在には不可能なことだということを、俺が知っているからだ。


 人間の限界、自分の限界。

 それを知っているから、そんなありえないことを願えないのだ。


 でも、彼女は違う。

 本気でそう願い、本気でそれを表現し、実現しようと実行している。


 彼女のチカラは願いを魔法によって表現することだ。

 おそらくそういった“加護ライセンス”を『世界』から能えられている。


 だから今こうして彼女がクルードを凌駕しようとしているのは、彼女が本気でそう“願えている”ことの証左となる。

 人間というモノの限界を知らず、自分というモノの限界を知らないから、そう願えるのだろうか。


 自分というモノの限界を知らないから、彼女は何者でもなく――


 まだ何者でもないから、これから何者かに、今から何者にでも為れる――


――そういうことなのだろうか?



 俺は、それがとても気に喰わなかった。


 あまりに見苦しく、この上なく品が無いことなので、軽々に口にすることではないが、心の裡では言える。

 俺は今ここで輝き成長しようとする彼女が気に喰わないのだ。


 思えば、初めて彼女と出遭った時から――

 彼女を眼にする度に不快になり、彼女と話す度に苛立つのは、彼女という存在を知ることで、強烈な劣等感が湧き上がるからだ。

 それに今気が付いた。


 いや、気がついてはいたのだろう。

 それを今俺は認めたのだ。

 認めざるをえないところまできてしまった。

 そのことでまた劣等感が刺激される。

 とっくに失くなっていたと思っていたそれが揺さぶられることで、さらにまたムカつくのだ。


 全ての存在は“魂の設計図アニマグラム”によって定義づけられている。

 出来ないことは出来ないし、出来ることだけを出来る。

 その規定は、規制は、努力や根性などで超えることは出来ない。


 想いのチカラによって奇跡を起こすなどありえない。

 そんなことがありえてはならない。


 現在の状況下において、俺は彼女の味方であると謂えるし、彼女もそうだ。

 そして悪魔どもは互いにとっての共通する敵である。


 だから、水無瀬が悪魔を上回って勝つのなら、それは俺にとって都合のいいことであり、逆に負けて得することなど一つも無い。


 そのはずなのに、どうしてかその結果が顕れることが非常に受け入れ難い。


 想いでそれを成せるというのならば――


――じゃあ、俺という存在は一体なんなんだ。


 認めたくない、ありえない、ありえてはならない――

 お前も負けてしまえと――


 そんな昏い情念が腹の底から湧き上がる。


 俺は今ここで彼女という他人を知り、己という矮小な存在を知った。

 己という卑小な存在を突き付けられ、彼女という超越した存在がわからなくなる。


 俺は戦場の中で戦いを忘れ、ただ水無瀬 愛苗を思い、ただ水無瀬 愛苗を見つめた――






「――それがオマエか⁉ 自分テメェじゃなく他のヤツを守ってエサをやる! そうして群れの上に立つつもりか……ッ⁉」

「ちがいます! エサとか群れとか、そんなんじゃない……っ!」


 愛苗とクルードは己という存在を魔法に、打撃にのせてぶつけ合う。


「そんなモンが何になるっつーんだッ! 誰もオマエを覚えない! 誰もオマエを称えない! 戦い勝利してもオマエはナニモノにもならないッ! 何のための闘争だッ⁉ 他のヤツらに何かもらってんのか⁉」


 存在の意味や意義の違い。


 その乖離は怒りすら生み出しクルードはそれを打撃にこめる。

 その怒りが己だ。

 己という存在で敵という存在を圧し返す。


「――ぅくぅ……っ⁉ 順番が、ちがう……っ!」


 愛苗もまたクルードの攻勢に踏みとどまり、己という存在をかけて立ち向かっていく。


「順番だとォ⁉」


 お互いに一歩も退かない。

 魔法少女と大悪魔は今や拮抗していた。


 今一度愛苗の盾とクルードの拳がぶつかる。


「順番がちがう……っ! 人に必要とされたくって……でも、先に優しくしてもらうのを待って、それからがんばるんじゃない……っ!」

「優しさなんぞで這い上がれるかァ!」

「優しくしてもらいたいから優しく……、優しくしてもらったらもっと優しく。それでずっと、私たちは……! みんな仲良く“おあいこ”していける……っ!」

「弱ェヤツと肩を並べてなんになる……ッ⁉」


 叫び合ってお互い距離をとる。


Lacrymaラクリマ BASTAバスターーーッ!」


 そして今度は魔力砲をぶつけ合った。

 二人の中間点で押し合う。

 だが徐々に愛苗の魔力砲がクルードのそれを押しはじめ、クルードにほど近い位置で破裂した。


「ガァ――ッ⁉ バ、バカな……⁉ オレサマが力負けした……ッ⁉」


 その信じられない結果にクルードは動揺する。


 その隙に愛苗は魔法球を創り出す。

 いつもの魔法球ではなく、大きく大きく広げていく。


「私が間違ってた……、応援してもらえないからもっと強くなれないだなんて……。みんなだって、いっしょうけんめいがんばってるんだ! 私が先にみんなを応援しなきゃ……っ!」

「な、なにをするつもりだ……ッ⁉」


 異常なほど膨らんでいく愛苗の魔法球に得体の知れなさを感じたクルードが叫ぶ。

 愛苗はそれを空へと高く打ち上げた。


「『世界』のキラキラ……、迷子の子……、みんな私に力を貸して……っ!」


 愛苗を覆う魔力オーラがより強固なものになり、そして彼女の瞳の輝きも一層強くなる。


『世界』に漂う誰のモノでもない魔素――それとの親和。

 自己の意識をそれらと同化するほどに協調させ広く広く拡げていく。


 自己の精神の拡大、己の外へ想いを反映させ、支配下に置く。

 大きく広がったその知覚領域は、美景市全土へと及んだ。


 そこら中の空間で魔素がキラキラと輝き、そしてその数えきれない粒子たちは愛苗の元へと向かった。

 集まったキラメキは胸の青い宝石に吸い込まれ、そして上空の魔法球がさらに大きくなっていく。


「バ、バカな……⁉ 何が起こっているというのです……⁉」


 その現象に動揺を露わにしたアスはハッとすると、勢いよく顔を“世界樹の杖セフィロツハイプ”へと向ける。

 杖の先の顏が枯れた声で苦しげに呻いていた。


「この空間だけじゃない……⁉ この地の龍脈の魔力までをも支配した……⁉」


 再び驚愕の目を愛苗へと向けると、彼女が両手を掲げる先の上空――

 そこに鎮座する魔法球は今や巨大な隕石のようにまで膨らんでいた。



 その星の光に愛苗は願う。


「恵みの雨……、渇いた大地に……、みんなを助けて……、世界に花を……っ!」


 愛苗の祈りに応えてピンク色の星は強く瞬き弾けた。

 そして世界に数えきれない光が落ちる。

 或いは、彼女の願いどおりに雨が降る。


 流星のように無数の軌跡を描いて結界を飛び出し、美景市の方々へと散った。

 それらの向かう先は――







「――ファッ、ファニフィィーッ!」

「ヤ、ヤスゥーッ! オドレらワシに向かってこんかいッ!」


 皐月邸前――


 一向に減らないゾンビの群れの前に人々はピンチを迎えていた。


 敵陣に飛び込んで暴れる辰のアニキはともかく、他の組員たちは普段の不摂生が祟り、一人また一人と体力の限界を迎えていた。

 そんな中、アンパン売りのヤスちゃんがゾンビに引き倒されると、そこに数体が群がってきて彼に喰らい付く。


 アニキは助けに行こうとするが、突出した位置にいる彼の前にはゾンビの大軍、すぐにそれを突破することは出来ない。


「ぐっ、ぐああああっ⁉」

「カンタ⁉ クソッタリャアーッ!」


 アニキの近くで戦っていた現場作業員の勘太も、腕に力が入らなくなってハンマーを取り落とすと、その隙を突かれてゾンビに群がられてしまう。


 危機に陥っていたのは彼らだけでなく――


「――チィッ……、弾切れかよォ……」


 空になった拳銃を投げ捨てて山元巡査長が警棒を取り出すと、その傍に青芝巡査が寄ってきた。

 二人背中合わせに守り合う。


「……二階級昇進……か。山さん、始末書だらけの我々にも出世のチャンスですよ!」


 ツーと冷たい汗を顔に流しながら青芝巡査がジョークを口にする。

 山さんは答えずにトレンチコートから煙草を取り出すと口に咥えて火をつけた。深く煙を吐き出す。


「そりゃ羨ましいのう、青芝ァ……。だが、こちとら生涯現場でドンパチよォ……! ワシは出世なんぞクソくらえじゃァ……! オメェ出世してワシの上司になったら給料上げてくれや」

「フッ、ご一緒しますよ。山さん……ッ!」

「ヘッ、オメェもバカだな。一生出世できねェぜ?」


 ニヒルに笑い合いつつ、しかし裏腹に警官たちは覚悟を決める。


 これだけの現場に応援が来ないということは市内のあちこちで同様の事件が起こっていると考えられる。

 これは最早特殊部隊を大量投入するか、それこそ自衛隊でも動員しないとどうにもならない。


「ったく、犯罪者相手かと思ったら、まさか化け物とはねェ……、やってらんねェや。だが、ま、人生そんなモンだろ……」


 そんな皮肉をこめて唾を吐き捨てようとしたところ――


 暗くなりかけていた辺りが一気に明るくなる。


「な、なんだァ……⁉」


 不審に思って空を見上げた瞬間、ピンク色の流星が降り注いだ。


「う、うわあああぁぁぁぁっ⁉」


 そこら中で驚きの悲鳴があがる。

 流れ星か隕石か、はたまた謎のレーザー兵器か。


 その正体は不明だが、化け物に殺されかけていたら謎の光に焼かれて死ぬことになる。

 そんな意味不明の最期を迎えたと誰もが感じたが――


「――あ、あれ……?」


 あまりの光量に目を瞑ってしまい尻もちをつくか、その場に立ち尽くす。

 そんな人々が何も異変のない自分の身体という異変を感じて恐る恐る目を開けた。


 身体を見下ろしてみると特に何ともないようだ。


「な、なにが起こって……って! ア、アニキィッ!」


 茫然としていたリュージが当たりをキョロキョロしようとして驚愕の叫びをあげる。


「なんやリュージ。男が悲鳴なんぞあげるんじゃあねェよ」


 それに答えたアニキは尻もちをついて膝をガクガクさせていた。

 ヤクザはブン殴れないよくわからないモノは怖いのだ。


「ゾ、ゾンビどもが……!」

「アァ? って、なんじゃこりゃあーッ⁉」


 リュージに倣って辺りを見回したアニキも驚愕の声をあげる。


「ル、ルンペンがいねェ……⁉」


 あれだけ通りに溢れていたゾンビたちは一体も居なくなっていた。

 まさしく綺麗さっぱりと消え去っていた。


「い、いったい何が……?」


 残された人々は茫然としながらピンクの流星が降ってきた空を見上げた。




 その現象が起きていたのは皐月邸だけでなく――



「――キャアアァァッ! イヤァーッ! マワされるぅーっ!」

「マキちゃん⁉ こんのっテメェ! 放せやコラァ――って、きゃああぁぁぁ⁉」


 ゾンビおじたちにグイグイ引っ張られてバニースーツからおっぱいボロンしたマキさんを救おうと、華蓮さんが拳を握った瞬間、突如降ってきたピンクの光がゾンビを消し去った。


「う、うわぁ、華蓮さんスゴイですね……、ビームとか撃てたんだ……」
「そんなわけないでしょ……」

「元ヤンなのに?」
「元ヤンをなんだと思ってるのよ……、つーか元ヤンでもねぇわ」

「じゃあ、今のは……」
「そんなの私にだってわからないわよ……」




 当然ホームセンターでも――



「――死ねオラァ……ッ!」


 モッちゃんが振り下ろした鉄パイプが、塞いだ入り口の隙間から顔を突っこんできたゾンビの頭頂部に直撃する。


 頭蓋骨に当たってガツンっとした手応えが返ってくると思っていたが、予想に反して鉄パイプはブニュリとゾンビの頭に沈んだ。


「…………」


 ゾンビの顔面が内部から異物に圧迫されたことにより両の目玉がズルリと眼窩から零れ、鉄パイプの食い込んだ部分からは見たことのない粘体がはみでてくる。


「オボロロロロ……ッ!」

「う、うわぁっ! モッちゃんがゲロ吐いたあ……⁉」

「あ、あぶねえ二人とも――」


 モッちゃんの嘔吐にサトルくんがびっくり仰天すると、二人の守る場所が手薄になり、入り口を塞ぐ商品棚が倒されそこにゾンビが殺到する。

 しかし、その瞬間にピンク色の光がホームセンターの壁と天井を通り抜けてゾンビを撃ち、彼らを守った。


「な、なんだあ……?」

「モッちゃん! ゾンビが消えたぜ……!」


 信じられないといった想いで、モッちゃんは入り口の防波堤に空いた穴から外を見た。



 これらの場所だけでなく、美景市の広域に渡ってピンク色の雨が降り注ぎ、侵入した全ての魔物を撃ち滅ぼした――




「バカな……、三千を超えるグールを一度に全て補足し、一度で全て撃ち堕としたというのか……⁉」


 アスの驚愕の声を弥堂はどこか他人事のように聞いていた。


 驚いているのは弥堂も同じで、映像に映っていた場所だけでなく弥堂の居るこの結界の中のグールも全滅していた。

 今も水路から新たなグールが湧いているものの、アスの口ぶりでは映像に映っていなかった場所を襲っていたモノも同じように討滅されたのだろう。


 この信じられない現象を起こした本人は空に堂々と浮かんでいる。


 彼女を見上げる目は全てが驚愕とそして畏怖を表していた。


 弥堂やメロだけでなく、アスも、そしてクルードさえも――


「――な、なんなんだ……ッ!」


 獣の王。

 その口から出る声が僅かに上擦っている。

 その表情も今までのように余裕たっぷりで見下したようなものではなく、どこか焦りさえ含んだものに変わっていた。


「テメェはなんだ……ッ⁉ 名を……! 名を名乗れ……ッ!」


 空に吼える獣の敵意に彼女はもう揺らがない。


 傷ついた小さな身体。

 ボロボロのコスチューム。

 何度倒れても立ち上がり、何度でも立ち向かう。

 そしてついには敵を上回る。


 その姿はまるで物語の英雄のようで。

 その姿はまるで――


「魔法少女ステラ・フィオーレ! みんなの願いを咲かせる花! それが私です……っ!」

「オレサマは獣の王……ッ! アンビー=クルードだッ! テメェを喰ってオレサマが魔王になる……ッ!」


 お互いの全てを晒して、それをぶつけ合う。

 退く道もなく、武器を下ろす機も過ぎた。


 二人の決着はここでつけられる。






「――皆さん無事ですか?」


 居酒屋の店内に戻ってきた黒瀬が被害状況を確認した。


「無事だよー! いやー死ぬかと思ったねー」

「いや、マキちゃん。アナタあんまり無事じゃないわよ……」


 元気いっぱいに返事をするバニーさんを華蓮さんがジト目で見遣る。


「へ? ワタシどっかケガしてます?」

「ケガっていうか胸! いい加減隠しなさいよ」


 慌てて自分の身体を見下ろすマキさんへ呆れ気味に指摘した。

 ゾンビおじに集られて乱れた彼女の衣服はそのままになっており、お胸がボロンっと全開になっていた。


「大丈夫ですよ。隠れてます!」

「それ……、隠れてるって言うの……?」


 自信満々に胸を張るマキさんの胸部を華蓮さんは胡乱な瞳で見る。

 肌色全開の彼女の胸の最も見えてはいけない部分には、ハート型のシールのようなものが貼られており、確かにその部分は隠れていて最低限のコンプライアンスは守られているという議論の余地はあるかもしれなかった。


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「どうせならエロカワイイ方がいいかなって思いまして……って、あれ……?」

「ん? どうしたの?」


 喋っている途中で何かに気付いたように視線を動かしたマキさんを訝しむ。


「どうしました? マキさん」


 まさかまだ敵がいるのではと黒瀬も彼女の様子を窺った。


「いや、ほら……あれ――」


 彼女は店内の床を指差す。

 そこにあったのは――


「――こんなところに花なんて咲いてましたっけ?」


――店の床から芽が飛び出しその先端についた莟がわずかに開いている。


 小さな花がそこにあった。
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