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1章 魔法少女とは出逢わない
1章57 陰を齎す光 ⑥
しおりを挟む「や、殺りやがった……」
ジュンペーが呆然と呟く。
彼以外の他の者たちも、顔面と腹部を鎌で串刺しにされたボラフの姿に顔色を悪くしている。
人間なのであれば生きているはずがない。
「ヤ、ヤベェ……、ッベーよ……」
仲間がうっかり人を殺っちまったことでサトルくんが取り乱す。
「モ、モっちゃん、ビトーくんがカンベツ送りになっちまう……」
歯をガチガチと打ち鳴らし、膝をガクガクと震わせてビビリ散らかしながらサトルくんはモっちゃんに縋った。
「モっちゃん……?」
しかし彼からは返事がない。
不審に思ってモっちゃんの顔を覗き込むと、他の者たちとは違い彼は至極落ち着いた表情だった。
「モっちゃんっ、落ち着いてる場合じゃねェぜ! ビトーくんがとうとう殺っちまったよ……!」
「あん?」
肩を揺さぶられるとモっちゃんは片眉を上げる。
「なんだよサトル? 落ち着けよ」
「いや、だって……、あれ……っ!」
サトルくんは血相を変えてビルの壁に磔になった黒い人型を指差す。
モっちゃんは得心した。
「あぁ。ヤベーよな」
「だよな⁉ どうすっべ!」
「ビトーくんクソツエーなっ!」
「そこぉっ⁉」
今もボラフへ油断のない視線を向けながら構えを解かない弥堂へ称賛の意を述べると、サトルくんはビックリ仰天した。
「しっかりしてくれよモっちゃん!」
「なんだよ、さっきからウルセェな」
「だって、死んじまっただろアレ!」
「それがどうした」
「ビトーくんパクられちまうぜ⁉」
「いや大丈夫だろ」
「い、いや、だって……」
「バケモンぶっ殺したってパクられやしねェだろ」
「あ、あれ、ホントにバケモンなのか……? もし人間だったら……」
「バーカ。よく見ろサトル――」
「えっ?」
狼狽えるサトルくんに今度はモっちゃんが死体を指差してみせる。
「――派手にぶっ刺さってるのによ、血ィ出てねェだろ?」
弥堂は磔にしたボラフを変わらず鋭い眼で視続けている。
それが1分、2分と過ぎたところで――
「――まーだ油断しねェのかよ。おかしいんじゃねェの? オマエ」
死体からバカにしたような声が聴こえ、弥堂は舌を打った。
周囲は騒めく。
すると、磔になった黒い体の表面を滑るようにして、ボラフの左の腿に三日月型の口が移動してきた。
「殺せたと思ったかァ?」
少し遅れて左右の目も腰あたりに滑ってくる。
「バァァァァカッ……! ギャハハハハ……ッ!」
身体の上を3つの三日月がシュルシュルと滑りながらバカ笑いをあげる。
周囲の者たちは先ほど弥堂が残虐行為を行った時よりも更に顔を蒼くした。
一頻り哄笑をすると、ボラフは自分の顔面と腹を貫いて壁に刺さっていた両腕をグポッと引き抜いた。
そして、人間たちがどよめくよりも速くその姿が消える。
(――速いっ……!)
弥堂の眼にはボラフが真っ直ぐ自分に向かってくる姿が映っている。
だが反応が遅れる。
急接近して鎌から元に戻した腕での打撃。
初撃と次まではどうにか受け流すが三発目を打ち込まれる。
「――っ!」
弥堂はもらった打撃の威力に逆らわず、自分から飛んで地面を転がりダメージを減衰させることに努める。
しばらく転がってから足をつけ、残った指向性を利用して膝立ちになるとすぐにボラフの方へ視線を向けた。
「ハッ――これまでに見せたのがオレの全部だと思うなよ?」
弥堂へ打撃を打ち込んだ腕を伸ばしたままその拳を開くと、掌に移動してきた口を使ってボラフは嘲る。
(希咲より少し速いか……)
先週学園の文化講堂で戦った彼女と比較した。
希咲が最後の立ち合いで見せた消える動きほどではないが、その前に打ち合っていた時の速度――あれより少しだけ上で、それは弥堂の身体能力で対応出来る範囲を超えていると評価する。
そもそも悪の怪人の実力を測るための物差しがギャル系JKになっている時点でおかしいのだが、今は戦いに集中するべきだと、弥堂はその気づきを頭から追い出す。
立ち上がろうとして、僅かな眩暈を感じ、そのままの姿勢に留める。
「キッツイだろ? そもそも存在としての格が違うんだ。どれだけ小賢しいマネをしようと、どれだけ頭が狂ってようと所詮はニンゲン。オマエらの耐久度なんてそんなモンだ」
「…………」
弥堂は答えない。
それはただの事実であり、わざわざ返答する必要がないからだ。
「――な、なんだありゃあ……」
群衆から気味悪がる声が漏れる。
声の出処には眼を向けず、弥堂はボラフの姿を視た。
「ア~ン……?」
ボラフの方は声に反応し掌を群衆へ向けて、声の主を探している。
「き、気持ち悪ぃ……」
尚もあがる不快を訴えるその言葉は、ボラフの手に向けたものではない。
黒い人型の顔と腹。
そこに空いたままの空洞に向けられたものだろう。
先程まで自身の鎌が突き刺さっていた顔と腹からそれを引き抜いたのだが、異物の無くなったそこは切り口がそのまま残っていた。
(まるで粘土だな……)
粘土にヘラを突き刺してそれを引き抜いた痕。
それをイメージする。
ボラフは群衆に興味を失くしたのか、探すのをやめてまた弥堂の方を向く。
しかし――
「――バ、バケモノ……」
またも聞こえてくる嫌悪の声にピクリと肩を跳ねさせる。
「さぁ、こっからまだ何かできんのか? 好きなだけやってみせろよ。どうせムダ――」
だが、気にしないようにしたようで弥堂の方へ向ける目を両胸に移動させて睨みつけてきた。
「う、うわ……、変態だぜモっちゃん……っ!」
「…………」
サトルくんが隣のモっちゃんにそう話しかけると、ボラフは言葉を止めてウズウズと身を揺らした。
そしてバッと前屈姿勢をとると自身の手で両の尻たぶをガッと開き、それによって拡がったスペースに口を移動させると、ガチガチと歯を打ち鳴らしてサトルくんを威嚇した。
「うっ、うわぁぁぁーっ! へ、変態だぁぁーーっ!」
その異形の姿に彼が悲鳴をあげるとボラフはプルプルと震え、そして――
「――ウオォォォォォッ……!」
両手を腰だめに構えて魔力を高めた。
「ハァッ――」
気合いを発すると同時に顔と腹の裂傷を繋ぐようにしてボラフの上半身が二つに裂ける。
左右に分かれた身体はグニュゥンっと変形してからバチンっと打ち合うように合体した。
そしてボラフは身体を反転させ、背後にいたニンゲンどもにその異様を見せつけた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ⁉」
「うわぁぁぁぁぁぁっ⁉」
「ひぃぃっグロイィッ⁉」
路地裏の青少年たちは、お父さんの部屋にあった何も書かれていない真っ白なDVDを再生してみたら、きっと制作者さんたちがうっかり修正をするのを忘れてしまったに違いない特殊な映像作品を見てしまった時のショタのように悲鳴をあげた。
ボラフが高めた魔力を用いて精巧に己の躰で模ったのは、アワビだった。
「オラオラァッ! ビビってんじゃあねェよフニャチンどもがァッ!」
「ぎゃあぁぁぁぁっ⁉」
恐れ戦く人間たちの反応に気をよくしたボラフはさらに魔力を解放する。
楕円に開いた口のようなものの内部下方にポッカリと空けた穴を蠢かせ、青少年たちを悪の道へ妖しく誘う。
「どうしたオラァ! ぶちこんでみろよこのヤロウッ!」
そしてさらに楕円の上部から元の丸い頭部を生やす。
目口揃った顔面をギュインギュイン回転させて、酸いも甘いも知らぬ若造どもを怯えさせた。
「うわぁーーっ! うわぁぁーーーっ! モっちゃぁーん……っ!」
「アワビです! これはアワビですから!」
これはアワビです。
「――う、う~ん……、なんだ……?」
数々の悲鳴が轟いていると、気絶していた馬島が目を醒ます。
一体なにがと彼が視界を回すと、目の前には巨大なアワビが現れた。
「ギャアァァァァッ⁉ な、なななな――」
「ヘイヘーイッ! そこのホスト野郎ッ! 女の人生を壊すクズがよ! テメェちっと生まれ直してみろよ!」
「いやあぁぁぁっ⁉」
ボラフは貝類に酷似した楕円の口をクパァっと開くと、下の方に空いていた穴の中にプチュっと水音を立てて、恐怖でガチガチに身を硬くした馬島を頭から吞み込んだ。
一切の抵抗もなくズチュゥゥっと馬島の全てが奥まで吸い込まれていった。
「うわぁぁっ⁉ 馬島くんが喰われたぁぁっ⁉」
「ぎゃあぁぁーーっ!」
そのグロテスクな営みに人々は我先に逃げ出そうとする。
「ブハハハハーッ! ドコに行こうというんだい、ボウヤたちィっ⁉」
「く、くるなぁーーっ!」
ボラフはアワビの下に生えた二本足をバタバタと動かして、愚かなニンゲンどもを激しく追い回した。
グロテスクな姿をした怪物の前ではもはや“スカルズ”も“ダイコー”もなく、不良たちは身を寄せ合って怯えるばかりだ。
「ほぉら、クリックリなボクの頭を撫でなよぉ~っ」
「うわぁーっ、コワイッ!」
「なぁにビビってんだぁ? オマエのカノジョのはもっとグロイだろぉ~?」
「や、やめろぉっ! カナはそんなんじゃねェ……っ!」
「ヘイヘ~イッ! バッチコイ、バッチコ~イッ!」
「モ、モっちゃん助けてくれぇ!」
楕円の口をグッパグッパ開閉し、上端の頭部をギュインギュイン回転させてひたすらに男たちを攻め立てる。
彼らの狂乱ぶりにさらに気を良くして、ズイっとアワビを近付けた。
「ママよぉ~っ! ワタシがアナタのママよぉ~っ!」
「や、やめろぉーっ!」
「ママのナカにお帰りなさい!」
「うわーっ! うわーっ! いやだぁーっ!」
気分が高まったボラフはアワビをブンブンっとヘドバンさせながら振り回す。
「ヒィッ……⁉」
「なんだこれ……⁉」
「きたねぇっ!」
「キメェッ!」
謎の粘液が周囲に飛び散る。
人々は自身の顏や身体に付着した透明な液体に手で触れてそれを覗き見るとさらに顔色を悪くした。
この汁がなんなのかは彼らにはわからない。
だが、透明ではあるものの所々白濁して泡立ったようなその様に、ヤツが本気であるということだけは感じ取れた。
そうしてボラフがアワビバンギングを繰り返していると、楕円の中の穴からズルリとナニカが出てくる。
それは革靴を履いた人間の足首だった。
「マ、馬島くんが出てきたぞ……!」
「く、くそっ、引っ張れ……っ!」
それを見た数名の男たちが救助活動にとりかかる。
謎の粘液に顔を顰めながら馬島の足首を掴んで引っ張る。
「ぐっ……、うおぉぉぉ……っ! 抜けねェ……っ⁉」
しかし、馬島の全身はアワビにグッポシ咥えこまれていてビクともしなかった。
男たちがもっと多くの人数に手伝うよう呼びかけようとすると、アワビがピクリと何かを感じ取ったように反応した。
「ウ――」
ピタリと動きを止めて大人しくアワビから声がポツリと漏れる。
「――ウマレル……」
「は……?」
人々の困惑の声を余所にまた激しく暴れ出した。
「ウマレルゥーッ⁉ ウマレルワァーーーッ!」
「うっ、うわあぁぁぁっ⁉」
取り乱したように叫びながら周囲を走り回り、馬島を引っ張りだそうとしていた男たちを振り払う。
やがて一頻り走り回ったボラフは白目を剥いて止まっていた弥堂の前で立ち止まり、彼の顏にアワビからはみ出した馬島の足を近付ける。
「先生ッ! 大変です! 足から出て来てしまいました! このままでは危険です! 処置を! 処置をお願いします……っ!」
楕円の口をグッパグッパさせながら弥堂の顏にグイグイとそれを押し付けてくる。
顔に付着した粘液をグイっと拭った弥堂は額に浮かんだ青筋をブチィっとさせながら、馬島の足裏に怒りの“零衝”を叩き込んだ。
「――オゴォ……ッ⁉」
ゴポンっと勢いよく馬島がアワビの体内に押し戻されると苦悶の叫びがあがる。
「オ゙オ゙ォ゙オ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙ォ゙ォ゙っ……ォ゙オ゙ォ゙ォ゙ッ……!」
「ギャアァァァァッ⁉」
体内を通って奥まで進んだ馬島は、ボラフの身体の反対側の体表をボゴォっと膨張させる。
伸びた体皮からパンストを被った変態のようになった馬島の顔が浮かび上がった。
そのまま皮を貫通することはなく、反動で中に戻された馬島はボラフの体内を跳ねまわり、その度にあちこちがボコォっと膨らむ。
その異様さに男たちが腰を抜かしているとやがて――
「――ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙……ッ゙! ヴ、ヴマ゙レ゙ル゙ゥ゙……ッ゙!」
――アワビの口からズルリと、白目を剥いて粘液塗れになった馬島の頭が出て来て、男たちの前にボチャっと落ちた。
「うわぁぁっ⁉ 馬島くんが産まれたぁぁっ⁉」
「ぎゃあぁぁーーっ!」
「アワビです! これはアワビですからぁ……っ!」
これはただのアワビです。
「…………」
倒れた馬島の身体に尚もアワビから零れ落ちる汁がビチャビチャとかかる。
人々はもはや悲鳴も出すことも出来ず、ただその光景を茫然と見ていた。
「ウ、ウオオォォォォッ……!」
生命の誕生の歓びと苦しみを噛み締めるようにボラフは叫び、ギュオっと圧縮するようにアワビの形を変え、そして元の人型に戻る。
変身を完了させたボラフはバッと両腕を広げて天を仰ぎ見た。
ドン引きの周囲にはやはり声も無い。
ブルリと、背筋が震える。
ボラフの躰に歓喜が廻る。
実のところを言うと、本当はこんなことをしている場合ではなく、真面目にやらなければならないことがあり、真面目にあの狂犬ヤロウもぶっ殺してやろうと思っていたのだ。
しかし、どうにも抗いがたい本能のようなものがあった。
周囲のニンゲンたちから伝わる様々な悪感情。
嫌悪、不快、悲壮、憤怒……。
それらが『世界』を形成する周囲の霊子に触れ、魔素と結びつき、空間を形成する霊子を伝わってボラフの身に染み渡り、その根幹となる魂を震わせる。
今。
ただこの瞬間が全てだった。
今、確かに自分はニンゲンたちに迷惑をかけている。
その事実がよりいっそうの昂りをボラフに齎し、そして次なる行為に駆り立てた。
「――Foooooooッ!」
両の拳を握りしめ膝を曲げてボラフは雄叫びをあげる。
指を二本、元の位置に戻った口で咥えこむとピィィッと口笛を吹いた。
すると、何もない虚空に向かってピョンピョンしていたネズミさんがハッとする。
そして元気よくボラフのもとに駆け付けると、その隣に二本の後ろ足で立った。
「オーケイィィィィーーッ!」
両手を頭の後ろで組み、中腰になり、己という存在を表現する。隣でネズミさんもポーズを真似た。
そして、悪の怪人としてのポテンシャルの総てを発揮させたレベチの腰振りを、有象無象のニンゲンどもへと見せつける。
その隣ではネズミさんもヘコヘコと腰を一生懸命前後させていた。
「オラオラァッ! 極上のアワビを目の前にしてもチャレンジできねぇヘタレギャングどもがよぉ! だったらオレがオマエらにぶちこんでメスにしてやるよぉっ!」
「うっ、うわぁぁぁぁっ⁉」
その腰振りのあまりのキレのよさに本能的恐怖に支配された人間たちはまた逃げ出そうとする。
人外たちも本能に従いそれを追いまわした。
「やめてくれーーー!」
「オーーーケィッ!」
「たすけてくれーー!」
「イェアッ!」
「だれかぁーーーー!」
「アォッ!」
「ヘンタイのバケモンだぁ!」
「カモッ!」
「おまわりさーん!」
「パーリナイッ!」
阿鼻叫喚の地獄となったスケボー通りに人々の悲鳴が響き渡る。
「HEY HEY! よう、ニイちゃん! そんなにケツを抑えてどうしたぁ⁉ 緊張してんのかァ? 掘られんのがイヤなら男を見せてみろよ。オメェのユルユル彼女じゃあ味わえねえ締め付けで天国に連れってやるぜェ⁉」
「いやだぁ―――ッ! カナっ、カナァ……ッ!」
這う這うの体で逃げようとする男の腰をガッと掴み、カクカクカクと高速で揺さぶってやると、男は泣きながら女の名前を叫んだ。
「あーら、おニイさん素敵な黒光りじゃない。こんなにパンパンに腫らしてぇ……、ステキなカリね……? もしかして期待しちゃったぁ? 今から一発イっとく?」
「この、テメェッ! 触んなァッ!」
続いて負傷したジュンペーに絡むと、その辺から拾った粘液を右手で彼の坊主頭にネットリと塗りこみ、左で顎の下をカリカリする。
怒り狂ったジュンペーは拳を振り回すがボラフはそれを余裕で躱し、反復横跳びでさらに煽った。
絶好調のボラフは次の獲物を求めて激しく首を振る。
「う、うわぁぁ……っ! 助けてモっちゃぁーんっ!」
「こ、このヤロウッ! サトルから離れろ……っ!」
すると、ゴミクズーに摑まったサトルくんを見つける。
上にのっかったネズミさんにユッサユッサと腰を揺すられ泣き喚く姿に、ボラフは両目の三日月をデローンっと垂れ下げて愉悦を浮かべると、またも魔力を高めていく。
「――Foooooooッ!」
黒い人型のシルエットを蠢かせ、またもその姿を変える。
今度は上半身はそのままに、下半身が粘土を丸めたように一つになる。
胸から昆虫のような細い足を四本伸ばし、お尻をギュイーンっと後ろに伸ばすと、両腕を鎌の形にした。
そして、肘を曲げて前方に構えた鎌をシャカシャカと鳴らしながら、四本足を忙しなく動かしてサトルくんに迫る。
「ホラホラァ~ッ、カマキリだぞォ~⁉」
「うっ、うわぁぁぁっ⁉ なんか来たァァァッ⁉」
先程カマキリ呼ばわりされたことを根に持っていたのか、ネズミさんに押さえられたサトルくんに黒光りした鎌を振るう。
「や、やめてくれェェェッ!」
「あ、あぁ……ッ⁉ サトルのリーゼントがァァ⁉」
仲間の上に乗ったネズミをどかそうとしていたモっちゃんたちの前で、凄惨な光景が広がる。
ボラフが素早く鎌を動かすと、サトルくんの不自然に伸ばした襟足が刈り上げられ、ビッとキメていたリーゼントもバラバラに切り刻まれた。
「いっちょアガリィッ! お疲れさん!」
威勢のいい理髪店の店主のようにボラフがお客様の服についた髪を払うと、ネズミさんがサトルくんの腋の下を持って彼の仲間たちの前に差し出す。
「…………」
「…………」
仲間同士ジッと見つめ合い、それからモっちゃんたちはスッと目を逸らした。
サトルくんの髪型は気合いの入ったマレットヘアから、職人気質な硬派さを醸し出す角刈りにイメチェンされてしまっていたのだ。
「…………」
「…………クッ」
時折肩を小刻みに震わせる仲間たちをサトルくんが死んだ目で見つめ続ける。
そんな彼らを捨て置き、ボラフは高く空へ飛び上がった。
クルクルと身を回転させながら身体を丸められた粘土のように変化させ、それからポンっと人型に戻る。
そのまま地上に落下していき、地面で待っていたネズミさんの背にダンっと跨った。
この場は彼のステージと化した。
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