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1章 魔法少女とは出逢わない

1章54 drift to the DEAD BLUE ⑤

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 パンパンと手を叩いて蛭子は全員の注目を集める。

 落ち着かせる為に着席させたメンバーたちが彼の方を向いた。


「つーわけで、本家に押し付けられてオレたちはここをどうにかしないとならねェ」


 改めて現状の自分たちのことについて話を再開させる。

 先程まで騒いでいた仲間たちは今は静かに聞く態勢をとっている。


 すると、蛭子が続ける前にさりげなく目配せをしてきた希咲が「はい」と手を挙げた。


「アン? どうした 七海」

「ん。あのさ、本家の人たちに嫌われてるのはわかったんだけど、でも向こうがしてくることってちょっとショボくない? なんか陰湿っていうか。すごい権力持ってるんならもっと強引なことも出来るんじゃないかなーって思った」

「あぁ……」

(――そこも説明しといた方がいいか)


 蛭子は質問をしてくれた希咲へ視線で謝意を伝え、回答をする。


「それはな、強引にやりたくても出来ない理由があるからだ」

「どういうこと? 実家を出てるのにそれでも父さんは立場的に弱いんでしょ?」

「それはな郭宮くるわみやがいるからだ」

京子みやこ先輩?」


 生徒会長の名前を出しながら首を傾げる聖人に蛭子は「そうだ」と頷いてやる。

 それから眉間に皺を寄せて一層に難しそうな顏をした。


「いいか? ここからさらにややこしいぞ? 覚悟して聞けよ?」

「え? な、なんかそう言われると構えちゃうね……、あはは」

「さっきオレは、ここの仕事を本家に押し付けられたと言ったが、厳密には違う。本家に押し付けられたということになってる。ちなみにこれ表では言うなよ?」

「え、えっと……?」

「事実としてはオレたちは京子に頼まれてここに来た。だが形式上はそうじゃねェってことだ」

「ごめん、よくわかんないや」

「要はメンツだよ。本来なら郭宮から紅月本家に卸すはずの仕事だが、それをすっとばして郭宮の当主が出奔して紅月の跡目の筋から外れた聖人に直で役目を言い渡した。それじゃメンツが立たねェから、書類の上では郭宮が紅月本家に命じて、本家が担当者としてオマエを選んだ。そういうことになってんだよ」

「ず、随分ややこしいことしてるんだね……」

「だからそういっただろうが」


 曖昧に苦笑いをする聖人に嘆息し、ゴキっと首を一つ鳴らして蛭子は続ける。


「他所でもし聞かれても本当のところは話すんじゃねェぞ? 戦争になっからな?」

「そんなに大事なことなの⁉」

「古い業界の古い家には面子が重要なんだよ。アホくさいけどな」

「本家の人がやりたいんなら喜んで譲るのになぁ」

「……オマエ、それも絶対に言うんじゃねェぞ? ケンカ売ってると受け止められるからな?」

「えぇ⁉」

「それに実際のところ本家の連中はここの仕事は絶対にやりたがらない。厄物件だからなここは」

「や、やりたくないことを僕らがやってるのに、それも気に入らないんだ……。無茶苦茶だよ……」

「言ったろ? ヤクザみたいなもんだってよ。面子が大事なのも、イチャモンの付け方もまんまそっくりだぜ」


 これには全員同意なのか苦い表情を浮かべる者がほとんどだった。


「まぁ、それはいいとして。次は力関係の話だ」

「力関係?」

「あぁ。業界でも大きな力を持っていて、京都でも影響の強い紅月家。だがそれでも紅月は業界最大手とまで云えるほどじゃあねェ。上には上がいる。その上の一つが郭宮家だ」

「うん、そうだね」

「郭宮はガチの最大手だ。最古の家の一つでもある。紅月は元々は郭宮に仕えてそこで手柄をたてて取り立ててもらったからここまで成り上がれたんだ」

「うん。父さんにも母さんにも郭宮には絶対に無礼をするなって口を酸っぱくして言われてるよ。そんなに心配しなくても京子先輩いい人だから、ちょっとしたことくらいじゃ怒らないのになぁ」

「いや、それはたまたまアイツが“ああ”なだけで、身分的にはガチだからな? 普段の学園ではいいけど、業界の奴がいる前じゃちゃんと畏まれよ? これもさっきのメンツの話と一緒な?」

「わかってるよ。蛮も心配性だなぁ」

「オマエが頼りねェからだよ……」


 能天気に笑う主君様に欠片も安心感を持てない蛭子は疑いの目を向けるが、今はそのことを追及しても仕方ないと切り替える。


「まぁ、それは今はいい。そんなことより、郭宮の事情はさすがにわかってるよな?」

「えっと、うん……、大変なんだよね?」

「オマエな……」


 せっかく気を取り直したのに聖人のフワフワした答えに脱力してしまう。


「兄さん兄さん」
「ん? どうしたの? みらい」

「郭宮は業績不振なんですよ」
「え? そうなの?」

「はい。赤字続きで倒産寸前なんです」
「えぇっ⁉ それは大変だ!」

「ちげェよっ!」


 怒鳴り続けて会話を遮ると馬鹿兄妹が揃って顔を向けてくる。


「いや、完全に違うってわけじゃねェけど。確かに金はねェが、そういうことを言いたいんじゃねェ」

「他にも大変なことがあるってこと?」

「他っつーか、なんで火の車になったかってことだな」

「えーっと、あれだよね? 昔に失敗しちゃったんだよね?」

「お? 珍しくわかってんじゃねェか」


 蛭子は意外そうに目を丸くする。


「言ってみろよ」

「美景に起きた昔の災害のせいだよね? それで復旧にお金かかりすぎちゃったって」

「あー……、惜しいな。郭宮の失態はそのもう一個手前の話だ」

「手前?」

「なんでその災害が起きたかってことだよ。つーか、それがわかってたらオレの最初の質問に答えられたか……。もういい。災害が起きたのはこの島の管理をミスったからだ」


 表情を真剣なものに改める。


「約15年前、正確にはもう18年になるか。そろそろ約20年って言うようにした方がいいかもな。ともかく、昔に美景市で地震と津波の大災害が起きた。街が半壊するほどの」

「……うん」

「世間的には運悪く起こった災害だが、業界的にはそうじゃない。そういうことが起こらねェようにって大昔から代々ここを管理してきたのが郭宮家だ。その為に美景を領地にしてたんだからな。その管理をミスったってんならあれは起こるべくして起こった災害ってわけだ」

「そう、らしいね……」

「そいつの落とし前として当時の郭宮の当主――京子の姉ちゃんは引退して当時1歳だか2歳だかの京子が継いだ。握っていた実権のほとんどは手離すことになり、それのほとんどを対抗勢力にもっていかれ、そして京を半ば追われて本拠地を美景に移した」

「……確かに起こってしまったことは大きいけど、でも災害なんだし……。そこまで責任をとらされるものなの?」

「バカやろう。世間的には悲劇の災害。業界的には郭宮の失態。でもそれも建前で、実態は政争だ。郭宮はハメられたんだよ」

「え? どういうこと?」

「つか、オマエなんでこれも知ら――」

「――蛮、蛮っ」


 眉を顰めて聖人を叱責しようとする蛭子を、希咲が口を挟んで止めた。


「なんだよ七海? って、まさか……、これも?」

「そ。まだ言うなって。紅月パパが」

「そっか。じゃあ、この話はまた今度な」

「えっ? なんで? 教えてよ!」

「ダメよ」

「だ、そうだ。七海がダメだと判断したんならまだ教えられねえ。諦めろ」

「僕の信用なさすぎじゃない⁉」


 自分がいつ何を知るべきかを自分で選ぶことが出来ない現実を知り、聖人は頭を抱えた。


「兄さん兄さん。ちなみに、わたしは知ってます」

「えぇ……、あとでこっそり教えてよ」

「七海ちゃんがダメって言うからダメです」

「やっぱりそうだよね……」

「この話を兄さんに教える時は、京都と戦争しても確実に勝てるだけの準備が出来てからですね。知った途端に兄さんは京の都に火をつけに行ってしまわれることでしょう」

「そんなことしないけどマジでなにがあったの⁉」


 気になって仕方がない様子の聖人を無視して一同は話を進めてしまう。


「てなわけで郭宮は没落寸前だ。京の本邸は残っちゃいるがそれ以外のほぼ全てを失った状態であっちに居たら殺されちまうからな。当主になったばかりの京子は美景に落ち延びてきた」

「殺されるって……」

「大袈裟な話じゃねんだわ。かつては陰陽府の要職に一族の者を多数配置していた郭宮だったが、そいつらも全員クビだ。敵方の影響力が強くなり過ぎた。あのままあそこにいたら暗殺されても揉み消されちまっただろうし、あちらさんもそのつもりだったんだろうな。だから京を離れてここに来た」

「そんな……、でもそんな犯罪を強行できるんなら美景も危ないんじゃ……?」

「そこは関西と関東の勝手の違いだな。関西はまだ陰陽府の影響力があるが、こっちは政府や警察の方が強い。これは業界自体の衰退の結果の一つだな」

「そっか。よかった……って言っていいのかな?」

「いいんじゃね? 郭宮もやられっぱなしじゃねェしな。こういうことがあってもいいようにって準備してたんだよ。自分の領地だったここを守護役の御影に領地として下賜しておいて、政府や警察とのコネを作るために業界を経由しないで独自に無償で御影に手伝いをさせてたんだ。何十年も前からな。だから美景に亡命するみたいに逃げてこられて、その後も敵から表立って手を出されないんだ」

「ふわぁ……、なんか大人の世界って感じだね」

「だが、それでも逆転の一手にはなってない。こっちで守ってもらうために資産のほとんどを災害復旧に出しちまったし。あとは、こっからは今回のオレらの仕事とはあんま関係ねェんだが。美景は元々は千葉県だった。それが災害後は何故か東京都に組み込まれちまった。おまけに災害復旧のどさくさでやたらと外人が這入り込んできて……って話が続いてくんだが聞くか? ちなみにオレはこの辺のこと理解するために資料を30回くらい読み直して45回くらいゲロ吐いたんだが」

「い、いや……、また今度にするよ……」


 曖昧に苦笑いをして聖人は固辞する。

 蛭子は内心で『助かった』と思った。


 この美景と郭宮の歴史と政府や陰陽府との政治の話のおかげで、先程言いかけてしまった郭宮が追われた話も有耶無耶にできた。

 聖人の父へ『何を言ってて何を言ってねェのか言っといてくれよ!』と心中で毒づきながら、自分たちの話を再開する。


「そんなこんなで力を失った郭宮だが、しかしその名前と血のブランドは健在だ。見栄や面子の大事な業界だからな。完全に滅びない限りは簡単にはその威光は失墜しない。だから郭宮と直で関係を築いているオマエら――正しくはオマエのオヤジさんに対して、紅月本家も表立って強引な真似は出来ねえのさ。本家も今は色々怪しい動きをしてるようだが、一応はアイツらも郭宮の下だからな」

「な、なるほど……? あぁ、でもそうか。父さんたちが実家を出てここに来たのってその災害の直後だって……」

「そう。ちゃんと言うことを聞く家臣や傘下の家をほとんど失った郭宮に、美景の復旧の件で力を貸して取り入ったってわけだな。協力する代わりにケツモチになってくれって」

「言い方が……。でもだから本家も父さんにあまり酷いことを出来なくて、嫌がらせで済んでるのか。やりたくない仕事押し付けるとか」

「だが、とはいえ気に入らねェのさ。高貴なる郭宮に寵愛を受けているように見えるオマエがな。そして脅威でもある。オマエが本家に戻ってきて、郭宮が跡を継ぐのは聖人だと言えば、そのたった一言で全てがひっくり返っちまう」

「うん、少しは呑み込めてきたよ」

「ここまで言ってまだ少しなのかよ……、まぁいい。ようやく話を戻せるな。ここまでのことを踏まえて、この島だ」

「あ、うん」


 言いかけながら蛭子は串焼きの肉をまた一切れ齧り、ゆっくりと口の中で噛み潰す。

 そうしている間に他の者たちも思い思いに飲み物や食べ物を手に取る。


「――ちょっとナナミッ」


 すると高慢な高い声で呼びかけられる。

 希咲は返事はせず、声をかけてきたマリア=リィーゼの目の前のテーブルをスッと無言で指差した。

 その指の先を見たマリア=リィーゼ様はびっくり仰天した。


「こ、これは――お紅茶っ⁉」


 どうせそろそろ彼女が「紅茶を淹れて下さいませんこと?」とワガママを言うだろうと予測していて、だが命令をされるとムカつくので希咲は事前に用意しておいたのだ。


「お見事ですわ。これにはわたくし、ぶったまげましたわと素直に称賛せざるをえませんわね……」

「それはホメ言葉じゃないし」

「主に言われる前に紅茶を用意するどころか、配膳したことすら主に気付かせないとは……、ナナミ、貴女いつの間にマスタークラスのメイドに……?」

「メイドじゃないし」

「いいえ。貴女はわたくしのメイドになるべく生まれてきたのです。いいでしょう。わたくしの側付きとなることを許可します。まずは髪を黒く染めてきなさい」

「頼んでねーんだわ。つか、生活指導のセンセみたいなことゆーな」

「だってわたくし我慢ならねーんですわ。王族であるわたくしよりも髪がキラキラしてツヤツヤしてサラサラで。身の程を弁えなさい。わたくしこのような屈辱は生まれて初めてですわ」


 王族のくせに他人を妬んで言いがかりをつけてくる女に希咲は侮蔑の目を返した。


「髪のケアの仕方教えたげたでしょ」

「めんどくせーんですわ! トリートメントだのパックだのオイルだの……なんなんですの⁉ 邪教の呪文に違いありませんわ! わたくしそんなことできません!」

「あっそ。乾かすのはちゃんとやってんの?」

「めんどくせーんですわ! タオルしてドライヤーして、それでなんでまた焼けた鉄板で挟むんですの⁉ 邪教の拷問方法に違いありませんわ!」

「アイロンね。ヘアアイロン」

「わたくしこのようなことは出来ませんわ!」

「そ。じゃあしょうがないね。ツヤツヤしなくてサラサラしなくても。王族って女子力低いのね」

「なんですって……⁉ わたくしこのような屈辱は生まれて初めてですわ!」

「あっそ」

「ナナミ! わたくしにヘアケアをしなさい」

「や」

「命令ですわよ!」

「イヤ。王族さまにそんな邪教っぽいこと出来ないわ」

「……ナナミ? 怒ったんですの……?」

「べつに」

「どうしてそんな冷たいことを言うんですの? わたくし、貴女に見捨てられたら……」

「あぁ、もぅっ。いいから紅茶飲みなさいよ。冷めるわよ?」

「……ズズーっ――ウメェッ⁉ ウメェですわぁーーっ! また腕前を上げましたわね、ナナミ!」

「はいはい、どーも」


 ツーンと突き放せばすぐにヘコんで縋ってくる王女様を適当にあしらって、希咲は自分も一口お茶を飲む。

 そしてお紅茶をキメてハイになる王女様へ感心の目を向けた。


「それにしてもリィゼ、あんた今日は大人しいわね」

「なんですの? 藪から棒に」

「や。ちゃんと大人しく話聞いててエラいなーってホメてんのよ。いつもジャマするじゃん? つか、あんたちゃんとわかったの? これからはあんたも無関係じゃなくなるかもしんないんだからね」

「失敬な。ちゃんと聞いていましたし、理解もしていますわ」

「ホントにー?」


 見た目だけは楚々とした仕草でカップを傾ける王女さまだが、希咲からしてみると彼女は大分怪しい。


「わたくしは王宮で生まれ育ったんですわよ? お家問題や家臣たちの権力闘争なんて慣れ親しんだ話です。ヘアケアよりも造作のないことですわ。宮中の老獪どもの思惑よりも、寝起きのわたくしの髪の方が複雑に絡まっております」

「だからちゃんと髪乾かしてから寝ろって言ってんの。つか、あたしがあげた枕カバーちゃんと使ってる?」

「あの素晴らしく上等なシルクですわよね」

「や。スーパーの2階で買ったけど」

「もちろん使ってますわ。ただ、起きるといつも何処かへいってしまって枕剥き出しですの」

「なんでよ! どういう使い方してるわけ?」

「こう……、枕の上にシルクを敷いて、そこに頭をのせて……?」

「なんでそんなことすんの⁉ ちゃんとカバーに枕入れなさいよ!」

「使い方がわかりませんの!」

「逆ギレすんな! なんでわかんないの⁉ 枕入れてチャック閉めるだけじゃん!」

「やってくださいまし!」

「そんくらい覚えろ! なんでさっきの話はわかるのに枕カバーの被せ方はわかんないのよ!」


 キャンキャンと吠え合う女子二人を、女子らしくないことに定評のある女子である天津が止める。


「おい、二人とも静かにしろ。休める時には休んでおくことも仕事だぞ」

「無礼者っ! わたくしは王女! 仕事などしませんわ!」

「公務とかなかったの?」

「ありましたわ! ただ、わたくしは笑っていればいいだけです。家臣たちにそう言われました。頼むから喋らないで欲しいと」

「……ダメじゃん」


 王女さまにゲンナリとしつつ、希咲は天津に水を向ける。


「そういやあんたも大人しかったわね。黙ってんのはいつものことだけど。真刀錵はちゃんとお家事情理解してんの?」

「必要ない」

「は?」


 端的な返答に一瞬呆然としてしまう。


「いやいや、そんなわけないでしょ? 特にあんたはちゃんと知っておかないとダメじゃない」

「不要だ。敵は全て斬れば済む」

「だから! ちゃんとお家同士の事情知っておかないと、誰が敵で誰が敵じゃないのかわかんないじゃない!」

「不要だ。敵かどうかは斬ればわかる」

「わかるか!」


 口を開くたびに不穏な発言をすることにかけて弥堂に引けをとらない女は自信に溢れた様子で希咲に説明する。


「いいか、七海。健全な魂は健全な肉体に宿るという」

「はぁ……、それが?」

「つまり一太刀浴びせたくらいで死ぬような不健全な肉体の持ち主は魂も不健全だということだ。斬って生き残った者だけが味方だ」

「んなわけあるか! 斬られて生き残った人は絶対敵になっちゃうじゃん!」

「やむなし」

「やむあるから!」

「世は無常。人の生命も人の思いも移ろい変わりゆく。昨日の敵が友になることもあれば、昨日の味方が敵になることもある。ただ出逢った者を斬るのみ」

「なんかそれっぽいこと言ってるけど、自分のせいで敵増やしちゃうようなことは頑張って減らしてから言いなさいよ!」

「むう。七海、お前の言うことは難しいな」

「なんでよ! あんたの方がいみわかんないじゃん!」

「まぁまぁ、落ち着いてください」


 憤慨する七海ちゃんを望莱が宥める。

 そしてドヤ顔でピンっと人差し指を立ててみせた。


「ちなみに、健全なる精神は健全なる肉体に宿るって本当は健全な身体を作れば精神も健全になるって意味じゃなかったらしいですよ?」

「そうなの?」

「はい。元々は逆で、健康な身体が欲しければまず健康な魂が宿るようにお祈りしましょうって感じだったらしいです。魂が先みたいですね。魂が健康なら身体も健康になるって」

「へぇ~、そうなんだ」

「難しいな。つまり斬ってはいけないということか?」

「いいえ。健全かどうかは魂を見なきゃわからないのですから、斬り殺して魂を引っ張り出してから見定めろということです」

「そうすると一太刀浴びせて生き残った者にも、キッチリとトドメを刺せということだな」

「はい。兄さんに近付く人を健全かどうか確かめるためにどんどん斬っちゃってください」

「なるほど。任せろ」

「本気にしてるからウソ教えるな!」


 結局望莱は場を引っ搔き回しに参戦してきただけだった。

 せっかく蛭子が気を遣って休憩の間を作ってくれたのに、希咲にとっては真面目な話より彼女たちのフリースタイルの雑談の方が疲れるという悲しい現実がそこにはあった。

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