俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章45 Killing ReStart ⑤

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 水無瀬父が店のシャッターを閉めて中に入っていったのを確認してから曲がり角の向こうへ覗かせていた頭を引き戻し、弥堂 優輝は壁に背を凭れさせた。


 水無瀬 愛苗と彼女のペットのメロと別れた後、帰ったと見せかけてそのまま彼女らの尾行をしていた。


 特に強い目的はなかったのだが、弥堂の掴んでいる彼女の住所と彼女の実際のヤサが一致しているかを確認するのにいい機会だからとついでに行っただけの尾行だ。


 そこまで望んでいたわけでもなかったが、うまい具合に彼女――愛苗の両親の姿を確認することも出来た。

 以前に弥堂自身がPCで調べた写真とも、Y’sに調べるよう命じた際に送られてきた写真とも、実物の姿は一致した。


 元々弥堂が掴んでいた水無瀬 愛苗の住所・家族構成などの情報は間違いのないものだと確認ができた。


 もしかしたら、弥堂が普段会っている水無瀬 愛苗は水無瀬 愛苗ではないかもしれないという可能性も考慮していたが、どうもそういう事実はないようだ。

 普通の家庭に育った普通の少女が突然魔法少女などというモノに為ってしまった。

 本当にそういうことのようだ。


 普通の猫のように振舞うメロの様子と、母親がそのメロに話しかける様子を確認したが、両親は魔法少女のことは知らないという愛苗の証言は真実だったようだ。

 それほど正確に読唇出来るわけではないが、まぁ間違いないだろう。



(さて――)


 状況は終了した。

 次のことに目を向けなければならない。



 風紀委員としての業務――繁華街周辺の見廻りは今日はもういいだろう。

 代役を用意したことだし、今から行ったら他のことが滞る。


 もう一つ、『カイカン熟女クラブ』という人妻専門店の人気嬢『朝比奈さん29歳』に会いに行く用事だが、これも今日は諦めた方が無難だろう。

 彼女は今週の火曜と水曜に出勤をするというタレコミがあったので、出来れば逃したくなかったが、それよりも明日の仕込みの方が優先度は高い。この件は明日にリスケだ。


 ということで、残った本日のタスクはホームセンターでの買い物になる。

 明日の仕込みに必要な物品を揃える必要があり、これだけはどうしても今日の内に熟さなければならない。


 やることは決まったと壁から背を離す。


 しかし――


「――くっ……!」


 弥堂は身体をよろめかせる。


 実際のところ、今日はダメージを負い過ぎた。

 出血を伴うような頭部の傷や肩の刺し傷以外にも、骨や内臓がいくらかイカれてしまっている。

 元々予定していたタスクを全て実行するにはもう余力がないというのが正直なところだ。


 満身創痍に近い状態ではあるが、あのような巨大な化け物に素手で殴りかかって死んでいないのは運がよかったとしか言いようがない。

 自分自身の悪運の強さに呆れ、自然と口端が吊りあがる。


 ギリッと歯を鳴らし自然と浮かんでしまったその苦笑いを噛み殺す。

 グッと足に力をこめ、倦怠感を踏みつぶすように重い足を動かした。


 ホームセンターのある県道方面へ住宅街の中を進む。


 出来れば細く狭い路地の中を隠れて移動したいところではあるが、ここいらは比較的新しく出来た新興住宅地でキレイに区画が整理されている為、建物も割と規則正しく並べられており、また道幅も余裕をもって敷かれている。


 こんな所でぶっ倒れれば当然騒ぎにもなるし、そうでなくとも血を流しながらフラフラと歩いていればすぐに通報されてしまうだろう。


 精神力を絞り出し、もう燃えカスのようになってしまった蒼い炎の熱を全身に巡らせ僅かな力に変えた。

 外からはそうとわからない様に、平然を装って半死体のような身体で町中を歩く。


 今の自分と、さっきの化け物女に一体どんな違いがあるのだろう。


(いいザマだぜ……っ)


 心中で自身を嘲笑い沸き立つ苛立ちで、油断をすれば靄がかかる視界にチカチカと火花を散らし、弥堂は目的地へと向かっていった。





――ピンポーンと、呼び鈴が鳴る。


 どこにでもある家主を呼び出す為のインターホンの音だ。


――ピンポンピンポーンと続けて音が鳴る。


 大して時間を待たずに反応のない家主に焦れて連続で鳴らされた。


 そうするとようやくヨタヨタと急ぎもしない家主の足音が鳴り、狭い家なのか然程時間もかからずに玄関扉が開かれた。


 薄っぺらい木切れのような扉を開くと、そこに居たのは闇の秘密結社の運営実務を任される悪の中間管理職であるアスが不愉快そうな顔で立っていた。


「まったく……、呼び鈴を鳴らしたらすぐに出てきなさい。こんな狭くて不潔な場所には一秒でも長居したくないんですよ」


 不快感を隠そうともせずにハンカチでスーツに付着した埃を払いながら文句を言う。


「そもそも。何故アナタはこんな場所に住居を構えているんです? 理解に苦しみますね」


 普段アルカイックなスマイルを貼り付けたまま、感情を表に出さないアスがこうまで不快さを顕すのは、今はプライベートでここを訪れているんだろうと、家主はそう判断した。


「まぁ、いいです。ところで、ですが。話があるのですけど、よろしいでしょうか?――ボラフさん」

「――あぁ」


 アスに負けず劣らずの不機嫌さを隠さずに家主――ボラフは短く了承の意を告げた。




 ここは新美景駅北口の俗に外人街と呼ばれる地帯の外れの方にあるアパートの一室だ。


 この辺りは奥まった場所にあり昔の災害から逃れた建物ばかりで、そのせいで築何十年と経った古い建物が多い。

 ボラフが済むこのアパートもその例に漏れず外観に違わず中身も相当に経年劣化の進んだ木造アパートだ。

 そういったデメリットはあるが、その分身元が怪しい者でも簡単に入居が出来るというメリットがあり、さすがにボラフのような悪の怪人は他には居ないものの、外人街を根城とする悪の外人の入居者が多い。


「何の用だよ」

「あのね、ボラフさん」


 玄関の中からぶっきらぼうに用件を聞く部下に、アスは胡乱な瞳を向ける。


「アナタね、仮にも上司が訪問して来たというのに、中に招き入れることもなくそのような物言いをするものではありませんよ?」

「……そんなもんニンゲンどもの流儀だろ? アンタともあろうものが随分と染まっちまってんじゃねえのか?」

「まぁ、私もこの任に就いて大分経ちますからそれは否定出来ませんが。ですが、本来ニンゲンたちよりも我々の方が遥かに上下関係には厳しいものですよ」

「そりゃまぁ……、そうだな……」

「ところで。中に入れてはくれないんですか?」


 チラリと、ボラフが背にする部屋の中へ軽く視線を振りアスは問う。


「……なんだよ。長話になるのか?」


 ボラフは背後に視線を向けることはなく正面のアスに向いたまま質問を返す。


「……そうでもないんですがね。ですが、ここで話していては不都合しかないでしょう?」

「そうか?」

「自分の姿を鏡で見てみなさい。私はいいですよ? パッと見ではニンゲンと見分けがつかないですからね。しかしアナタはそうではないでしょう?」


 そう言って腕を拡げてみせるアスの姿は、タキシードじみた黒いスーツ姿で、それを着こむアス自身も人間の男性体にしか見えない。

 煌めくような銀髪と整い過ぎた顔の造形が美し過ぎて不自然に見えはするが、普通の人間が彼を見たところで即騒ぎになるようなことはないだろう。


 一方でボラフの方は黒の全身タイツのような身体に、フルフェイスヘルメットを被ったような頭部に三日月を三つ貼り付けて目口を模ったような姿だ。

 たまに人間たちに目撃されれば漏れなく変質者が現れたと騒ぎに発展している。


「チッ、わかったよ。入んな」


 反論の余地がないことを自覚したボラフは不機嫌そうに言うと振り返り入室を促すと、足の踏み場もない程に散らかった玄関を足元に視線を向けることなく通過してアスを先導する。


「……何故こんなに靴が転がっているんです? アナタいつも裸足じゃないですか」


 その散らかり具合に顔を顰めたアスが部下の無精を窘める。


「いいだろ別に。なんか欲しくなっちまうんだよ」

「別に構わないんですが、こんなに散らかしてはいざ履こうと思った時に左右のペアがアベコベですぐに見つけられないんじゃないですか?」

「まぁ、それは確かにあるな――ん?」


 玄関を抜けた先にあるワンルームアパートの部屋に案内しようとするが、土足のまま一歩玄関に上がったアスが奥の部屋を視界に入れた瞬間に足を止める。


「どうした?」


 その様子を怪訝に思いアスに尋ねるが、彼はすぐには言葉を返さずに取り出したハンカチで口元を覆い、盛大に眉根を寄せた。


「……不衛生すぎる」


 アスが睨みつける先には部屋の入口から僅かに覗く6畳間の和室だ。


 玄関から見える範囲だけでも、敷かれているはずの畳が見えないほどに床にゴミが散乱している。

 コンビニ弁当にカップ麵の空いた容器の数々が部屋のほとんどの面積を埋め、それ以外には敷きっぱなしと思われるせんべい布団と申し訳程度に置かれたちゃぶ台があった。

 ちゃぶ台の上は部屋の惨状からすると不自然に見えるほどに意外に物が少なく、小さな植木鉢が一つ置かれており、死者に手向ける花が一輪植えられている。


「……アナタに植物を育てる趣味があるとは意外ですね」


 その花を睨みながら指摘したアスの言葉に、葉がピクっと揺れる。


「ん? あぁ、いいだろこれ? ゴミ捨て場で拾ったんだ」

「ゴミ捨て場?」


 自身に向けられるアスの懐疑的な視線に気づかず、ボラフはあっけからんと自慢をする。


「知らねえか? ニンゲンたちの間で昔流行ってたんだよ、これ。ちっと見てな……」


 言いながらボラフは開いた両手をパンッと打ち鳴らす。


 すると、その音に反応して植木鉢の花がまるで踊るようにシャカシャカと花と葉を振り乱した。


「…………」

「スゲェだろ? これ」

「……ハァ。まぁ、いいでしょう」


 ニンゲンの子供のようにドヤ顔をする部下を呆れた目で見遣り、アスはとりあえず不問にしてやることにした。


「……それで? 話ってなんだ?」


 ピタッと動きを止めた花を横目で見ながら、ボラフは本題を促す。

 溜め息を一つ吐いてアスも切り替えた。


「まずは褒めておきましょうか。本日の業務お疲れさまでした。なかなかにいい仕事だったと評価しています」

「……そりゃどうも」


 上司からの賛辞にボラフは大して嬉しくもなさそうに答える。


つぼみが出来ましたね?」

「……あぁ」

「花は?」

「まだだ。ほんの少し開いたとこまでだ」

「ふむ。まぁいいでしょう。アナタにしては上々です」

「……そうかよ」


 アスは本心から褒めているのだが、やはりボラフは吐き捨てるように答えた。


「話ってそんなことかよ?」

「えぇ、そうですよ」

「は?」


 絶対にそんなはずはないと思って問いかけたが、意外にもアスが肯定した為ボラフは口を開けて固まった。


「なんですか、その顔は?」

「い、いや、だってよ……、アンタがたかがそんなことだけでオレんとこに来るなんて思わねえだろ?」

「なんて言い草ですか。アナタまさか私が部下の失敗を詰るだけの上司だとでも思っているのですか?」

「べ、べつにそういうわけじゃ……」

「まったく。これを勘違いしているニンゲンも多いのですが、失態を追及するだけでなく、部下が成果を上げた時にはしっかりとそれを評価し褒める。マネージメントの基本です」

「…………」


 アスは当然のことのように言うが、ボラフは懐疑的な目だ。却って警戒心を強めた。


「そんなに疑わないで下さい。“私は”アナタに嘘を吐いたことはありませんよ?」

「……悪かったよ」

「本当にわかっているのならいいのですがね」


 僅かに目を細め見遣るアスからボラフは視線を逸らした。


「今日、私が本部の会議に出ていたことは把握していますね?」

「会議って……、いや、まぁ、会議なのかもしんねえけど、まぁ」

「よろしい。アナタの御父上の出向が正式に決まりました」

「――っ⁉ マジかよっ⁉」

「えぇ。マジです」


 顔色を変えたボラフにアスはあくまで事務的に伝える。


「結構荒れましたよ。反対した者が何人か死にましたし」

「……クソが……!」

「態度に出すんじゃありません。アナタも殺されますよ」

「わかってるよ……っ!」


 グシャっとカップ麺の容器を踏み潰すボラフにアスは冷たい視線を向ける。


「我々もこれまでのようにはいきません。本当の本当に本腰を入れることになります」

「……あぁ」

「尤も。私は最初から真剣にやっていましたがね。これからはもうアナタのフォローをすることは難しい。これまでのようには出来ない。そういう意味です」

「わかってるよ!」

「本当にわかってくれているのならいいのですけどね……」


 諦めたようにアスは嘆息をする。

 ボラフへ向けた忠告ではあるが、アスも他人事ではない。

 自分で言った言葉どおり、これからは下手にボラフの失態を庇えばアス自身の身にも危険が及びかねない。


「アナタには悪いですが、これは私の悲願でもあります」

「…………」

「『Rebirthリバース Embryoエンブリオ』、産まれ直す卵。その卵からナニが産まれるのか。ナニに為り変わるのか。私はそれを見届ける為にこのプロジェクトに参加しています」

「…………」

「あまりこの街に愛着をもつのはやめなさい」

「そんなこと、ねえよ……」

「私の予想では上手くいけば最低でも15年前の大災害の再来です。最悪はこの国ごと滅びます。まぁ、それは我々全体にとっては最高なのですが」

「……いつだ?」

「なにも明日にも、というわけではありません。ですが来週にはもういらっしゃるでしょうね。それまでにはこの部屋を引き払うなど身辺整理をしておきなさい」

「……わかった」

「というか、何故わざわざこんなニンゲンの住居に住む必要があるんです?」

「…………」

「……まぁ、いいです。それでは私はこれで失礼します」

「……あぁ」


 アスは踵を返す。

 しかし、そのままアパートから出ると思われたアスは靴が何足も転がる散らかった玄関の床に一歩足を下ろしたところで立ち止まる。


「……?」

「……一つ、言い忘れました」


 見送りくらいはと彼の後に続こうとしていたボラフが怪訝そうな目を背中に向けると、ポツリと呟くように声が漏れた。


「なんだ? 片付けろってか?」

「その通りです。この程度の片付けも出来ないようでは仕事のデキも知れてしまいますし、何より品性の問題もあります」

「口煩ぇな、わかったよ……」

「いいえ。アナタはわかっていない。こんな風に散らかしては先ほども言った通り、いざ靴を使う時にすぐに希望するものが見つけられないでしょう?」

「なんだよ、今日は随分と手厳しいな」

「この有様では手厳しくもなります。先に挙げた点もそうですがなにより――」

「――もういいだろ? わかったって――」

「――なにより、片方失くしてしまうかもしれませんよ?」

「――っ⁉」

「こんな風に――」


 それまで温厚に喋っていたアスの声の温度が数℃下がり、その冷たい声音で告げられた言葉にボラフは固まる。

 なにか言い訳を口にする前にアスが振り返りながら一足の靴を蹴り上げた。


 強く蹴り飛ばすのではなく、ポンっと、軽く投げ渡すように放物線を緩やかに描いてボラフの方に放られたのは革靴。


 左足用の――


 女モノの――


 制服ローファー――


「――っ⁉」


 反射的にそれを受け止めようと両手を構えたボラフの目線とその片方だけのローファーが重なった瞬間――


――銀光の刃がその靴を貫いた。


「ぅ……っ、あっ……⁉」

「これからはこういうことをされては困ると言ったのです」

「な……、ん、で……っ⁉」

「これからはこういうフォローは出来ないと言ったのです」


 目玉の数ミリ手前で止まった銀色の切っ先を呆然と見ながらボラフは放心する。


 アスの手から伸びるその刃に串刺しにされた十代の女生徒が履きそうなそのローファーは重力に引かれるままズルリと刃に裂かれて床に落ちる。


 その靴に取り縋ろうとボラフが腰を落とすよりも早く、床に落ちた靴はパラパラと砂が崩れるようにしてカタチを失い間も無くして無に帰した。


「あ……、あぁ……」

「だからわかっていないと言ったのです。これでもわからないようであれば、次はアナタがこうなります」

「……しょう……っ」

「そう遠くないうちにアナタに出番が回ってきます」

「……くしょう……っ」

「その時に妙な手心など加えぬよう、努々忘れないことです」

「ちくしょうっ……!」


 告げるべきことは告げたと、アスは右手を振って銀光の刃を消すと今度こそ踵を返し部屋の外へと歩き出す。

 ボラフは感情のままに両腕を鎌に変えた。


 アスはアパートの部屋から一歩出て背中を向けたまま立ち止まる。

 その無防備な、彼にしては見たことのないくらいの隙だらけの背中をボラフは睨み、そして――



――そして、玄関の扉が閉まりアスの姿は黴の生えた木切れに隠されて見えなくなった。


 部屋の中と外が隔たれるとボラフは脱力し、汚れた壁に凭れてズルズルとヘタりこむ。

 両腕の鎌はいつの間にか元に戻っていた。


「…………ちくしょう……っ」


 力ない声が漏れる。


 怒りのままに殴りかかることが出来なかった。


 靴が消え去った廊下を掌で撫でる。


 ジャリっとした感触は消えた靴の魂の欠片ではなく、ただの砂粒だ。



 あれはアスの意思表明なのだろう。


 ボラフからしてみても彼は部下に甘い上司だったと思う。


 彼が先程言った通り、これからは今まで通りにはいかない。


 それを頭の悪い自分にもわかるように伝えたのだろう。


 これは彼なりのケジメであり、そして部下へ向けた最期の情なのだろう。


 それがわかってしまって、殴りかかることすら出来なかった。


 本当はそうしなければならなかったのに。


「ちくしょう……」


 尻を引き摺って身体を動かし壁に背を預ける。


 否応なく理解してしまった。


 先延ばしにしていた覚悟を強いられる。


 やらなければいけないこと、それを本当にやらなければいけない。


 何かを選んで、選ばなかったものを切り捨てなければならない。


 シミだらけの天井に顔を向けると、一人の少女が思い浮かぶ。


 彼女は今日確かに選んだ。


 彼女は全てを選んだ。


 だが、自分にはそんな力はない。


 全ては選べない。


 彼女に比べて自分はなんてちっぽけなんだろうと惨めな気持ちになる。


 ガクッと膝の間に顔を落とす。


「……ちくしょう…………」


 力なく漏れた呟きに反応したのか奥の部屋のちゃぶ台の上の花がカサリと悲し気に葉を擦った。


 そして――


――玄関に転がった25cmほどのサイズのスニーカーから靴紐のように細長い黒いナニかが伸びてきて、力なく投げ出したボラフの手の甲をシュルリと優しく撫でた。
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