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1章 魔法少女とは出逢わない
1章37 reverse empathy ③
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どうにか希咲を馬鹿にしてやろうと粗探しをするために、写真画像の希咲の肉体を弥堂は凝視する。
「うおぅ……、弥堂くんガン見してるよ……。さすがは性欲のバケモノなんだよぅ……」
「ちょっと。変なレッテル貼るのやめなよ。怒られるわよ?」
「……私には変死体の原因を探る検視官の目に見えるわね……」
「弥堂君は真面目だから……」
「やっぱりななみちゃんかわいーよね? 弥堂くんも好き?」
「キミの言うとおりだ」
オートモードで適当な相槌を打ち割と致命的な失言をしつつ、弥堂は一点の瑕疵も見逃さぬ心意気で希咲の水着姿に向き合う。
水無瀬の手からスマホを奪い取り、クラスメイトの女子の水着姿を瞬き一つせずに睨みつける男子に女子はドン引きだ。
周囲の男子たちも何人かは気になって仕方ないようで、どうにか覗けないかとチラチラ視線を送るが、野崎さんたちの女子ブロックに阻まれて失意に暮れる。
まさか水無瀬以外の人間が見ているとは思わずに写真を送ってしまった希咲の水着姿が不特定多数の男の目に入ることは防がれたが、しかしその代わりに『希咲 七海はプライベートでは、おぱんつレス』という誤解が幾名かに生じた。今日も安定して彼女は不憫だった。
弥堂は希咲の肢体を睨める。
上から順に検品する。
まず顔はどうでもいいとして、細い首筋に少し撫で肩気味の華奢な肩。だが貧弱さや不健康さは感じられない。
しっかりと立体感を魅せる鎖骨のラインと、その下には偽造した胸の谷間。その谷間の中心近く右の胸に、先週彼女が制服の襟を開いて胸を見せつけてきた時には気が付かなかったが、ほんの小さなほくろがある。
引き締まった二の腕から小胸筋を通って前鋸筋まで繋がる滑らかな曲線が脇の下の窪みを映えさせる。
薄い腹の皮膚の下の腹直筋が、鳩尾から臍までとその両サイドにうっすらと筋を見せながらも、やわらかさは外見上も損なわれていなく、非常にバランスがいい。
彼女の尻は大きくないが、それでもはっきりと腰のくびれを見て取れるほどにウエストが細い。
そして、彼女が今南国リゾートにでもいるのなら、これが焼けてしまうのは勿体ないなと喪失感を思わせるような、健康的な印象を損なわない程度に血色のいい白い肌。
カメラの性能が優れているのか、写真画像ごしでもその肌に潤いと滑らかさが感じられる。
ここまで悪意満点の弥堂から見ても、胸くらいしかケチを付けられるところがなく、しかし一応彼女の偽造乳については秘密にすることになっているので手詰まりを感じた。
そこから下の下半身は先週も視たが、特に攻撃できるポイントがなかったのでもう諦めようかと考えかけ、彼女の腰回りと股間に視点がいったところでふと視点が止まる。
(なんだ……?)
なにか違和感を感じた。
違和感というよりは――
「弥堂くん夢中だね。この写真欲しい? ななみちゃんにあげてもいいか聞いてあげようか?」
「結構だ。別に欲しいわけじゃなく……、そうか、そうだな。なんというか既視感があっただけだ」
「きしかん……?」
ぽへーっと復唱するだけの水無瀬さんとは違い、周りの女子4人は「ん?」と眉を顰める。
「なんだったか……、ちょっと待て。思い出す」
「あ、うん」
そう言って弥堂は記憶の中からその既視感の原因となる記録を探し出す。それには時間もかからず辿り着いた。
「あぁ、そうか……」
「思い出せた?」
「あぁ。どこか見覚えのあるデザインだと思ったら、先週あいつが同じような色合いのパンツを穿いていたのを見たなと思い出した」
「そうだったんだ。よかったねっ」
弥堂くんが無事に思い出せたことを水無瀬さんは一緒に喜んだが、周囲の女子たちはギョッとした。
「先週?」「見た?」「パンツ?」と、ヒソヒソと会議を始める。
弥堂が目に映して既視感を覚えたのは希咲の肉体ではなく、水着の方だった。
ミントブルーの布地をメインに黄色で縁どられているその水着は、まさしく法廷院たち『弱者の剣』との対決時に見た希咲のパンツに似ていたからだ。
その後、弥堂が希咲にぶっ飛ばされてKOされることになった要因の一つでもある。
「そういえば、ななみちゃんこういうパンツよく穿いてたぁ。この色かわいーよね。弥堂くんも知ってたんだぁ」
「ん? あぁ、ちょっとな……」
『――そっ、そうよっ! いつもこういうのだけ着けてるってわけじゃないんだからっ…………で、でも……こういうの着けてると愛苗がいっぱいかわいいって言ってくれるし……――』
水無瀬の反応に紐づいて先週の希咲の言葉が記録から想起される。
(そういうことか。あいつ、バカだな)
きっと水無瀬に見てもらいたくてノリノリで自撮りを送ってきたのだろうと、写真の中の彼女のドヤ顔を侮蔑の眼で見下ろし、そして興味を失くす。
『ちょっと』ってどういう意味?と話し合う女子たちを尻目に、弥堂は水無瀬にスマホを返してやる。
「もういいの?」
「あぁ、もう用済みだ」
「あ、じゃあ、ののかに見してー」
水無瀬に渡そうとしたスマホを寸前で早乙女に搔っ攫われた。
「おぉ。確かにこの水着かわいーね」
「えへへ。かわいーよねぇ」
自分が褒められたかのようにニッコリする水無瀬に早乙女もニッコリと笑う。
「七海ちゃんって服とか水着いっぱい持ってそうだよね」
「あのね、ななみちゃんのお母さんがね、お洋服のお仕事してて。それでいっぱいもらえるんだって言ってたよ?」
「そうなんだー。着ないで水着余らせるとかののかもやってみたいぜー。なんか女子力上がった気しない?」
「今年の夏用にまた新しいの欲しいって言ってたけど、女子力高いからなのかな? あのね、一緒に海に行くんだぁ」
「海かぁ、いいなぁ! ののかもいきたーい!」
「よかったら一緒に行く? ななみちゃんに聞いてあげるね」
「えっ? いいのー? やったぜ。まなぴー女子力高ぇな! すきーっ!」
「えっ?」
「…………」
そこで水無瀬は突然困惑したように言葉を止めた。
弥堂も早乙女を視る。
「お? どした、まなぴー?」
「え……? えっと、その……、呼び方が……」
「あれ? 愛苗っちの方がよかった?」
「ううん。いきなり変わったからびっくりしちゃっただけ。イヤじゃないよっ」
「ふふん。そんなの気分なんだぜー? まなぴーの好きな方で呼ぶよ? どっちがいい?」
「え、えっと……、まなぴーが、いいです……」
「おっけー!」
少し伏し目がちに答える水無瀬に早乙女は軽く請け負う。
その様子を視て、弥堂は眉を歪める。
すでに二回ほど見たことがあるやりとりだ。
おそらく、海に誘ったことで早乙女の水無瀬への好感度が上がり、あだ名が変わるというイベントが発生したのだろう。
現実の中で、生きている人間の好感度が上がる瞬間が可視化され、それを目撃するなど、心の底から気味が悪いと、弥堂はそう感じた。
「はい、返すねまなぴー」
「うん、ありがとう……」
「おや?」
早乙女からスマホを受け取った際に水無瀬の指が画面に触れ、それにより画像の全画面表示が解除される。
代わって表示されたのは彼女と希咲のメッセージのやりとりの履歴だ。
それを早乙女が覗き込む。
「……あれっ? ねぇねぇ、まなぴー?」
「なぁに? ののかちゃん」
「これ――」
声とともに早乙女が指差したのは直近の履歴だ。
「この言い方じゃまなぴーが七海ちゃんのパンツ知りたがってる風に思われちゃうよ?」
「え?」
「ほら。ちゃんと弥堂くんが七海ちゃんのパンツの色聞いてたって言わないと……」
「あっ、そうか。忘れちゃった」
「バッ⁉ バカっ、ののか! アンタなに余計なこと――」
「――あとさ、ちゃんと弥堂くんにも水着写真見せてもいいか、ぷぷっ……、聞かないと……。勝手に男子に見せちゃうのもさ? ほら……、ぷふーっ、よくないと思うし?」
「そ、そうだよねっ。私うっかりしてた! 弥堂くんもごめんねっ?」
「……? まぁ、気にするな。そういうこともある」
「ちゃんと聞いてみるからちょっと待っててね」
「あぁ……、ダメだよ水無瀬さん……」
急いでペタペタと文字を打ち込む水無瀬へ日下部さんが力無く手を伸ばそうとするが早乙女に阻まれる。
「まなぴーの思うようにさせてあげようよ、マホマホ」
「ののか、アンタ怒られるよ?」
「ののかは善意からこうしただけです!」
「それを信じてもらいたかったら、まずはその半笑いをやめろ」
笑いを堪えながら敬礼をする早乙女に日下部さんは胡乱な瞳を向ける。
その間に水無瀬はメッセージを送信してしまい、さらに希咲からの返信までも届いてしまう。
「あっ……、弥堂くん、あのね?」
「なんだ?」
「ななみちゃんが『死ね!』だって……。そんなこと言っちゃダメだよってお返事するね?」
「いや、いい。代わりに『お前が死ね』と返してくれ」
「そんなこと言っちゃダメなんだよ? 『かわいー』とか『すき』っていっぱい言ってあげて? なかよしになったら、ななみちゃんも『いいよー』ってパンツ見せてくれると思うの」
「さ、さすがにそれはないと思うよ。水無瀬さん……」
二人のゆるい風の会話を聞いて、手遅れだったかと日下部さんは目を覆い、苦笑いの野崎さんが水無瀬を窘めた。
「思ったよりリアクション薄かったんだよ。ざんねん」
「ののか。アンタって子は……」
「まぁ、水着だものね。下着なら話は別だけれど」
「えぇ? でも小夜子。下着と露出変わらないから水着でも恥ずかしくない?」
「私もちょっと、抵抗あるなぁ……」
「えー? ののかも水着ならオッケー派だよぉ?」
弥堂には理解しがたい女子トークが応酬されるようになり、彼は以降の発言を放棄することにしてそっと白目になる。
「とはいえさ、絶対希咲さんちょっとは怒ってると思うよ?」
「安心して楓。私が七海にきちんと『ののかの仕業』だって密告しておくわ」
「やめてよ小夜子ちゃん! ののかシバかれちゃう!」
「あ……、あれっ? そういえば――」
「どうしたの真帆ちゃん?」
日下部さんが突然難しそうな表情になり、注目が集まる。
「んー、あれ? 記憶があやふやなんだけど、『七海に怒られる』でちょっと思い出して……」
「お? マホマホなんかやらかしたの?」
「私じゃなくってアンタよ」
「ののか?」
「アンタさ、昨日なんか七海に送るって言ってなかったっけ? なんか七海が怒るようなものだった気がして……」
「ほぇ?」
「そういえば、何かあったわね……」
「小夜子まで? 私は心当たりないなぁ……」
弥堂は黒目を戻し彼女らを視る。水無瀬さんは「うんうん」唸りながら七海ちゃんへのお返事を考えていて気付いていない。
「――ああぁぁぁっ⁉ 思い出したぁっ!」
そうしていると早乙女が大きな声を出す。
「そうだった、そうだった。せっかく動画作ったのに七海ちゃんに送ってなかったんだよ!」
「そうだ、動画だ。アンタあれだけ手間かけてたのに忘れてたのね……」
「動画……?」
「楓は半分寝てたから覚えてないのね。ののかの悪ふざけよ」
「こうしちゃいられないんだよ!」
「あっ、待てののかっ! 送ってないんならそのままやめときなさい!」
こうしちゃいられないと自席へ走り出す早乙女を追って日下部さんも離れていく。その流れで野崎さんと舞鶴も自分の席へと帰っていった。
その姿を弥堂は眼で追う。
(結局どういうことなんだ……?)
色々と考えを巡らし、色々と実践をしてみたが、結局は何もわからず終いだった。
胸のもやもやと後味の悪さと苛立ちが残っただけだった。
水無瀬や彼女らに何が起こっているのか、それは全くわからない。
(だが――)
一つだけわかったことが、というか再確認できたことがある。
(希咲め。やはりあいつのパンツは俺を馬鹿にしている……っ!)
途中までは僅かながらも真相に近づいている手応えはあった。
だが、彼女のパンツが状況に絡んだ途端に騒ぎが起き、捜査は難航するようになってしまった。
やはり希咲 七海のパンツは自分の効率を著しく低下させる。
敬愛する上司である廻夜部長は、ギャルを忌み嫌いつつもその一方でギャルのおぱんつをありがたがっている節があり、そして『オタクに優しいギャル』は神格化している。
しかし弥堂にとってはギャルのパンツはどこまでも鬼門のようだ。
先程画像で見た水着と似た色合いの、今も自宅のPCにはしっかりと画像が残っている、そして記憶の中にもしっかりと記録されて消えることのない希咲のパンツをイメージ上に浮かび上がらせる。
青だか緑だかわからない曖昧な色に苛立ち、そしてそれを見られた時の彼女の泣き顔を睨みつけ弥堂はグッと歯を嚙み締めた。
そして教室内で電話のコール音が鳴り響いた。
「うおぅ……、弥堂くんガン見してるよ……。さすがは性欲のバケモノなんだよぅ……」
「ちょっと。変なレッテル貼るのやめなよ。怒られるわよ?」
「……私には変死体の原因を探る検視官の目に見えるわね……」
「弥堂君は真面目だから……」
「やっぱりななみちゃんかわいーよね? 弥堂くんも好き?」
「キミの言うとおりだ」
オートモードで適当な相槌を打ち割と致命的な失言をしつつ、弥堂は一点の瑕疵も見逃さぬ心意気で希咲の水着姿に向き合う。
水無瀬の手からスマホを奪い取り、クラスメイトの女子の水着姿を瞬き一つせずに睨みつける男子に女子はドン引きだ。
周囲の男子たちも何人かは気になって仕方ないようで、どうにか覗けないかとチラチラ視線を送るが、野崎さんたちの女子ブロックに阻まれて失意に暮れる。
まさか水無瀬以外の人間が見ているとは思わずに写真を送ってしまった希咲の水着姿が不特定多数の男の目に入ることは防がれたが、しかしその代わりに『希咲 七海はプライベートでは、おぱんつレス』という誤解が幾名かに生じた。今日も安定して彼女は不憫だった。
弥堂は希咲の肢体を睨める。
上から順に検品する。
まず顔はどうでもいいとして、細い首筋に少し撫で肩気味の華奢な肩。だが貧弱さや不健康さは感じられない。
しっかりと立体感を魅せる鎖骨のラインと、その下には偽造した胸の谷間。その谷間の中心近く右の胸に、先週彼女が制服の襟を開いて胸を見せつけてきた時には気が付かなかったが、ほんの小さなほくろがある。
引き締まった二の腕から小胸筋を通って前鋸筋まで繋がる滑らかな曲線が脇の下の窪みを映えさせる。
薄い腹の皮膚の下の腹直筋が、鳩尾から臍までとその両サイドにうっすらと筋を見せながらも、やわらかさは外見上も損なわれていなく、非常にバランスがいい。
彼女の尻は大きくないが、それでもはっきりと腰のくびれを見て取れるほどにウエストが細い。
そして、彼女が今南国リゾートにでもいるのなら、これが焼けてしまうのは勿体ないなと喪失感を思わせるような、健康的な印象を損なわない程度に血色のいい白い肌。
カメラの性能が優れているのか、写真画像ごしでもその肌に潤いと滑らかさが感じられる。
ここまで悪意満点の弥堂から見ても、胸くらいしかケチを付けられるところがなく、しかし一応彼女の偽造乳については秘密にすることになっているので手詰まりを感じた。
そこから下の下半身は先週も視たが、特に攻撃できるポイントがなかったのでもう諦めようかと考えかけ、彼女の腰回りと股間に視点がいったところでふと視点が止まる。
(なんだ……?)
なにか違和感を感じた。
違和感というよりは――
「弥堂くん夢中だね。この写真欲しい? ななみちゃんにあげてもいいか聞いてあげようか?」
「結構だ。別に欲しいわけじゃなく……、そうか、そうだな。なんというか既視感があっただけだ」
「きしかん……?」
ぽへーっと復唱するだけの水無瀬さんとは違い、周りの女子4人は「ん?」と眉を顰める。
「なんだったか……、ちょっと待て。思い出す」
「あ、うん」
そう言って弥堂は記憶の中からその既視感の原因となる記録を探し出す。それには時間もかからず辿り着いた。
「あぁ、そうか……」
「思い出せた?」
「あぁ。どこか見覚えのあるデザインだと思ったら、先週あいつが同じような色合いのパンツを穿いていたのを見たなと思い出した」
「そうだったんだ。よかったねっ」
弥堂くんが無事に思い出せたことを水無瀬さんは一緒に喜んだが、周囲の女子たちはギョッとした。
「先週?」「見た?」「パンツ?」と、ヒソヒソと会議を始める。
弥堂が目に映して既視感を覚えたのは希咲の肉体ではなく、水着の方だった。
ミントブルーの布地をメインに黄色で縁どられているその水着は、まさしく法廷院たち『弱者の剣』との対決時に見た希咲のパンツに似ていたからだ。
その後、弥堂が希咲にぶっ飛ばされてKOされることになった要因の一つでもある。
「そういえば、ななみちゃんこういうパンツよく穿いてたぁ。この色かわいーよね。弥堂くんも知ってたんだぁ」
「ん? あぁ、ちょっとな……」
『――そっ、そうよっ! いつもこういうのだけ着けてるってわけじゃないんだからっ…………で、でも……こういうの着けてると愛苗がいっぱいかわいいって言ってくれるし……――』
水無瀬の反応に紐づいて先週の希咲の言葉が記録から想起される。
(そういうことか。あいつ、バカだな)
きっと水無瀬に見てもらいたくてノリノリで自撮りを送ってきたのだろうと、写真の中の彼女のドヤ顔を侮蔑の眼で見下ろし、そして興味を失くす。
『ちょっと』ってどういう意味?と話し合う女子たちを尻目に、弥堂は水無瀬にスマホを返してやる。
「もういいの?」
「あぁ、もう用済みだ」
「あ、じゃあ、ののかに見してー」
水無瀬に渡そうとしたスマホを寸前で早乙女に搔っ攫われた。
「おぉ。確かにこの水着かわいーね」
「えへへ。かわいーよねぇ」
自分が褒められたかのようにニッコリする水無瀬に早乙女もニッコリと笑う。
「七海ちゃんって服とか水着いっぱい持ってそうだよね」
「あのね、ななみちゃんのお母さんがね、お洋服のお仕事してて。それでいっぱいもらえるんだって言ってたよ?」
「そうなんだー。着ないで水着余らせるとかののかもやってみたいぜー。なんか女子力上がった気しない?」
「今年の夏用にまた新しいの欲しいって言ってたけど、女子力高いからなのかな? あのね、一緒に海に行くんだぁ」
「海かぁ、いいなぁ! ののかもいきたーい!」
「よかったら一緒に行く? ななみちゃんに聞いてあげるね」
「えっ? いいのー? やったぜ。まなぴー女子力高ぇな! すきーっ!」
「えっ?」
「…………」
そこで水無瀬は突然困惑したように言葉を止めた。
弥堂も早乙女を視る。
「お? どした、まなぴー?」
「え……? えっと、その……、呼び方が……」
「あれ? 愛苗っちの方がよかった?」
「ううん。いきなり変わったからびっくりしちゃっただけ。イヤじゃないよっ」
「ふふん。そんなの気分なんだぜー? まなぴーの好きな方で呼ぶよ? どっちがいい?」
「え、えっと……、まなぴーが、いいです……」
「おっけー!」
少し伏し目がちに答える水無瀬に早乙女は軽く請け負う。
その様子を視て、弥堂は眉を歪める。
すでに二回ほど見たことがあるやりとりだ。
おそらく、海に誘ったことで早乙女の水無瀬への好感度が上がり、あだ名が変わるというイベントが発生したのだろう。
現実の中で、生きている人間の好感度が上がる瞬間が可視化され、それを目撃するなど、心の底から気味が悪いと、弥堂はそう感じた。
「はい、返すねまなぴー」
「うん、ありがとう……」
「おや?」
早乙女からスマホを受け取った際に水無瀬の指が画面に触れ、それにより画像の全画面表示が解除される。
代わって表示されたのは彼女と希咲のメッセージのやりとりの履歴だ。
それを早乙女が覗き込む。
「……あれっ? ねぇねぇ、まなぴー?」
「なぁに? ののかちゃん」
「これ――」
声とともに早乙女が指差したのは直近の履歴だ。
「この言い方じゃまなぴーが七海ちゃんのパンツ知りたがってる風に思われちゃうよ?」
「え?」
「ほら。ちゃんと弥堂くんが七海ちゃんのパンツの色聞いてたって言わないと……」
「あっ、そうか。忘れちゃった」
「バッ⁉ バカっ、ののか! アンタなに余計なこと――」
「――あとさ、ちゃんと弥堂くんにも水着写真見せてもいいか、ぷぷっ……、聞かないと……。勝手に男子に見せちゃうのもさ? ほら……、ぷふーっ、よくないと思うし?」
「そ、そうだよねっ。私うっかりしてた! 弥堂くんもごめんねっ?」
「……? まぁ、気にするな。そういうこともある」
「ちゃんと聞いてみるからちょっと待っててね」
「あぁ……、ダメだよ水無瀬さん……」
急いでペタペタと文字を打ち込む水無瀬へ日下部さんが力無く手を伸ばそうとするが早乙女に阻まれる。
「まなぴーの思うようにさせてあげようよ、マホマホ」
「ののか、アンタ怒られるよ?」
「ののかは善意からこうしただけです!」
「それを信じてもらいたかったら、まずはその半笑いをやめろ」
笑いを堪えながら敬礼をする早乙女に日下部さんは胡乱な瞳を向ける。
その間に水無瀬はメッセージを送信してしまい、さらに希咲からの返信までも届いてしまう。
「あっ……、弥堂くん、あのね?」
「なんだ?」
「ななみちゃんが『死ね!』だって……。そんなこと言っちゃダメだよってお返事するね?」
「いや、いい。代わりに『お前が死ね』と返してくれ」
「そんなこと言っちゃダメなんだよ? 『かわいー』とか『すき』っていっぱい言ってあげて? なかよしになったら、ななみちゃんも『いいよー』ってパンツ見せてくれると思うの」
「さ、さすがにそれはないと思うよ。水無瀬さん……」
二人のゆるい風の会話を聞いて、手遅れだったかと日下部さんは目を覆い、苦笑いの野崎さんが水無瀬を窘めた。
「思ったよりリアクション薄かったんだよ。ざんねん」
「ののか。アンタって子は……」
「まぁ、水着だものね。下着なら話は別だけれど」
「えぇ? でも小夜子。下着と露出変わらないから水着でも恥ずかしくない?」
「私もちょっと、抵抗あるなぁ……」
「えー? ののかも水着ならオッケー派だよぉ?」
弥堂には理解しがたい女子トークが応酬されるようになり、彼は以降の発言を放棄することにしてそっと白目になる。
「とはいえさ、絶対希咲さんちょっとは怒ってると思うよ?」
「安心して楓。私が七海にきちんと『ののかの仕業』だって密告しておくわ」
「やめてよ小夜子ちゃん! ののかシバかれちゃう!」
「あ……、あれっ? そういえば――」
「どうしたの真帆ちゃん?」
日下部さんが突然難しそうな表情になり、注目が集まる。
「んー、あれ? 記憶があやふやなんだけど、『七海に怒られる』でちょっと思い出して……」
「お? マホマホなんかやらかしたの?」
「私じゃなくってアンタよ」
「ののか?」
「アンタさ、昨日なんか七海に送るって言ってなかったっけ? なんか七海が怒るようなものだった気がして……」
「ほぇ?」
「そういえば、何かあったわね……」
「小夜子まで? 私は心当たりないなぁ……」
弥堂は黒目を戻し彼女らを視る。水無瀬さんは「うんうん」唸りながら七海ちゃんへのお返事を考えていて気付いていない。
「――ああぁぁぁっ⁉ 思い出したぁっ!」
そうしていると早乙女が大きな声を出す。
「そうだった、そうだった。せっかく動画作ったのに七海ちゃんに送ってなかったんだよ!」
「そうだ、動画だ。アンタあれだけ手間かけてたのに忘れてたのね……」
「動画……?」
「楓は半分寝てたから覚えてないのね。ののかの悪ふざけよ」
「こうしちゃいられないんだよ!」
「あっ、待てののかっ! 送ってないんならそのままやめときなさい!」
こうしちゃいられないと自席へ走り出す早乙女を追って日下部さんも離れていく。その流れで野崎さんと舞鶴も自分の席へと帰っていった。
その姿を弥堂は眼で追う。
(結局どういうことなんだ……?)
色々と考えを巡らし、色々と実践をしてみたが、結局は何もわからず終いだった。
胸のもやもやと後味の悪さと苛立ちが残っただけだった。
水無瀬や彼女らに何が起こっているのか、それは全くわからない。
(だが――)
一つだけわかったことが、というか再確認できたことがある。
(希咲め。やはりあいつのパンツは俺を馬鹿にしている……っ!)
途中までは僅かながらも真相に近づいている手応えはあった。
だが、彼女のパンツが状況に絡んだ途端に騒ぎが起き、捜査は難航するようになってしまった。
やはり希咲 七海のパンツは自分の効率を著しく低下させる。
敬愛する上司である廻夜部長は、ギャルを忌み嫌いつつもその一方でギャルのおぱんつをありがたがっている節があり、そして『オタクに優しいギャル』は神格化している。
しかし弥堂にとってはギャルのパンツはどこまでも鬼門のようだ。
先程画像で見た水着と似た色合いの、今も自宅のPCにはしっかりと画像が残っている、そして記憶の中にもしっかりと記録されて消えることのない希咲のパンツをイメージ上に浮かび上がらせる。
青だか緑だかわからない曖昧な色に苛立ち、そしてそれを見られた時の彼女の泣き顔を睨みつけ弥堂はグッと歯を嚙み締めた。
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