俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

文字の大きさ
上 下
164 / 677
1章 魔法少女とは出逢わない

1章23 断頭台の下に咲く花 ③

しおりを挟む

 悲鳴をあげて悶絶する彼女らを見てふと気付いたことがあり、水無瀬に問いかける。


「痛みがあるのか?」

「――ぃきゃあぁーー…………へ? あ、そういえば痛くないんだった! えへへ……」

「……馬鹿にしているのか?」


 表情を変えずに問いながらさりげなく彼女の顔面を握る力を最大にしてみる。


「ち、ちがうのっ! 変身してると痛くないんだけどね、びっくりするとなんか痛いような気持ちになっちゃうの!」

「気分で生きてんじゃねーよ」


 しかし彼女の言葉通り、リンゴ程度なら簡単に握り潰せるくらいの力をこめているのだが全く痛みを感じていないようだった。

 熱いものに一瞬だけ触れてしまった際に、実際には熱さを感じていないが反射的に熱いと思い込んでしまうようなものなのだろうか。


(そうなら、痛みを遮断している意味はあるのか?)


 ジッと彼女の顔を視る。


 ダメージを負わないというのは非常に有用な魔法だとは思うが、それは一体どういう理屈なのだろうと考える。

 単純に皮膚や内臓や骨など、全体的に身体が頑丈になっているだけのことなのだろうか。


(例えば――)


 人差し指で水無瀬の右目の下瞼を撫でる。


 この指をこのまま瞼の奥に挿し入れてから指先を曲げ、眼球を引っ掛けながら引き抜いてみたら彼女の目玉は抉り出せるのだろうか。

 もしもそういった攻撃からすら身を守れるようになっているのならば、そもそも指を挿れること自体が出来ないのか、それとも眼球を引っ張り出すことが不可能になるのか、どういった形で無効化されるのだろうか。


 試しに突っこんでみようと指を動かそうとすると――


「――おいコラァッ! いつまでオレら放置してんだ!」


 焦れた様子のボラフから声がかかり、弥堂は水無瀬の顏から手を離した。


「悪の幹部にだって予定はあるんだよ! とっととヤリあおうぜっ! そんでニンゲン! オマエは邪魔だからもう帰れ」

「ふざけるな。俺はクリーニング屋に行くんだ。その通り道を塞いで邪魔をしているのはお前らの方だろう。目障りだから失せろ」

「クソッ! 魔法少女とモンスターが対決してるんだぞ⁉ クリーニングとかどうでもいいだろ⁉ 少しは空気読めよ!」

「知ったことか。俺のクリーニングの邪魔をするのならば、魔法少女だろうがバケモノだろうが皆殺しにしてやる」

「私も⁉」


 隣でぽへーっと弥堂とボラフの会話を聞いていた愛苗ちゃんは突然殺害を宣告されてびっくり仰天し、白いリボンで括られたピンクのツインテールがぴょーんっとなる。


「ちくしょう、イカレてやがる! おい、フィオーレっ!」

「は、はいっ!」

「ちょっと結界に穴開けてコイツに出てってもらえよ! ちゃんと待っててやるから!」

「なんだ、そんなことが出来るのか?」


 非常に効率のいいアイデアを聞いたと弥堂は水無瀬の顔を見るが、彼女はコテンと首を傾けた。


「……おい」

「えっと……メロちゃん? できるのかな?」

「えっ? いやわかんねーッスけど……、ボラフ? そんなこと出来るんスか?」

「えっ? いや、知んねーけど……出来ねえの? だってそいつ結界張った後に入って来てんじゃん」

「あっ、そうか! じゃあ、弥堂くん? 悪いんだけど結界に穴を空けてもらってもいい?」

「……お前らナメてんのか」


 事前にネタ合わせでもしていたかのように視線でリレーをして、最後には一斉に弥堂の方へ顔を向けてくるポンコツ劇団員どもに弥堂は激しく苛立つ。


「もういい。一部開放することが難しいのなら一回結界を解け。それで俺は手を引いてやる」

「えっ⁉ そんなのダメだよっ!」
「そうッスよ! モールがパニックになっちまうッス!」
「オマエな、ここにはお年寄りだっているんだぜ? 少しは他人の迷惑を考えろよな」

「……そうか。なら力づくで排除させてもらう」

「ヒッ、ヒィッ⁉ くるなぁっ!」


 ズイと弥堂が前に出ようとするとボラフは大袈裟に怯えた。

 それを見たメロはキョトンとして疑問を口にする。


「なんスか? オマエ、マジでニンゲンなんかにビビってんスか?」

「バッ、バカやろう! 昨日の今日だぞ⁉ オマエもそいつに狙われてみろよ。この眼つきで瞬きもせずに無言で淡々と殺しにくるんだぞ⁉ ツエーとかヨエーとかじゃねぇんだよ! こんなんフツーにコエーわ! ロボット掃除機の方がまだ話が通じるだろ!」

「たしかに……。ロボット掃除機は我々ネコさんの天敵ッスが、少年よりは融通がきくというか交渉に応じてくれそうッスね……」


 弱音を吐く悪の幹部の言葉にネコ妖精は一定の共感を示した。

 弥堂はそれを宣戦布告と捉えた。


「殺すと決めたら殺す。交渉の余地などない」

「クッ、クソがっ! やってやる!」


 ボラフの戦意に応えるように巨大な花のゴミクズーが花の奥から「キキキキキッ」と不快な声を鳴らし、数本の蔦をうねらせる。


 その威容を睨みつけながら、弥堂は隣に立っていた水無瀬の襟首を掴んで彼女を持ち上げると自身の前へ立たせる。


「へ?」

「よし、やれ」


 手短に水無瀬へ命令をしたが、彼女に上手く意図は伝わっていないようで、こちらの顔を見上げておめめをぱちぱちしてきた。


「殺せ」

「あ、私か。えっと……殺さないよ? 浄化だよ」

「建前はなんでもいい。速やかに滅ぼせ」

「建前じゃないんだけどなぁ……」

「いいからさっさと殺せ。罪もない一般市民のこの俺が化け物に狙われているぞ? さっさと俺を守れ。やる気あるのか?」

「あっ……! うんっ! とにかく私がんばるねっ!」


 随分と不遜な態度の一般市民だったが、よいこの愛苗ちゃんはそんなことは気にしない。

 自身の顏の下で両のお手てを構えると握力15㎏のフルパワーでギュッと握りしめ、フンフンっと鼻息荒く戦意を顕わにした。


「コ、コイツ……あれだけイキリ散らかしておいて女の子を盾にするのか……っ⁉」


 悪の幹部がなにやら戦慄している隙に、弥堂とゴミクズーの間に魔法少女ステラ・フィオーレは颯爽と立つ。


「いきますっ!」


 開戦の声をあげると同時、えいっと魔力をこめると彼女の履くショートブーツに小さな翼が生える。


「【飛翔リアリー】!」


 ふわりと足が地面から離れ身体が宙に浮かび上がる。


「むむむ……」とバランスを保つことに集中しゆっくりと高度を上げていると、シュルリと触手のような蔦が目の前まで伸びてくる。


「はぇ……?」


 ぱちぱちと瞬きをしてその蔦の先端を見つめていると、そこからニュッと葉が生えてきて、まるで掌で蝿にそうするように水無瀬をペチッと叩き落した。


「ぅきゃ――っ⁉」


 べチャッと地面に張り付くと飛行の魔法が解除され、ブーツに生えた翼が霧散した。


「ィキキキキキッ!」


 植物型のゴミクズーは耳障りな哂い声を上げ、そのまま水無瀬へ追撃を仕掛ける。


「――あいたっ⁉ いた――くないけど、やめてぇーっ!」


 ペチペチと葉っぱに叩かれる水無瀬の間抜けな姿に弥堂は眉間を揉み解してから一つ溜め息を吐き、無造作に近寄っていくと彼女の足首を掴みペチペチの爆心地から引っこ抜いた。


「――あわわわ……っ! あ、あれっ?」

「お前は何をやっているんだ」

「あ――弥堂くんっ! えへへ……ありがとう」

「…………」


 照れたように笑顔を浮かべる彼女をジッと視る。


 結構な質量に殴られ続けていたはずだが、やはりダメージと謂えるほどのものは何もないようだ。

 見定めるような眼で逆さ吊りにした水無瀬を見下ろしていると、彼女の股にネコ妖精がヘバりついた。


「テメーこのスケベやろうっ! 隙あらばパンツを見ようとするんじゃねえッスよ!」

「…………」


 戦場において真剣味の欠片もないようなことばかりを言う役立たずのお助けキャラを無視して油断なく大型のゴミクズーへ眼を向ける。


「ハッ――逃がすかよ! やれっ! ギロチン=リリィッ!」

「キィィィーーーーーっ!」


 ボラフの命令に従い咆哮をあげた花のゴミクズーは蔦を振り上げる。


(ギロチン=リリィ……?)


 昨日、ネズミの化け物のことは『ゴミクズー』と呼んでいたボラフが発した呼び名のようなものに眉を顰めるが、考えを巡らせる間もなく上空から蔦が鞭のように振り下ろされる。


「――っ!」


 その軌道をよく視て水無瀬の足を雑に掴んだまま最小限の動きで躱す。


 しかし、敵の攻撃はその一撃で終わることはなく複数の蔦が次々とこちらへ伸びてくる。


「わっ、わっ、わ……っ⁉ す、すごい……! 弥堂くんすごいっ!」


 能天気な水無瀬の声を聞き流しつつ、最低限のステップを踏み足の捻りで身体の向きを連続で変えながら、突き出されてくる全ての攻撃を躱していく。


「……昨日も思ったが、テメェなんなんだ? 見る限り魔法を使ってるわけでもなければ、別に魔力があるわけでもねえ。どうして対応できる?」

「どうしてなどと言われるほどのものでもない。相手の攻撃が来ない場所に攻撃が来る前に移動しておくだけのことだろ」


 不審な目を向けてくるボラフに何でもないことのように答える。


「そうかよっ! なら、これならどうだ⁉ ギロチン=リリィ!」


 ボラフが叫ぶと同時、花茎から伸びる蔦の数が増える。


(花の形から見るに元は百合の花だったようだが、これではもはや原型などあったものではないな)


 うねりながらこちらへ狙いをつけるそれらを無感情に視ながら備える。

 そうは間を置かずに数多の蔦が一斉に向かってきた。


 視界に入るだけの全ての蔦の軌道を俯瞰しながら先程と同じように捌いていく。


「――っ!」


 しかし、今回は数が多すぎる。


 幾本かの蔦は回避できたがすぐに逃げ道を塞がれてしまった。


 巨大な葉の掌が逃げ場のない弥堂に影を落とす。そしてそれは間髪入れずに振り下ろされた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...