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1章 魔法少女とは出逢わない
1章10 Shoot the breeze ①
しおりを挟む教室の戸を開け自席に戻るとそこにはまだ女どもが蔓延っていた。
うんざりとした心持ちで椅子を引くと、ここを一度離れる前と変わらず姦しかった彼女らのおしゃべりが不自然にピタリと止む。
どこか遠巻きにするようにこちらにチラチラと視線を寄こしながらも、その態度は弥堂を避けるかのようであった。
先程は何故か少し気安くなられて都合が悪いと感じていたので、理由はわからないが今まで同様に忌避してくれるのならばありがたいと弥堂はそれを受け入れる。
席に座る直前にチラリと眼を向けた先の希咲は憮然とした表情でそっぽを向いていた。その彼女の出で姿に違和感を覚えるが、どうでもいいことだと流して椅子の位置を調整する。
しかし、そんな周囲の空気などおかまいなしな方も中にはいらっしゃる。
「弥堂くん、おかえりなさい! ねぇねぇ、プリメロ好きなの?」
もちろん水無瀬さんだ。
「…………なんの話だ?」
無視してもよかったのだが、あまりに脈絡がなさすぎて弥堂はつい問い返してしまった。
「えっとね、スマホの着信がプリメロだったから。弥堂くんも好きなのかなって」
「あぁ。違う。それは掟だからだ」
「おきて……?」
水無瀬は聞き慣れない言葉にキョトンと目を丸くして首を傾げる。
「あぁ、そうだ」
「そうなんだ。風紀委員って大変なんだね」
「違う。風紀委員ではなく、俺の所属する部活動の掟だ」
「そうなんだぁ。委員会もあるのに大変だね」
「そうでもない。とはいえ、活動に必要だからと義務付けられてはいるが、シリーズ全作を視聴するのには流石に骨が折れたがな」
「活動に……? あれ? 弥堂くんの部活ってキャンプするんだよね?」
「しねーよ。キャンプ部ではない、サバイバル部だ」
「あ、そっか。えへへ、まちがえちゃった。ごめんね」
周囲の女子たちは二人の会話を盗み聞いて何ともいえない気分になる。
「ま、愛苗ちゃんのメンタルどうなってんの……? ツッコミどころしかないんだけど……」
「落ち着くんだよマホマホ。多分これ一個一個ツッコんでたらキリがないやつだよ」
「そうよ、真帆。真面目に聞いたら頭がおかしくなるわよ」
「水無瀬さん、スルーしてるってより何も疑問に思ってなさそうだよね。一応文面的には会話は成立してるし……すごいなぁ……」
ヒソヒソと囁かれる彼女たちの声に水無瀬は気付かず、弥堂は聴こえていないフリをして、二人の会話は続く。
「じゃあ、サバイバルってことは無人島に行くんだよね? 無人島に連れてくならどの魔法少女? みたいなことなの?」
「なんでだよ。無人島などに用はないし、行くとしても魔法少女など連れて行かない」
「でもでもっ! 魔法が使えたらサバイバル生活に便利だよ!」
「お前は一体何の話をしてるんだ」
「え? だってサバイバル部だからサバイバルするんだよね? 無人島で。『とったどー!』って」
「なんでだよ。しねーよ」
「え? そうなの?」
「そうだ。サバイバル部はサバイバル生活などしない」
「そうなんだー」
「なんでお前が残念そうなんだよ」
何故か残念そうに眉をふにゃっと下げる彼女は、両手で想像上の獲物を高らかに掲げてバンザイをしていた。
――とったどーのポーズだ。
弥堂はその仕草にイラっとした。
すると――
「ぷっ」と横で吹き出す声が漏れる。
そちらに眼をやれば机に頬杖をついたまま外方を向く希咲だ。
水無瀬の言葉で思わず、海パン一丁で銛を構える弥堂の姿を想像してしまいつい吹き出してしまったが、彼女は素知らぬ態度を貫いている。
恨みがましく希咲へ向ける目を細めると、彼女の横髪の隙間から覗く耳たぶが細かく震えているのが見えた。まだ笑いを堪えているようだ。
とりあえず彼女のことは捨て置く。
「サバイバルしないんだ……」
「とりあえずアウトドアから離れろ。我々はそのような団体ではない」
「じゃあ、なにするの?」
「……サバイバル部というのは通称だ。本来の名は『災害対策――」
弥堂は自身が所属する部活動の正式名称を読み上げようとしたが、その途中で言葉を切り対面で未だにバンザイをしながら首を傾げる少女を視る。
「…………まぁ、あれだ。みんなで頑張って生き延びる部だ」
「いきのび……?」
「あぁ。必要に応じてすごいがんばる」
「わ、そうなんだ。えらいんだね」
「……そうだ。えらい」
「――あんたテキトーなこと言うんじゃないわよ」
あまりに意思の疎通の手応えのない会話に弥堂が思わず白目になると、横合いから咎めるような声が挿しこまれる。
「あんた昨日は『災害対策方法並びにあまねくにゃにゃにゃにゃにゃっ――』とかって変な名前言ってたじゃない。なにテキトーに流そうとしてんのよ」
顏はまだ他所に向けたままで横目でジロリと不機嫌そうな視線を寄こしてくる希咲をジッと視る。やはり彼女にいつもと違うなにかを感じる。
「あによ」
「……べつに」
「は?」
「あ?」
「なんでもないわよ! ばかっ!」
「なんだってんだ」
何故か彼女は大層機嫌が悪いようで、そう怒鳴ってまたそっぽを向いてしまった。
その仕草を見て、やはりどこかに違和感を覚えるが、しかし気のせいだろうと水無瀬の方へ向き直る。
水無瀬はまだバンザイをしたままで顏だけ希咲の方へ向けニコニコとしていたが、弥堂が自分を見ていることに気が付くとにへらと笑った。
弥堂は嘆息し、とりあえず彼女の両手を降ろさせてやろうと彼女の眼前に空になった弁当袋を突き付ける。
水無瀬は、反射的な行動なのか、それをハシッと両手で掴みようやく『とったどーのポーズ』をやめた。
「ありがとう、弥堂くん」
「……あぁ」
何故自分が礼を言われたのかはわからないが、他に言い様もなかったのでとりあえずそうとだけ返す。
すると、視界の端からの視線に頬をチクチクと刺される。
希咲が睨んでいる。
思わず舌打ちをしそうになるが、どうにか自制した。
「水無瀬。『美味しかったよ。ありがとう』」
「えへへ。どういたしましてっ」
昨日希咲に言われたとおりの礼を告げると、水無瀬はニッコリと笑い、希咲は胡乱な瞳を向けてきた。
恐らく昨日と全く同じ言葉を使ったのが気に入らなかったのだろうが、希咲へ『いい加減しつこいぞ』とこちらも非難をこめた視線を送る。
彼女はまたぷいっと顔を背けた。
喋ればこの上なく口煩いが、黙っていても煩いという極めて稀有な特殊能力を持ったこの女にどう対応すればいいかと考えていると、水無瀬に声をかけられる。
「難しそうでよくわかんなかったんだけど、街を危険から守るために魔法少女になる部活ってことなの?」
「ぶっ」と希咲も女子4人組も吹き出す。
脳内に爆誕した『魔法少女ビトー☆メロディ』の強烈なインパクトに顔を青褪めさせながら彼女たちは笑いを堪えた。
弥堂がそんな彼女らに視線を巡らせると全員が目を背けた。
「そんなわけがないだろう。そもそも俺は少女ではない」
「あ、そっかぁ。残念だね……」
「いや、そもそもそういう問題じゃ…………」
「シッ。ダメだよマホマホ。そっと見守るんだよ!」
「仮に俺が女だったとしても、もう高校生だ。魔法少女などという年齢ではない」
「えっ? そ、そうなの……?」
「ふふっ。年齢や性別の問題をクリアすれば、なろうと思えば魔法少女になれるって信じてるのね。かわいいわ」
「あのね、小夜子。その場合、弥堂君が魔法少女になっちゃうんだけど……」
「…………」
また発言に遠慮がなくなってきた女どもへジロリと視線をやって牽制し黙らせる。
それから弥堂は諦めたように溜め息を吐き、なにか多大な誤解をしている水無瀬へ説明を試みる。
「我々の部活動は魔法少女を目指す団体ではない。日常の中では起こる可能性の低い問題にも予め想定し備え、実際に事が起こった時に生き延びる確率を上げることを志す部活動だ」
「そうなんだ。魔法少女にはならないんだね……」
「残念そうにするな。魔法少女はあくまで現在討論を予定しているテーマの一つにすぎない。もしも魔法少女に出会ってしまったら、どういった行動をすることがサバイバル部員として適切なのかというテーマだ」
「もしかして魔法少女のお手伝いをするの?」
「違う。逆だ」
「えっ?」
なにか期待をこめたような瞳で弥堂へと問いかけたが、即座に否定をされ水無瀬は目を軽く見開く。
「もしも普通の高校生である俺がある日突然魔法少女に遭遇してしまった場合、どうやって奴らを仕留めるか、もしくは逃げ延びるか。そういう話だ」
「なんでっ⁉」
魔法少女の撃退を視野に入れていると告白したクラスメイトの言葉に、愛苗ちゃんはびっくり仰天してチャームポイントのおさげがみょーんと跳ね上がった。
「奴らの思想ともいえない行動や思考の原理とは恐らく相容れないだろう。戦闘を想定しておく必要がある」
「だっ、ダメだよ! 魔法少女とケンカしちゃ!」
「それは奴らの出方次第でもあるが、出来れば先制攻撃をしかけたいところでもある」
「だ、だいじょうぶだよ! 魔法少女は『良い方』だよ!」
「それはどうかな。いいか? そもそも…………なんだ? 希咲」
水無瀬へと魔法少女の排除論を語ろうとしたが、希咲が呆れたような目を向けていることに気付き言葉を止める。
「なんだって…………や、またおバカなこと言ってんなーって」
「ふん。俺たちの活動はまさにお前のように危機感の足りないバカが惨めに死んでいく中で生き残る方法を模索するものだ」
「バカはあんたたちでしょうが。大体仕留めるってどうやって仕留めるのよ? あんたなんて魔法でぴゃーってやられて終わりでしょうが」
「ふん。素人め」
クラスメイトの女子が複数見守る中で、自分は魔法少女に関する専門家であると堂々と名乗った男に希咲は侮蔑の視線を送るが、弥堂はそれに構わずに続ける。
「確かに奴らの戦闘能力は強大だ。正面から当たってはまず勝ち目はないだろう」
「じゃあ、ダメじゃん」
「それが浅はかだというのだ」
「はぁ?」
「馬鹿正直に戦闘を挑んでも勝てないのであれば、他の手段で勝つ方法を見出せばいい」
「…………いちお聞いたげるわ。試しに言ってみなさい」
絶対にロクでもない話だろうと予測はついていたが、目の前のトンデモ思考をする男が一体魔法少女に対してどう接するつもりなのかが少し気になってしまい、希咲は興味本位で問いかけた。
「うむ。いくつか方法を考えてはいるが、今のところ第一の手段として考えているのは『イジメ』だな」
「…………」
想像していたものより遥かにヒドイ回答がなされ、希咲は胡乱な瞳になる。
順応性の高い彼女には昨日の経験もあり若干の耐性がついていたが、他の女子たちは突然の物騒な発言にギョッとした。
「いいか? まずは対象の個人情報を集める。奴らは攻撃や防御などの直接的な戦闘手段には長けているが索敵などに関しては稚拙だ。彼女らを尾行し正体を探り、自宅・家族構成・交友関係を洗う」
「犯罪だから」
「手始めに対象の友人たちを買収して学校で魔法少女を『シカト』をするように持ち掛ける。売春をしているなどの噂を流し出来れば学校中から『フルシカト』される状態にまで持っていきたい。金で言うことを聞かない非協力的な者には脅迫も辞さない」
「犯罪だから」
「学校で居場所を失くした対象は人々を守るという意義を見失い引きこもりになるだろう。そこで次に、対象の両親の職場に工作を仕掛け退職、もしくは廃業に追い込む」
「犯罪だから」
「家庭環境が荒れればより対象の精神を追い込むことに繋がるだろう。次に行うのは対象のSNSアカウントの特定だ。特殊なサイバーチームを結成し複数のアカウントをもって彼女を炎上に追い込む」
「犯罪だから」
「さらに魔法少女の失敗事例など内容はなんでもいいが、とにかく魔法少女を叩く投稿を捏造しまくり連日トレンド入りさせる。学校でも家庭でも居場所を失くしインターネットに逃げ込むことすらできないとなれば…………あとはわかるな?」
「犯罪だっつってんだろ! ばかやろー!」
「うるさい。法でも暴力でも抑え込めないような化け物が相手だ。手段など選んでいられるか」
ギャーギャーと言い合う二人を背景にドン引きした女子たちはヒソヒソと話し合う。
「魔法少女に会えたらってメルヘンな話かと思ったらグロいよ……っ! すんごいグロいよ……っ!」
「具体的っていうか……妙にリアリティあって鳥肌たったわ……」
「賛否はともかく目的を達成することだけを考えたら、なんか成功しそうで怖いわね」
「……なんていうか、弥堂君はその、真面目だから…………」
歴戦の学級委員である野崎さんのフォローは虚しく空に溶けた。
「そ、そんなことしちゃダメなんだよっ!」
ここで水無瀬さんからもクレームがあがった。
「魔法少女をイジメたらダメだよ! かわいそうだよ!」
温厚な彼女にしては珍しく、彼女なりにではあるが、強い言葉だ。
「これは戦いだ。甘さは捨てろ」
「戦っちゃダメだよ! 魔法少女もきっと弥堂くんとなかよしになりたいって思ってるよ!」
「そんな希望的観測に身を委ねるべきではない。それに俺は高確率で奴らとは敵対することになるだろうと予測している」
「そんなことないよ! 魔法少女はよいこの味方だよ!」
「よいこじゃないからでしょ。いちお自分が魔法少女に成敗される側だってことはちゃんと自覚してんのね」
「ななみちゃん⁉ そんなことないよ! 弥堂くんはよいこだよ!」
「お前ら揃って馬鹿にしてんのか。調子にのるなよ」
高校二年生の生徒たちの通う教室内で魔法少女に関する議論が深まっていく。
「だって魔法少女はみんなのために戦ってるんだよ! 風紀委員といっしょだよ!」
「それは違うな」
「そりゃ違うでしょうね。こいつみんなのために戦ったことなんて多分一回もないわよ」
「うるさい黙れ」
「そんな……ななみちゃんまで…………」
「や。べつに魔法少女が悪いって言ってんじゃないわよ? むしろこいつが悪い奴だから一回成敗してくんないかなって」
「しないよ⁉ 魔法少女は街の平和を守るんだもん!」
「だから、それが危険だというのだ」
お手てとおさげをブンブンして熱弁する水無瀬へ、弥堂は溜め息混じりに説明をしてやる。
「いいか? 確かにその場面だけを見れば奴らは街の平和を守り、世界だかを危機から救ったかもしれん。だが、それは異常なことだ」
「え? どうして?」
「百歩譲って、一度きりのことならばいい。緊急事態下でたまたま居合わせた民間人が協力をして事態を鎮静化した。そういうこともあるだろう。だが、それがその後も当たり前のことのように続くのはいいことではない」
「いいことをしてるのに……?」
「考えてもみろ。警察やら軍隊やらが手を焼くような魔物だの怪人だのをただのいち民間人が倒すのだぞ。それは警察や軍隊をも凌ぐほどの暴力を個人が所有しているということにもなる」
「で、でも……っ」
「治安は警察という仕組みによって守られるべきであり、国防は軍という仕組みによって守られるべきだ。国家に管理されていない暴力が野放しにされているなど正気の沙汰ではない」
「魔法少女は悪いことしないもんっ!」
「それだ。魔法少女の安全性はその者の善意に頼るしかない。どこの誰かも知れない人間の善意が恒久的に保たれるなど誰も保障が出来ない」
「そんなことないもんっ!」
「それに、だ。例え奴らが心変わりをしなかったとしても、魔法少女頼みで成り立つような国や世界などどのみち先はないだろう。そいつらが居なくなったら成り立たなくなるような平和など不安定極まりない」
「うっ……でも……っ!」
「最善は魔法少女なしで成立する治安維持を構築すべきだが、どうしても魔法少女を組み込みたいのならば最低でも国家公務員として雇い入れるべきだ。だが、それは無理だろう。奴らは必ず独自行動をし、自ら危険を探してまわる」
「あぅ……あぅ……」
「さらに言うならば。これはプリメロシリーズではないが、他の魔法少女に関する事柄を記した文献では、『悪堕ち』という状態になり寝返る個体について書かれていた。それも考慮すればやはり俺は魔法少女は排除すべきだと考える」
「うぅぅぅぅぅ…………ななみちゃ~ん……っ!」
大好きな魔法少女を一生懸命擁護しようと立ち向かった愛苗ちゃんだったが、悪の風紀委員に論破されかけて親猫に泣きついた。
支援の要請をされた希咲は「ゔっ⁉」と呻くと気まずげに目をキョロキョロさせる。
愛苗ちゃんはガーンとなった。
「え、えーーと…………そもそもアニメだしーとか、魔法少女ってそういうもんだしーとかってのは野暮なのよね?」
ショックを受けた彼女の顔を見て罪悪感に駆られた希咲は慎重に言葉を選びながら口を開く。
水無瀬は期待をこめた瞳で彼女の言葉を待つ。
「うーーーーーん…………認めたくないんだけど。これはホントにマジでめっちゃムカつくから認めたくないんだけど! あたしもこのバカと大体同意見なのよね……」
愛苗ちゃんは再びガーンとなった。
「あっ、まって! ちがうってば! こいつみたいに魔法少女が悪いとか、排除とかそんなことは思わないんだけどっ! ほら? あたしの場合は聖人っていう実例がいるからさ。あちこちのトラブルに首突っ込みに行くのはちょっといただけないかなぁって……」
「うぅ……そうなのかな……?」
「んーーー、自分と全然関係ない人だったらまぁ、好きにすれば?って言えちゃうかもだけど。例えば愛苗が魔法少女やってるとかってなったら、心配だから全力で止めるし――って、ちょっとあんたどうしたの?」
「なっ、ななななななんでもないもんっ!」
丁寧に水無瀬を諭そうとした希咲だったが、何故か途中で汗をダラダラ流してキョドキョドし始めた彼女の容態を問うと、彼女からは『ないもんのポーズ』が返ってきた。
「そ、そう……?」と希咲は不審に思いつつも、このままこの話題が流れそうな気配がしたのでとりあえずスルーすることにした。
「どうやら結論は出たようだな。話は以上だ」
「なにを偉そうに。てゆーか、魔法少女よりも先にあんたっていう暴力を管理するべきよ」
しかし、空気の読めない男がこういう時ばかり自主的に口を開き余計なことを言うので、自身の胸元に垂れる後ろ髪を指でクルクルしながらジトっとした目を向けた。
「その必要は――」
『その必要はない』と返そうとした弥堂だったが、希咲の仕草を見て言葉を止め彼女をジッと視る。
「あによ?」
無遠慮に見つめてくる男に不愉快さを隠そうともせずにぶつけるが、彼は動じない。
両耳の後ろから纏めて前に垂らしている、水無瀬と同じような希咲のおさげを見て、弥堂はようやくずっと感じていた違和感の正体に気付いた。
「そうか。髪型が変わっていたのか」
「あん?」
その言葉を聞いて希咲の機嫌がさらに一段階悪くなる。
「なによ? 悪いの?」
「さぁな。いいか悪いかなど俺の知るところではないし、俺の気にすることでもない。好きにするといい」
「はぁ⁉ なによそれっ!」
『女の子なんだし自由にファッションを楽しむといいよ』と伝えたつもりだったが、何故か非常に彼女の癪に障ったようで弥堂は眉を顰めた。
「知らんぷりすんな! あんたはもっと気にしなさいよ!」
「何故俺がお前の髪型なぞ気にかけねばならん」
「あんたのせいで髪型作り直すはめになったんでしょうが!」
彼女の怒鳴り声が鼓膜に刺さり弥堂は顔を顰め、そして希咲のテンションに引き摺られるように彼も不機嫌になっていく。
「ねーねー、委員長。あれって、『大好きなカレのために髪型変えたのに気付いてもらえなくてスネて、やっと気づいてもらえたと思ったら今度はホメてもらえなくて激オコなカノジョ』っていう伝統芸能?」
「ののか。そんなの伝統にしてる国なんてないし、あれはそういうのじゃないと思うな」
この二人の言い合いに慣れてきたのか周囲は平和だった。
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