俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章07 lunch break ②

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「あ、ありがとう……! ビトーくん!」

「あぁ。気にするな」

「じゃ、じゃあ、オレらはこれで――」

「待て」


 すぐに倒れた仲間を回収してこの場を立ち去ろうとした彼らだが、弥堂に呼び止められ肩を跳ねさせる。


「誰が行っていいと言った?」

「え……? でも…………」
「勘弁してくれるって……」

「あぁ。許してやると言った。だが話が終わったとは言っていない。終わりかどうかを決めるのは俺だろ? なに勝手に終わらせてんだ? お前ら俺をナメてるのか?」

「ヒッ――ちがっ……!」
「わ、悪かったよビトーくん……オレらそんなつもりじゃ……」


 助かったと安堵していたところから、理不尽に難癖をつけられ彼らは顔を青褪めさせる。


「お前らは俺に借りがある。そうだな?」

「え……? 借り……?」
「ま、まってくれよ……なんのこと――」

「――あ?」

「――ヒッ……⁉ ま、まって……怒らないで……っ!」
「バ、バックレてるわけじゃねーんだ……! マジでなんのことか……」


 怯え戸惑う彼らを弥堂はそのまま数秒ほど無言で視る。

 弥堂に借りなど彼らには心当たりがないが、彼が齎す重圧の中で必死に記憶を探る。


「俺はお前らの頼みをきいてやっただろ。これは借りじゃないのか?」

「た、たのみ……?」
「な、なんのことだよ……⁉ オレらそんなの――」

「――『許してくれ』と言われて許してやっただろ? 『頼む』といったのはお前らだ」

「そっ、それは――⁉」

「つまり、だ。今、俺が一方的にコストを強いられ、お前らが一方的に得をしていることになる。そんなのは不公平だよな? そうは思わないか?」

「ム、ムチャクチャだろ……っ!」
「テっ、テメーあんまチョーシに――」


 弥堂は反抗的な態度をとった者の二の腕を掴み、筋と筋の間に親指を食い込ませて強く握る。


「アイデデデデッ――やべっ……やべで…………っ!」

「なにか不服なのか? それとも踏み倒すつもりか? 俺をバカにしているのか?」

「ま、まって! ちがうっ……! アンタに逆らう気はねぇっ! はなしてやってくれっ……!」


 弥堂は止めに入った者の目をジロッと見遣る。


「それは『頼み』か?」

「え……? あ、いや…………それは……」


 言葉に詰まり逡巡するが痛みに悶える仲間の絶叫にハッとなり、否が応にも選択を強いられる。弥堂と仲間の顔を見比べながら彼は目に涙を浮かべた。

 その情けない顏を数秒無感情に見つめてから弥堂はスッと手の力を抜いて捕らえていた男子生徒を解放してやる。


「冗談だ」

「え?」

「冗談だと言ったんだ」


 茫然とこちらを見上げる男を弥堂は乱暴に突き飛ばす。彼は体育館の外壁に強かに肩をぶつけ顔を顰めた。

 続いて二の腕を抑えて痛みに身体を丸める男の髪を掴むと、ガッと顔を上げさせて無理矢理視線を合わさせる。


「今のはサービスにしといてやる。どうだ? 俺は優しいだろ?」


 無表情のまま口の端だけを持ちあげてそう嘯き同意をするように圧力をかける。

 冷酷な眼差しに射抜かれた彼は鼻水と涎でグチャグチャの顏を泣き笑いのように歪めてヘラッと笑った。


「笑ってんじゃねえよクズ」

「あぎぃっ――⁉」


 スッと表情を戻した弥堂が彼の腿に膝を突き刺す。


「ギャアアアアアアアっ――あじぃっ……⁉ イダイッ! イダイィィィィっ!」


 男はアフターチャージを受けた南米の選手のようにゴロゴロと地面を転げまわって激痛と悪質さを訴えた。

 しかしここにはレフェリーは居ないので特に弥堂にカードが提示されることはなかった。


 しかし、それは仕方がない。


 彼ら自身が好んで、この人通りが少ない場所、他の生徒や大人の目の届かない場所を選んだのだ。

 それは同時に、自分たちを助けてくれる者もこの場には訪れないということにもなる。


 地を転げる男の涙と鼻水と涎に塗れた顔が、一回転するごとに徐々に土埃で汚れていく様がちょっと面白くて苛ついた弥堂は、腹いせに彼の尻に蹴りを一発ぶちこんで強制的に動きを止めさせる。

 そして、先程壁際に突き飛ばした男へ眼を向けた。


「ヒッ、ヒィィィ……っ! や、やめて……っ! 殴らないで……っ!」


 すっかり怯えきってしまった男は頭を丸めて座り込んでしまう。

 彼に近づいた弥堂は特に暴力は振るわず、ドカッと彼の隣へ腰かけた。ガッと彼の肩に腕を回して引き寄せる。


「というわけだ。お前らは俺に借りがある。当然返してくれるよな?」

「……なんで……なんでこんなことに…………」

「おい、聞いているのか?」

「ヒッ――ま、まってくれよビトーくん。オレならなんでも言うことをきく……でも、オレらの頭はモっちゃんだ……! 勝手なことはできねえ……っ!」

「そうか。随分頑張るじゃないか。立派なことだな。いいぞ。俺も俺でお前に負けないよう努力をする。お前らが俺の言うことを聞きたくなるような最大限の努力をな」

「――イっ……⁉ イダイイダイイダダダダダッ、ダイッ!」


 自分たちのリーダーに筋を通そうとする不良生徒の肩を抱いたまま、彼の鎖骨に指を引っ掛けて力づくで圧し折りにかかるが――


「――待ってくれっ‼‼」


 そう声をあげ震える足を叱咤し、ゲロと泥の中で立ち上がる者がいた。その男は――


「モっ、モっちゃーーーーーんっ‼‼」


「ヘッ…………待たせたかよ?」


 脂汗を浮かべながらニヒルに笑ってみせた。


 そして、仲間のために立ち上がる者は一人ではない。


「ジョオオオオオトオオオオオオオオっ――‼‼」

「うおおぉぉぉぉ――っ‼‼」

「サトルぅっ! タケシぃっ!」


 膝をガクガクするサトル君と、身体を螺子って肛門を抑えるタケシ君だ。

 彼らはヨタつきながらもモっちゃんの隣に立ち、肩を貸しあいながら弥堂へ対峙する。しかし足は内股でガクガクだ。


「ビトーよー。今日のところはオレらの負けだ。それが貸しだってんなら、しょうがねえ。要求は呑んでやんよ……だがな――」


 モっちゃんは目に力をこめ弥堂を睨みつける。


「だがよぉ、クスリやパー券サバけってハナシならきけねぇぜ? そいつはオレらの流儀じゃあねえ。どんだけボコられても出来ねえもんは出来ねえ」

「…………」


 モっちゃんは真っ直ぐな眼差しで、自分たちのような不良にも譲れない正義はあるのだということをアピールした。


 生命知らずの信念など下らないとばかりに弥堂はフンと鼻を鳴らす。


「勘違いを――」
「――さっすがだぜ、モっちゃん! シビィぜ!」
「おお! チョーイカシてるぜ!」

「…………」


『勘違いをするな』と言おうとした弥堂だったが、それよりも先に酷く興奮した様子でモっちゃんを称賛するサトル君とタケシ君に発言の機会を奪われる。

 激しく苛立ち思わず無言になってしまうと、ドンっと突き飛ばされた。


 油断をしていたとしか言いようがないが、拘束していた腕の中の男がダッと仲間の元へ駆け出していた。

 彼は仲間たちのもとへ辿り着くと、彼らと一緒に自分たちのリーダーを褒め称える。


「へっ、よせよお前ら…………前にも言ったろ? オレぁハンパはしねえってよ…………」
「カカカカカッケェーー! モっちゃんカッケェーーー!」
「ハンパねーよ! モっちゃんの上等ハンパねーよ!」
「なんつーかよ……オレらっみてーな不良でもよ? ゆずれねーセイギ? みたいなもんはあるんだなって感じがしたぜ! 一生ついてくぜ、モっちゃん!」

「つーわけだからよぉ、ビトーっ! オレらぁカンタンにはテメーのグンモン? にはクダらねーぜ……っ!」


 モっちゃんは両足をガバっと開き前に出した左足の爪先を敵へ向ける。上体はやや反るようにしながら顎を上げ見下ろすようにガンを飛ばし、両手で横髪を後ろへ流してビシッとリーゼントをキメた。

 他のメンバーも彼の半歩後ろでそれぞれポケットに両手を突っこんでガバっと股を開き上体を反る。ポケットの中で一生懸命に手でスボンを外側に引っ張り、縄張り争いをするクジャクの羽のようにボンタンを広げて弥堂を威嚇した。


「…………」


 弥堂は無言だ。


 ゆっくりと立ち上がり、ポンポンと尻の埃を払う。顎に手を当てゴキリと一度首を鳴らした。


 顔面神経痛にでもなったかのように表情筋を歪めてこちらにイカつい眼光を向ける彼らを尻目に背後へ振り返る。

 肩幅より少し足を開き、今しがた背を着けていた体育館の外壁へ拳を押し当てる。


 瞬間――


 ボゴォっ――と壊滅の鈍い音を立ててコンクリートが内側から弾け飛び押し当てていた拳が減り込む。それを中心点としてコンクリート製の壁に蜘蛛の巣状に亀裂が走った。


零衝ぜっしょう


 弥堂が師より習得を命じられた技術で、足の爪先から拳までの各関節を適切に捻り稼働させることにより、大地より生み出した威を体内で加速・増幅させ適格に対象の内へと徹す技術であり、必殺のいちだ。


 普通に生活をしていたらまず目撃することのない破壊現象をまざまざと見せつけられた不良たちは、凶悪な破砕音に思わず真顔になり反射的に『きをつけ』の姿勢をとった。


 弥堂が壁から拳を引き抜くとパラパラとコンクリの破片が地に落ちる。

 彼らはそれを真顔で見る。


 そして真顔のまま仲間たちと目を見合わせると一瞬でアイコンタクトを成立させ、一度だけ強く頷きあう。


 それから責任ある立場に就く者として、モっちゃんが代表して一歩進み出ると、弥堂へと真っ直ぐな眼差しを向けた。


「なんでも言ってくれ、ビトー君。オレらはアンタの便利なパシリだ」

「ランコーか? 親戚のおっさんが余らせてるマンション部屋いつでも借りれっからよ。防音効いてっからシャブもオッケーだ。パーティ会場なら任せてくれよ」
「それとも売春うりか? ちょうど家出した中坊どものコミュニティにアテがある。女なら紹介するぜ?」
「チャリなら何台でもパクってくるぜ? マッポくれー上等だからよ!」


 口々に協力を申し出てくる物分かりのいい生徒達に、弥堂は満足気に鼻を鳴らす。


「いい心がけだ。だが俺は風紀委員だ。お前らが好むような下衆な犯罪に手を染めるわけがないだろう。俺を侮辱しているのか?」

「ふ、うき…………? えっ……?」
「――あっ! そういえば……」
「わ、わるかった……そんなつもりじゃなかった」
「悪気はねえんだよ……」


 まるで弥堂が風紀委員であることに今始めて気が付いたかのように取り繕ってくる彼らに、弥堂は非常に不愉快になった。


「じゃ、じゃあオレらに一体何をさせようってんだ……? 心配しなくても今日のこの場でのことは誰にも言わねえぜ」


 不安を滲ませながら顔色を窺ってくる男をつまらなそうに見下す。


「逆だ」

「えっ?」

「お前らには今日のことを大勢に言い触らしてもらう」


 弥堂はそう言ってスマホを胸ポケットに仕舞い、意図が掴めず困惑する彼らに座るよう命じた。




 2年B組教室。


 弥堂によって空気を滅茶苦茶にされた後、しばらくはお互いにチラチラと窺い合う気まずい雰囲気が続いたが、現在は女子6名、和気藹々とランチを楽しんでいる。


「――えーー⁉ じゃあG.W終わるまで戻ってこれないかもしれないのー?」


 早乙女が大袈裟に驚いてみせると希咲はそれに答える。


「んーー。最初は10日間で帰ってきてG.W前の27日と28日は登校しようと思ってたのよ」

「なにかトラブル?」

「そういうわけじゃないんだけど……なんか長引きそうなのよね……」


 少し心配そうに眉を顰める野崎さんへ向けた返答に、今度は日下部さんが首を傾げる。


「旅行に行くんだよね?」

「んとね。説明がめんどいから、いちおそういう風に言ってるんだけど…………聖人たちのご実家関連の……なんていうか、イベント……? みたいな……?」


 舞鶴は我関せずといった態度で、一生懸命ご飯をたべる水無瀬をうっとりと見つめている。


「……えーと…………もしかして、あまり訊かない方が……?」

「や。言いたくないとかそういうんじゃないんだけど……とにかくややこしくて…………出来れば関わんない方がいいと思うし……」

「ふぅ~ん…………でも七海ちゃんのお家って普通のお家だよねー?」

「そーよー。うちのママはフツーの人よー」

「そうなんだ? でも七海はその……関わって大丈夫なの……? 彼らのお家ってなんていうか……やんごとない的な旧家……? だったよね……?」


 日下部さんにそう問われ「あははー」と、とりあえず苦笑いだけ先に返す。
 そして、自身のオカズを箸で掴んではせっせと水無瀬の口へ運ぶ舞鶴を見ないようにしながら答える。


「まぁ、あたしの場合もういまさらっていうか? 何回か関わっちゃったから、向こうのお家の人たちも無関係とは見てくんないだろうし…………それにほら? あいつらだけでほっとくと何やらかすかわかんないしさ」

「なるほどー…………つまり結納ってこと?」

「なんでだよ」


「うんうん」と頷いてから大仰に言い放った早乙女に対して、思わずちょっと低い声が出て慌てて「んんっ」と体裁を繕う。


「わーん! まなぴー! 七海ちゃんが怒ったーー!」


 しかし、早乙女はわざとらしく泣き真似をしながら席を立つと水無瀬に縋りつく。

 食事中にお行儀がわるいとは思うも、よく見れば彼女はもう自分の昼食を終えていたようで、小柄な見た目のわりに意外と食べるのが早いと、脳内でメモをする。


「どうしたの、ののかちゃん?」

「七海ちゃんがヒドイの! ののか達よりもバカンスが大事なんだよ!」

「ちょっと、ののか! んなこと言ってないでしょ!」


 めんどくさい彼女が言いだしそうな台詞を引用して嘘をつく早乙女に希咲が抗議すると、水無瀬は困ったように苦笑いした。


「ののかちゃん。あのね? ななみちゃんは大事な用があってお出かけするからしょうがないんだよ……?」

「甘いよ、まなぴー! まなぴーは七海ちゃんの彼氏でしょ⁉ 自分の彼女が他の女と旅行に行くんだよ? いいの⁉」

「そこまでよ、ののか。愛苗ちゃんに余計な概念を教えないで。それは穢れよ。私たちはあるがままをコンテンツとして鑑賞させて頂くだけ。そう話し合ったでしょう?」


 舞鶴が同意してくれなかったので早乙女は他の者に目を向けるが、全員に呆れた目で見られて憤慨する。


「でもでもっ! まなぴー寂しくないの⁉ 半月近く七海ちゃんに会えないんだよ⁉ 寂しいでしょ?」


 その言葉に、「かれし?」と首を傾げていた水無瀬はシュンと肩を落とす。


「さみしい…………」


 へにゃっと眉を下げたそのお顔を見て、七海ちゃんもへにゃっと眉を下げた。


「ご、ごめんね……っ! ごめんね愛苗っ! なるべく早く帰ってくるから……っ!」


 彼女は既に半泣きだ。


「……ううん。あのね……私、だいじょぶだから……! だから気にしないで楽しんできて……?」


 健気にニコっと笑ってみせる愛苗ちゃんの姿に七海ちゃんの涙腺は崩壊した。


「お、おみやげ……! おみやげ買ってくるから……! だからゆるして……みすてないでぇ……っ! クルマっ! クルマ買ってあげるから……っ!」


 ヒモ男に貢ぐダメ女みたいなことを言い出した希咲に取り縋られた水無瀬は「免許ないよぅ」とお顔をふにゃらせた。

 その二人の様子を周囲はほっこりと見守る。


「まなぴー! 七海ちゃんが居ない間はののかが面倒みてやっからな! 安心しろ?」


 水無瀬の腹に顔を押しつけて抱き着いている希咲の、水無瀬を挟んだ逆側から早乙女も抱き着いてくる。


「う、うん……ありがとう、ののかちゃん。ていうか、昨日まで愛苗っちって呼んでなかった?」

「そんなの気分だよー。まなぴーの方がカワイイかなって。そんなことより、なんだこのお胸はー!」

「わっ⁉ ののかちゃん、くすぐったいよ……⁉」

「ちくしょー! このロリ巨乳めっ! ののかとキャラ被ってんだよちくしょー!」

「ののか! コラっ! やめなさい! てか、あんた口調ブレブレよ⁉」


 水無瀬のお胸に顔を突っこんでなにやら憤慨する早乙女を日下部さんが引き剥がすと彼女はさめざめと泣き出した。


「うぅ……ののかはこれまでロリ系として生きてきたのに、ここで自分の上位互換と出会ってしまったのよ……その辛さがマホマホにわかる⁉」

「え、えーと……あんたもなんか苦労してるのね……」

「この学校はロリ系には生き辛すぎるんだよぅ……」


 彼女も彼女で何か苦労をしているようだ。


「の、ののかちゃん元気だして……? 私、お話きくよ……?」

「まなぴー…………ちくしょー、明日からはののかに任せとけー? 七海ちゃんのことなんておじさんが忘れさせてやっからな?」

「え? 忘れないよ?」


 ゲス顏で告げた早乙女の言葉の意味は当然水無瀬には通じない。
 それをいいことに早乙女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「ふっふっふ……まなぴーが忘れなくても七海ちゃんはどうかな?」

「えっ?」

「バカンスが楽しすぎて七海ちゃんはまなぴーのことなんか忘れて帰ってこなくなるかもだぞー?」

「そ、それは困るよー!」


 何でも真に受けてくれる水無瀬に早乙女はさらに調子づく。


「だからぁ……昔の女のことなんて忘れて、ののかとなかよく――」


 しかしそれを許さぬ者もいた。

 横合いからヌッと手が伸びてきて早乙女の顔面をワシッと掴む。


「――言ったでしょう? ののか。解釈違いは許さないと……」

「ギャアーーーーっ⁉ ツメがっ、ツメがーーーー⁉」


 やっかいオタクの手によりNTRおじさんは強制退場させられた。


「七海ちゃん……私のこと忘れないでね……? ずっとずっと待ってるから、きっと帰ってきてね……?」

「わぶっ――⁉」


 縋りついていた希咲の頭をギュッと胸に掻き抱くと、大きなお乳に顔面を圧迫されて希咲は呼吸を奪われた。

 慌てて水無瀬の腕をタップして許しを乞い解放してもらう。


「……もうバカね。ちゃんと帰ってくるに決まってるじゃない」


 これまでの付き合いの中で、何度も水無瀬の胸で窒息しかけた経験をもつ希咲は慣れたもので、この程度でパニックを起こしたりはしない。


「私のこと忘れない……?」


 ウルウルおめめを向けてくる彼女に苦笑いをして、今度は逆に自身の胸に抱く。

 特にその理由が明確に語られることはないが、そのことで水無瀬さんが窒息するようなことには決してならない。


「だいじょぶだから。あたしがあんたのこと忘れるわけないでしょ?」

「ほんとに……?」

「ホントに。約束する。あたしは絶対に愛苗のこと忘れない」

「……えへへ…………私もななみちゃんのこと忘れたりしないからね……?」

「はいはい。てかフツーにメッセ送るし。あんたも好きな時にメッセ飛ばしてきていいからね?」

「うん!」


 隙あらばイチャつく二人に周囲も満足気だ。


「やっぱカップルなんだよなー。これは解釈違いにはならないの? 小夜子ちゃん」

「ふむ…………アリよりのアリね」

「小夜子は実際なんでもいいんでしょ……」

「はい。じゃあ、まとまったところでみんな席に戻ってご飯片付けちゃいましょ。お行儀悪いよ?」


 そうして野崎さんの号令のもと、少女たちは席に戻りまた輪になって談笑を再開する。

 この場にはただ、ほのぼのとした雰囲気だけが彩られていた。
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