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第19話.神は死んだ。

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「楠生」
「なんだい? ミュリオ」
「生きていて恥ずかしくないの?」
「そんな台詞をサラッと言うんじゃないよぉ!」

 仮面の下はどんな表情を浮かべてるのか気になり、さっと仮面を取り上げてみると――まるでゴミを見るかのような目で真顔のミュリオの顔が露わとなった。

「……」
「……そんな目で見ないで」

 やっぱり仮面をしていてくれ君は。
 すぐに仮面を元に戻すと、仮面に現れる模様は、ゴミを見るかのような目が二つ。
 こいつ……! 仮面でもそんな表現をしやがるか!

「ほら! さっさとお店に行こうよ!」

 ミュリオについていき、商店街へと入る。
 ここは数える程度だがセヴィンに連れていってもらったな。
 武器屋から道具屋、魔力石屋に薬屋などこのあたりだけで大体が揃う。
 十字路を曲がって、更に奥の脇道へとミュリオとセリシアは入っていく。
 ……陽光も入らない暗くて細い通路。
 喧騒もここで切り離されているが、果たして足を踏み入れて大丈夫なのか。
 ここで待っているのも通行人の邪魔になるし、と俺はやや警戒を帯びた足取りで中に入った。
 やはり陽光が届かない分、空気は少し違う。
 どこか涼しさの乗った風も漂ってきて、なんだか意外と快適だ。
 少し歩き、民族感ある独特な模様の暖簾をくぐると、ミュリオの後姿を確認した。

「おおっ……」
「ようこそ、魔道具屋へ」

 漂う煙は煙管から。
 鼻孔を刺激するそれは、煙草とほぼ同じ匂いだった。
 涼しさの正体は魔力石のようだ。
 所々に置かれている魔力石は青色に輝き、おそらく氷属性を付与させているのだろう。
 それを別の風属性の魔力石で空気の循環を行っていると。
 更には魔力石を使ったランプまであり、大いに活用しているようだ。
 使われている容器はどれも街ではあまり見ない。
 プロペラがついていたり、ミラーボールのようなものがついていて光を拡散していたりと工夫がなされているがこれらも魔道具であろうか。
 いや、そうに違いない。
 なんていったってここは魔道具屋なのだから。

「予備の魔導仮面はこれね」
「助かる」
「ちょっとやそっとじゃあ壊れないように耐久度は上げておいたよ」
「流石」

 仮面は全部で三枚、それらを受け取りセリシアが支払いを済ませた。
 ついでに魔道具もいくつか見ていくようで俺もそうするとした。
 表で屋台を出している商人達と違ってここは脇道の行き止まりをそのまま店として利用しているらしい。
 それはそれで便利なものだな。
 つっかえ棒を建物と建物の間に設置して布をかぶせれば暖簾の完成だし商品は地面に広げていればいい。
 屋台を出さずとも狭い空間をうまく使って一つの店という空間に作り替えている。
 売っているものはどれもヘンテコだが。
 魔道具は魔道具でも、指輪やネックレスとかいった魔道具とは違って、一風変わったものを取り扱っているようだな。
 ああ、だからこそ魔導仮面なんてものも普通にあるわけなんだね。
 その店では特に買うものは他にはなく(何を買えばいいのか分からなかったんだろうな)、店を後にする。

「買うものは大体済ませたな、どうする?」
「折角だしその辺まわってみましょうか。まだ貴方が食い逃げした店があるかもしれませんし」
「うっ……ほ、他にはないはず!」
「ならいいですけれど。一応、見回りましょう」

 少しは俺を信用してくれよ。
 ……そりゃあ、無理な話か。俺だって俺みたいな奴がいたら信用しない。
 嗚呼、俺って本当にクズだ。でもこれから、うん、これから真っ当に生きるから!
 今は悪いところが見えすぎているだけで! これからが盛り返しってところだよ。

「西区ギルドも見てみたいですわね」
「私も、見てみたい」
「えっ!? い、行くの……?」
「見学するだけですわよ。何か問題でも?」
「いやぁ……」

 アリアとマルチャに遭遇しませんように。
 俺は心の中で祈るとした。これからは真面目に真っ当に真っ直ぐに行きますので! 神様、どうか俺の祈りを叶えてくださいっ。

「あっ、てめぇー!」
「よくもまあ西区に顔を出せましたねクズ男!」

 神は死んだ。
 西区ギルドに向かってすぐに、後ろから聞き覚えのある声。
 間違いなく、あの二人だ。
 振り返ると怒気を纏った表情でアリアとマルチャが俺を睨んでいた。
 どちらも腕を組んで不服そうだ、こうしてみるとラーメン屋のポスターみたいだな。
 思えばラーメン屋の店主が腕を組んでいる率ってどうしてあれだけ高いのだろうか。

「ひ、久しぶり……」
「何が久しぶりですか。貴方のおかげで私達は見覚えのないツケがされていて困りましたのよ」
「ちょっとアリア見てよ! 女連れてるよこいつー!」
「弱みでも握ってるんですか?」
「ち、違うわい!」

 筋肉達磨とセヴィンはいないようだ。
 筋肉達磨はともかくセヴィンとは少し話でもしたかったな、残念。

「ごきげんよう。このゴミクズのパーティのセリシアと申します」
「私はミュリオ」
「お二方がこのゴミクズが迷惑を掛けたアリアさんとマルチャさんですね? うちのゴミクズがゴミクズ過ぎて誠に申し訳ございません……。ツケのほうもお支払いいたしましたので。ほら、貴方も謝るのですよ」
「ちっ……」
「躾が必要のようですねえ」
「ごめんなさぁぁぁぁあい!!」

 深々と頭を下げた。
 さあ二人とも、これを禊としてすっきりしましょうじゃありませんか。

「払ってくれたならそれでいいですけど……」
「てか二人は大丈夫!? 夜這いされてない? セクハラされてない?」
「夜這いされかけましたがちゃんと反撃しましたので、ご心配なく」

 またいつかチャンスがあったら絶対に夜這いしてやるからな。
 見てろよこの野郎……。

「しかし貴方がパーティをまた組めるなんて、奇跡ですね」
「大した魔法も使えないのに」
「何をぅ? 俺の最速模写を舐めるなよ! お前らの裸体を紙に写す事なんて一瞬なんだぞ!」
「こ、このゴミクズ……!」
「つーかうちらの入浴姿を模写してたでしょ! あんたが忘れていった私物の中にあったんだよー!」

 あら?
 そういえば私物の中に何か足りないなとは思ったが、忘れ物はそれだったか。

「よく描けてただろ? 何なら今からぁぁぁぁあいたぁぁぁぁぁあい!!」
「あまり調子に乗らないでくださいまぁ……しっ!!」

 ケツに走る衝撃――

「ざまぁ!」
「ざまぁー!」
「ぐぅぅ……!!」

 なんという状況だ。
 女子四人に囲まれて、そのうち一人に俺はケツバットを食らわされている。
 街の人達はこの珍妙な光景を見ては笑みを浮かべている。
 誰か一人くらいは俺の味方になってはくれないものか。

「セリシアさん、ミュリオさん、このゴミクズの躾は頼みますね」
「お任せください!」
「任せて」

 何を固い握手し合ってんじゃあお前らは!
 このわずかなやり取りでできた友情は一体どんな友情なんだよ!

「いい仲間に巡り合ったようだねー!」
「何がいい仲間かぁ! こんな冷徹腹黒令嬢――」
「もう一発いっときます?」
「いやぁ本当にいい仲間だぜぇ!」

 くそぅ、これ以上の恥辱を受けないためにもここは大人しくしておかなくては……。

「せいぜい今後は真っ当に生きる事ね」
「じゃあうちらはこれから依頼を受けにいくから、またねー! セヴィンにはゴミクズが生きてたって報告しておくよー」
「どんな報告だよ」

 二人を見送り、まあなんというか……一応の蟠りは解けたので気は楽になった。
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