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第15話.個人情報を漏らすなよぉ!
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「リーダーは楠生さんでお願いします」
「りょうかーい。あ、楠生ちゃん、昨日の依頼はどうなったの?」
おやおや、もうちゃん付けかい。
なんか距離縮めてくるの早いなこの人。
他の人にも大体そんな感じだし、まあこれくらい緩いのは俺にとってもやりやすい。
煙草は相変わらず吹かしてるけど。健康のためにももうちょっと量を減らすのをお勧めしたいね。
「おっと、忘れないうちに。完了しましたよ。素材をどうぞ」
「あら、やけに多いわねぇ」
「なんかいっぱい生えてまして」
「ほどほどの量でいいわよぉ。依頼書にどれくらい必要か書いてあるから今度から読んでおいてねぇ」
「了解です」
「素材のほう、確かに受け取ったわ。依頼完了、と。こっちが報酬の三千アルヴねー」
報酬額は二日三日過ごせる程度といったところだがセリシアに引っ付いていれば生活費の心配はない。
お金を貯めておきたいね。この世界、いつどうなるか分からないんだし。
「君は依頼一つのみ受けてたけど、他の依頼が近くでも可能な場合複数受けて一日で二つ三つこなしたほうが効率いいわよぉ。素材回収や魔力石採掘は場所が近いの多いからねぇ」
「じゃあ、今度からそうしてみます」
「でも無理は禁物さ。慣れたらでいいわよぉ。まあ、頑張ってねぇ」
「どうも、ありがとうございます」
初日とは打って変わって色々と話してくれるな。
どうしたんだろうか。
「な、なんか、昨日よりも親切に色々話してくれますね」
「いやぁだって、うちのギルドって見た目の印象がよくないから、どうせ君もすぐ別のとこ移るのかなって思うとね。そしたら二人連れてきてパーティ組むって言うもんだからさぁ。じゃあそれなりに助言しとかないと、ねえ?」
「なんてお優しい方なのでしょうか。わたくしからも、お礼を言わせていただきますわ。ありがとうございますですの」
「ありがと」
二人とも律儀に頭を下げた。
こういうところはしっかりとしているな。特にセリシアは貴族であるにも関わらず、先ほどの店でも店員にごく普通に接していたりここでもきちんと頭を下げたりと階級などまったく振りかざさず対等に接している。
俺の先行した貴族という印象は、一つ一つ音を立てて崩れていっている。
他の貴族もセリシアのような奴なら……いや、それはそれでちょいと困るな。
思えば昨晩のケツの悲劇、ああいうところは貴族らしい乱暴なところが出ていた。
いかんいかん、騙されちゃあ駄目だ!
油断は禁物!
「じゃあパーティリーダーは楠生ちゃんで決まりね。基本的に依頼完了時の手続きにはリーダーがきて頂戴」
「分かりました」
「そうだ、能力値の確認しとく?」
「ああ、していきますかっ」
俺の能力値はさておき、セリシアとミュリオの能力値は気になる。
受付嬢――今更ながらお名前の確認、その豊満な胸のプレートにはキュカと書かれている。
キュカさんはセリシアへと両手をかざし、六角形のパラメーターが表示された。
どれも俺の能力値よりは大きい六角形。一つは抜きんでて角を作り出していた。
「魔法面に関してはすごいわね……Sランクパーティレベルよ、他は少し防御力が低いけど、その立派な装備が補ってくれるわね。攻撃力のほうは、女性なら低いのは仕方がないけれど、まあ魔法で補えるでしょう。得意属性は……光? 回復魔法持ちかいあんた」
「ええ、そうですわ」
「これはいいわね、貴重よ回復役は。楠生ちゃん、いい仲間を持ったわねぇ」
「へへっ、どうも」
よーしこれからこき使ってやるぞー。
「よーしこれからこき使ってやるぞーなんて思っていたらケツバットの刑ですわよ」
「いえいえそんな事思ってません!」
「嘘」
「ミュリオ! めっ!」
コォン、とバットを地面に軽く叩くセリシア。
俺は距離を取って縮こまった。
「次はミュリオちゃんねー。おお、こっちはこっちで……すさまじい攻撃力ね。防御力も申し分なし。前衛として最適だわ。戦闘スタイルは?」
「武術」
「俊敏さもいい値ね、魔法面は少し弱めだけどそれでも前衛としては理想よ。ちなみにこっちが南区ギルドから送られてきた楠生ちゃんのデータなんだけど、見てよこれ。普通すぎてウケない?」
「ウケますわ」
「ザ・普通」
「やめろよぉ! 個人情報を漏らすなよぉ!」
三人で俺の普通過ぎる能力値を笑いやがってぇ……見てろよこの野郎。
つーかこれでも一応はリーダーなんだからリーダーを敬えってんだ。
「じゃあ二人とも、今日から冒険者として頑張ってね。そんでもって、楠生のパーティで、どんどんランクを上げていつか魔王討伐、お願いね!」
「頑張りますわ。ありがとうございます」
「頑張る」
「そういえばこの近くで魔王軍らしき人物が現れたって目撃情報が出たのよね。気を付けてねぇ」
「魔王軍……ふっ、悪に手を染める者であるのならば、わたくしが打ち倒して見せますわ!」
「私もがんばる」
「ふふっ、期待しているわ。アルヴ様のご加護がありますように」
握手をして、アルヴ式の挨拶を交わして受付嬢と別れる二人。
「……でもどうして俺をリーダーに?」
「だって、もしわたくしがリーダーになって、貴方が耐えられなくなって逃げたとしたら、わたくしの印象が悪くなるじゃないですの」
「えっ……?」
「でも貴方がリーダーを務めていれば、貴方が逃げてもパーティを無責任に解散させようとしたゴミクズ野郎として広まり、わたくし達は酷いリーダーに捨てられたかわいそうな冒険者――となりますわ」
「ぬぅぅぅぅ……謀ったなぁあ!」
「リーダー、これからよろしくですわ」
「よろしく」
「あー、リーダー辞めたーい……」
ただでさえ前に所属していたパーティでのセクハラから、悪評が広がりかねないってのにこれでリーダー放棄して逃げたら俺は自分の立場が更に危うくなってしまう。
いつの間にか逃げ道を封じられてしまっていた、もう少し考えて気づくべきだった……。
「でもその代わりに、貴方がパーティを務めている間は当然わたくしの屋敷に住んでいて構いませんし、報酬もほんの一部のみでいいですわ。それなら構いませんでしょう?」
「うぅ……飲み放題、つけて?」
「酒場の注文じゃあないんですから……でもまあ、いいですわよ」
「それなら、別に……いいけど」
「決まりですわ! では早速依頼を受けましょう!」
「受けようか~」
掲示板には今日もいくつか貼り出されている。
先ずはざっと眺めてみるが、ミュリオはすぐさまに数枚ほど容赦なく掲示板から剥がしていたので俺はすかさず元の場所に戻した。
「何をする」
「お前が何をするだよ。ちゃんと内容を読んでから決めようよ、俺達パーティだろ」
「……確かに」
テンションが上がっていたのかね。
ミュリオは素直に元の場所へと戻す。
仮面には炎の模様が描かれていた、なるほど、燃えてるのね?
「これはどうでしょうか。魔力石採掘で、道具は貸出の採掘道具で済むくらい浅い場所にあるんですって」
「魔力石採掘か、いいね。試しに受けてみようか」
「他は、どうする?」
今にも燃えそうな仮面を向けてくるミュリオ。
「ここは、無理せず先ずは一つだけにしておかない?」
「そうですわねぇ。楠生さんに従うのはくっそ不服ですが一理あるのでそうしましょう」
「こっちはリーダーやぞ、少しは素直に従えや!」
というわけで、場所を移してテーブル席へ。
依頼内容の確認。
「何々、場所はここから3キリロ(1キリロは俺のいた世界でいう1キロと同じっぽい)先のザリナス山、麓の川周辺か」
「馬車で行けばそれほど時間は掛からないですわね」
この街の冒険者は意外に馬車を持っていない。
だから山周辺で移動距離がやや長めの依頼は敬遠されがちなのだとか。
セヴィン達もそうだった。
彼らは歩いていける距離を中心に、時には俺と遭遇したように山にも入るがそれはいくつもの依頼を受けている時に限りであった。
彼らは今頃どうしているだろうか。俺の事をセヴィンは少しは想っていてくれているのかな? セヴィンやーい。
「報酬は量によって変更有り、か。どれくらい取れるもんなんだろうな」
「このあたり一帯は魔力が大地から十分に溢れた地域ですからねぇ。魔力石は豊富にあるんじゃないでしょうか」
「美味しい、依頼?」
そう聞くミュリオだが、いやはや分かりかねる。
セヴィンの時でもこれは受けてはいなかったな。
「魔力につられて魔物が寄ってくるから美味しいとは言えないかもしれないな」
「戦闘はどんとこいですわ!」
心強いね。
君の装備を俺達も十分に纏ってから臨みたいところだぜ。
「早速参りましょう!」
勢いがすごい。
「りょうかーい。あ、楠生ちゃん、昨日の依頼はどうなったの?」
おやおや、もうちゃん付けかい。
なんか距離縮めてくるの早いなこの人。
他の人にも大体そんな感じだし、まあこれくらい緩いのは俺にとってもやりやすい。
煙草は相変わらず吹かしてるけど。健康のためにももうちょっと量を減らすのをお勧めしたいね。
「おっと、忘れないうちに。完了しましたよ。素材をどうぞ」
「あら、やけに多いわねぇ」
「なんかいっぱい生えてまして」
「ほどほどの量でいいわよぉ。依頼書にどれくらい必要か書いてあるから今度から読んでおいてねぇ」
「了解です」
「素材のほう、確かに受け取ったわ。依頼完了、と。こっちが報酬の三千アルヴねー」
報酬額は二日三日過ごせる程度といったところだがセリシアに引っ付いていれば生活費の心配はない。
お金を貯めておきたいね。この世界、いつどうなるか分からないんだし。
「君は依頼一つのみ受けてたけど、他の依頼が近くでも可能な場合複数受けて一日で二つ三つこなしたほうが効率いいわよぉ。素材回収や魔力石採掘は場所が近いの多いからねぇ」
「じゃあ、今度からそうしてみます」
「でも無理は禁物さ。慣れたらでいいわよぉ。まあ、頑張ってねぇ」
「どうも、ありがとうございます」
初日とは打って変わって色々と話してくれるな。
どうしたんだろうか。
「な、なんか、昨日よりも親切に色々話してくれますね」
「いやぁだって、うちのギルドって見た目の印象がよくないから、どうせ君もすぐ別のとこ移るのかなって思うとね。そしたら二人連れてきてパーティ組むって言うもんだからさぁ。じゃあそれなりに助言しとかないと、ねえ?」
「なんてお優しい方なのでしょうか。わたくしからも、お礼を言わせていただきますわ。ありがとうございますですの」
「ありがと」
二人とも律儀に頭を下げた。
こういうところはしっかりとしているな。特にセリシアは貴族であるにも関わらず、先ほどの店でも店員にごく普通に接していたりここでもきちんと頭を下げたりと階級などまったく振りかざさず対等に接している。
俺の先行した貴族という印象は、一つ一つ音を立てて崩れていっている。
他の貴族もセリシアのような奴なら……いや、それはそれでちょいと困るな。
思えば昨晩のケツの悲劇、ああいうところは貴族らしい乱暴なところが出ていた。
いかんいかん、騙されちゃあ駄目だ!
油断は禁物!
「じゃあパーティリーダーは楠生ちゃんで決まりね。基本的に依頼完了時の手続きにはリーダーがきて頂戴」
「分かりました」
「そうだ、能力値の確認しとく?」
「ああ、していきますかっ」
俺の能力値はさておき、セリシアとミュリオの能力値は気になる。
受付嬢――今更ながらお名前の確認、その豊満な胸のプレートにはキュカと書かれている。
キュカさんはセリシアへと両手をかざし、六角形のパラメーターが表示された。
どれも俺の能力値よりは大きい六角形。一つは抜きんでて角を作り出していた。
「魔法面に関してはすごいわね……Sランクパーティレベルよ、他は少し防御力が低いけど、その立派な装備が補ってくれるわね。攻撃力のほうは、女性なら低いのは仕方がないけれど、まあ魔法で補えるでしょう。得意属性は……光? 回復魔法持ちかいあんた」
「ええ、そうですわ」
「これはいいわね、貴重よ回復役は。楠生ちゃん、いい仲間を持ったわねぇ」
「へへっ、どうも」
よーしこれからこき使ってやるぞー。
「よーしこれからこき使ってやるぞーなんて思っていたらケツバットの刑ですわよ」
「いえいえそんな事思ってません!」
「嘘」
「ミュリオ! めっ!」
コォン、とバットを地面に軽く叩くセリシア。
俺は距離を取って縮こまった。
「次はミュリオちゃんねー。おお、こっちはこっちで……すさまじい攻撃力ね。防御力も申し分なし。前衛として最適だわ。戦闘スタイルは?」
「武術」
「俊敏さもいい値ね、魔法面は少し弱めだけどそれでも前衛としては理想よ。ちなみにこっちが南区ギルドから送られてきた楠生ちゃんのデータなんだけど、見てよこれ。普通すぎてウケない?」
「ウケますわ」
「ザ・普通」
「やめろよぉ! 個人情報を漏らすなよぉ!」
三人で俺の普通過ぎる能力値を笑いやがってぇ……見てろよこの野郎。
つーかこれでも一応はリーダーなんだからリーダーを敬えってんだ。
「じゃあ二人とも、今日から冒険者として頑張ってね。そんでもって、楠生のパーティで、どんどんランクを上げていつか魔王討伐、お願いね!」
「頑張りますわ。ありがとうございます」
「頑張る」
「そういえばこの近くで魔王軍らしき人物が現れたって目撃情報が出たのよね。気を付けてねぇ」
「魔王軍……ふっ、悪に手を染める者であるのならば、わたくしが打ち倒して見せますわ!」
「私もがんばる」
「ふふっ、期待しているわ。アルヴ様のご加護がありますように」
握手をして、アルヴ式の挨拶を交わして受付嬢と別れる二人。
「……でもどうして俺をリーダーに?」
「だって、もしわたくしがリーダーになって、貴方が耐えられなくなって逃げたとしたら、わたくしの印象が悪くなるじゃないですの」
「えっ……?」
「でも貴方がリーダーを務めていれば、貴方が逃げてもパーティを無責任に解散させようとしたゴミクズ野郎として広まり、わたくし達は酷いリーダーに捨てられたかわいそうな冒険者――となりますわ」
「ぬぅぅぅぅ……謀ったなぁあ!」
「リーダー、これからよろしくですわ」
「よろしく」
「あー、リーダー辞めたーい……」
ただでさえ前に所属していたパーティでのセクハラから、悪評が広がりかねないってのにこれでリーダー放棄して逃げたら俺は自分の立場が更に危うくなってしまう。
いつの間にか逃げ道を封じられてしまっていた、もう少し考えて気づくべきだった……。
「でもその代わりに、貴方がパーティを務めている間は当然わたくしの屋敷に住んでいて構いませんし、報酬もほんの一部のみでいいですわ。それなら構いませんでしょう?」
「うぅ……飲み放題、つけて?」
「酒場の注文じゃあないんですから……でもまあ、いいですわよ」
「それなら、別に……いいけど」
「決まりですわ! では早速依頼を受けましょう!」
「受けようか~」
掲示板には今日もいくつか貼り出されている。
先ずはざっと眺めてみるが、ミュリオはすぐさまに数枚ほど容赦なく掲示板から剥がしていたので俺はすかさず元の場所に戻した。
「何をする」
「お前が何をするだよ。ちゃんと内容を読んでから決めようよ、俺達パーティだろ」
「……確かに」
テンションが上がっていたのかね。
ミュリオは素直に元の場所へと戻す。
仮面には炎の模様が描かれていた、なるほど、燃えてるのね?
「これはどうでしょうか。魔力石採掘で、道具は貸出の採掘道具で済むくらい浅い場所にあるんですって」
「魔力石採掘か、いいね。試しに受けてみようか」
「他は、どうする?」
今にも燃えそうな仮面を向けてくるミュリオ。
「ここは、無理せず先ずは一つだけにしておかない?」
「そうですわねぇ。楠生さんに従うのはくっそ不服ですが一理あるのでそうしましょう」
「こっちはリーダーやぞ、少しは素直に従えや!」
というわけで、場所を移してテーブル席へ。
依頼内容の確認。
「何々、場所はここから3キリロ(1キリロは俺のいた世界でいう1キロと同じっぽい)先のザリナス山、麓の川周辺か」
「馬車で行けばそれほど時間は掛からないですわね」
この街の冒険者は意外に馬車を持っていない。
だから山周辺で移動距離がやや長めの依頼は敬遠されがちなのだとか。
セヴィン達もそうだった。
彼らは歩いていける距離を中心に、時には俺と遭遇したように山にも入るがそれはいくつもの依頼を受けている時に限りであった。
彼らは今頃どうしているだろうか。俺の事をセヴィンは少しは想っていてくれているのかな? セヴィンやーい。
「報酬は量によって変更有り、か。どれくらい取れるもんなんだろうな」
「このあたり一帯は魔力が大地から十分に溢れた地域ですからねぇ。魔力石は豊富にあるんじゃないでしょうか」
「美味しい、依頼?」
そう聞くミュリオだが、いやはや分かりかねる。
セヴィンの時でもこれは受けてはいなかったな。
「魔力につられて魔物が寄ってくるから美味しいとは言えないかもしれないな」
「戦闘はどんとこいですわ!」
心強いね。
君の装備を俺達も十分に纏ってから臨みたいところだぜ。
「早速参りましょう!」
勢いがすごい。
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