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第三章
13.組織犯罪対策部と公安部
しおりを挟む少し間を置いてみるとする。
というのも、指紋鑑定の結果や現場での情報収集、天国交信装置の結果、伊部さんの体調回復、それらを待つためにだ。
マスコミも二日、三日目あたりから徐々に嗅ぎつけてきており、宮内宅にも何人か報道スタッフがやってきていた。
事務所のテレビで報道の具合を確認しているが、日々起きる様々な事件の中の一つとして、これといって取り上げられているわけではなかった。
最近では国会前でのデモが過激になっているというニュースがちらほらと取り上げられている。
天国交信装置の独占だとか、総理大臣が私的利用している疑惑だとかで盛り上がっている。
マスコミは左派が多い。事件は非常に衝撃的なものでないかぎり大きく取り上げはしない。天国交信装置によって日本を蝕んでいた国会議員達が排除された今、総理大臣やその周辺を叩くにはニュースしかなく、疑惑疑惑とこうして日々印象操作を行っている。
ネット社会になっている今、テレビでの印象操作もすぐに暴かれるというのに、彼らの諦めないその姿勢には逆に感服する。
左派のコメンテーターが話し始めたところでニュースを消して、書類に目を通すとした。
指紋鑑定の結果は五日後に届いた。
やはり……出てきた指紋は十人分。
一人、足りない。
消えたそいつは、いや、自殺薬も無くなっていたのならば遺体か。それも天国教団が持ち去ったのか。
組や臓器売買の話も伊部さんから聞いている。組との取引のために定期的に何体か送っているとなれば、浮上してきた反社会的勢力についてそろそろ調べていこうと思う。
天国事件以降、反社会的勢力は相当な稼ぎを得ていたとされている。
麻薬販売は勿論の事、殺人代行や自殺幇助、移民の密入国幇助、天国教団の名を騙る詐欺と幅広く犯罪に手を伸ばし、混乱の中にあった日本を更に掻き乱して巧みに警察の手も逃れていたという。
特に平輪市含むこの関東圏を縄張りとしている大道組は天国事件当時に就任したばかりの組長がやり手だと聞く。
彼らをマークしていた当時の刑事達は捜査するも証拠が得られずに逮捕されるのは大体が国外のギャングやマフィア、暴力団は末端の人間ばかりで組織壊滅には至らなかった。
現在の大道組は不動産業や投資などの運営を行っている。
平輪市には三年ほど前に拠点を立てて、天教真神会の本部が平輪山にあり平輪市を中心に教徒を順調に増やしている点に注目して教徒を対象に不動産業から怪しい宗教道具やらを売りつけたりしているとか。
現在は、裏家業に関してはあくまでも末端が勝手にやったもの、組長就任前に発生していた別派閥による犯行であると、関与は否定をしている。
確たる証拠を掴まない限り、逮捕してもすぐ出てくる上に逆に訴えられかねないため、下手に手を出せないとの事だ。
こちらとしても慎重に動くべきだ。
端のほうに新たに書き込む、反社会的勢力――大道組、と。
何も天国教団と繋がっている組織が大道組とは限らないものの、他の組と接触するとなれば遠方に足を運ばねばなるまい。勿論、密かに入り込んでいる可能性もあるし大道組の中で生じているというその別派閥による犯行かもしれない。
どうであれ、先ず攻めるなら大道組のほうがいいのは変わりない。
四年前に組長が変わったとはいえ勢力図に変化はない。
海外からの組織も多数やってきている中、大道組がいるおかげで他の組織が入り込む余地は与えられていないために、ある意味では侵略阻止という大きな貢献をしている面もある。
過疎化の進んでる平輪市は地域活性化のために外国人の受け入れも行っているが、他の地域と比べて治安が然程悪化していないのと外国人による犯罪が多くないのは、大道組の存在が大きい。
だからといってこれまでの行いが許されるわけでもなく、裏家業については暴かれ次第正式に処罰されるべきだ。
そして六日目の今日、天国交信装置の結果も届いた。
結論から言うと、宮内早苗は出てこなかった。
だがこれもある程度予想は出来ていた、別に驚く事ではない。伊部凛子――彼女の力が本物であると裏付ける一つの要素になっただけだ。
誰が天国交信装置を使用して話を聞いたかは記載されていない、担当の事件なら俺に声が掛かってもいいんじゃないかと少し期待していたのだが、やはり装置は使わせてくれない。そもそもその装置は俺が確保したものなのだから一度だけでもいいから自由に使わせてもらいたいものだ。
事務所のホワイトボードに磁石で結果の紙を貼り付けた。
伊部さんのほうは、あれから宮内早苗はやってきていないらしい。
これまでも見えていた幽霊がそのうちどこかへ行ってしまいそれっきりという事は多かったようで、彼らがどこへ行ったのかは分からないという。たまに戻ってくるのもいるようだが、中には現れても会話が通じなくなっている者もいるらしい。
どこかへ行ってしまった者や彷徨う者達は天国へとたどり着けたのか、彼女にもそれは分からないという。
少なくとも宮内早苗は天国には未だにたどり着いていない。
「私も死後は彷徨うのでしょうか」
「どうだろうな」
あの話を聞いて、ずっと頭に残っている事がある。
俺の妹も、天国交信装置で呼び出しても出てこなかった。それは妹が特別な人間であったから、なのかもしれない。
まだこの世に彷徨っているのなら、伊部さんを通して是非話をしてみたい。
儚い希望だ、本当に。妹が死んでから何年経ってると思っている。
それでもやはり、願わずにはいられない。
「さあてと。最初の大量自殺現場のほうは……」
「現場でも特にこれといったものは出ておりませんね。しかし細工されていた防犯カメラの範囲を考えてみたのですが……」
木崎君は印刷した平輪市の俯瞰図を俺に見せてくる。
「現場が少し右上のところです、笹峰さんに詳しく解析してもらったのですが、どうやら細工されていた5キロ範囲は現場を中心ではなく平輪山側に寄っています」
「……逃亡ルートは平輪山が濃厚か」
「かもしれません」
「天教真神会がいるから捜査もしづらい。確たる証拠でもあればいいのだが」
「ええ……」
「内部に一人公安から潜入している捜査官がいるはずだ」
公安は我々特務にさえ情報を渡さないが、ささみちゃんを通して彼らの調査がどのようにして行われているかは大体把握出来る。
一年前に現場から一人いなくなっおり、調査中のままになっている。その人物こそ潜入捜査官に違いない。
「天教真神会の動向を知りたい、接触してみよう」
「で、できるのですか?」
「特務特権を使って公安の仕事場にずかずかと入り込むだけだがな」
特務がよく思われていないような空気を時々感じないかい?
公安に行けばそれがはっきりと感じられるぞ。残念ながらいい気分には一切なれないがな。
「これからの予定は組織犯罪対策部への聞き込みと公安との接触、時間があれば伊部さんの面会としようか」
「はいっ」
果たして回りきれるかは分からないが、時間制限があるわけでもない現在は予定を立てるだけ立てても損はない。
駄目になったとしても伊部さんのお見舞いがなくなる程度だ。
「ささみちゃん」
『はーいあんたの笹峰様だよ~ん』
時折電話に出る時、こうして言葉が踊っているのは何故なのだろう。
「組織犯罪対策部と公安部に特務特権を通達してくれ」
『えっ!? あの二つに……一体何の捜査すんのさ』
「少し聞きたい事があるだけさ。組織犯罪対策部には話を聞きたいな」
『あたしがデータを貰って送ろうか』
「いや、いい。送ってもらって済む話ではあるけど印象が悪くなる、直接聞きたい。それに報告されていない情報も聞けるかもしれないしな。公安のほうは天教真神会に潜入している捜査員との連絡をお願いしたい」
『そんなん一度にやろうとするなよなー。まあすぐに上に掛け合って具合を調べてみるよ。電話は一応ここままにしてなあ』
キーボードを叩く音が聞こえる。
ささみちゃんのエンジンが稼動し始めたようだ。
スマートフォンを耳と肩で挟みながら我々も出発の準備をする。
木崎君が両手をくわっと広げてキャッチャーのようなポーズをしたため、俺はその中に車のキーを放った。見事なキャッチだ。
事務所を出て行き階段を下りる音が聞こえる、カカカカッといった急ぎ足だ。俺と違ってまだまだ若く一つ一つの動きに力が滲み出ているな。
ささみちゃんからまだ返事が来ていないというのに、木崎君のほうが先に戻ってきては支度を進めていた。
今日は冷えるからな、コートは忘れてはいけない。
何かあったらすぐに保存できるように、そう、ノートパソコンも忘れてはならない。
他には小型カメラも持っているな。であれば残る確認は脇に挟んでいるホルスター。銃の確認をして全てに問題がなければ、移動あるのみ。
指で車に乗っているよう指示を出し、少しこの場に留まる。
『組織犯罪対策部はオッケー、話す場所は?」
「どこにしようかな」
『おっ? あっちから指定してきてるぞ。大道組の近くに喫茶店があるからそこでどうだって。大道組の見張りかなんかしてたんかな』
「ほう。じゃあそこにしよう」
「了解~。大道組のほうは今日はずっと事務所にいるようだから気が向いたらいつでも話に行ってもいいよー』
「そうか。分かった、ありがとう。気が向いたら、ね」
以外とすんなり通ったものだな。
先ずはこちらと話をしようとかも言ってこない。特務特権だから、それともあまり我々とは関わりたくないのか。
どちらであれ、了承が得られたのだから自由にやらせてもらうとしよう。
「公安のほうは?」
『そっちのほうは潜入捜査官との連絡が取れ次第だってさ、んもー怒鳴られちゃったよ、いきなり無茶言うなって』
「すまない。嫌な役をやらせてしまった」
『別にいいけどさ~。一応連絡はうち経由だから、きたらすぐ教えるよ~』
「助かるよ。じゃあまた後で」
公安はやはりスムーズにはいかないな。
こちらも結構な無茶を言っている自覚はあるが、何せこれも特務特権で許されるものなのでどうかこちら側に合わせてもらいたいものだ。
コートを羽織り、事務所前に停めていた車へと乗り込む。
今日も木崎君が運転をしてくれる、運転は好きらしい。仕事で使っている捜査用車両は、普段よく見る人気車両を基準に採用している。そのために乗り心地や走り心地のいい車両が選ばれる事も多い。このセダン型は中々いい。
覆面警察官の場合は秘匿性重要視のため、目立つ傾向にあったセダン型は控えられていたが、我々は別に隠れて仕事をするのではないので問題はない。
何より捜査用覆面車両として一般に認知されているものと同じ車両を使うのは、警戒心を与えてしまうので避けたいところだ。
都心部まで移動し、カーナビで位置を確認。コインパーキングに車両を停めて、喫茶店へと向かう。スマートフォンに喫茶店の位置は送られている、すぐそこだ。
いくつもの雑居ビルが並ぶエリアではひと気はやや少ない、飲食店の多い表通りを皆選ぶために、昼間は営業していない居酒屋やそもそも閉店している店の多いこの通りは必然的に通行人は少なくなる。
「なんだか……天国関連の怪しい張り紙増えましたね」
「ああ、昔によく見たキリスト関連の看板を思い出すな」
「ありましたねそんなの」
電柱にはべたべたと張り紙がされている、天国交信装置は偽物だという主張もあれば我々は速やかに天国へと旅立つべきだという主張もある。
所によっては、そうだな……すぐそこに見える脇道なんかは壁一面に天国関連の張り紙がびっしりと貼られていたりもして、目と鼻の先では異質な世界が広がるようになってしまった。
「ええと、その脇道を通って右か」
「これはまた、圧迫感のある脇道ですね……」
「声すら聞こえてきそうだ」
べろんと、粘着性が弱まった部分がちらほらと壁から頭を垂らすようにいくつもあり、風に揺られるその光景は壁へと手招きしているかのようだ。
物陰では褐色の外国人らがこちらを様子見している、裏側をほんの少しのぞくだけでこれだ。ここは日本ではないんじゃないかと思ってしまうね。
暫し脇道を歩き続ける、喫茶店はマップで見るとそれほど遠くないのだがこうして歩くと以外と遠く感じる。
この感覚は自分が衰えたからなのか。そうでないとは信じたい。
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