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第三章

020 死の理から外れた者の正体は。

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 次なる行動に移るには、少し慎重に行わねばならない。
 警備の厳重になっている、下手な動きを見せて誰かが捕まったりでもすれば、少人数で動いている自分達の組織では痛手となる。
 スカルは一室で銃の手入れをしながら、その思考は今後の動きについて巡らせていた。
 窓という窓は塞がれ、壁には円のモニュメントが置かれている。
 光は蝋燭のみ。薄暗い中でも、彼女にとって銃は体の一部と同然、手入れはお手の物だった。

「スカル様、よろしいでしょうか」

 彼女の背後に、黒フードの女がやってきた。
 振り向く事もなく対応する。これはモニュメントに背を向けたまま誰かと話をするという行為を、彼女がしたくなかったからだ。
 信仰心の高さ故に、たとえただのモニュメントであれ礼節は揺るがない。
 祈りをモニュメントへしてから、スカルは口を開いた。

「何用だ」
「王女とその専属の執事が、例の不死者との接触を図っておりました」

 スカルの思考に、あの不死者の男の顔が浮かんだ。
 思考を乱す、その男の顔に苛立ちを覚え、軽く下唇を噛む。

「どのような動きを見せた?」
「馬車に乗り、暫し脇道などを通って南西側にある建物へと入りました。魔法による防壁が張られており、中の様子は窺えませんでした」
「王女は城でも味方は少なく孤立気味に陥っている。我々が王女を狙った事による危機感から助けを求めたのかもしれないな」
「いかがなさいますか?」
「すぐには動かないほうがいい、警備の変化には注意して観察しろ。その後の動きは罠を張る可能性もあるからな」

 前回の襲撃が失敗に終わった今、次なる行動は慎重に出なければならない。
 スカルは自身の心情に乱れを感じ、モニュメントへもう一度祈りを捧げた後に踵を返した。
 部屋から出て、別の部屋へと向かう。
 祈りの間では微かな心情の乱れも、神には失礼にあたる――信仰者の中でも、ここまで徹底して信仰と向き合っているのはごく少数であろう。
 フードの女も、そんなスカルには敬意を抱いていた。

「畏まりました。少し間を空けて観察に入ります」
「動く時は私が先行する。いつでも動けるよう準備だけはしておけ。トゥト様にも報告を」
「はい。それと……例の不死者についての調べも進んでおります」
「何が分かった?」
「西区ギルドの冒険者のようです、あの日の接触ではこの国へ深夜に入国したばかりだったらしく、翌日にギルドに手続きをしたようです」
「ほう。来たばかりで偶然我々と接触したのか、しかし事情も知らずに邪魔をするとは……勇敢か、阿呆か。そいつの名は分かっているか?」
「はい、八角形ボードの持主であり名前はシマヅ・イクヤ。もう一人は三角形ボードでハイラア族のハス・ピパルでございます」

 シマヅ・イクヤ――
 いや、それよりも、と。

「八角形ボード、だと?」
「ガルフスディアではおそらく最高角の持主でございます」

 見た目からしてそのような強者には見えなかったのが、スカルの率直な感想だった。

(しかし銃撃でも殺せないあの身体能力――八角形ボードの持主だからこそ、なのか……? いや、いくらなんでも固有魔法で片付けられるようなものではない……)

 未知の領域に、彼女の警戒心が膨れ上がるばかりであった。
 しかし表情には一切出さない。

「シマヅ・イクヤのほうを重点的に調べろ」
「畏まりました」

 女が去った後、銃の手入れを終えたスカルはモニュメントに祈りを捧げる。

(あの不死者が神の使いか悪魔か……私には、分からない)

 もし神の使いであったら? 
 その時は、どうするべきだろう。スカルは天井を見上げて、神に祈り耳を傾ける。

「嗚呼……どうか、私にお声をお聞かせください……」

 どれだけ祈り懇願しようとも、静謐な空間に変わりはない。
 しかしいつか神の声が聞けると、スカルは信じている。
 スカルは一室へとたどり着き、中央に置かれている鞭を取った。
 今日も彼女は、その身に鞭を叩きつける。
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