上 下
16 / 50
第三章

016 共同依頼

しおりを挟む
 龍関連の依頼での素材回収は、予想以上の高報酬だった。
 俺は別に死ねる方法を模索していただけなので成果はゼロに等しいが、懐のほうはゼロから実に遠ざかった。
 小さい鱗でも金貨1枚、大きい鱗は金貨3枚、爪の欠片は全部で金貨10枚。一度の依頼で半月以上の稼ぎになったらしく、マルァハさんも驚いていた。
 龍関連で生還して素材も持ち帰ったとあって、階級のほうも早速銅三級から銅一級へと昇格が約束された。
 所持金は半分をギルドに預け、もう半分はハスに管理してもらうとして……だ。
 あれから、天国病とやらに罹ったとされる冒険者との接触について話したら入念な検査が待っていた。
 結果から言うと俺達は特に異常は見られず、天国病に罹った冒険者と同じパーティの者達も同様に異常は無かったらしい。
 一応俺達は数日の隔離と自粛を言い渡されたが結局何事もなく、最終的に入念な消毒などをされて解放された。
 数日振りのギルドは相変わらずの繁盛だ。
 ここ最近では俺達の評判も既に広まるだけ広まっているようで、ギルドへと来るや視線が集中してくる。
 受付や掲示板の混雑具合の様子見といこうと一先ずテーブル席へと座ってハスと紅茶をすする。
 ギルドにはちょっとした喫茶店が入っていて休憩や時間潰しにはちょうどいい。

「やあ、どうも」
「あ、どうも」

 そこへ四人のパーティがやってきた。
 人類種の若い男女とドワーフのじいさん、それに猫耳の人獣種といった種族の縛りがないパーティだ。

「向かい側、いいかな?」
「ええ、いいですよ」
「そんな堅苦しい喋りしないでくれよ。同じ冒険者なんだしさ」
「そ、そうだね……」

 冒険者に初めて話しかけられて、少し緊張する。
 この世界に来てからまともに話をしたのはハスくらいだ、他の人達にはそもそもそんなに人との接し方が上手くない俺にはボロがすぐでてしまう。

「ああ、自己紹介がまだだったね。俺がクオン・ベルツ、彼女がシスティア・ルルハ、ドワーフの彼がロッゾ・ボルド、猫娘ちゃんがパニヤ・ヤニンだ」

 それぞれに挨拶を交わし、彼らは続々と席に着いた。
 猫娘のパニヤはなんかジャーキーをずっとガシガシ食べている。ハスは彼女の上下するその猫耳を見て目を輝かせていた。

「最近は数日見なかったけど、例の奇病とやらの検査?」
「うん、検査員やらやってきて検査しては隔離用の宿に移されて暫くそこで過ごしてた。異常はないって言われてようやく今日解放されたんだ」
「大変だったわねぇ。なんか増えつつあるみたいだけど、患者から接触者へと感染していくわけでもないんでしょう? 感染力はないに等しいのかしら」
「俺は感染者を背負ってもろに触れてたけど、異常無しだったなあ」
「手洗い・消毒・浄化魔法を心掛けておくしかなかろう。お前ら若いもんはそういうのを怠る」
「ロッゾじいの言う通りだな、心掛けておくよ」

 人種も年齢もバラバラであるが実に仲の良さそうなパーティだ。
 こういうパーティを組むのも、ちょっと憧れるな。

「あんたが背負ってきた感染者は、ここには……?」
「いや、いないな」
「ああ、じゃあやっぱり亡くなったのかな……」
「えっ!? そうなの……?」
「なんでも発病したら天国に触れられる事ができて、その後確実に死亡するのだとか……。今まで運び込まれた感染者を街で見たっていう話は一度も聞かないんだよな」

 ……もしや、致死率100%?
 それならば相当に危険な病じゃないか。

「天国病について聞いてまわったりしていたけど、噂が噂を引っ掻き回して中々これといった情報が手に入らないニャ~」
「感染経路も不明、初期症状や自覚症状もなく、突如として発病するがそのきっかけも不明。現在天国病に罹ったのはほんの数名程度、集団感染もなく感染者はまばら。現時点で分かっているのはこれくらいか」
「一説では神様の用意した天国への階段ではないかという話も流れているのだとか。アルヴ様の用意した試練なのかのう」
「どうだかね~」
「アルヴ様が与えた罰という可能性もあるわ。ちゃんと毎日祈るべきよ」

 システィア、だったか。
 彼女は祈りを捧げ、それに応じて周りも祈りを捧げた。
 ……紅茶飲もっ。

「そうそう、話は変わるんだが。あんた、噂じゃあ八角形って話を聞いたんだけど、本当か?」
「……本当だよ」
「や、やっぱり!?」

 全員が上体をぐいっと寄せる。
 そんなに注目されても、困るぜ……。一人は口にはさんでるジャーキーが俺の頬に当たりそうでそういう意味でも困るぜ。

「パーティからの誘いはないのか?」
「うーん、今のところは。なんかよく見られてるなっていうのは感じてるけれど」
「そりゃあそうだろうよ。八角形ボードの持ち主は東洋人でハイラア族を連れてるっていう噂、どう考えてもあんたらしかいないしな」

 ……俺達の周りのテーブル席に冒険者が何人か座りだしているような。
 気のせいかな?

「よかったら、今度でいいんだけど俺達のパーティと共同依頼を受けてみないか? まだ登録したばかりなら昇級のために依頼をこなさなきゃならないだろう?」
「共同依頼か……」

 なんかマルァハさんからその説明は聞いた気がする。
 パーティを組むのではなくパーティ同士協力して依頼を受けて報酬を二組に分けるという手もあるとの事だったような。
 人数が必要となる依頼には共同依頼の手続きをするのが多いらしい。

「ああ、パーティを組んでくれとは言わないからさ。あんたもじっくり考えて組みたいだろうし」
「それくらいなら、時間さえ合えば是非お願いするよ」
「そうか! そりゃあありがたい。一度八角形ボードの持ち主の戦いを見てみたくてね」
「あんまり期待しないでくれよ?」
「え~期待しちゃうニャ~」

 鼻をすんすんとさせてまるで獲物を吟味するかのように見てくるパニヤ。
 ロッゾじいさんもその立派に蓄えた白髭を撫でながら期待の眼差しを向けていた。

「いやあよかった。あんた達はギルドに来ても掲示板見てすぐ依頼受けて行っちゃうから、周りとの親睦も深めず黙々と少人数でこなすタイプかと思ってたけど、思いきって話しかけてみてよかったよ」
「別に周りを避けてたわけではないんだけど、ほら……みんな見る目がちょっと違うもんだから……」
「八角形となればそうじゃろう。それによそ者とあって少なくとも警戒心があったはずじゃ」
「結果的にお互いに無意識に敬遠しちゃってたってわけねぇ。これを機に仲良くしましょう」

 今度は俺からも他の冒険者に話しかけてみようかな。
 ギルドでの情報収集も重要だし、その上で特に話しかけても問題ないと周りに認知してもらわねばなるまいか。

「ハス、だっけ? 君も駆け出し冒険者?」
「えっ、わ、私は……その、後方支援です」
「後方支援……ああ、そういう事か」
「三角形ボード、です……」

 ハスは縮こまってしまった。
 もっと堂々としていいだろうに。

「あら、八角形ボードが引き連れてるハイラア族っていうからこの子も相当なボードの持ち主かと思ったんだけど……」
「す、すみません」
「別に謝らなくてもいいわよ、期待して損したってだけ」

 システィアは小さく鼻で笑ってその糸のような銀の髪を軽くかき上げた。
 ……綺麗な子だが、若干の吊り目とそのどこかハスへ向けられる微量の差別感があまり好ましくない。

「ったく、システィアやめろよな」
「やめろって、何を?」
「自分より下のボードの奴にはいつもそうじゃんか。失礼だぞ」
「あら、そう? もしそう感じたのなら謝るけれど」

 感じる感じる。
 口には出さないけど。

「ハスはうちの大事な後方支援だ、失礼な態度はよしてくれ」
「ごめんなさいね、そういうつもりじゃあないの」

 なんて俺にはそう言って笑みを見せるが、なんか嘘っぽい。
 ハスは俺を見て、小さく首を横に振っている。気にしないでと、言葉にはせず。場の空気を悪くしないために、発言も控えているのだ。
 辛い気づかいをさせてしまっているな、俺のせいで。

「悪い、こいつは五角形ボードだから、どうしても時々周りを下に見ちゃってな」

 彼女は小声で「三角形なのは事実じゃん」と呟いていたが、すぐにクオンはその口を塞いだ。

「わしらも五角形に昇角したいものだな」
「戦いの日々と、神様への祈りを欠かさずするニャ~」
「それと崇高なる魂も必要ねえ」

 俺はそのどれも満たしていないんだがね。
 死再付与のおかげで鍛錬する必要がほとんどない。死ぬ努力はしないといけないがな。死ねば魔力の器が増えて、ボードにも変化が生じるだなんて、まったく……もっと炎を出すとか雷を使うだとかそういう普通の魔法をくれやしないかね。
 ちょっと使いたいからそのうち魔法を勉強するとしよう。

「おっと、そろそろ行かなくちゃ。それじゃあ共同依頼のほう、今度よろしくな、シマヅ」
「ああ、よろしく」

 クオン……気さくな青年でとても話しやすかった。
 仲間をまとめるリーダーとしても彼は優秀だ。
 共同依頼、いつになるかは分からないが、楽しみだ。
 彼らはこれからノシイシ退治の依頼を受けるらしく、手を振って見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...