二分の一のきみへ。

智恵 理侘

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第一話 口止めのシュークリーム。

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 友達の家でゲームをしていたらすっかり夜の帳が下りた八時半。
 もう腹の虫は随分と騒がしくなっており、母さんからはいつ帰ってくるのかとスマホの虫もブーブーとバイブレーションを振動させていた。
 そろそろ帰る――そんなメッセージを返してスマホの虫は黙らせたが腹の虫のほうは黙る気配がない。
 どこかで軽く何か腹に入れておきたい。
 何せ自宅までは徒歩十分ほど、たかが十分……されど十分。
 充分に我慢できる距離ではあるが、折角目の前にコンビニがあるのだから小腹を満たすべく思わず入ってしまった。
 さて、ここで一つ。
 いきなりだけど俺には少し気になっている女子生徒がいる。
 その女子生徒について説明したいと思う。
 ……気になっていると言っても恋愛うんたらというわけではなく、クラスメイトの中にそれはもう、なんていうんだろうな、語彙力がそんなにないからあれだけど、まあもういいや、そう、美少女。
 美少女としか言えない女子生徒がいる。高嶺の花という言葉はこういう時に使うのかな、なんて。
 その女子生徒の名前は望月明日香。
 身長は160に満たない小柄な体躯、ショートヘアがよく似合う少女だ。

「……明日香さん?」

 そんな彼女と瓜二つの……。
 瓜二つの“青年”がデザートコーナーに置いてあるプリンを物欲しそうに見つめていた。
 姉はいるのは知っているが、双子だとか兄がいるとかいう話は聞かない。
 身長はおよそ175ほど――俺くらいあるし体格だって男性そのもの。
 モデル顔負けの、明日香さんそっくりの顔をした青年が立っている。
 服はやや小さめのパーカーを、袖をまくって着ている。妙な格好だ。
 そんな彼は、俺の言葉に反応してこちらを向いた。

「明日香じゃない。僕は明日太だ」

 声は明日香さんのよりやや低い。
 男性で間違いない、名前も違う。人違いだったようだ、でも名前さえ似ているとはただの偶然か?
 クエスチョンマークがどんどん頭上に出ている感覚に見舞われている。
「ん、明日香の知り合いか。……しまったな」
 何がしまったのか分からないが、彼は渋い顔をしていた。
 こうして正面で向き合う――顔だけ見ると、明日香さんそのものだ。
 そんでもって明日香さんのことを知っているとなると、何か関係はありそうだ。

「お前は……ああ、クラスメイトの……日比野京一、だったか」
「そう、だけど」

 明日香さんの親戚? にしては似すぎている。

「……僕と会ったことは内緒にしろ」
「内緒に? どうして?」
「いいから。何なら口止め料として何か奢ってやる」
「え、いいのっ⁉」

 わーい。ちょうど小腹も空いていたんだ、これはラッキー。
 そうしてシュークリームを奢ってもらった。
 明日太くんって、いい奴だなあ。
 口止め料といっても、明日にはきっと友達や明日香さんに普通に今日のことを話して聞きに行くと思うけどそれは内緒だ。

「いいか? 誰にも言うんじゃないぞ」
「……うーん」

 曖昧な唸り声をあげてみる。

「おい、返事をしろ」
「あ、はい」 
「くそっ、信用ならない奴だな」
「よく言われる」

 友達とゲームしている時なんか、特にね。
 しかしよくよく考えると状況がまったく見えてこない。
 明日香さんそっくりの人に口止め料としてシュークリームを奢ってもらった――と状況整理をした上で、どうして俺は今こんなに美味しい思いをしているのやら。
 明日香さんそっくりの明日太くんに睨まれている。
 彼のことは誰に内緒にすればいいのだろう。
 別に言いふらすつもりもない、けれど疑問は残る。

「ねえ、きみって明日香さんの……お兄さん?」

 弟にしては見た目が幼くない。 
 兄の可能性のほうが高いのだが。

「どちらかというと弟だ」
「どちらかというと?」

 妙な返答が返ってきた。
 これには首を傾げざるを得ない。

「色々と事情があるんだよ」
「…………そうなんだ」

 どんな事情なのだろう。
 まるで意味が分からない。

「じゃあ、俺は行くから。余計な詮索はするんじゃないぞ」
「……うーん」
「おい、返事をしろ」
「あ、はい」
「ったく……」

 すみませんね、信用ならない奴で。
 甘い甘いシュークリームを頬張りながら、暫し彼の後姿を見送る。
 一体、何だったのだろう。
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