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番外編
番外編2「蓮見千晴のバレンタインレポート」後編
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えりちゃんは美人だ。今は確か三十七才だけど、全然そうは見えない。若くてきれい。おまけに優しいしお料理上手だし。昔からお兄ちゃんの爬虫類好きにもちゃんとつきあってくれてて。
お兄ちゃんはえりちゃんにものっすごく懐いている。多分お母さんよりも心を許してると思う。反抗期の時だってえりちゃんだけには素直だったし。
何ヶ月か前、お兄ちゃんがえりちゃんと一緒に出かけた時、お兄ちゃんの学校では、
『蓮見がめちゃくちゃ美人で年上の彼女と、ニコニコしながら一緒に歩いてた』
と、噂になったらしい。しかもお兄ちゃんったらそれを否定しないものだから、余計に騒ぎになってしまって、泣き崩れる女子がいたらしい。
結局、騒ぎを収めるために真実を白状させられたとか。
そんな風にえりちゃん大好きなお兄ちゃんだけど、それは恋愛感情とかではなく、まぁ、マザコンの一種みたいなもんだと思う。
本人も「恋愛感情なんてあるわけねぇだろ」って、前に言ってたし。
マザコンの男なんて世間一般ではキモイなんて言われるけど、お兄ちゃんがそう言われているの、一度も見たことない。
やっぱりイケメンだからかな。
えりちゃんの友達の美沙ちゃんとミッちゃんは、
『まぁ、依里佳にあんな風に溺愛されてたら、翔くんの理想が高くなるのもしょうがない』
って笑ってた。
「……篤樹だって、理想高いだろ?」
「そうだなぁ。俺の理想も依里佳だからなぁ」
そう言ってあっくんがえりちゃんに笑いかけるのを見て、お兄ちゃんがふてくされる。
小さい頃はあっくんにべったりだったお兄ちゃん。でも結婚の意味を把握し、あっくんとえりちゃんが結婚しているのだと理解してしまった時から、あっくんを少しだけ敵視している。
それを知っててお兄ちゃんをからかうあっくんは、ちょっと性格が悪いと思う。
「さっき来てた戸川さん、すごく可愛いよね、お兄ちゃん」
前にお兄ちゃんの友達が話しているのを聞いたことがある。戸川さんって学校で一位二位を争う可愛い子ですごくモテるって。
そんな子から好かれてるなんて、お兄ちゃんやるなぁ。
「……あいつ、爬虫類苦手みたいだし」
しれっとした顔でお兄ちゃんが言う。
「へ?」
「さっき俺がチャーリー抱っこしながら玄関行ったら、顔が引きつってたし、後ずさりしてた」
「そうなんだ、残念だったね」
えりちゃんが慰める。
「俺、爬虫類嫌いなやつとはつきあえないし、結婚も出来ない」
特に残念そうでもなさそうに、お兄ちゃんが断言すると、えりちゃんがクスリと笑った。
「なぁんか、昔の誰かさん思い出すなぁ」
と、あっくんを見て笑う。
「どういうこと? えりちゃん」
「篤樹はね、子供好きな女の子とじゃないと結婚出来ない、って言ってたんだよ。あとね、昔は爬虫類苦手だったの」
「えぇっ! そうなの!?」
あっくんは家でカメレオンを飼っているし、お兄ちゃんとよく爬虫類の話をしているから、爬虫類苦手だったなんて、すぐには信じられなかった。
「そう。俺は依里佳と結婚するために爬虫類嫌いを克服したんだよ。だから翔にもいつかそういう女の子が現れるよ。もしかしたら、その戸川さん? っていう可愛い子が、爬虫類嫌いを克服してくれるかも知れないだろ? 可愛い子ならキープしとけよ、翔」
あっくんがお兄ちゃんの頭をまた撫でた。今度はすごく優しい手つきだった。
「ちょっと篤樹、翔に変なこと教えないで」
えりちゃんがあっくんに肘鉄する。
「あははは、翔だって彼女の一人や二人いてもおかしくないだろ? もう高二なんだから。俺が高二の時なんて――」
「言わなくていいから。あと彼女は一人で十分です! 翔、好きな子がいるなら大切にしなさいね」
えりちゃんがニッコリと笑った。
「好きな子なんて……いないよ」
お兄ちゃんは目を逸らしてそんなことを言ってるけど。あたしは知ってるのだ。
もうそういう女の子は現れてるんだよ――あっくんにそう言いたかったけど、言えないよね、あたしからは。
お兄ちゃんが女の子に片想いをしてる――なんて。
最近レプタイルズでアルバイトをしてる中務由衣ちゃんがその相手。由衣ちゃんは店長さんの姪で、お兄ちゃんと同い年なんだって。背が小さくて笑顔が可愛くて、店長さんに全然似てないの!
そんでもって性格は穏やかだけど爬虫類が大好きで、いずれ大学で生物科学を専攻して爬虫類の研究がしたい、って前に言ってた。
まさにお兄ちゃんの理想を形にしたような女の子なのだ。
――どうしてあたしが由衣ちゃんについてそんなに知ってるかって?
あたしがお兄ちゃんのためにリサーチしてあげたんだもん。それでさりげな~く、
『由衣ちゃんもグリーンイグアナ飼ってるんだって』
とか、
『彼氏いないって言ってたなぁ』
とか、
『つきあうなら爬虫類好きな人がいいなぁ、って言ってたよ』
とか、教えてあげたんだから、あたしは兄想いだと思うの。
でも。
由衣ちゃんから「翔くんって、彼女いるのかなぁ……」って、顔を真っ赤にしながら聞かれたことは……教えてあげないんだ。
きっともうすぐうちに来ると思うから――チョコレートを持って。
(終)
お兄ちゃんはえりちゃんにものっすごく懐いている。多分お母さんよりも心を許してると思う。反抗期の時だってえりちゃんだけには素直だったし。
何ヶ月か前、お兄ちゃんがえりちゃんと一緒に出かけた時、お兄ちゃんの学校では、
『蓮見がめちゃくちゃ美人で年上の彼女と、ニコニコしながら一緒に歩いてた』
と、噂になったらしい。しかもお兄ちゃんったらそれを否定しないものだから、余計に騒ぎになってしまって、泣き崩れる女子がいたらしい。
結局、騒ぎを収めるために真実を白状させられたとか。
そんな風にえりちゃん大好きなお兄ちゃんだけど、それは恋愛感情とかではなく、まぁ、マザコンの一種みたいなもんだと思う。
本人も「恋愛感情なんてあるわけねぇだろ」って、前に言ってたし。
マザコンの男なんて世間一般ではキモイなんて言われるけど、お兄ちゃんがそう言われているの、一度も見たことない。
やっぱりイケメンだからかな。
えりちゃんの友達の美沙ちゃんとミッちゃんは、
『まぁ、依里佳にあんな風に溺愛されてたら、翔くんの理想が高くなるのもしょうがない』
って笑ってた。
「……篤樹だって、理想高いだろ?」
「そうだなぁ。俺の理想も依里佳だからなぁ」
そう言ってあっくんがえりちゃんに笑いかけるのを見て、お兄ちゃんがふてくされる。
小さい頃はあっくんにべったりだったお兄ちゃん。でも結婚の意味を把握し、あっくんとえりちゃんが結婚しているのだと理解してしまった時から、あっくんを少しだけ敵視している。
それを知っててお兄ちゃんをからかうあっくんは、ちょっと性格が悪いと思う。
「さっき来てた戸川さん、すごく可愛いよね、お兄ちゃん」
前にお兄ちゃんの友達が話しているのを聞いたことがある。戸川さんって学校で一位二位を争う可愛い子ですごくモテるって。
そんな子から好かれてるなんて、お兄ちゃんやるなぁ。
「……あいつ、爬虫類苦手みたいだし」
しれっとした顔でお兄ちゃんが言う。
「へ?」
「さっき俺がチャーリー抱っこしながら玄関行ったら、顔が引きつってたし、後ずさりしてた」
「そうなんだ、残念だったね」
えりちゃんが慰める。
「俺、爬虫類嫌いなやつとはつきあえないし、結婚も出来ない」
特に残念そうでもなさそうに、お兄ちゃんが断言すると、えりちゃんがクスリと笑った。
「なぁんか、昔の誰かさん思い出すなぁ」
と、あっくんを見て笑う。
「どういうこと? えりちゃん」
「篤樹はね、子供好きな女の子とじゃないと結婚出来ない、って言ってたんだよ。あとね、昔は爬虫類苦手だったの」
「えぇっ! そうなの!?」
あっくんは家でカメレオンを飼っているし、お兄ちゃんとよく爬虫類の話をしているから、爬虫類苦手だったなんて、すぐには信じられなかった。
「そう。俺は依里佳と結婚するために爬虫類嫌いを克服したんだよ。だから翔にもいつかそういう女の子が現れるよ。もしかしたら、その戸川さん? っていう可愛い子が、爬虫類嫌いを克服してくれるかも知れないだろ? 可愛い子ならキープしとけよ、翔」
あっくんがお兄ちゃんの頭をまた撫でた。今度はすごく優しい手つきだった。
「ちょっと篤樹、翔に変なこと教えないで」
えりちゃんがあっくんに肘鉄する。
「あははは、翔だって彼女の一人や二人いてもおかしくないだろ? もう高二なんだから。俺が高二の時なんて――」
「言わなくていいから。あと彼女は一人で十分です! 翔、好きな子がいるなら大切にしなさいね」
えりちゃんがニッコリと笑った。
「好きな子なんて……いないよ」
お兄ちゃんは目を逸らしてそんなことを言ってるけど。あたしは知ってるのだ。
もうそういう女の子は現れてるんだよ――あっくんにそう言いたかったけど、言えないよね、あたしからは。
お兄ちゃんが女の子に片想いをしてる――なんて。
最近レプタイルズでアルバイトをしてる中務由衣ちゃんがその相手。由衣ちゃんは店長さんの姪で、お兄ちゃんと同い年なんだって。背が小さくて笑顔が可愛くて、店長さんに全然似てないの!
そんでもって性格は穏やかだけど爬虫類が大好きで、いずれ大学で生物科学を専攻して爬虫類の研究がしたい、って前に言ってた。
まさにお兄ちゃんの理想を形にしたような女の子なのだ。
――どうしてあたしが由衣ちゃんについてそんなに知ってるかって?
あたしがお兄ちゃんのためにリサーチしてあげたんだもん。それでさりげな~く、
『由衣ちゃんもグリーンイグアナ飼ってるんだって』
とか、
『彼氏いないって言ってたなぁ』
とか、
『つきあうなら爬虫類好きな人がいいなぁ、って言ってたよ』
とか、教えてあげたんだから、あたしは兄想いだと思うの。
でも。
由衣ちゃんから「翔くんって、彼女いるのかなぁ……」って、顔を真っ赤にしながら聞かれたことは……教えてあげないんだ。
きっともうすぐうちに来ると思うから――チョコレートを持って。
(終)
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