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番外編
番外編2「蓮見千晴のバレンタインレポート」前編
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※本編から12年後の蓮見家のお話です。当たり前ですがキャラが12歳年を取っています。本編のイメージを崩したくない方(特に翔)は、読まれない方がいいかも知れません。
********************
「お兄ちゃん、同じ学校の戸川さんって女の子が来てるよ。チョコレート持ってた」
「……いないって言ってくれよ」
リビングのソファでめんどくさそうに横になっているお兄ちゃん。その前のコーヒーテーブルには、いち、に、さん、し、ご……数えるのも嫌になるくらいのチョコレートが無造作に置いてある。
「もういるって言っちゃったもん。あたししーらない」
「めんどくさ……」
舌打ちをしたお兄ちゃんはのろのろと起き上がり、玄関へと歩いて行った。それから一分くらいして、チョコレートを手にして戻って来たかと思うと、テーブルの上のチョコの山にポイ、と投げた。
お兄ちゃん――蓮見翔は、妹のあたしから見てもイケメンだ。聞くところによると、幼稚園の頃からバレンタインにはチョコレートを貰ってきていたらしい。
そう、要は女の子にモテるのだ。それはもう、ハンパなく。
だって今年のバレンタインデーは土曜日なのに、こうしてわざわざチョコ持参で告白しに来る女の子が後を絶たないんだもん。
なのにお兄ちゃんは浮ついたりすることなく、淡々とチョコレートを放り投げる。誰から貰ったかも覚えてないみたい。今も沢山のチョコレートには目もくれず、自分のお腹の上に乗せたグリーンイグアナを撫でて、
「おまえがチョコレート食えれば、全部エサにしてやったのになぁ? チャーリー」
と、目を細めている。小学校の入学祝いに買ってもらったイグアナのチャーリーは、かれこれ十年、爬虫類ラブなお兄ちゃんの愛イグアナとして蓮見家に飼われている。
もちろんチャーリーはチョコレートなんて食べられないから、お兄ちゃんが貰ったチョコは余すところなくあたしとお母さんがいただくのだ。
その時、ピーンポーンという音が鳴り、続いて玄関を開ける音がした。
「こーんにちは~。翔いる~?」
呼びかける声に、お兄ちゃんの目がカッと見開いて覚醒する。
「依里佳だ!」
そう口走り、チャーリーを抱えたまま飛び起きた。と同時に、リビングのドアが開く。
「あ、いたいた。よかった。バレンタインデーだから女の子と出かけてるかなぁ、とも思ったんだけど」
あたしたちの叔母さんのえりちゃんが、箱と袋を持って入って来た。
「ううん、全然ヒマしてた」
首を振るお兄ちゃんの目は、それはそれは輝いている。さっきとは大違いだ。
「うわぁ……今年もいっぱい貰ったねぇ。さすが翔、女の子にモテるなぁ」
テーブルの上のチョコレートの山を目にして、えりちゃんが驚いている。
「俺食わないから、全部持ってっていいよ」
「悪いからいいよ~。それに、うちにも大量のチョコレート貰って来る人がいるしね?」
そう言ってチラリと隣を見るえりちゃん。
「俺はいつも断ってるよ? でも机の中とかに黙って置いていかれたら拒否しようもないし、捨てるわけにもいかないしさ」
苦笑いしながら言い訳をしているのは叔父さんのあっくん。お兄ちゃんと同じくらい……ううん、お兄ちゃんよりもイケメンだとあたしは思う。もうアラフォーなのに、未だに大量のチョコレートを貰うのもうなずける。
「ってことで、翔。今年はチョコレートケーキだよ」
「やった! 待ってた!」
お兄ちゃんは嬉しそうにケーキの箱を受け取る。これはえりちゃんの手作りケーキだ。毎年バレンタインデーには手作りのチョコレートをくれるのだ。お兄ちゃんはそれをとても楽しみにしている。
「これはちぃちゃんのね」
そう言ってあたしの手の上にはチョコクッキーを乗せてくれた。
「ありがと、えりちゃん」
「ところでちぃちゃん、お父さんとお母さんと格は?」
「三人で買い物に行ったよ?」
お父さんとお母さんは、弟の格を連れて出かけて行った。
『あ、そういえば後で依里佳ちゃんが来るって言ってたっけ』
出かける直前にお母さんがそう言った途端、
『俺が留守番してるから!』
お兄ちゃんがそわそわしながら、二階に着替えに行った。
「ちぃちゃんは一緒に買い物に行かなかったの?」
「だってお兄ちゃん一人にすると、女の子が来ても居留守使うんだもん。せっかくチョコレートくれるのに」
「千晴おまえ、余計なことすんなよ」
お兄ちゃんが目を吊り上げると、あっくんがニヤニヤしながら、
「翔は理想が高いんだよなぁ?」
お兄ちゃんの頭をガシガシと撫でた。
そう、あっくんの言う通り、お兄ちゃんは理想が高すぎるのだ。
何せ、えりちゃんがお兄ちゃんの初恋で理想なんだから。
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「お兄ちゃん、同じ学校の戸川さんって女の子が来てるよ。チョコレート持ってた」
「……いないって言ってくれよ」
リビングのソファでめんどくさそうに横になっているお兄ちゃん。その前のコーヒーテーブルには、いち、に、さん、し、ご……数えるのも嫌になるくらいのチョコレートが無造作に置いてある。
「もういるって言っちゃったもん。あたししーらない」
「めんどくさ……」
舌打ちをしたお兄ちゃんはのろのろと起き上がり、玄関へと歩いて行った。それから一分くらいして、チョコレートを手にして戻って来たかと思うと、テーブルの上のチョコの山にポイ、と投げた。
お兄ちゃん――蓮見翔は、妹のあたしから見てもイケメンだ。聞くところによると、幼稚園の頃からバレンタインにはチョコレートを貰ってきていたらしい。
そう、要は女の子にモテるのだ。それはもう、ハンパなく。
だって今年のバレンタインデーは土曜日なのに、こうしてわざわざチョコ持参で告白しに来る女の子が後を絶たないんだもん。
なのにお兄ちゃんは浮ついたりすることなく、淡々とチョコレートを放り投げる。誰から貰ったかも覚えてないみたい。今も沢山のチョコレートには目もくれず、自分のお腹の上に乗せたグリーンイグアナを撫でて、
「おまえがチョコレート食えれば、全部エサにしてやったのになぁ? チャーリー」
と、目を細めている。小学校の入学祝いに買ってもらったイグアナのチャーリーは、かれこれ十年、爬虫類ラブなお兄ちゃんの愛イグアナとして蓮見家に飼われている。
もちろんチャーリーはチョコレートなんて食べられないから、お兄ちゃんが貰ったチョコは余すところなくあたしとお母さんがいただくのだ。
その時、ピーンポーンという音が鳴り、続いて玄関を開ける音がした。
「こーんにちは~。翔いる~?」
呼びかける声に、お兄ちゃんの目がカッと見開いて覚醒する。
「依里佳だ!」
そう口走り、チャーリーを抱えたまま飛び起きた。と同時に、リビングのドアが開く。
「あ、いたいた。よかった。バレンタインデーだから女の子と出かけてるかなぁ、とも思ったんだけど」
あたしたちの叔母さんのえりちゃんが、箱と袋を持って入って来た。
「ううん、全然ヒマしてた」
首を振るお兄ちゃんの目は、それはそれは輝いている。さっきとは大違いだ。
「うわぁ……今年もいっぱい貰ったねぇ。さすが翔、女の子にモテるなぁ」
テーブルの上のチョコレートの山を目にして、えりちゃんが驚いている。
「俺食わないから、全部持ってっていいよ」
「悪いからいいよ~。それに、うちにも大量のチョコレート貰って来る人がいるしね?」
そう言ってチラリと隣を見るえりちゃん。
「俺はいつも断ってるよ? でも机の中とかに黙って置いていかれたら拒否しようもないし、捨てるわけにもいかないしさ」
苦笑いしながら言い訳をしているのは叔父さんのあっくん。お兄ちゃんと同じくらい……ううん、お兄ちゃんよりもイケメンだとあたしは思う。もうアラフォーなのに、未だに大量のチョコレートを貰うのもうなずける。
「ってことで、翔。今年はチョコレートケーキだよ」
「やった! 待ってた!」
お兄ちゃんは嬉しそうにケーキの箱を受け取る。これはえりちゃんの手作りケーキだ。毎年バレンタインデーには手作りのチョコレートをくれるのだ。お兄ちゃんはそれをとても楽しみにしている。
「これはちぃちゃんのね」
そう言ってあたしの手の上にはチョコクッキーを乗せてくれた。
「ありがと、えりちゃん」
「ところでちぃちゃん、お父さんとお母さんと格は?」
「三人で買い物に行ったよ?」
お父さんとお母さんは、弟の格を連れて出かけて行った。
『あ、そういえば後で依里佳ちゃんが来るって言ってたっけ』
出かける直前にお母さんがそう言った途端、
『俺が留守番してるから!』
お兄ちゃんがそわそわしながら、二階に着替えに行った。
「ちぃちゃんは一緒に買い物に行かなかったの?」
「だってお兄ちゃん一人にすると、女の子が来ても居留守使うんだもん。せっかくチョコレートくれるのに」
「千晴おまえ、余計なことすんなよ」
お兄ちゃんが目を吊り上げると、あっくんがニヤニヤしながら、
「翔は理想が高いんだよなぁ?」
お兄ちゃんの頭をガシガシと撫でた。
そう、あっくんの言う通り、お兄ちゃんは理想が高すぎるのだ。
何せ、えりちゃんがお兄ちゃんの初恋で理想なんだから。
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