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36話
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「――写真と音声の捏造の件はこれで終わり。次は電話番号の件だ」
「あ……はい」
花菜実が気づいた電話番号の矛盾――それを明らかにしてくれるようだ。
「僕と花菜実が水族館へ行った日以降、花菜実は何度僕とやりとりした?」
「えっと……お仕事が忙しい、ってメッセージ貰ったのであまり頻繁にはやりとりしてませんでした。その後、携帯を失くしたから電話番号が変わったって留守電に入っていて、それと、あと何回かは」
「その『仕事が忙しい』というメッセージも、『電話番号が変わった』と留守電に入れたのも僕じゃない」
「え……?」
幸希の言葉がにわかには信じられない花菜実。最初に来たメッセージは幸希のIDから来たものだし、留守番電話も幸希の声で入っていた――声に関しては捏造出来るということが分かったけれど。
「ちなみに僕も花菜実から『おゆうぎ会の準備が忙しくてしばらく会えないので、落ち着いたら連絡します』というメッセージを受け取ったんだ」
「な、何ですか? それ。わ、私、そんなメッセージ送ってないですよ!?」
そんな文言を送った覚えなど、まったくない花菜実。頭がこんがらがってしまい、焦ってしまう。
「分かってる。……実はこの数週間、花菜実と僕はお互い、別人とやりとりさせられていたんだ」
「え……どういうことですか?」
「花菜実と最後に会った日の翌日に、会社で数人の携帯電話が紛失する事件があった。いずれも翌日には見つかったんだが、僕のだけが物理的に壊れていた」
紛失――というのは正確ではない。当然ながら裕介たち三人が仕組んだことだ。
「僕はすぐに新しいスマートフォンを買って、バックアップデータをDLしたんだが、その時にはもう花菜実のデータだけがすり替わった状態だったんだ。もちろん、それも彼らの仕業だ」
「そんなことどうやって……」
彼らはまず同じ職場の千賀子を通じて、幸希の机が見える場所に隠しカメラをしかけ、彼のスマートフォンのパスコードを盗み撮った。その後、ターゲットが幸希であることをカモフラージュするために、複数人の筐体も一緒に窃取。すぐに彼らは幸希の携帯を使い、花菜実に、
【すまない花菜実。会社で大きなトラブルが発生していて、しばらくは休日も出勤になりそうなんだ。だから当分会えそうにない。淋しいけれど、いい子にしていてくれ。落ち着いたら連絡するから。】
というメッセージを送り、彼女を一時的にでも遠ざけた。
その間に幸希の携帯に登録されている花菜実の電話番号、メッセージアプリのIDを、あらかじめ用意しておいた偽のものに置き換えた。そして通話履歴、トーク履歴などを消去した後、クラウドのバックアップを上書きし、筐体を壊してから幸希に発見させた。
「――複数のスマートフォンを一緒に盗んだことで僕の目をそちらに向けさせ、花菜実のデータが変わったことにすぐには気づかせなかったわけだ。……まぁ、よくそんな手間隙かけたものだと感心したよ」
幸希は新しい機種を購入し、クラウドからバックアップデータをダウンロードした。アドレス帳自体のデータはほぼ以前のまま残されているので、通話履歴やメッセージのトーク履歴がなくともさほど困らなかった。それもまた彼に変化を気づかせない一因だったのだろう。
「僕が新しい携帯を手にしてすぐに、花菜実から『しばらく会えない』というメッセージが来た。おゆうぎ会という理由があったから、僕はそれをすんなり信じてしまったんだ」
その後、今度は用意した偽の幸希の番号とIDを、用意しておいた音声でもって花菜実の留守番電話に残した。そうして彼らは二人を分断することに成功する。
「その翌週、花菜実の写真と怪文書が職場の僕宛に送られてきた。すぐに捏造だと分かったから、誰の仕業なのか興信所に調査を依頼した。もちろん、彼らが使っているところではなく、僕が懇意にしている優秀な興信所だ」
その後、花菜実の写真が複数の別な部署に送られてきて、その情報はすぐに幸希の耳に入って来た。幸希は総務部に連絡を取り、似たような郵便が届いた場合、部署に配布せずにすべてまとめて彼に渡すよう手配をした。
それから、花菜実に関係していて自分が知りうるすべての場所に連絡を取った。水科家やミズシナ株式会社へはもちろんのこと、尚弥には織田家周辺、及び花菜実の友人関係へのフォローを依頼、桜ヶ丘幼稚園の園長にも協力を要請。そして弟の篤樹を通じて、依里佳や蓮見家にまで手を伸ばした。
花菜実への被害を最小限に留められるよう、奔走し、手立てを講じた。
そうこうしている間に、調査を依頼していた複数の機関から報告書が届き、裕介たちが幸希たちのことを嗅ぎ回っていたことが判明。
報告書により、彼らが今回のために新たに携帯電話を二回線も契約していたことが分かり。幸希はそこから、自分がスマートフォン内に保有している花菜実のデータが偽物であるということを導き出した。ということは、花菜実の携帯電話にある自分のデータも置き換えられている可能性が高いと見越した幸希は、彼女に連絡を取ろうとしたが、すぐに切られてしまったというわけだ。
「――それからさらに追跡調査をして、証拠が固まったので、今日、彼らに来てもらった」
「あの……ちょっと聞きたいんですが」
花菜実がおずおずと切り出した。
「何?」
「まず、幸希さんたちの職場には防犯カメラはないんですか? 隠しカメラをしかけたり、携帯電話を盗んだりとか……そんなに簡単に出来ることなんですか?」
花菜実の純粋な疑問だ。幼稚園は普通の企業とは違うので、仰々しい監視カメラなどはついていない。せいぜい警備会社のセキュリティシステムを導入している程度だ。しかし幸希が在籍しているような大企業であれば、機密事項などを扱っていることも多いであろうことに鑑みると、防犯カメラはあってしかるべきだと花菜実は考えていた。
「情けない話だが、上の人間の中には、防犯カメラなど設置しては社外秘情報が漏洩すると主張してはばからない者もいるんだ。しかも機密事項を扱う部署は、本来なら個人の携帯電話は持ち込み禁止にして、会社で機能制限をかけた携帯電話を支給するべきなのに、予算がないだとかいう理由でそれすらしない。今回は、そういった不備がすべて彼らの犯行の味方になってしまったというわけだ」
幸希がため息をついた。
「あと……どうしてこの人たちはお金や手間をかけて、こんなことをしたんですか? 私……そこまで恨まれるようなことをしたんでしょうか?」
大学時代の出来事が今でも尾を引いているのかと、花菜実は心が痛くなる。
「あぁ、動機か。それは花菜実だけじゃなくて僕も関係している……らしい。まぁ、完全なる逆恨みではあるけれど」
裕介は大学時代から素行があまりよくなかった。そこそこ金持ちで見た目はいいので、当時は花菜実の大学のミスコン優勝者ともつきあっていた。その女性は裕介の家よりもさらに資産家で有名で、彼は逆玉の輿を狙っていたのだが、彼女が幸希を好きになり振られてしまったそうだ。
さらには素行の悪さが影響して実家の事業は弟に継がれた上に、就職を希望した海堂エレクトロニクスの採用試験に落ちてしまい、小規模なCG制作会社に就職することとなった。
追い打ちをかけるように、花菜実の件で因縁がある尚弥が海堂エレクトロニクスに就職したことを知り、彼にも逆恨みをしていたという。
茉莉には高校時代、ずっと狙っていた男がいた。卒業を前に告白したところ、違う高校に好きな子がいると言って振られてしまった。その【好きな子】というのが、彼と同じ電車を使っていた花菜実のことだった。しかも花菜実はその男から告白されたものの、知らない人だからと断ってしまった。それが茉莉の決して低くはないプライドに火をつけることとなり。花菜実と大学で一緒になって以来、目の敵にしてきたらしい。尚弥と千里の抗議以降はおとなしくしていたが、約一ヶ月前に花菜実と再会し、憎く思う気持ちが再燃してしまったようだ。
そして千賀子はもちろん、幸希と花菜実の仲を壊すことが目的だった。
すべては茉莉と千賀子が裕介を引き込んで画策した騒動だった。
「恨みのある花菜実と僕の名誉を傷つけ、さらにそれで仲がこじれたら儲けものとでも思っていたんだろうな。こんなことに金と労力を使うくらいなら、もっと生産性のあることに費やせばいいものを……」
幸希が呆れたようにかぶりを振った。
「そう……だったんですね……」
「でも今日、花菜実が来る前に彼らにここに来てもらって、食事をしながら和解をしたから。彼らももうこんなことはしないそうだ。安心していい」
幸希がニッコリと笑い、そして、
「――最後に、彼らが、花菜実に言いたいことがあるそうだ」
そう言って、裕介、茉莉、千賀子に目配せをした。
「も、申し訳ありませんでした」
三人が花菜実に向かって、テーブルにつかんばかりに頭を下げた。
「あ……はい、幸希さんがいいのなら、私は……何も言うことはないです」
花菜実もペコリと頭を下げた。
「――とまぁ、これでほとんどの説明は終わったと思う。皆さんはお帰りいただいて結構です」
幸希はさらに笑みを深くし、彼らに退席を促した。三人は恐る恐るといった様子で立ち上がると、花菜実たちに背を向けた。すると、
「皆さん――忘れものです」
幸希が彼らを呼び止め、レストランのメニューのようなハードカバーの表紙の冊子をそれぞれ手渡した。三人は皆一様にビクリと身体を震わせ、それをひったくるように受け取り、運転手に伴われてそそくさと退席していった。
「あ……はい」
花菜実が気づいた電話番号の矛盾――それを明らかにしてくれるようだ。
「僕と花菜実が水族館へ行った日以降、花菜実は何度僕とやりとりした?」
「えっと……お仕事が忙しい、ってメッセージ貰ったのであまり頻繁にはやりとりしてませんでした。その後、携帯を失くしたから電話番号が変わったって留守電に入っていて、それと、あと何回かは」
「その『仕事が忙しい』というメッセージも、『電話番号が変わった』と留守電に入れたのも僕じゃない」
「え……?」
幸希の言葉がにわかには信じられない花菜実。最初に来たメッセージは幸希のIDから来たものだし、留守番電話も幸希の声で入っていた――声に関しては捏造出来るということが分かったけれど。
「ちなみに僕も花菜実から『おゆうぎ会の準備が忙しくてしばらく会えないので、落ち着いたら連絡します』というメッセージを受け取ったんだ」
「な、何ですか? それ。わ、私、そんなメッセージ送ってないですよ!?」
そんな文言を送った覚えなど、まったくない花菜実。頭がこんがらがってしまい、焦ってしまう。
「分かってる。……実はこの数週間、花菜実と僕はお互い、別人とやりとりさせられていたんだ」
「え……どういうことですか?」
「花菜実と最後に会った日の翌日に、会社で数人の携帯電話が紛失する事件があった。いずれも翌日には見つかったんだが、僕のだけが物理的に壊れていた」
紛失――というのは正確ではない。当然ながら裕介たち三人が仕組んだことだ。
「僕はすぐに新しいスマートフォンを買って、バックアップデータをDLしたんだが、その時にはもう花菜実のデータだけがすり替わった状態だったんだ。もちろん、それも彼らの仕業だ」
「そんなことどうやって……」
彼らはまず同じ職場の千賀子を通じて、幸希の机が見える場所に隠しカメラをしかけ、彼のスマートフォンのパスコードを盗み撮った。その後、ターゲットが幸希であることをカモフラージュするために、複数人の筐体も一緒に窃取。すぐに彼らは幸希の携帯を使い、花菜実に、
【すまない花菜実。会社で大きなトラブルが発生していて、しばらくは休日も出勤になりそうなんだ。だから当分会えそうにない。淋しいけれど、いい子にしていてくれ。落ち着いたら連絡するから。】
というメッセージを送り、彼女を一時的にでも遠ざけた。
その間に幸希の携帯に登録されている花菜実の電話番号、メッセージアプリのIDを、あらかじめ用意しておいた偽のものに置き換えた。そして通話履歴、トーク履歴などを消去した後、クラウドのバックアップを上書きし、筐体を壊してから幸希に発見させた。
「――複数のスマートフォンを一緒に盗んだことで僕の目をそちらに向けさせ、花菜実のデータが変わったことにすぐには気づかせなかったわけだ。……まぁ、よくそんな手間隙かけたものだと感心したよ」
幸希は新しい機種を購入し、クラウドからバックアップデータをダウンロードした。アドレス帳自体のデータはほぼ以前のまま残されているので、通話履歴やメッセージのトーク履歴がなくともさほど困らなかった。それもまた彼に変化を気づかせない一因だったのだろう。
「僕が新しい携帯を手にしてすぐに、花菜実から『しばらく会えない』というメッセージが来た。おゆうぎ会という理由があったから、僕はそれをすんなり信じてしまったんだ」
その後、今度は用意した偽の幸希の番号とIDを、用意しておいた音声でもって花菜実の留守番電話に残した。そうして彼らは二人を分断することに成功する。
「その翌週、花菜実の写真と怪文書が職場の僕宛に送られてきた。すぐに捏造だと分かったから、誰の仕業なのか興信所に調査を依頼した。もちろん、彼らが使っているところではなく、僕が懇意にしている優秀な興信所だ」
その後、花菜実の写真が複数の別な部署に送られてきて、その情報はすぐに幸希の耳に入って来た。幸希は総務部に連絡を取り、似たような郵便が届いた場合、部署に配布せずにすべてまとめて彼に渡すよう手配をした。
それから、花菜実に関係していて自分が知りうるすべての場所に連絡を取った。水科家やミズシナ株式会社へはもちろんのこと、尚弥には織田家周辺、及び花菜実の友人関係へのフォローを依頼、桜ヶ丘幼稚園の園長にも協力を要請。そして弟の篤樹を通じて、依里佳や蓮見家にまで手を伸ばした。
花菜実への被害を最小限に留められるよう、奔走し、手立てを講じた。
そうこうしている間に、調査を依頼していた複数の機関から報告書が届き、裕介たちが幸希たちのことを嗅ぎ回っていたことが判明。
報告書により、彼らが今回のために新たに携帯電話を二回線も契約していたことが分かり。幸希はそこから、自分がスマートフォン内に保有している花菜実のデータが偽物であるということを導き出した。ということは、花菜実の携帯電話にある自分のデータも置き換えられている可能性が高いと見越した幸希は、彼女に連絡を取ろうとしたが、すぐに切られてしまったというわけだ。
「――それからさらに追跡調査をして、証拠が固まったので、今日、彼らに来てもらった」
「あの……ちょっと聞きたいんですが」
花菜実がおずおずと切り出した。
「何?」
「まず、幸希さんたちの職場には防犯カメラはないんですか? 隠しカメラをしかけたり、携帯電話を盗んだりとか……そんなに簡単に出来ることなんですか?」
花菜実の純粋な疑問だ。幼稚園は普通の企業とは違うので、仰々しい監視カメラなどはついていない。せいぜい警備会社のセキュリティシステムを導入している程度だ。しかし幸希が在籍しているような大企業であれば、機密事項などを扱っていることも多いであろうことに鑑みると、防犯カメラはあってしかるべきだと花菜実は考えていた。
「情けない話だが、上の人間の中には、防犯カメラなど設置しては社外秘情報が漏洩すると主張してはばからない者もいるんだ。しかも機密事項を扱う部署は、本来なら個人の携帯電話は持ち込み禁止にして、会社で機能制限をかけた携帯電話を支給するべきなのに、予算がないだとかいう理由でそれすらしない。今回は、そういった不備がすべて彼らの犯行の味方になってしまったというわけだ」
幸希がため息をついた。
「あと……どうしてこの人たちはお金や手間をかけて、こんなことをしたんですか? 私……そこまで恨まれるようなことをしたんでしょうか?」
大学時代の出来事が今でも尾を引いているのかと、花菜実は心が痛くなる。
「あぁ、動機か。それは花菜実だけじゃなくて僕も関係している……らしい。まぁ、完全なる逆恨みではあるけれど」
裕介は大学時代から素行があまりよくなかった。そこそこ金持ちで見た目はいいので、当時は花菜実の大学のミスコン優勝者ともつきあっていた。その女性は裕介の家よりもさらに資産家で有名で、彼は逆玉の輿を狙っていたのだが、彼女が幸希を好きになり振られてしまったそうだ。
さらには素行の悪さが影響して実家の事業は弟に継がれた上に、就職を希望した海堂エレクトロニクスの採用試験に落ちてしまい、小規模なCG制作会社に就職することとなった。
追い打ちをかけるように、花菜実の件で因縁がある尚弥が海堂エレクトロニクスに就職したことを知り、彼にも逆恨みをしていたという。
茉莉には高校時代、ずっと狙っていた男がいた。卒業を前に告白したところ、違う高校に好きな子がいると言って振られてしまった。その【好きな子】というのが、彼と同じ電車を使っていた花菜実のことだった。しかも花菜実はその男から告白されたものの、知らない人だからと断ってしまった。それが茉莉の決して低くはないプライドに火をつけることとなり。花菜実と大学で一緒になって以来、目の敵にしてきたらしい。尚弥と千里の抗議以降はおとなしくしていたが、約一ヶ月前に花菜実と再会し、憎く思う気持ちが再燃してしまったようだ。
そして千賀子はもちろん、幸希と花菜実の仲を壊すことが目的だった。
すべては茉莉と千賀子が裕介を引き込んで画策した騒動だった。
「恨みのある花菜実と僕の名誉を傷つけ、さらにそれで仲がこじれたら儲けものとでも思っていたんだろうな。こんなことに金と労力を使うくらいなら、もっと生産性のあることに費やせばいいものを……」
幸希が呆れたようにかぶりを振った。
「そう……だったんですね……」
「でも今日、花菜実が来る前に彼らにここに来てもらって、食事をしながら和解をしたから。彼らももうこんなことはしないそうだ。安心していい」
幸希がニッコリと笑い、そして、
「――最後に、彼らが、花菜実に言いたいことがあるそうだ」
そう言って、裕介、茉莉、千賀子に目配せをした。
「も、申し訳ありませんでした」
三人が花菜実に向かって、テーブルにつかんばかりに頭を下げた。
「あ……はい、幸希さんがいいのなら、私は……何も言うことはないです」
花菜実もペコリと頭を下げた。
「――とまぁ、これでほとんどの説明は終わったと思う。皆さんはお帰りいただいて結構です」
幸希はさらに笑みを深くし、彼らに退席を促した。三人は恐る恐るといった様子で立ち上がると、花菜実たちに背を向けた。すると、
「皆さん――忘れものです」
幸希が彼らを呼び止め、レストランのメニューのようなハードカバーの表紙の冊子をそれぞれ手渡した。三人は皆一様にビクリと身体を震わせ、それをひったくるように受け取り、運転手に伴われてそそくさと退席していった。
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