アラサー王女が結婚できない理由

プロローグ

「大丈夫、安心して。君を絶対一人にはさせない。」




カレーの匂いと、その中に混じる異質な血の匂い。
静寂の中に聞こえる、穏やかで優しい男の声。
遠くなる意識の中、はっきりと聞こえないはずのその声は、何故か明瞭に頭に届く。




一言一句。くっきりと。




辛うじて薄ぼんやりと視界に映るのは、思ったよりも低い天井の白い色。
そういえばこの部屋の天井をまじまじと見たことはなかったなぁ、と思う。
今にも閉じそうな目と、動かない体は指先すらぴくりとも動かせない。
このまま意識が落ちていった先に待つのは死なのだと、嫌でも思い知らされる。
そして相変わらず聞こえてくるのは、血溜まりの中にも関わらず膝をついて、傍らで手を握る男の声。





「僕は必ず、来世でも君を見つける。だからーー」





耳に残って離れないと言うよりも、記憶にしっかりと刻まれる、その男性ひとの最期の言葉。









「来世でも絶対に僕たちは結ばれるよ。」